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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第三章:ウェネーフィクスの乱

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作戦会議

「パソス。騎士団はどうなっている?」
「はっ。臨戦態勢の騎士は常に三〇〇〇、残り六〇〇〇をローテーションで待機、休暇としております」
「うむ。変わりはないな」
「継続して間者に目を光らせております。時折やり取りはしているようですが、表立った動きはありません」
「よろしい。宮廷魔術師たちはどうだ」
「現在三〇〇人が臨戦態勢です。残り五〇〇人は騎士団と同じくローテーションを組んでいます」
「うむ」

 三日に一度の軍幹部による定例会議。太一たちが城に着いてからは初である。ここ最近は会議というより現状の確認が主。貴族側との小競り合いは散発するものの、お互いろくにダメージを与えずに撤退するため、小康状態が続いている。
 王家側から打って出るカードを常に懐に忍ばせているスミェーラだが、未だそれを出す機会は無い。ギリギリまで待つとジルマールから通達が出ているのだ。もちろん、手遅れにならないうちは、という前提条件付きで。その為に情報収集は欠かしていないし、いつでも攻撃に転じれるようにしてある。
 ティルメアは先日「迎撃の準備は出来ていない」と言った。それはスミェーラが外に出している情報である。間者がいるのが分かっているのに、わざわざ教えてやる必要はない。ジルマールはじめ王族にその側近は知りうる情報だが、油断して漏れました、では話にならないため、ジルマールやスミェーラの許可がなければ知ることは出来ないのだ。あの時点では情報を与えて良いか、王女付きとはいえ一介の侍女には判断が出来なかった。
 臨戦態勢というのも、知っているのはもちろん間者以外の騎士や宮廷魔術師たちである。末端まで命令を浸透させる桁外れな統率力は、スミェーラの類い希なカリスマ性あってのものだ。スミェーラ自らトップダウンで隊長クラスに根気よく作戦を伝えた努力も当然あるのだが。

「折角だ、間者にはもう少し泳いでもらわんとな」
「そうですな。しかし、あのドルトエスハイム公のことですから、それには気付いているかも知れませんぞ」
「それはお互い様です。私たちだって、間者にすぐ気付いたんですから」
「しばらくは化かし合いだ」
「それが出来るのも、再編を急いだお陰ですな」
「そうだな。話の早い奴等ばかりで私は楽が出来る」
「しかし、あの晩は死にかけました」
「突貫でしたからな」

 ベラとパソスが疲れた顔を浮かべた。たった一晩。数千を超える騎士団と、準備に時間が掛かる宮廷魔術師たちにいつでも出撃出来るよう対応させた。それだけならまあまだ難しくはないが、間者に悟られないようにするのが大前提だったため、骨が折れたのだ。
 今考えてもかなり神経を磨り減らした。優秀な部下たちばかりだったからこそできた、神業と呼んで良い位の所業だった。

「ところで閣下」
「なにか気になることでもあるか?」

 テーブルに足を乗せ、頭の後ろで腕を組むスミェーラ。彼女だから許される姿勢である。

「あの少年への求婚、本気だったのですか?」
「なんだ、そんなことか」

 つまらなそうに呟くスミェーラ。パソスは相手の気のないリアクションを一切合切スルーする。

「閣下とあの少年の人生に関わる事ですからな」
「本気だ。でなければ、御前試合であんなことを言うものか」
「まあ、そうでしょうな……」

 パソスの物言いに、スミェーラが眉を寄せる。

「なんだ、引っ掛かる言い回しをするな?」

 はっきり言え、と言われたので、パソスはストレートで聞くことにした。

「閣下は、あの少年に力が無かったら、求婚をなさいましたか?」
「するわけないだろう」
「だろうと思いました」
「何が言いたい?」

 スミェーラの瞳がパソスを射抜く。普通なら気圧されるだろうそれも、パソスにとっては慣れたものだ。

「あの少年は偶然選ばれ、運良く力を手に入れただけの存在。閣下が興味があるのは、少年の人柄等ではなく、あの力だけではないですか?」

 少し厳しめの論調。ベラは空気を読んで黙っている。
 パソスに対し、スミェーラは応じた。

「それがおかしいか?」
「力があれば誰でも良い、と受け取られかねませんからな」
「否定はせんよ」
「閣下……」

 呆れるパソスに、早とちりだと釘を刺す。

「聞けば、タイチはこの世界に来たばかりの時は力を使えなかったそうじゃないか。黒曜馬に襲われたところを腕の立つ冒険者に救われ、その後レミーア殿に弟子入りするという度重なる幸運に恵まれている」

 その通りだ。相当に恵まれている。

「あの少年でなければ、そのような幸運には恵まれなかったと考えることもできる」
「……」
「腕が立っても運が悪ければ死ぬこの世界で、運だけで今では国賓扱いだ。強さだけでなく人柄に対する仲間たちからの信頼もかなり厚いと聞く。強運と人から協力を得られる人格。かなり優れた人物と思わんか?」

 想像以上の高評価に、パソスの方が目を剥いた。本人が聞いたらむず痒さに呻いていた事だろう。

「今のを最終評価とするには情報が足りんことは私も良く分かっている。だが、お前とて分からない訳ではないだろう。どんな建前や理由を並べたところで、強い者が異性に好まれるとな」
「否定できませんな」

 スミェーラの言葉に、パソスがふっと笑った。

「すべてのしがらみを取り払って良いのなら、孫娘に嫁いでもらいたいくらいですからな」

 それに呆れたのは、今までは成り行きを見守っていたベラだ。

「パソス様のお孫さんはまだ九つではありませんでしたか?」
「そうですな。なに、後三、四年もすれば絶世の美少女になりますぞ」

 そういう問題なのだろうか。論点が少しずれてきている気がする。

「確かに可愛らしいですからね。そういえば、昨日パソス様は、タイチ殿の気持ちも大事だと」
「む。うちの孫にケチをつける気か彼は」
「話聞いてました? タイチ殿の気持ちが大事だと仰ったのはパソス様ですし、第一彼はパソス様に孫娘がいると知らないではありませんか」
「むう……」

 理路整然と説き伏せられ、パソスの回りに膨れ上がった熱が急激に萎んでいく。
 最大で二〇〇〇〇の騎士を束ねるパソスといえども、最愛の孫娘の事となるとつい冷静さが何処かに出掛けてしまうのだった。
 スミェーラが楽しそうに笑う。

「まずは、タイチに少女に興味があるかを聞くことだな、パソスよ」
「お恥ずかしい……ですが、そうですな、考えておきましょう」

 三、四年後といえば、太一は一八から一九であり、パソスの孫娘は一二から一三。日本では犯罪だが、この世界では婚姻が結べる年齢である。確かに早い部類ではあるが。

「昨日レミーア様から聞きましたが、タイチ殿とカナデ殿両名とも、まだ人を殺してはいないそうです」
「ふむ」
「ほう」

 盗賊などは、相手がそうだと分かったら即殺していい手合い。それらに出会った経験があって尚そうなのだから、筋金入りである。

「何でも彼らが住んでいた国では、殺人は相当に忌避されていたとか。例え凶悪犯罪者でも、正当防衛以外での殺人は認められない国だそうです」
「それはまた」
「しかし、それは少々気になりますな」

 パソスの感想に二人は同調した。
 無闇に人を殺さない。
 信念があるのは好ましいことであるし、人を傷つけて平気な者よりはよほどいい。しかし、今は戦時中である。相手も自国民であるため、なるべくなら殺したくはないが、それは終戦してからの国力の弱体化を最小限に抑えたいがためだ。犠牲無しで勝てるなど口が裂けても言えないし、必要とあらば相手部隊を壊滅させる事もあるだろう。自分達を守るのが最優先で相手の命まで慮っていられない可能性も十分にあり得る。太一たちのそれは、戦場では甘さや隙になるだろう。

「まあそれは追い追い考えよう。それよりベラ、レミーア殿と話をする機会を設けたのか」
「はい。私のほうが我慢できず……もう少し、自制というものについて考えるとします」

 少し恥ずかしげに頬を染めるベラ。彼女の表情にふと思うところがあったスミェーラだが、今は黙っておくことにした。

「タイチの強さは肌で感じたが、カナデについて何か聞いたか?」

 あの時力を確認できたのは太一のみ。奏についての情報はフォースマジシャンであることと、魔術が強力ということ。強力ならそれに越したことはないが、具体的にどのくらいかが分からない。ある程度の指標が欲しいと思うのは当然だった。
 もちろんです、と言いながらベラは頷いた。

「タイチ殿も凄いですが、カナデ殿も大概ですよ」

 呆れと畏怖の混ざった顔をする。

「強さだけで言えば、レミーア様との差を大分詰めているそうです。その内抜かれるとあの方は仰っていました」

 レミーアの名声は誰もが知るところだ。高名な魔術研究家であり、魔術の開発能力では他の追随を許さない。加えて魔術師としての実力も超一流。あれほどの人材なら、お抱えにしたい組織は両手の指では足りない程にあるはずだ。

「レミーア殿と僅差か」
「はい。今なら、一〇度やれば三度は負けるだろうと。二ヶ月前なら負けるとはつゆほども思わなかったそうですので、凄まじい成長速度ですね」
「末恐ろしい」

 パソスはそう絞り出した。

「ベラ。お前はレミーア殿に勝てると言えるか?」
「……まず負けます。勝てても率は三割から四割ですね」
「そうか。私も確実に勝利を得られるとは言えんな」

 レミーアが落葉の魔術師と呼ばれるようになってから長い。その間生まれたたくさんの逸話は、当然彼らの耳にも入っている。

「閣下もですか?」
「実際に闘ってみんと何とも言えんが、まあ一〇回のうち二、三回は不覚を取るだろう」

 総合的な戦闘力で比べるなら、スミェーラとレミーアの間にそこまで大きな差は無い。だがスミェーラには太一をして速いと言わしめるスピードがある。対魔術師であれば、その辺がアドバンテージになるのだ。魔術を満足に使わせないという戦術を取れる。

「レミーア殿が戦場で敵として出てきたら、お前たちならどうする?」
「すっ飛んで逃げます」
「即時撤退命令一択ですな」

 三人で一瞬見詰め合い、不敵な笑みを同時に浮かべた。

「同感だ。レミーア殿クラスの魔術師との戦いは覚悟がいるな。払う犠牲が大きすぎる」

 数で押せば勝てる相手ではある。だが、レミーアレベルの魔術師が放つ広範囲魔術の被弾を数発は覚悟せねばならない。先を取り自分達で打って出る選択肢もあるにはある。指揮系統は副官に任せればいいが、流れ弾を考えると頭が痛い。どの程度の犠牲を払う必要があるのか、考えたくはない類いのものだ。

「とりあえず、カナデの強さはレミーア殿に追随する、ということだな」
「私と互角、とも言えると思います」
「言葉にすると簡単ですな……実際はとんでもないことですぞ?」

 エリステイン魔法王国の宮廷魔術師総長であるベラの実力は、もちろん世界最強クラス、世界中の魔術師を昇順でソートし、上から数えたほうが早い実力者。
 ベラクラスの魔術師は探してもまず見付からない。三大国の宮廷魔術師長で比較すれば、ベラの一人勝ちである。
 つまりレミーアという存在はかなりイレギュラーなのだ。
 そして、ベラをして「互角」と言わしめる奏の実力もまた。

「今は味方なのだ、そういう検証は時間があるときにやるとしよう」

 スミェーラはそう言った。

「私としては、レミーア殿、加えてカナデ、おまけにタイチを相手にしなければならないドルトエスハイム公に同情するな」

 正規軍だけでなく、レミーアクラスの魔術師二人に、人間という枠を軽々飛び越えている太一。戦いたいとは思えない相手だ。

「準備さえ出来れば、カナデ殿は一撃で一〇〇メートルを薙ぎ払えるらしいですし」
「……笑えん冗談だ」
「事実のようですから」
「それだけの強さがありながら、殺さないというのはなかなか難題ですな」
「うむ。これは我々も試されている」

 太一と奏というジョーカーをどのタイミングでどこに配置するのか、作戦指揮と戦局の読みなど、様々な要素が試される。「戦場で殺さずを貫くのは不可能だから諦めろ」と突っぱねるのは簡単だが、それで協力が得られなくなるのもそれはそれで痛手だ。
 それらのネックに目をつむっても良いと思えるほどにメリットも大きい。
 タイミングがいいというかなんというか。話が一段落したところで、扉がノックされた。

「入れ」
「失礼します」

 鎧を身に纏った兵士が入室し、整った敬礼をした。

「斥候から報告がありました。反乱軍が正門に向かってきております。数は一〇〇〇超」
「来たか」

 がたりと椅子をならし、長身の女将軍は立ち上がった。

「陛下に御連絡申し上げろ。後は異世界の少年たち援軍にも伝えるのだ。他主要な者を集めろ」
「はっ!」

 退室する兵士を見送り、両側に立つ騎士団総長と宮廷魔術師総長に目を向ける。

「パソス」
「はっ。二〇〇〇程、すぐに出撃準備させます。他の者の警戒レベルを二級に引き上げます」
「ベラ」
「はい。臨戦態勢の魔術師全員に出撃準備させます。残りの者も騎士団と足並みを揃えるよう手配します」
「よし。ゆけ」

 二人同時にスミェーラに向かって敬礼をし、作戦室を出ていった。
 一人残されたスミェーラは、やや間を置いてから、口許に手を当てる。

(……妙だな。一〇〇〇だと?)

 貴族派が動かせる最大兵力はこんなものではない。何故そんな半端な数なのか。

(馬鹿貴族の道楽息子が先走ったか、或いは、秘策があるのか……)

 前者なら楽なものだ。数で圧倒してしまえばよい。だが後者なら懸案事項として挙げなければならない。そしてこの場合、想定するのは考えうる最悪の事態だ。数万の兵を束ねる長として、スミェーラには部下の命に責任がある。

(……行くか。どの道看過できる数ではない)

 一〇〇〇人に好きにさせれば、一日で王都のかなりの範囲が憂き目に遭う。
 都市への侵入を止めることに変わりはない。スミェーラは歩き出し、有事の際に人が集まる場所に向かう。その時には、どのような作戦を取るべきかに思考が変わっている。歩き出して数分、スミェーラは目的地に辿り着いた。




本章もおおよそ半分まで来ました。

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