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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第一章:普通だと思ってたら異世界ではチートでした。

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異世界といえば冒険者ですよね

チートの一端が! とか言いながら、この話では出せませんでした。。。
もうちょっとお待ちください。
「奏。昨日は勝手に突っ走ってごめん」
「もうあんな無茶は控えてね」

 そんなやり取りと共に、異世界でのはじめての朝を迎えた太一と奏。
 無茶はしないで、とは言わず、控えて、と言うに留まったのは、この世界がどういうところかを奏なりに理解しているから。
 バラダーたちの話を聞いていて、この世界では現代日本よりも命を落とす機会が圧倒的に多いようだ。時と場合によっては、無茶をしなければならないこともあるだろう。それを考えたら、するな、と禁止するのは無責任だと奏は思っている。
 自分達がどれだけぬるい世界から放り込まれたのかを理解する事にもなってしまったのだから。
 さて、さしあたり当面の生活をどうするか。
 それを考えざるを得ないのが、太一と奏の現状だ。一介の高校生が、生活の為に働く事を考えなければならない。それは凡そ平均的な学生生活を送っていた二人にとっては眉唾ものである。
 この世界にはどのような仕事があるのか分からないが、少なくても現代日本のように正社員とか派遣とかアルバイトとか、そういったものは存在しないだろう。
 「金のあてが見つかるまで多少なら面倒みてやれるぜ?」と豪快に笑うバラダー。ラケルタが補足してくれたが、彼らは冒険者として身を立てて長く、今手持ちの財産だけでも、贅沢をしなければ三人が働かずに一生を過ごす事が出来るだけの貯えがあるらしい。その気になったら多少といわず、十年でも余裕で面倒を見れると言われて目を丸くしてしまった。
 日本でならおよそ六億の資産を持っているという事だ。現に辻馬車の代金も、ご馳走になった食事や飲み物も、全て彼らの財布から出ているもの。
 謙虚が美徳とされる日本人の二人にとって、ただでさえ世話になりっぱなしで肩身が狭いのに、その上養ってまでもらっては立つ瀬が無いというものだ。
 結果、彼らからどういった金稼ぎの手段があるかを聞くことにした。
 商人、職人、学者。土木等の肉体労働に店舗での雇われ販売員。料理人や百姓。彼らから聞いた仕事はその位である。
 そしてそのどれもがハードルが高い事を、付け加えて教わった。
 商人や職人は、それぞれの道で成功している者を師匠として幼少から教わるものだと言うし、学者は当人の才覚も勿論だが、己やその親族が持つコネが物を言うらしい。肉体労働や雇われ販売員も、小さい街では人手は十分足りていて、現にこれから向かう街に一ヶ月は住んでいる彼らも、仕事を募集している店を見たことがないという。後料理人は商人や職人と同じく弟子入りが必須だと言うし、百姓は土地を持っていなければ話にならない。
 懇切丁寧に説明を受け、二人揃って項垂れてしまったのは仕方が無い事だと思う。
 ラケルタも希望を砕いた事を謝ってはいたが、それでも事実はきちんと正確に伝えるべきだと考えたらしい。

「なるなら、バラダーさんたちと同じ冒険者かなぁ」

 太一はぽつりと呟く。ラケルタとメヒリャは「やっぱりその結論に行くか」という表情をしていた。あまりオススメしていないのが顔に書いてある。
 ともあれ、可能性としては一番高い。敷居そのものはそこまで高くは無いというのだから。
 だが、命の危険は常に付きまとうと釘を刺されたことでもある。
 それは言われずとも分かる。冒険者となればいずれバラダーたちのように魔物と闘わなければならない事も出てくるだろう。
 まっとうに稼ぐ仕事ではない。
 それでも、手段としてはそれが一番妥当に思えるのだ。

「冒険者って、ギルドで登録すれば誰でもなれるんですよね?」

 驚きなのは、太一だけでなく奏も乗り気だという事だ。
 太一に「無茶を控えろ」と言った少女が、進んで危険と隣り合わせである職業を選ぼうとしている。
 最早とめても聞かないだろうな、と考えたバラダーは、ラケルタとメヒリャが何か言おうとした口を視線で塞いだ。
 奏としても、その手段しかない、というのは余り気が進まない。
 しかしそれ以上にバラダー達に世話になりっぱなしというのに我慢がならないのだ。自分の事くらいは自分でなんとかしたい。出来るか出来ないか、やる前から諦めたくは無い。そういう価値観を持つのが吾妻 奏という少女だ。
 ゴトゴトと地面の凹凸を敏感に拾う辻馬車に揺られる事六時間。そろそろ太一と奏のお尻が痛くなってきたところで、馬車はようやくその動きを止めた。
 左右見渡しても草原ばかりの景色に飽き飽きしていた太一は、ぐっと伸びをして「ぶあー」とオッサンのような声を出す。
 バラダー達に促されて馬車を降りると、目の前には高さ三メートル程の石壁に囲まれた街があった。異世界に放り出されて約二十時間。ようやく、人が生活する場所へ辿り着く事が出来た。保護してくれたのがバラダー達だったのは本当に運がいい。

「ここから冒険者ギルドまではこの大通りを真っ直ぐ行けばすぐに分かるぞ」
「お、マジすか。分かりやすくてラッキー」

 実は方向感覚にちょっとばかり自信が無い太一。見慣れた土地なら問題ないが、初めて行く土地では迷子になりやすい。旅をする事も多い冒険者としては致命的と言える欠点だが、今は奏も黙殺している。

「本当に、冒険者、なるの……?」

 メヒリャの言葉は確認。その裏には「最後通告」も含まれる。危険が付きまとう職業だと、十分に忠告した。彼女は、そう言っているのだ。
 太一と奏は顔を見合わせて、同じタイミングで頷いた。

「ふう。そこまで言うなら仕方ありませんね」

 ラケルタは首を左右にゆっくり振ると、太一に向かって小さな皮袋を投げてきた。
 受け取ると、じゃらりと音がした。
 訳が分からずに視線で説明を求めると、ラケルタは笑っていた。

「ギルドに登録するには登録料が必要です。それに、宿代に食事代。素寒貧の状態ではなにもできませんよ?」
「「あ」」

 それもその通りである。お金を一銭も持たずに行こうとしていた。

「施しが嫌なら……貸しにしておく。がんばって、稼いで」

 もらえない、と辞退しようとした奏の機先を、メヒリャが制する。

「困ったらギルドに俺達の名前をだしな。これでも結構顔がきくからな俺達は」

 バラダーは豪快に笑って、太一の肩をばしばしと叩いた。

「がんばんなボーズ。そこの嬢ちゃんをちゃんと守ってやれよ」
「僕達はこの街にいます。困ったらいつでも言ってきて下さいね」
「次に会うとき、楽しみにしてる……」

 三人は一言ずつ太一と奏に声をかけ、それ以上は振り返らずに街の中に入っていった。
 その背中は雑踏に紛れていき、じきに見えなくなった。

「……行くか、奏」
「……うん」

 少ししんみりとした空気を振り払うように太一が言い、奏が答える。
 二人は並んで歩く。これから、生きていく為に。
 二人の間の距離は、日本で望んだ奏と貴史の距離であった事に、太一は気付いていなかった。

 

◇◇◇◇◇

 

「ここか」

 目の前に建つ木造の立派な建物。
 どうやらこれが冒険者ギルドらしい。メヒリャが教えてくれた冒険者ギルドの特徴そのものである。
 中に入ると、正に冒険者ギルド、といった光景が広がっていた。
 少し薄汚れて見えるのは、明かりが足りていないからだろう。雰囲気が暗いからかもしれない。
 入り口から向かって左側には掲示板があり、何十枚もの紙が乱雑に貼り付けられている。あれが依頼を書き込んだ紙なのだろうか。視線を正面に向けるとカウンターがあり、そこにはいくつか椅子が並べられている。カウンターを挟んだ奥には数人の同じ格好をした男女。年齢もそれぞれに見える。
 この時間帯は冒険者が少ないらしく、太一と奏はよく目立っていた。主に、姿的な意味で。
 二人が着ている制服は、そんじょそこらの服飾店では作るのが不可能といえるほどに仕立てが良い。日本では取り立てるところの無い制服だが、その辺でも文明の差が垣間見える。二人がそれに気付かなかったのは幸か、それとも不幸か。
 今まで感じた事の無い空気の中で身動きが取れなくなってしまった奏。その横では太一がお構い無しにずんずんと進んでいく。この辺、彼はいい意味で図太かった。

「初めて見る顔ですね。何か御用ですか?」

 応対してくれたのは、二十代半ばと思われる女性だ。落ち着いた物腰が特徴で、美人と言っていい顔立ちをしている。普段から奏を見慣れているため、太一は特に感慨を起こす事は無かったが。

「えっと。冒険者になりたいんですけど」
「ああ、ギルドは初めてですね」
「あーはい」

 間延びした太一の返答を気にする様子も無く、受付の女性は太一たちに椅子を勧めて来た。

「登録されるのはお二人でよろしいですか?」
「そうです」

 太一と違いハキハキと奏が答える。

「分かりました。それでは、こちらにお名前、年齢、種族、それとメインとなる武器の記入をお願いします」

 種族?
 そんな疑問が浮かぶが、その前に差し出された紙を見て硬直する二人。
 そういえば、この世界の文字を知らない。
 そもそも何故、バラダーたちと普通に話が出来ていたのだろうか。ここは異世界だ。使う言語も言葉も違って当然のはずなのだが。
 太一は思わず奏を見る。奏は目で「こっちに振らないで」と訴えていた。
 この際浮かんだ疑問を横においておくとして……さあ、何と書けばよいのだろうか。日本語で通じるのだろうか。いや、そんな都合のいい事は無いだろう。
 結果的に固まってしまった二人の様子を見て、受付のお姉さんは「ああ」と何か得心が言った様子で頷いた。

「よろしければ、代筆も承っておりますが」

 一枚十ゴールドになります。と付け加えるお姉さん。どうやら文字が書けなくとも冒険者にはなれるようだ。こんなところでもお金が取れるらしい。商売上手だなーと思ったのは本音だが、ここは素直にお願いする事にした。
 太一と奏は揃って紙を差し出し、お願いします、と言った。

「分かりました。では二十ゴールド頂きます」

 ラケルタからもらった皮袋から、小銅貨を二枚出して手渡す。簡単に通貨の事も説明を受けていたのが功を奏した。この世界で生きていくなら、あまり不審なマネは控えたかったからだ。
 この世界では鉄貨、小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨と様々な貨幣がある。鉄貨が一枚一ゴールド。十枚で小銅貨に、小銅貨が十枚で銅貨に、といった具合にレベルアップしていく。宿代が一泊三千ゴールド、つまり小銀貨三枚である事を考えると、どうやら物価は日本と大きな違いは無いらしい。
 因みに金貨の上には白銀貨もあるといい、それは金貨百枚分との事。計算してみたら、一枚で一億ゴールド。大商人が大口の取引を行うとき位しか、日の目を見る事は無い貨幣との事だ。太一と奏には関係の無さそうな話なので聞き流したが。

「それでは、男性の方からお名前をお願いします」
「ええと……タイチ・ニシムラです」

 普通に西村 太一と名乗ろうとして、言い直した。この世界では英国式の名前表記だからだ。バラダーたちの名前がそうだったように。

「おいくつですか?」
「十五です」
「お若いですね……種族は……すみません、ヒューマンですよね」
「はい」

 英語で助かった、と言うべきか。
 というか、この世界には人間以外に何がいるのだろうか。とても素朴な疑問だが、常識のようで聞くには躊躇われた。

「最後に、武器は何を使われますか?」
「武器?」
「はい。冒険者として腕を上げていけば、いずれ戦闘を行う事も出てきます。冒険者の方々個々で得物は違いまして、得物によって向き不向きが発生する依頼も無くはありません。適材適所の仕事を斡旋する為に、ギルドとしても把握しておく必要があるのです」

 なるほど。懇切丁寧に説明してくれたおかげで良く分かった。問題の根本的な解決には至っていないが。

「すみません。戦いとか出来ないんですが、武器扱えないとなれないものなんですか?」

 太一の言葉に目を丸くするお姉さん。
 これはまずったか。しかし、使えないものは使えないのだ。命がかかっている事に、見栄を張る気にもなれない。
 一瞬だけ動きを止めた受付のお姉さんだが、ハッとしたように笑顔を浮かべた。

「い、いえ。登録は出来ますのでご安心ください。ただ冒険者として仕事をする以上、戦えないとたくさん稼ぐ事は出来ませんが、よろしいですか?」

 それは是非も無い。「たくさん」稼げないだけで、「全く」稼げない訳でない事が分かっただけでも十分だ。むしろ安全な仕事が有るという事だろう。願っても無い事だ。

「承知しました。では何か武器を扱えるようになったら、またこちらに来てください。その時に追記しますので」
「分かりました」

 続いて奏の代筆も滞りなく進み、手続きそのものは終了した。

「それでは、次に冒険者ギルドの説明をさせて頂きます」
「分かりました」
「冒険者ギルドは、その名の通り、冒険者の方向けの依頼を、適切な冒険者に斡旋する場所です。冒険者の方の殆どはギルドに登録していて、ギルドを通して依頼を受けています。それには、依頼人とのトラブルなどを未然に防ぐ等様々な理由がありますが……一番は、冒険者の管理です」

 受ける依頼に制限が無いと、身の丈に合わない依頼を引き受けて命を落とす、といった事が横行するらしい。ギルドとしても、冒険者という人材はとても貴重だという。彼らを無駄死にさせないためにも、出来るであろう依頼を優先的に回し、徐々に腕を上げていってもらうのが目的だ。
 また、依頼の不備等は依頼人とのトラブルとなりやすいのだが、ギルドを通して受けた依頼の場合、ギルドがその責任を負ってくれるのだという。冒険者への補償もその範囲。伊達に冒険者の保護を謳ってはいない。
 冒険者に適切かつしっかりした依頼を斡旋するための尺度、それが、冒険者ランクだという。

「冒険者の方々にはランクが割り当てられます。上から順にS、A、Bと続き、冒険者になりたての方はFとなります。ランクが高いほどギルドからのサポートも厚くなりますのでがんばってくださいね」

 因みにSランクは、世界でも十人しかいない狭き門。枠そのものが十だというから驚きだ。
 そういえば、バラダー達のランクはなんなのだろうか。疑問に思った太一が問うと、お姉さんはまたも驚いていた。

「バラダーさん達を知ってるんですか?」
「ええ。魔物に襲われてるところを助けて貰ったんですよ」
「そうですか。バラダーさんたちは冒険者ランクB。向こう一年以内にAになれるといわれています。このギルドでも最もランクの高い冒険者パーティですよ」

 運が良かったですね、と笑うお姉さん。
 本当にその通りだと思う。そんな腕利きだったとは。いや、あれだけの人外な戦いが出来るならそれも納得が出来る。

「……こほん、説明を続けますね。冒険者ランクは、タイチさんとカナデさんはFからになります。Fランクで受けられる依頼は、主に街中での雑用です。戦闘はありませんが、中には力仕事もありますので、一般の方ではこなすのが難しい仕事も確かに存在します」

 最低ランクといえども冒険者。腕っ節も並ではないわけだ。太一と奏は一般人だが。

「ランクを上げるには、依頼をこなして条件を達成する事です。Fランクですと、同ランクの依頼を失敗無しで十回連続で成功する事です。また、ランクアップには試験を受けていただき、それに合格すれば晴れてEランクとなります」
「試験?」

 奏が首を傾げる。

「はい。Eランクからは魔物と戦う依頼も出てきますので、ギルドの方で一定の戦闘力が認められなければ、Eランクに上がる事が出来ません」

 奏は太一を見る。問題は無い。生きていくのが目的であって、わざわざ危険を犯すつもりはない。

「依頼を失敗した場合ですが、ペナルティとして報酬の倍額をお支払い頂きます」
「うぇ、結構キツいな……」
「申し訳ありませんが、それも、冒険者の個々にあった依頼を受けていただくための措置ですので」

 ルールならば仕方が無い。依頼失敗してもお咎め無しでは真剣にやらない者も出てくるだろうから。

「そのほかにも色々あるのですが……詳しい事はこちらの冊子に書いてあります。今お話した事も全て記載してありますので、後で目を通していてくださいね」

 渡されるパンフレットのような小冊子。
 最初からこれを渡せば終わっていたのではないか。
 そう、太一と奏が感じるのも、無理は無い事だった。
次回も冒険者登録編です。
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