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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第一章:普通だと思ってたら異世界ではチートでした。

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奏の邪気が凄い事に

「邪気ってゆーな! 子供の頃の黒歴史がっ!」
「お前も……あったのか……」
「太一……あんたも……」
「はは……奏……目が、虚ろだぜ……」
「あんたも、死んだ魚の目、してるわよ……」
「「はは……はぁ」」
 これで登録は終わったか。
 そう思った太一と奏は席を立とうとするが、それをお姉さんの言葉が遮る。

「それでは、続いて魔力の測定を行いますね」
「「はい?」」

 仲良くとぼけた声を上げた太一と奏に、くすくすと小さい笑いをこぼすお姉さん。

「冒険者たるもの、魔術を多少なりとも使えないとダメなんですよ。魔力をお持ちでない方は、残念ながら冒険者になることはできません」
「な、なんだってー!?」

 それは魂の叫びだった。若干ネタも混じっている。まさかこれを本気で言うときが来るとは、太一も思っていなかったが。
 普段ならこのようなバカな行いを諌める奏も、目を見開いて言葉を失っている。

「ああ、大丈夫ですよ。大抵の人は多少なりとも持っています。種族がヒューマンなら、魔力を持っていないほうが逆に珍しいですね」

 私も少しは持っていますよ。そういって笑う受付のお姉さん。この世界の人間という種族は、皆魔力を持っているのか。
 だがそれは不安を解消する一手足りえなかった。
 人間が魔力を持つのは普通。だがそれは、あくまでも「この世界の」人間に言える「普通」だ。
 太一と奏は地球出身。魔術など空想の世界にしか登場しない異能力であり、現実では科学が文明を発達させている世界だ。
 いくら姿形が同じとはいえ、魔力なんてものがあるとは思えない。
 なくても冒険者になれるなら問題ないが、今お姉さんは「魔力が無いと冒険者にはなれない」と明言した。
 つまり、自立への最も近い手段が、初っ端からへし折られようとしているのだ。

「魔力の測定は別室で行いますので、付いて来てください」

 お姉さんはすっくと立ち上がり、颯爽と歩いていく。歩くたびに揺れる金髪を眺めながら、太一と奏は落胆を隠せない表情でお互いを見合った。

「行くしか、ないよな?」
「そうね。こんな展開は予想してなかった」

 はあ、と仲良く幸せを手放して、重い腰を上げる二人。
 お姉さんはカウンター脇にある扉の前で、太一たちを見て待っていた。
 これで夢が絶たれてしまうのかもしれない。そうなったら、情けないがバラダー達にお願いして堅気の仕事を探す手伝いをしてもらおう。何かあったら頼ってくれと言ってくれた。その日のうちに泣き付くのも若干……いやかなり情けないが。
 お姉さんに促されて扉の中へ入る。そこはパッと見二十畳程の部屋。周囲に窓は無く、板張りのギルド内においては少し異質な、白塗りののっぺりとした壁に囲まれていた。室内の真ん中に、台座に据えられた水晶玉が置いてある。いや、それしか置いていない。

「方法は至って簡単です。その水晶に、左右どちらの手でも構わないので触れてください」
「それだけですか?」
「はい。ではどうぞ」

 水晶を半分回り込んでこちらを向くお姉さん。丁度水晶の台座を挟んで向き合う形だ。

「じゃあ、私から行くわね」
「あいよ」

 ここまで来たのに残念だという気持ちが拭えない。いっそスッパリ諦められる結果が出てくれたほうが、むしろ未練が残らなくて済むだろう。とっととダメ出しして欲しい。
 半ばやけっぱちにそう考えて足を進める奏。水晶の前に立ち、淡い輝きを放つそれを見て一瞬だけ躊躇ってから、右手で水晶に触れた。
 水晶は、淡く光るだけだ。これはダメか、そう思って手を離そうとすると、

「ま、待ってください!」

 何だかやたら焦ったお姉さんの声が奏の鼓膜を揺らす。
 直後。
 水晶が輝きを強くした。なにやら色も変わっている。
 赤。
 緑。
 青。
 黄。
 四つ順番に色を変えて、最後にそれを全て混ぜ込んだような何とも形容しがたい色となり、部屋を照らす。白塗りの壁に全ての色が反射して、幻想的な光景が浮かんでいた。

「お、おお……」
「……っ」

 思わぬ反応にマヌケな声を漏らす太一と、息を呑む奏。
 訳が分からずお姉さんを見つめると、彼女の顔は今までに見たこともないような驚愕に染まっていた。

「か、カナデさん……貴女、何者ですか……?」
「え?」

 思わず「人間です」と真顔でのたまってやろうかと魔が差す奏。しかし、お姉さんの様子から茶化すような雰囲気ではないと感じ取り、そのまま黙る。
 むしろ奏の方が聞きたいくらいなのだ。

「これは……っ。これは、全ての属性に適正が有るという事です。信じられない……そんな人が、本当に、いるなんて……」

 結構、いやかなり珍しい出来事のようだ。全力で驚いている様子から、何か常識ではありえない事になっているらしい。
 当事者の奏からすれば何も分からないので、首を傾げるしかないのだが。
 お姉さんに促され、水晶から手を放す奏。水晶が放つ幻想的な輝きが収束してゆき、部屋に入った当初の状態に戻った。

「あの……」

 固まっているお姉さんに、奏はおずおずと声をかけた。今のはどういう事なのか、説明して欲しかった。

「あっ! す、すみません!」
「い、いえ……。それで、どういう事なんでしょうか?」
「お二人は魔術についてはあまりご存知ではないのですね……。いいですか。全ての生きとし生ける者は、大抵一つの属性だけに適正があるものなんです。それは、世界最高峰の魔術師である宮廷魔術師といえど、例外では有りません」

 宮廷魔術師。
 また凄まじい単語が出てきたものだ。これではまるっきりゲームやライトノベルの世界である。

「稀に、一人で二つの属性に適正があるデュアル・マジシャンも存在しますが……そうですね、二万人に一人といった割合ですね」

 因みに三つの属性に適正があるとデルタ・マジシャンと呼ばれ、二〇万人に一人しかいないという。そして、奏が引き起こした現象は。

「信じられませんが、カナデさんはフォース・マジシャン……。二〇〇万人に一人いるかどうかという素質の持ち主です。フォース・マジシャンともなれば殆どの人が重要な役職に登用され、普通に生活していたらまずお目にかかることは出来ません」
「へ……?」

 思わずまじまじと奏を見る太一。
 奏も奏で、自分の事なのに他人事のような顔をして呆けている。いつもシャンとしている彼女にしては珍しいレアな表情だ。

「な、何でそんな平然としていられるんですか……? とんでもない事なんですよ!?」
「い、いやああの……。突然の出来事過ぎて理解が……」

 いきなり「貴女は世界でも屈指の人材です!」と言われても、まず疑ってしまうのは仕方が無いのではなかろうか。
 魔術がある、と言えば正気を疑われる世界からやってきて、まさか自分がそんな資質の持ち主だとは。想像の埒外だったとて責められるものではない。

「奏すげーな……」
「そんな他人事みたいな……」
「他人事だし」
「あんたって最悪だわ」

 緊張感のカケラも無い会話である。
 お姉さんもしばらく呆然としていたが、やがてハッとしたように我に返り、慌てて扉へ向かう。

「あ、あれ、どこ行くんですか?」
「ちょ、ちょっとそこで待っていて下さいッ! いいですか、どこにも行かないで下さいねッ!」

 といわれても、むしろ勝手に動く事など出来ない。
 先ほどまでは魔力が無いと冒険者になれない、と落ち込んでいたのにどういう事なのか。
 どうやらとんでもない事を起こしたらしいのだが、それがどれだけ凄い事なのか理解に苦しむ。
 実は受付のお姉さんの言葉どおり、普通は一人につき一つの属性しか適正は現れない。太一と奏の脳裏に強く焼きついている大魔術を放ったメヒリャも、扱えるのは火属性だけ。身体能力を強化する魔術を使っていたバラダーも、あの時は魔術を使わなかったラケルタも、それぞれ扱える属性は一つのみだ。
 彼らがこの場にいたら腰を抜かしかねない程の事が起きているのだが、太一と奏は無知なので驚くに驚けない。何となく凄いらしい、程度で、そもそもどれだけ凄い事なのかが、説明されてもサッパリなのだ。
 二人でただ突っ立っている事数分。扉が開いてお姉さんが戻ってきた。その横には髭を生やした小さいオッサンがいる。

「ああ、まだいましたね! 良かった……」

 お姉さんは胸をなでおろしている。そのリアクションを見て、徐々に出来事の凄まじさが分かってきた気がする。
 それも、次には吹っ飛んでしまうのだが。

「将来有望な二人とはお前らか若造ども」
「いきなり何だよオッサン」

 脊髄反射で出た言葉に、お姉さんは顔を青くし、小さいオッサンは憤怒した。

「れ、礼を知らないガキどもだな! ワシはまだピチピチの三八歳だ!」
「「オッサンじゃん」」
「かは……ッ!」

 ダブル口撃がヒットした。
 小さいオッサンがもんどりうって倒れていく。その様はスローモーションで太一たちの目に映り、何だかアニメを見ているかのような錯覚を覚える。
 太一に言われるならまだしも、奏にも言われた事がショックだったのだが、そんな事は太一たちにとっては些細である。

「た、タイチさん! この方はギルドマスターです!」

 それならそうと早く言って欲しい。
 前知識が無いままでは、どう見てもただの小さいオッサンにしか見えなかったからだ。

「あー、そうだったんですか。すいませんマスター」
「いきなり失礼しましたマスター」

 とりあえず謝罪する二人。若干棒読みだったのだが、オッサン……もといギルドマスターは気を取り直したのか「orz」の状態から
立ち直った。少し縋るような目が鬱陶しい。

「こ、こんなでも一番偉い人ですから、ホントの事でもオッサンとかは控えて頂けると……」
「何気にお前も酷いぞ!?」

 何故こんなコントをやらなければならないのか。
 先ほどまでのシリアスな空気が台無しである。

「で、そのギルドマスターが何の用なんです?」

 このままでは話が進まないので、強引に軌道に乗せる奏。見事な方向転換である。

「うむ。そこの娘っ子が四つの属性を発現させたと聞いたのでな。我々冒険者ギルドでは守りきれん可能性があるのだ」
「え……」

 突然投下された爆弾に固まる奏。
 それを見て、一瞬だけ気の毒そうな顔をしたギルドマスターは続きを紡いだ。

「お前さんの属性の適正。一度でも露見すれば引く手数多だ。仕事には困らない、と良く捉える事も出来るが、その力を力ずくでも手に入れたい、と思う輩が存在するのも確か。後者に事が及べば、先方は手段など選ばんからの」
「……」

 確かに、二〇〇万人に一人の逸材ともなれば、その可能性はありうるだろう。
 高額な報酬と引き換えにプロチームでその力を正当に発揮するプロ野球のようには行かないようだ。
 地球の常識が通用しない世界にいるのだから当然といえば当然。その話も理解できないわけではない。
 だが、奏にとっては降って沸いた話である。
 自分で努力して手に入れた正当な評価ならまだしも、出所不明の力が原因でそんな厄介事に巻き込まれたら目も当てられない。

「ど、どうしたらいいんでしょうか……。冒険者はやらない方が……」

 急激な不安と悪寒に苛まれ、両腕を抱え込んで項垂れてしまう奏。彼女は女。手段を選ばないような相手に捕まってしまい、どんな事に陥るのか最悪の想像をしてしまうのは無理からぬ事だろう。

「いや、出来れば冒険者はやって欲しい。その力はとても魅力的だ」

 それはとても無責任に聞こえた。太一は奏の肩に手を置く。縋るような視線を受けて、太一はギルドマスターに顔を向けた。

「……おいオッサン。保護は出来ません。でもその力だけは使って下さいってか? 義務を果たすから権利って発生するんだぜ?」

 先ほどの忠告もどこへやら。
 オッサン呼ばわりでギルドマスターに詰め寄る太一。
 冒険者ギルドの存在理由の一つに冒険者の保護がある。それを果たせないのなら存在価値など無いに等しい。
 太一の怒りも最もである。

「分かっておる。無償で差し出せなど言うつもりは無い。こちらはお願いする立場だからの」
「どうすんだよ? こっちは冒険者は生きる手段の一つだからな」

 要は、見合う物を提示しろ、という事だ。
 出されたものが見合わないと考えられたら、冒険者になどならなければいい。登録だけして、依頼を一切受けず、むしろ冒険者ギルドに近寄らなければいい。そして魔法を一切使わなくて済む仕事に就いて、ゆっくりでも金を稼げばいい。人間の本気に努力が噛みあえば何とでもなるのは、歴史上の人物達が証明している。

「うむ。後ろ盾があれば良いだろう。下手な組織などでは歯向かう気も起こせない、強力な後ろ盾がな」
「……本当に後ろ盾になってくれるのか? 俺達って劇薬だろ?」

 上手く生かせれば大病をも歯牙にかけない強力な薬に。
 ひとつ使い方を誤れば自分をも滅ぼしかねない猛毒に。
 それが今の太一と奏の立ち位置だ。

「心配要らぬ。冒険者ギルドが貸しを作ればいい話だ。幾らでも何とでもできるさ。ワシを誰だと思っている」

 ギルドマスター。冒険者を束ねる組織の長。彼が持つ権力は凄まじいのだ。見た目では分からないが、彼が浮かべた笑みは太一の背筋をぞくりとさせる程の頼もしさをもっていた。
「奏……イチ□ーよりすげーんじゃね?」
「伏せれてないから」
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