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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第三章:ウェネーフィクスの乱

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開幕

三章更新始めます。
 人はとてもたくましい。
 地球にいた頃から、そう思わせられる事は何度かあった。大半は、それを授業などで追体験するのみだったが。
 国を窮地に陥れる大災害。
 多数の国を巻き込んだ戦争。
 そんなものが軽微な損害で済む筈がない。大抵は命と経済の双方に甚大な被害を引き起こす。
 その度に立ち直ってきたからこそ、今日の国際社会があると言っていいだろう。
 世界が違えど、それはアズパイアとユーラフにも当てはまる。
 魔物大侵攻から三週間。アズパイアとユーラフの人々はいつもの暮らしを取り戻していた。
 アズパイアは街への侵入を防げたためそこまで大きな影響はない。せいぜい商店から品物が減ったことと、医療従事者がしばらくてんてこ舞いだった程度。一〇〇〇を超える魔物に襲われてそれで済んだというべきだろう。
 しかしユーラフはそうはいかない。建物の全壊が三割、半壊が五割という散々な状況。再建するにも多大な時間を要するというのが調査の結果。生き残った人々はアズパイアに一旦居を移すことを余儀無くされた。
 それに困ったのはアズパイア。三桁の人間を一時的ではなくある程度の期間受け入れるには、住居が足りなかったのだ。もちろん冒険者や商隊が一挙に押し寄せることはある。それでもそうそう長期滞在はしない。
 太一ら三人は宿を引き払い部屋を空けたが、それも微々たる効果。
 住む場所が無いからと路頭に放り出すわけにもいかず、今は応急措置として居候を受け入れてもいい、という民家に世話になっている状態だ。
 生活費などはどうするのか、その辺の補償をしたいと譲らないユーラフの長が、アズパイアの行政と詳細を詰めている事だろう。それも杞憂に終わりそうだが。
 前述の有志は完全なる厚意である。
 アズパイアは運良く助かった。太一と奏がいなければ共倒れだったことを考えれば、家が、街が無傷で残っているのは幸運。生活費は家事や仕事を手伝ってもらえばそれでよい。
 そう考える者が多いのが事実。持ちつ持たれつ助け合いの精神が強い、というのが、太一と奏の印象だった。
 太一一行はレミーアの家に戻っている。ここを本拠とするか、落ち着いたらアズパイアに戻るかは未知数。力を隠す必要が無くなった以上、街へ行くのに遠慮無く強化ができる。途中休憩を挟んでも馬車より少し時間がかかる程度。
 この世界にはバスやタクシーのような便利な移動ツールは殆どなく、その生活にも慣れてきた太一も奏も、特に不自由を感じていない。
 良く晴れた青空の下、太一は広がる地平線を手頃な石に座って眺めていた。
 極彩色の蝶は、動かない太一を枝か何かと勘違いしたのか、その鼻先に止まる。そよ風が太一と髪と蝶の羽を揺らした。蝶はしばらくそこで羽休めした後、再び空へ飛び立った。
 間違えそうだが、太一はただぼんやりしているわけではない。
 彼が見ているもの、それは契約を交わしたパートナーだ。
 数千年という悠久を過ごした四大精霊シルフの代弁者。
 風の上級精霊、エアリィことエアリアル。
 何もないように思える空間。しかしそこには確かにいる。

『たいち。大分上手くなったね』
『そうか?』

 声には出さず、心で思う。そしてそれを、相手に伝える。
 以心伝心。
 テレパシー。
 そんな形容詞ならばしっくりくるだろうか。
 エアリィは太一をそう褒めるが、それほどではない、というのが本人の評価。
 なんせ凄まじい集中が必要なのだ。寄ってきた蝶が、太一に止まるほど無防備に。
 声に出すよりも思ったことがそのままに伝わる方が早い。
 そう至った理由として、常にエアリィを具現化させておくわけにはいかないからだ。
 エアリィは「他人に姿を見えないようにすることも、声を聞こえないようにすることも可能」と言った。その辺りの匙加減は召喚術師次第だと。
 考え方は至極シンプル。他人に姿を見せたいか否か。声を聞かせたいか否か。その二つに集約されるというのだ。基本的に自分だけに見えて、自分だけ聞ければいいと思った太一は、その辺りの訓練を積むことにしたのだ。もちろん得られる恩恵はそれだけではない。エアリィとの意思疏通がスムーズになることで、より絆が深まる。エアリィから力を借りるのだから、絆は深いに越したことはない。
 今エアリィを捉えられるのは太一のみ。やがてこれが息をするように可能になれば。それが二人の目指すゴールだ。
 これ以外にも訓練メニューはある。魔力強化一〇〇の時の効率化。エアリィを介した風魔法の習熟。
 一〇〇の強化は、流石の太一と言えどそうそう長時間は出来ないことが、あの日判明した。翌日の疲労感は半端なものではなく、奏とミューラに本気で心配されてしまったのだ。魔力の消費を減らすより、必要な時に必要なところだけ強化する場所を切り替える。それが最も良いとレミーアからアドバイスされた。一〇〇の強化を施した時の太一のスピードは尋常ではないため、素早さと的確さという相反する要素を両立という離れ業に挑戦中だ。
 風魔法の習熟については、やりたいことによってエアリィに渡す魔力の量、強さを調節することで、意図に沿った魔法を行使するのが目的だ。対レッドオーガ戦で放った魔法のどれもが、威力過多だったとレミーアの指摘に則ったのだ。バリエーションそのものは少ない。突風と風の刃。せいぜいがそんなものだ。その両方に必殺の威力を持たせるのは容易いため、そこまで問題ではないのだが。
 そして、今丁度行っているエアリィとの絆強化。結局魔法を使うのはエアリィだ。太一は彼女に魔力を渡すだけ。自分で練り上げた魔力を使い、自分で魔術を使う奏やレミーア、ミューラとは毛色が違う。太一の意志をエアリィが正確に汲めるように。また太一も、自身の描いたイメージを正確にエアリィに渡せるように。
 こうして修行を始めてからはや二週間。あの面倒臭がりな太一が、自主的に訓練を積んでいる。太一を知る人物が久々に彼を見れば、漏れなく驚くだろう。太一が「少し変わった」と気付いた奏を除いて。
 その理由は、やはり魔物襲撃がきっかけだ。数十人からの冒険者が、アズパイアを守って散った。ユーラフが半壊した。ミューラが、ロゼッタが、重傷を負った。もちろんそれらは太一のせいではない。
 しかし、太一が死に怯えて戦うのを躊躇わなければ。いや、もっと言えば力の露呈を恐れなければ。防げた被害があったかもしれない。
 たらればなんてのは後の祭り。かつて奏はそう言った。その通りだと思う。
 だから、今後起こるかも知れない先の祭りに備えて、自分の実力を昇華する。最強とか、そういうのはどうでもいい。せめて、目に映る範囲くらいは守れる力を。
 内に秘めるこの決心は誰にも明かしていない。ただ、修行をする、とだけ。
 太一は息を吐いて立ち上がる。修行の終わりには、景気付けするようにしている。エアリィが具現化した。

「エアリィ」
「うん」

 まだ半端な習熟でしかない以心伝心は使わず、言葉でやり取りをする。
 風を右手に集めて密度を高くする。
 エアリィが撃つのではなく、あたかも太一が撃つようにみせられることも、修行をしたからこそ分かった。
 狙いは地平線からやや空へ角度をつけた空間へ。射程距離は恐らく三〇〇メートル。射線上を無差別に凪ぎ払う風の弾丸。

「行け」

 強い風が吹き荒んだ時の、独特の音を響かせて、見えない弾丸が飛んでいく。辺りの草を引っこ抜くかという余波を撒き散らす。太一が放った弾丸の壮絶さの表れだ。これで二割程度の力の入れ具合だ。五階建て程度の鉄筋コンクリートのビルなら一撃で破壊する威力がある。魔力強化でも可能だが、威力は比べるべくもない。更に遠距離攻撃、という点が大きい。魔力強化だけなら、当然近付かなければならないが、エアリィを介した魔法なら、近づく必要がない。
 問題はべらぼうに高い威力。きちんと扱わないと、敵はもちろん味方もまとめてやっつけてしまう。一般的な魔術師諸兄にとっては贅沢極まりない悩みだ。

「人に向けて撃てねえなあ」

 並の相手なら遥か彼方まで吹っ飛ばしてしまう。いや、それ以前にぺしゃんこにしてしまいかねない。
 自分で放っておきながらその威力にしばらく呆れ。

「ミューラ」

 周囲を一切確認せずそう口にした。

「やっぱりダメね」

 かさりと草が鳴り、エルフの少女が姿を見せた。
 少し悔しげに。そして、握っていた剣の柄からゆっくり手を離した。

「いつから気付いてたの?」

 太一に歩み寄り、そう尋ねる。
 特に間を置かず、淡々と、

「ミューラが柄に手をかけたとき」

 そう答えた。
 その解答にミューラは苦そうに笑った。

「じゃあそれまでは気付いてなかった?」
「そうだなあ」

 ミューラが剣を握った瞬間。チリ、とひりつく何かが微かに太一に届いた。鋭いそれは、何度となく感じたことのある気配。
 背中を預ける仲間のものだと、太一は気付いた。外れたらカッコ悪いなあ、と、内心それなりにドキドキしていたのは彼だけの秘密だ。

「悔しいなあもう」
「俺の気配探知も鋭くなったからな」
「そうみたいね。修行は終わった?」
「ああ。ちょうどな。ミューラの方は済んだのか」

 頷いて、視線を配らせる。岩の上に置かれた紙袋が一つ。欲しいものは無事買えたらしい。
 太一らが圧倒的な力を示したことで、また、あの魔物襲撃が引き金となり、アズパイアにいる冒険者たちがかなり元気だという。減りが遅く、なかなか下地が見えてこなかった掲示板の依頼が、怒濤のペースで消化されているらしい。
 現時点ではそれなりに蓄えもあり、冒険者たちがせっかく気合いが入っているならと、依頼を受けるのを一時中断していたのだ。そろそろ再開するか、という話になったのは今朝のこと。ちょうどアズパイアに買い物にいく予定だったミューラがついでということで見に行ったのだ。

「なんかめぼしいのあった?」
「ええ。受けてきたけれど、構わないわよね?」

 腰のポーチから折り畳まれた紙を取り出してひらひらさせるミューラ。
 太一はそれに一も二もなく頷く。自分の代わりに云ってもらったのだから、ミューラの判断に否やはない。
 早速奏にも知らせて、出発することにした。





◇◇◇◇◇





 微風と草の音が耳に届く草原に、五台の馬車が停まっていた。五台とも、馬車としての平均を上回っている。とても大きくて立派。見るからに頑強そうなその五台は、馬車を使用した商売を営む者なら誰もが羨むだろう。
 その内の一台。豪奢さでは他の追随を許さない馬車が、一〇人からの武装した男たちに囲まれている。この言葉だと勘違いしそうだが、問題はない。男たちは全員馬車に背を向けて武器を構えているからだ。彼らは護衛なのだろう。馬車を守るように展開していた。

「何か変化はあったか?」
「いえ! あれ以来何もございません!」
「そうか」

 馬車の中から聞こえた威厳のある声に、若い男が素早く応える。
 その問い掛けの原因となった出来事を思い返す。
 あの時、凄まじい魔力の奔流とともに、大気が震動した。馬車がビリビリと震えるほどの威力。
 何者かが何らかの術を行使したのだろう。それがどのような術なのか。少なくとも、自分たちに向けられれば防ぎようがないほどの威力だと分かる。何せ目に映る範囲には人っ子一人いないのだ。
 かなり離れているにも関わらず、術の行使を察知できる。どれほどの術者だというのだろうか。
 ひたすら周囲を警戒したまま、二〇分が経った。
 その間、何一つ変化は起きない。

「もういいでしょう。出発しましょう」
「殿下」

 鈴のような、しかし凛とした少女の声が馬車から外に向けられる。

「ここであまり時間を取られる訳には参りません。周囲の警戒は怠らずに、少しでも進みましょう」
「……仰せのままに」

 自身の考えを押し込み、少女の言葉に従う、重たい声の持ち主。それから三分も経たずに、馬車は再び動き出す。
 馬の鼻を辿った先にあるのはアズパイア。
 新たな幕が上がる。
書き上げ→即更新
のスタイルで行きます。

読んでくださってありがとうございます。
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