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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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精霊魔術師と古城探索 八

 歩きながら気配を消したミューラに気付き、ケイオスは己の足音に注意を払う。先程、探知結界に何者かが引っ掛かったと彼女は言っていた。そして、今感じた気配は、その結界を侵したものと同一の雰囲気だという。
 ケイオスも探ってみるものの、何も感じる事ができない。ケイオスのレベルが低いのではない。ミューラのレベルが図抜けているのだ。
 今更ながら、この娘、若いながらも冒険者としての経験値は一級品だ。どこに出しても恥ずかしくないレベルである。
 ダンジョン侵入当初にパーティを分断されてしまったが、彼女が近くにいたのは幸運というしかない。
 戦闘力だけではない、これだけの力を持ちながら、殆ど顔が知られていないというのは不可解と思わざるをえない。
 ファムテームで彼らに喧嘩を吹っ掛けたのは、全くの偶然だった。
 まとう雰囲気が何となく違うと思っただけ、つまり直感だったのだ。

(拾い物と言う他ねえなあ)

 ケイオスは心の中でそう呟く。
 自身の目的を達するためには、出来れば引き入れたいと思った。いや、引き入れられなくてもいい。その場限りだったとしても、力を借りられたらと考えた。
 そして、狙い通りにこの城に連れてくる事に成功した。半ば強引に押し切ったが、決め手を放ったのも彼女だ。
 そして、彼女の目。
 ケイオスが何かを抱えている事に、ミューラは気付いていた。何を抱えているかまでは流石に分からなかったようだが。
 さて、ケイオスにとってはこれからが本番。
 彼女を協力的にするべく、一部の情報を明かした。
 やはり純粋なエルフらしく、ケイオスが明かした実情には憤慨した。
 人里に降りてくるエルフもそれなりにいるとはいえ、種族としての在り方は「自然を敬い、共にいきる」という点で一貫している。
 それはこう言い換えることも出来る。「精霊を敬い、共にいきる」と。
 種族として敬うべき精霊が迫害されている、という話を聞いて、感情が昂らないはずか無いのだ。

(こいつ……何のつもりだ?)

 だがここで、ケイオスは違和感を覚えた。
 あれだけの話をすれば、切り込まれるとばかり思っていた。もちろん容易く明かせるはずがないので当たり障りの無いところだけ話しつつ言い逃れをするしかないのだが。
 そう、言い逃れをしなければならない以上、突っ込まれなかったというのはラッキーのはずなのだ。
 だが、ケイオスは、ミューラの賢さをよく知っている。年齢に対して十分すぎるほどの知識を有し、それを活かす知恵と頭の回転の速さは特筆ものだ。
 どうやら当人は納得いっていないようだが。どれだけ高い基準なのだと舌を巻く。
 ケイオスが彼女と同じ年のころ、これほどの力を有し、ここまで高い基準で生きていただろうか。問われれば、即座に「否」と応じるだろう。
 ミューラに明かしたのは一種の諸刃の剣だった。
 それだけの傑物であるミューラが、何故突っ込んでこないのか。
 それはどこで知った。
 何か組織に所属しているのか。
 この重大事件が最初に見付かったのはいつだ。
 お前は何者だ。
 犯人は何を考えている。
 ケイオスがミューラの立場だったら、と仮定すると、簡単にこれだけの疑問が出てくる。
 ミューラにもこれくらいの疑問は浮かんでいてしかるべきだ。
 いや、違う。そうではない。
 浮かんでいないはずがない。
 何故、聞いてこないのか、だ。

(っかー、わかんねえ……)

 ミューラは意図して質問をしていないのだと、ケイオスは知らない。
 訊ねたところでまともに答えるはずがないと踏んでいる。
 ミューラからすればこれは国家という枠組みすら越えた大事件だ。
 大騒ぎになっているのが普通だと考える。それが、ここに来て初耳であるということ。
 ケイオスにとって誤算だったのは、ミューラが持つコネの大きさである。世界最高峰の魔術師レミーアを師に持ち、エリステイン魔法王国首脳部と繋がりを持つなど、誰が予測できよう。
 いや、先の内乱での活躍により、三人の存在は徐々に明らかになっている。
 三大大国と呼ばれるガルゲン帝国及びシカトリス皇国にはそれなりの情報が落ちている。
 だが、名前と力、多少の人相は知っていても、人となりまでは会ったことがなければ分からない。
 三大大国でもそのレベルなのだから、それに組織力で劣る国、組織の調査能力では名前すら判明していない、というのは十分にあり得る話であった。
 そうなった理由は簡単。もっとも情報をつかんでいるエリステイン魔法王国が、ある程度の情報統制を敷いているからだ。
 それ以外の組織では、たまたまそういう存在を小耳にはさんだ、程度でしかない。
 まあ、本人たちが開き直っており、進んでに明かそうとはしないものの無理に隠そうと躍起になっているわけでもないので、知れ渡るのは時間の問題と言えた。
 ケイオスが知らないのも、単純にタイミングだったのだ。
 その後ケイオスは太一と奏、そしてミューラの事を知るのだが、彼はその時になって、もっと本気で勧誘しておけばと後悔する事になる。

「!」

 ケイオスははっとする。
 ミューラが手振りで曲がり角の先を示したからだ。
 どうやら、見付けたらしい。
 ひとまずは目の前の問題から先に片付けるべきである。ケイオスは気を引きしめ、ミューラの後をついていった。



 曲がり角の壁に背を預け、ミューラは腰のポーチから手鏡を取り出した。
 まだまだ鏡が高級品のこの世界において、普通に生活していた場合、買うにはそれなりの決断がいる程度には高価な品だ。
 何故ミューラがこれを買ったのか。そもそものきっかけは、奏が欲しがったからだ。
 手軽に身だしなみを整えるのに使いたいと、手鏡を所望した奏を高級雑貨店に案内した。その時に、奏が何故身だしなみを気にするか理由を知り、ミューラも購入したのだ。
 その店では中々に高貴な身分の娘が店員をしており、彼女が奏にこう言った。

「淑女としましては、意中の殿方の前では、常に美しく、かつ可愛いらしくありたいですものね」

 と。
 その時のはにかんだ奏を見て、彼女の脳裏に誰が浮かんでいるのかが分かった。
 理屈ではない、説明のつかない焦燥に駆られ、気が付けばミューラも代金を支払っていた。
 普通の金銭感覚で考えれば高価なものなのだろう。しかし奏とミューラは高額資産保持者。手鏡クラスであれば軽い散財程度でしかない。
 さて、自身の見た目を確認し、必要であれば整えるのに使用する手鏡であるが、それ以外の使い方もある。それを教えてくれたのは太一だった。

「こうして、こう。こうすれば、顔を出さなくても、角の向こうの様子を確認できるぞ」

 廊下の曲がり角で壁に背をつけ、手鏡を通路の向こうを写すように向ける太一。試しにやってみると、顔を出すという危ない行為をしなくても、角の向こうにあるリビングの様子が確認ができた。
 こんな使い方は想像もしていなかったミューラは感心した。太一にとっては映画などから得た知識であるのだが。
 レミーア宅で教わったこの知識は、半分は戯れのはずだった。まさかこんなに早く生かすことになろうとは思わなかった。

「……いる。こっちに近づいてるわ」

 薄いピンク色の唇を小さく震わせ、ミューラはケイオスにそう告げる。
 彼は声を出さずに「捕らえる」と口を動かして言った。手鏡を戻し、剣の柄に手を添える。
 相手は一人、こちらは二人。数の上では有利。が、一抹の不安もある。こちらに向かってくるターゲットは中々出来る。足音が聞こえないのだ。果たして、こちらには気付いているだろうか。気付いて近付いているのならば、厄介な事になるだろう。
 そこまで考えて頭を軽く左右に振った。相手の実力がどうとか、現時点でミューラの制御下に無い事ばかり気になっているのだ。実戦において相手の力量が分からぬまま戦闘に突入するのはいつものこと。それが冒険者。
 思考を、切り換える。
 接触まで残り五秒。
 四。三。二。一。

(ゼロ!)

 頭の中で気合いを入れて剣を抜く。しゃらりと鞘鳴りの音を追い越すがごときスピードで、ミューラは男の足に剣の背を叩き付けた。

「ちっ!?」

 反応速度は見事なもの。不意を突いたミューラの剣を咄嗟に跳躍して回避して見せた。
 しかしもちろん、それは悪手である。

「おらっ!」
「くそ……ぐはっ!」

 空中では無防備もいいところ。ケイオスが突き出した拳は男の腹目掛けて一直線。辛うじて両腕を交差させて受けるものの、踏ん張りの利かない空中でその圧倒的な衝突エネルギーをいなしきれるわけがない。
 男は壁に強かに背中を打ち付け、肺から空気を漏らした。
 ずり落ちながらも男はミューラとケイオスを睨み、右手をかざそうとする。それよりも二拍ほど、ミューラの方が速かった。
 男の真横に並ぶように素早く身体を滑り込ませ、その首に剣の刃を触れさせる。

「降伏しなさい? 逃れられるとは思わない事ね」

 Aランク冒険者に匹敵するミューラとケイオスを同時に相手取ってその攻撃を防ぎきれる存在など極めて少数派だ。
 この男は、その少数派にはなれなかった。

「くっ……」

 両手をあげて、悔しげに降参の意を示す男に対し、ミューラは剣を向けたまま立ち位置を男の斜め前に変える。
 ケイオスが大剣を手に、ミューラの少し後ろに控える。少しでも変な気を起こせば一瞬で切り捨てられる距離だ。
 鼻先でピタリと静止する剣先を一度見やり、男はミューラに目を向けた。

「……いきなり襲い掛かってくるとはご挨拶だな」

 いかにも「不機嫌です」と感情を発露させながら、男が低い声でそう呟く。
 男の言葉を、ケイオスは鼻で笑った。

「ゴマカシはテメェの為にならねえぜ?」
「誤魔化す? おれが何を誤魔化すとというんだ」

 普通に考えれば、彼の言葉ももっともだ。外から見れば、ミューラとケイオスは相手が誰かを確認しないまま襲い掛かったのだから。
 だが、もちろん何の根拠もなく襲ったわけでもない。だからこそ、攻撃の直前、ミューラはわざわざケイオスに確認したのだ。

「そうかい。じゃあ、オマエの代わりにバラしてやるよ」

 ケイオスは精霊魔術師。

「その妙な形した六芒星は一体なんだ? あ?」

 太一のように会話は出来ないが、契約している精霊と簡単な意思疎通が出来るのだ。

「……」

 指摘の通り男が身に付けるベルトのバックルが、全体的に逆三角形になるよう意匠された六芒星だった。
 それをあらかじめ知ったからこそ、顔も見ずに捕らえると言ったのだ。

「テメェら組織の連中がその紋様を身に付けるってこたあ、既に割れてんだよ」

 ズバリ言い当てられて、男は表情を変えないよう耐えるのに相当な苦労を要した。
 しかしその結果取らざるを得なかった沈黙は、ケイオスの言葉を肯定したに等しかった。

「望み通りバラしてやったぜ。オラ、洗いざらいキリキリ吐けや」
「……」
「だんまりか? まあそれでもいいぜ。嫌でもお喋りにさせてやる」

 ケイオスが空いている左手の人差し指を男に向けた。
 瞬間。
 まるで糸のように細められた水の矢が男の太ももを穿つ。

「うおあああああ!」

 神経から骨から全てを容易く貫いた水の矢のダメージに、男は恥も外聞も投げ打って悶えた。
 その様子を見たミューラは、咎める視線をケイオスに向けるが、彼は全く動じなかった。

「ちょっと。それは最終手段じゃないの?」
「オレぁな、テメェみてぇに優しかねぇ」

 ケイオスがぎりりと奥歯を噛み締める。

「オレが……オレたちが、何年コイツらを追っ駆けて来たと思ってやがる。ようやく、ようやく掴み掛けてんだぞ?」
「……」

 オレたち、という言葉。彼はやはりどこかの組織に所属しているようだ。
 そして、この六芒星を掲げる連中を、ずっと追いかけていた事も。
 精霊に手を出しているのだ。世界に対して喧嘩を売っているのと等しい行為。それを少しでも分かっているなら決して表には出てこないだろうし、自分たちの足跡を残さぬよう細心の注意を払う筈。そして、最悪の場合に切る尻尾もきちんと用意しているだろう。
 そんな用意周到な連中を追うのだから、並々ならぬ苦労があったと予想がつく。
 予想がつく故に、強くは言えないミューラだった。

「……。拷問はあまり好きじゃないんだけど」
「じゃあ、コイツが変な気を起こした時のために見張っててくれや。オレがやる」

 出会った当初の肩をすかすような雰囲気はどこへやら。有無を言わさぬ意志の強さを感じ取る。
 彼にとって、これは至上命題なのだ。

「仕方ないわね。周囲もついでに見張っておくわ」
「おう。任せたぜ」

 何があってもいいように剣は抜いたまま。ミューラは、ケイオスに尋問されている男の様子を見ると共に、周囲の気配を探る。
 そのついで、負傷した左腕の様子も見る。やはりあれだけの苦痛を浴びた甲斐があって、だいぶ動作に支障は無くなってきた。完全に動かせるようになるまで後少しといったところか。
 ケイオスは厳しく追求している。男の方も耐えていてかなり気丈だが、あれだけ責め立てられればそろそろ限界だろう。

「わ、分かった……げほっ、言う……言う」
「おーし。手こずらせやがって」

 更にしばらく経って。男はようやく音を上げた。ミューラから見てもかなりがんばっていた。
 一切手を緩めなかったケイオス。彼の意外な一面を見た気がする。

「さあ、吐け」
「……俺たちの、組織は……」
「組織は?」
「……」
「……」
「……よお。吐くっつった途端にだんまりはねぇんじゃねぇの?」

 流石に苛ついた口調で男を睨み付けるケイオス。
 少々冷静さを欠いているようだ。
 現に、男の様子が何だかおかしい事に気付いていない。
 まあ、それも仕方無い。追い続けた手掛かりの一端が今ケイオスの目の前にいるのだ。ミューラとて彼の立場ならどんなに些細な事でも知りたいと思うだろう。
 とはいえ、これは教えた方が良さそうだ。

「……ちょっと、ケイオス」
「あんだよ」
「何か、変よ?」
「あん? ……おい、どうした」

 ミューラの一言に少し頭が冷えたのか、ケイオスの視野が広くなった。男の様子に気付いたのだ。
 男が俯いたまま小刻みに震えている。
 微かな変化だが、きちんと見れば分かる。
 どこか苦しそうにも見える。
 一体どうしたというのか。急な変化に、彼の身に何が起きたのかミューラにもケイオスにも分からなかった。
 やがて、男は頭を抱え、その場でのたうち回り始めた。

「うあああああ! 止めろ! 頭が! 頭がっ!」
「お、おいっ!」
「ちょっと! どうしたのよ!?」

 尋常でない苦しみ方に、二人は驚きを隠せない。何をどうすればこうまで苦しむのか、理解が全く及ばない。

「たっ助けてくれ! 何でも話す! だからっ! 死にたくねえよ!」

 大の男が涙を流しながらケイオスの腕にしがみつく。今の今まで男を痛めつけていた張本人に、思わずすがり付きたくなる程に苦しいのだと、その態度と必死さがこれでもかと主張している。
 ケイオスは思わず顔をしかめた。男に握られた腕が痛む。信じられない力だった。

「な、なんだよおい! 死にたくねえってどういう事だ!」
「うぐううう……」

 もはや口からは呻き声しか漏れない。
 ケイオスの腕を掴む手からも力が急速に抜けていき、ずるずると崩れ落ちていく。

「これは……」

 一方、先程までこの現象がなんなのかまるで見当がついていなかったミューラだが、ふと男の頭部から感じられる微かな力に気付く。
 魔力とも違う、巧妙に隠蔽された何らかの力。それを感じ取れたのは偶然に近い。
 隠蔽が甘かったのか、ミューラの感覚が鋭かったのか。どちらが原因かは判断できない。ほんの一瞬の事だったのだ。
 やがて、手遅れという事に、二人が気付いた。
 男はびくりと震え、焦点の合わない目を二人に向けた。

「……」

 ぷつっ。
 どこか遠く。
 非現実的な。
 何かが切れる音。
 頭頂部から血が噴き出す。
 霧のように舞う紅い滴。
 崩れ落ちる男を、二人は呆然と見詰めていた。
+注意+
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