精霊魔術師と古城探索 七
お待たせしました。
まどろむ意識が浮上していくのを感じながら、剣の柄を握った。
閉じていた目を開ける。
確かに感じる。ミューラが張った結界の有効範囲を侵した存在を。
目を閉じてからそう時間は経っていない。体感でおおよそ二〇分といったところか。まあ、上々の睡眠時間だろう。無いよりは全然マシだ。
さて、こちらに近寄ってきたモノ(・・)はどこに居るだろうか。雑多な魔力溜まりがそこかしこに発生していて、気配を探るのも一苦労だ。
釈然としない。ミューラは怪訝そうな顔をした。
目を閉じるまではこんな事はなかった。たった二〇分の間に何があったのか。
少し離れたところから、見知った人間の気配。ケイオスが起きたようだ。今は身じろぎでもしているのだろう。
「よお、エルフ」
明け方の視界を遮るもやのように掴み所の無い気配を探っていると、声が届いた。
いい加減名前で呼べ、と突っ込みたくなるが、それを堪える。
ケイオスの声には、真剣を通り越して余裕すら無かったからだ。
「何よ?」
「精霊が、騒いでる」
思わず目を剥いたミューラ。この男は精霊魔術師だ。太一のようにはっきりと声は聞けなくとも、精霊が何かを伝えたがっている、という事は分かるらしい。
「騒いでる?」
「ああ。何ぞ、大分慌てた感じだな」
精霊が慌てる程の出来事。ぱっと考えても即座には出てこない。
「何を言っているか分からない?」
「無茶言うんじゃねえよ。精霊の声が聞けるなんてバカな事があってたまるかってんだ」
ケイオスの言葉に苦笑する。慣れとは恐ろしいもので、太一とシルフィとやり取りがあまりに自然なので、ついそう聞いてしまった。これが正常なリアクションだろう。つくづくあの召喚術師の少年は規格外だ。
「精霊の感情はどう?」
「感情だあ? ……いや、やってみるか」
続いて何か反論をしようとしたらしいケイオスだが、その矛先を引っ込める。試してみる気になったらしい。動きを止め、目を閉じた。
召喚術師ではないケイオスに、太一ほどの能力は見込めないし、そこまで無茶を言うつもりもない。それでも、やる前からの締めほど、もったいないものはない。まずやってみる。それは大切な心構えだ。
「……うん? 何だか、哀しそうだな」
ぽつりとこぼれる独り言。
どうやら精霊の感情をわずかに感じ取れたようだ。
「哀しそう?」
「おう」
ミューラとケイオスの視線が交差する。
二人とも不思議そうな顔だった。
精霊が哀しむような出来事とは何だろうか。ここにシルフィがいたなら考えるまでもなかっただろうが、そもそも風の精霊王の声を聞くには太一が共にいる必要がある。考えるだけ無駄だろう。
「何か、心当たりでもある?」
ミューラは自分に出来ること……つまり周囲の気配を探りながら尋ねる。
何かいるのは分かっているが、どこに何がいるのかはさっぱりだ。相変わらずである。
探知結界の外に出た様子はないから、近くにいるはずなのだが。
問い掛け自体にはそこまで意味を持たせていなかった。
「無いことも、ねえ」
だから、ケイオスの返事には思わず勢い良く振り返ってしまった。
「無いこともない?」
「ああ。心当たりは一つだけある」
大剣を背負い、ケイオスが立ち上がる。
「道すがら話すとするか。ついて来いよ」
「……」
ファムテームでのあの目に思うところがあったミューラ。
ずっと明かさないなら突っ込むつもりであったが、彼から言い出したのならそれで構わない。
頷いて、剣を腰に差して荷物を手に取った。
◇◇◇◇◇
二人分の靴音が、石壁に幾度となく反響して耳に届く。太一と凛は寄り添って廊下を歩く。
相変わらず凛は太一にしがみついている。
昨日と違うのは、彼女の様子。
思わず可哀想になるくらい怯えていた昨日と比べると、今日は雰囲気が違う。
どうも、ホラーな空気を苦手に感じて怖いから、というわけではなさそうだ。
では何か、と問われると、それはそれで回答に窮する。
昨晩のうちに恐怖を上塗り出来るような何かがあったらしい、としか分からない。トラウマを克服できるような夢でも見たのだろうか。
想像もつかないので訊ねてみても、凛は俯いてしがみついてくるのみ。
太一は首をかしげざるを得なかった。
そのまま二人寄り添って歩くこと二時間。その間ずっと直進だ。外から見た限り、二〇分程度ですら直進できる程の規模の建物ではなかったから、異空間と化しているのだろう。
「しかし、どこなんかなあ」
変わらない景色を横目にぽつりとぼやく。いい加減、進んでいるのか戻っているのか分からなくなってきたのだ。昨日はあれだけ遭遇したアンデッドやスピリッツの類いも、夜が明けてからはまだ戦闘を一度しか行っていない。
「スライマンさん、だっけ?」
「そう」
部屋を出る前、太一は昨晩の出来事を、刺激の強い部分は伏せながら凛に話していた。
今はこの城に渦巻く怨念の一番深いところを探しているのだ。
「右かな、左かな」
凛の言葉に深い意味は無いだろう。太一は「さあ?」と応じる。
「下かな? それとも、上かな?」
「うーん」
太一は首を捻る。
「どの道、この無限ループを脱しないことにはどうしようもないよね」
「……やっぱ、凛もそう思うか」
はあ、と溜め息をつく。凛は苦笑していた。
「ねえ、太一」
「ん?」
「もう、いいんじゃない?」
「……」
何が「もういい」のか。その言葉が意味するところを、太一は即座に感じ取った。
「……そうだな。やるか」
「うん。いいと思う」
「よし。とりま、七〇あたりで」
その場でぐっ、と身体に力を込める。今しがたの会話の意味を知るのは、この場では二人のみ。
初めて聞くのでは、何の話かは分からないだろう。ましてそれほど大きな声ではなかった。
「ぬかったな」
「!?」
このように、距離を縮めて聞こうとしてくるのは予想できた事だった。
太一が魔力強化を行使する。
凛が太一から手を離す。
太一が床を蹴る。
瞬時に、息もぴったり合わせられた一連の動作には無駄がなく、洗練されていた。
凛がどれほど動体視力を強化しようと、捕捉はかなわない。太一が施した強化は七〇。凛が全力で強化魔術をしようして得られる身体能力を倍以上、上回るのだ。
「捕まえた」
太一が首根っこを掴んでいるのは、闇よりなお黒い子猫だった。
「ニャ!? 放すニャア!」
喋った。
猫が喋った。
……のだが、太一も凛もそこまで驚きはしなかった。
エルフしかりドワーフしかり精霊しかり。この世界アルティアは存在自体がフィクションのようなものであり、何より太一と凛はフィクションの最たるものというべき魔法、魔術を使えるのだ。何が起きても「今更」としか思えなかった。
じたじたと手足を動かして抵抗する猫。ぺちぺちと猫パンチを放っているようにしか見えず、必死の子猫には悪いがほんわかとせざるを得ない。
穏やかなのは見た目だけで、猫パンチの威力はゴブリン程度一撃で仕留めてしまう程だったが、魔力強化をした太一の前では、意味など為すはずがない。
幾度となく当たるもわずかな痛痒すら感じない。
「うにゃあ~……」
抵抗がまるで意味をなさないと悟った子猫は、がっくりと項垂れるのだった。
◇◇◇◇◇
「なんですって……?」
ミューラの静かな驚き。大きな声を出さなかった自分を誉めてやりたい。
「ま、驚くのも無理ねぇわな」
一笑にふされてもおかしくない話をしたケイオスは、想定内のリアクションを受けて頷いた。
それだけの話をした自覚があった。
「精霊を、捕らえる……? そんな、バカなことが……」
「起きてんだよ、実際にな」
信じられぬと主張しようとして機先を制され、ミューラは開きかけた口を閉じる。
精霊を捕らえる。太一のような特別な存在でなければ姿を見るどころか存在の感知すら不可能だ。
「その連中は、精霊を捕らえてどうしようというの?」
「……」
ケイオスはちらりとミューラに目を配り、すぐに視線を向けた。
その横顔は、険しい。
「やつらは、精霊から力を吸いとってるんだ」
「……は?」
俄には受け入れ難い話を聞かされ、目を白黒させる。
間抜けな声をあげたと、自分の声を自分で聞いて気が付いた。
「どんな方法かとか、聞いても無駄だぜ。オレもそこまでは知らねえ」
「……」
「ただな。精霊ってのは実体を持たねえ存在だ。エネルギーの塊と言ってもいい。それが、力を吸いとられたらどうなるか。もう分かるだろう」
それは、考えるまでもない。森の民ーーエルフであるミューラからすれば、それはあまりにおぞましい話だった。
「そんな事をして……どうなるか、分かっているの……?」
ミューラは、声が震えないようにするのが精一杯だった。
この、焼き付きそうな怒りをどうすればよいのか。
「オレに言うんじゃねえ。まあ、お前の怒りももっともだけどな」
呆れるでもなく、たしなめるでもなく、ケイオスは淡々とそう言った。
エルフであるミューラがこの話を聞けば、業火のごとき怒りを覚えるのは分かっていたのだ。
「……ふう。悪かったわ」
「気にすんな」
ケイオスにぶつけたところで意味がないのは分かっていた。大人げなかったーー年齢通り子供であるーー自身の非を素直に詫びる。
「お前も知ってる通り、精霊がいなくなった土地は痩せて枯れ、しまいには崩壊する」
そう、その通りだ。精霊がいなくなれば、自然は自然である事を拒否される。
精霊がいなくなって、即座に何か変化が起きる訳ではない。
だが、その土地は確実に滅亡へと歩み始める。
精霊がいなくなり、まず始めに無くなるのは魔力だ。
魔力が枯渇するまでは、その土地は辛うじて現状を保っていられる。しかし、やがて魔力が完全に枯れた時、その土地に破滅の大鎌が突き立てられる。
既存の草が寿命を迎えてその生を終えると、新たな草が生えなくなる。
大体時を同じくして、風が弱くなる。
土地を覆う空気が、冷えて行く。
空気が、土が乾燥を始める。
痩せた大地からは植物が消え、それを糧としていた生き物が死に絶える。更にそれらを狩る事で生命を営んでいた存在も命を継続できない。
川が干上がる。辛うじて残る池や湖も、水位が下がり始めて汚濁の濃度が高まり、水棲動物から命を吸い上げる。
風はその土地を嫌うかのようにはたと止み、その場を移動できない空気は淀んでいく。
気温は更に下がり、熱帯の土地であっても零下を下回る。
しかし、ひび割れた大地から分かるように水もなく、風が雲を運んでくる訳でもない土地では、寒さの象徴である雪が降ることもない。
そうして、精霊がいなくなってから生き物を拒む土地に変わるまでに必要な時間はおよそ一〇年。長いと見るか短いと見るかは人それぞれといったところか。
そうなった土地の正式名称は「死の大地」だ。
何の捻りもないと思うだろう。
しかし、捻りなど必要ないのだ。実際にその土地を見れば分かる。死と停滞しか存在しないその土地の前では、ネーミングセンスに気を配る余裕など簡単に奪い去られてしまう。大事なのは名前という殻ではなく、その中身だ。
戻そうと幾ら水を持ち込んでも、地面に栄養を与えても、意味は無い。
実は、戻す方法はひとつしかない。だが誰もその方法を知らず、また知っていても誰にも実行できる手段ではなかった。
植えた若木が三日と経たずに枯れる。それが「死の大地」と化した土地なのだから。
「そうね。恐ろしい話だわ」
「全くだぜ」
かつて「死の大地」に関する文献を読んだ記憶を引き出したミューラは、心の底からそう呟いた。
「だが、今なら十分に間に合う。件の奴らがこの城にいつくようになってから、まだ三ヶ月と経ってねえ。流石に一年二年で、その土地から全ての精霊がいなくなるようなペースでの搾取が出来ねえのは、分かってるからな」
「そう……」
疑問は幾つもある。
何故彼はそれを知っているのか。
ミューラは今初めて知ったし、レミーアからもそのような話をされた事がなかった。
ケイオスは一体何者なのだろう。
疑問はそれだけではない。この話、四大精霊の一柱たるシルフィは知っているのだろうか。
いや、知らぬ方がおかしいだろう。彼女からすれば、同胞が人間によって憂き目に遭っているのだ。
だがまあ、ケイオスに疑問を聞いたところで全てを答えるとは思えないし、シルフィに対する疑問は今はどうやっても解消されない。
今は、この話を聞いた意味を、考えるべきであろう。
「……で、その話をあたしにしたって事は?」
「ああ。多分お前が考えてる通りだ」
「この城に、精霊に不逞の輩がいるのね」
ミューラの問いに、ケイオスはゆっくりと首を縦に振った。
◇◇◇◇◇
子猫をくわえる母猫よろしく首根っこを持ってぶら下げる太一。黒猫はだらんと両手両足を重力に従わせている。
「どこから来たの?」
その場にしゃがみこんで目線を合わせ、猫に問う凛。今は一時行軍の中断中だ。
ぷい、と首を凛から逸らす猫。
言葉が分かるのは間違いない。
「うりうり」
「ゴロゴロゴロ……はっ!?」
空いた手で喉元をくすぐると条件反射で猫が喜びの声を上げ、そしてはっとして目を見開く。
「はっ、謀ったニャ!?」
くつくつと笑う太一と凛に抗議の声を上げるも、リアクションをした後ではあまり意味がなかった。
「て、手強いニャ……! まさかにゃあをここまで追い詰めるとはニャ!」
「いや、俺たち殆どなんもしてないからな?」
「かくなる上は必殺の魔眼ニャ!」
「魔眼?」
流石にしゃべる猫だけある、そんな奥の手を持っていたのか、と思わず身構える太一と凛。
「喰らうニャア!」
猫は瞳孔を見開き、唸るような声を上げる。子猫だからか、成猫に比べてトーンが高い。
これは、もしかしなくても、威嚇か。
悲しきかな、愛らしい見た目のせいで、迫力が皆無だ。
「うりうり」
「ゴロゴロゴロ……はっ!?」
先程の焼き直し。ややあって子猫は気まずげに目を逸らした。
やってしまった感が拭えない。
「じー」
「……」
「じー」
「むむむ……!」
「じー」
「わ、分かったニャ! 居心地悪いからやめるニャ!」
この猫が悪ふざけをするから乗ったまでだ。
太一はぱっと手を離す。唐突かと思われたが、やはりそこは猫らしく、しなやかな動きで着地して太一と凛から一メートル程距離を取った。
「悪かったニャ。冗談が過ぎたニャ。謝るから許して欲しいのニャ」
「いや、別にいいんだけど」
そんな改まって謝られるほどの事ではない。
謝罪よりも、むしろ聞きたいことはたくさんある。
「久し振りに人に会ったから、つい舞い上がってしまったニャ」
「久し振り?」
「そうニャ」
どうやら太一たちの前にもここを訪れた者がいたらしい。本当に、聞きたいことがたくさんある。
「疑問がたくさんあるんだけど、いいかな?」
「にゃあで答えられる事は全部答えるニャ」
快く了承される。本題に入るまで、ずいぶんと長い前置きだった。
「じゃあ私から」
「ニャ」
「にゃんこちゃん、何処から来たの?」
「にゃあはずっとここにいるニャ」
「ずっと?」
「別の土地から来た訳じゃないニャ。このお城がにゃあのハウスニャ」
何故か英単語が混ざる。まあ、その辺は召喚魔法陣に組み込まれた言語翻訳ロジックが勝手に解釈し、太一と凛の知識から適当なニュアンスを引っ張り出して変換するため、当人たちのコントロール下には無いのでどうしようもない。
「ここに住んでるの?」
「そうニャ」
廃墟……というよりダンジョン。この猫から感じる力量通りなら、ここのアンデッドごときに負けたりはしないだろうが、それでも疑問は残る。
「ご飯とかどうしてるの?」
「にゃあはニュータイプのにゃあだからご飯とか無くても平気ニャ」
一体どこの宇宙世紀だろう。
「にゃあにも敵が見える、とか言っちゃったりするわけ?」
「何の事ニャ?」
小首をかしげる黒猫。やはり伝わらなかったらしい。
「じゃあ次の質問。普段何してるんだ?」
「寝てるニャ」
「寝てる?」
「そうニャ。やることといったらスケルトンの解体くらいしかないニャ。退屈だから基本的に寝てるニャ」
やはりここを生き延びられる程度の戦闘能力は有しているようだ。
「久し振りに人に会った、って言ってたけど、その前も結構人は来てたの?」
「うんニャ。来てないニャ。最後に人を見たのはいつか、覚えてないニャ」
「え、でも久し振りって」
「そうニャ。にゃあがにゃあになってから、二回くらい会ったニャ」
「二回かあ。結構少ないんだねえ」
「そうニャ。少ないニャ」
ここで、凛と黒猫には認識に齟齬が発生していた。
凛は猫の寿命を思い出し、数年から十数年の間に二回しか会えていないのか、という感想を抱く。
一方黒猫の方はまるで違う認識を持っていた。
そして、凛と子猫の話を聞いていて、太一は引っ掛かりを覚えた。
「なあにゃんこ」
「なんニャ?」
「お前、猫の前はなんだった?」
「うにゃー」
顔を洗う仕草をした後、黒猫は前足を舌でなめる。ほんの少しの間を置いて。
「にゃあは、元人間ニャ」
黒猫はそう明かす。
「元人間? じゃあ、生まれ変わって猫になったの?」
「違うニャ」
違うらしい。
「にゃあの魂は死ぬ前の人間のままニャ。この猫はにゃあが人間だったときに飼ってた猫ニャ。人間のにゃあが死んで、気付いたらにゃあがこの猫になってたニャ」
顎に指先を当てて考える凛。太一の脳裏で何かが光る。
「なあ、あんたの旦那、黒い猫を飼うのに反対はしないにしろ、あまりいい顔してなかっただろ」
「太一?」
凛には、太一の言葉は突拍子の無いものに聞こえた。藪から棒に何を、という印象だ。
「……何で知ってるニャ?」
だから、驚きを隠せない声色で黒猫が応じた事に、凛も驚いた。
「旦那、少し猫苦手だったんだよな。でも、あんたが猫を可愛がる姿に強い母性を感じて、旦那はそれに惹かれた」
「…………」
子猫は絶句している。言われた言葉は全て事実だったからだ。
「で、長い恋愛の末に無事旦那と結ばれた。すぐに妊娠もして幸せだった。……その矢先、事件が起きた」
「……」
凛も子猫も、太一の言葉に聞き入っている。
「城を襲ったやつらに殺され、旦那もすぐに後を追うように殺された」
「な、何でそこまで知ってるニャ……」
「ここじゃ昼も夜も分かりゃしない」
太一は子猫の言葉には答えずに更に続ける。
その通りだ。日が昇ったのか、落ちたのか。このアンデッドの巣窟ではそれすら分からないのだ。いやそもそも、ここと外界の時間の流れが同じという保証もない。
「どれだけ経ったか分からない、って言ったな。あれから、二〇〇年が経ってるよ」
「……」
「二〇〇年もかニャ……」
太一は頷き、猫目を真っ直ぐ見つめた。
「……辛かったな。無念だな。カリーナさん。カリーナ・レングストラットさん」
黒猫の目が潤んだ。
次の話は、もしかしたら番外編を投稿するかもしれません。
もちろん、このまま本編を更新する可能性もあります。
続きか、番外編か。可能性は今のところ五分五分です。
2019/07/17追記
書籍に合わせて、奏⇒凛に名前を変更します。




