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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

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第二章エピローグ

二章もついに終わりです。
 全力で草原を駆けている。周囲の景色があっという間に後方へと飛んでいく。
 スピードガンを用いたなら、測定結果は時速一五〇キロと示すだろう。六〇の強化を施せばこの程度は問題ない。もっと速く走ることも十分可能。
 それをしないのは、彼が背負っている存在が理由だ。

「奏、平気か」
「うん」

 頷いたのが背中越しに伝わる。太一としても、なるべく震動を与えないようにしてはいる。
 しかし奏は一度魔力が底をついている。自然回復でもある程度戻るとはいえ、今の奏は一般人。あまり無茶はさせられない。

「私のことはいいから、早く行こう?」
「分かった」

 太一はそれきり前を向く。何故奏を背負って走っているか。その理由を説明するために、舞台は三〇分程前まで遡る。

 重力に従ういとますら与えられずに鱠切りにされたレッドオーガが、一瞬の間をおいて次々と地面に落ちた。
 殴ってもなかなか倒せなかった相手。負けるとは思わないが、魔力強化だけではもっと時間がかかっていただろう。

「うん。名付けて、エアロスラスト」

 どこかで聞いたような名前を口走り、思わずむず痒くなる太一。

「発想の勝利だね」

 空気の流れであるところの風を、刃とする考えは持っていなかったエアリィが、素直に称賛した。
 奏、レミーアを含めて誰もが生を諦めるであろう魔物を一瞬で苦もなく倒した太一。
 レッドオーガは紛れもなく怪物。それをあっさりと倒した太一もまた、怪物であるという証左に他ならない。
 恐れられるだろうか。疎まれるだろうか。それも仕方がないと思う。レミーアもジェラードも、こうなる事を見越していたのか、再三忠告をしてきていた。

「ま、いいか」

 多少の強がりは否めないが、覚悟の上でもあった。目的は、アズパイアの防衛。
 どことも知れないまるで漫画やライトノベルの世界のような土地に飛ばされて。
 何やら凄まじい力が自分たちにあることを知り。
 その力を誰かから奪うためではなく。
 こうして誰かの命を守るのに使えたのなら、きっとそれは、この世界に来た意味と言っていいだろう。
 エアリィが太一の肩に腰かけた。こちらを見てくる精霊と目が合う。
 ここが駄目でも、生きていくことは出来る。
 今度は大人しく冒険者でもしていればいい。そんなに上手く行くだろうか。楽観過ぎるとは思う。それでも今は、自分を納得させる理由としては十分だ。
 どこかスッキリした顔で振り返り、皆の元へ戻る。
 驚いていないのは、知っていた奏だけ。レミーアもミューラも含めて、他の者は軒並み絶句している。まあ当然のリアクションだろう。太一が発現したユニークマジシャンの力。それは、レミーアが可能性として挙げていた召喚術師だった。

「……タイチ」

 声を掛けてきたミューラに、太一は顔を向けた。

「ん」
「本当に、精霊を?」
「ああ」
「はあ~……」

 何とも言えない、長い長い溜め息。それが感嘆から来るものだと気付くのに、少し時間が必要だった。

「まさか本当に召喚術師だったとはな。……呆れるしかないな」
「それは俺もだ」

 レミーアとのやり取りは、何となくいつもと変わらないと太一は感じる。

「自分の事だろう。まあ、そのお陰でワシらは助かったのだから、運が良かったと思うべきだろうな」

 ジェラードにも肯定的に受け止められた。
 太一は思いきって聞いてみる事にした。何故、変わらないのか。恐れないのか。あれだけの力を見せたにも関わらず。

「バカを言え」

 開口一番、にべもなく一蹴したのはジェラードだった。

「おまえがその気だったら、アズパイアなど既に滅んでいるわ。いつでも出来たのにしなかったのだから、する気がないのだろう?」

 アズパイアを滅ぼす。考えたこともなかった。

「くだらん事をわざわざ言わせるな。あまりみくびってくれるなよ?」

 ジェラードは腕を組んで、口の端を吊り上げた。

「お陰様で命拾いしたからな。タイチが来なかったら私たちは今頃お陀仏だったろう」

 お陀仏とは乙な言い方をする。まるで日本のようだ。翻訳された言葉のニュアンスを、太一の脳がそのように解釈したのが原因。それが、レミーアの言葉を味なものに変えた。もっとも、太一とレミーア、双方とも知る由もないことだが。

「タイチ」

 ミューラが近付いてきた。カツン、カツンと、杖を突く音が聞こえる。

「ミューラ」
「よく戦う気になったね」
「ああ。俺にしか勝てない相手だったしな」
「そっか」

 笑顔を浮かべるミューラ。

「あた……ううん、この街を守ってくれてありがとう」

 そのお礼は、心から。
 どうやら、アズパイアにいてもいいらしい。ふー、と大きく息を吐いて、太一はその場に座り込んだ。太一が何を懸念していたのか、その理由が明らかになった。

「安心しろタイチ。お前を追い出したりはせんよ」
「レミーアさん……」
「せっかくの召喚術師(研究対象)をみすみす逃がす手はないからな」
「俺の感動を返せ」

 ノリと勢いによるコントに奏が吹き出す。それはやがて冒険者たちにも感染し、張り詰めていた空気が霧散した。戦いが終わったことを告げる笑い声が空に響く。今日はアズパイアの至るところで生還を祝う宴会が行われることだろう。
 その和やかな空気を破壊する覚悟を決めたのは、奏だった。

「太一」
「おう奏。魔力は平気か?」

 大丈夫、と答えて奏は続ける。

「悪い知らせがある」
「悪い知らせ?」

 怪訝そうな顔をする太一。歓喜の輪には、ミューラやレミーア、ジェラードも巻き込まれた。和やかな空気の中、太一と奏の間だけ、切り取られたように雰囲気が変わる。

「うん。ユーラフにも、魔物襲撃の余波が行ってるって」
「―――は?」

 寝耳に水とはこのことか。
 奏は種を明かした。
 太一がレッドオーガと戦い始める直前に、ユーラフから早馬が到着した。アズパイアに助けを求めるために来たという。その伝令は、ユーラフより遥かに多い魔物に襲われているアズパイアの状況に言えなかったようだが。
 勘違いしそうだが、ユーラフの状況を楽観視は出来ない。でなければ、わざわざ早馬など飛ばさない。
 報告によれば、住民の殆どは二つの施設に立て籠り、自警団と運良く街にいた冒険者で何とか凌いでいるとのことだ。魔物の数は二〇〇もいないらしいが、街へ侵入されるのは時間の問題だという。
 アズパイアのようにギリギリで食い止められるかは分からない。
 魔物の数はアズパイアが圧倒的に多かったが、街が蹂躙されてしまうかもしれないユーラフの方が酷い、と言うことも出来るだろう。
 何故今になってそれを知らせるのか。太一がレッドオーガとの戦闘に集中出来るようにするため。太一の負けはアズパイアの負け。そうなれば、ユーラフへ援軍を送ることもかなわない。

「そっか……ユーラフが……」

 太一は自分の手を見詰めた。後どのくらい魔力は残っているだろう。
 一〇〇の力であれだけの時間強化していたから、かなり減っている感覚はある。
 最初に辿り着いた思考が魔力の残量だった時点で、太一の心は決まっていた。

「行く?」
「行く」

 そこに至ることは、奏も分かっていた。

「私も連れてって」
「……分かった」

 奏は燃料切れのため強化魔術を使えない。使えたとしても、太一の強化にはかなわない。
 来るな、と言っても聞かないだろう。結局、太一が奏を背負っていくことになった。

「タイチ? ……カナデ?」

 ばか騒ぎの主役である二人がいないことに気付き、呼びに来たミューラ。

「あれ?」

 ミューラは首をかしげる。ほんの数分前まで、ここにいたはずだったのに。どこに行ったか。その謎はじきに解ける事になる。





◇◇◇◇◇





「ひでえな、こりゃ……」

 ようやく辿り着いたユーラフは、半ば廃墟と化していた。
 ところどころで灰色の煙が上がっている。魔物の死体がそこかしこに転がっている。これらの光景が相当な激戦だったことを物語る。
 傍らに落ちていた、欠けた剣を拾い上げた。刃に血糊がべっとりとついているが、構うことはない。きっと、ここを守って果てた冒険者か自警団のものだろう。
 奏のソナー魔術があれば魔物を探すのも楽なのだが、魔力が欠乏状態の彼女にそれをねだるのは忍びない。

「太一。……あっち」

 じゃあ自分が気配を探ろう。そう思ったところで、奏から指示が出た。
 額に脂汗を滲ませ、街の奥の方を指差す奏。

「無茶すんなよ」
「……平気」

 荒い呼吸で良く言う。
 しかし、文句は後でいい。奏に頷き、示された方へと歩き出す。
 歩ける、とごちる奏に有無を言わさず肩を貸し、五分程。探らなくても届く濃密な気配が太一の肌を刺した。
 立ち込める煙の先、見えたのは娼館。数十からなる魔物がそこを取り囲んでいる。それに遮られて見えないが、奥から聞こえる人の怒声が、戦闘中であることを表している。
 奏に肩を貸したままだが、見る限り問題がある相手ではなさそうだ。幸運だ。
 慌てて割って入る必要はない。別に呑気な訳ではない。それよりも効率のいい手段を取ることができるからだ。その方法なら、指先すら動かす必要がない。
 八〇の強化を施し、その状態で遠慮も手加減もせずに魔物を睨み付けた。
 まるで再生中の映像を一時停止したかのように、一匹残らず魔物たちは固まった。

「よしOK」
「圧巻だね……」

 こうなると分かってはいたが、いとも容易くやられると、苦笑いするしかない。奏がこの魔物たちを駆除しようと思ったら、もっと時間と手間がかかる。抵抗してる人たちを巻き込まないように、とか、娼館に流れ弾がいかないように、とか。
 太一と奏は、動けなくなった魔物たちの間を悠々と歩く。間近で太一に重圧を与えられた魔物はブルブルとかわいそうなほど震えている。同情の余地などありはしないが。
 魔物たちの向こう。急に止まった敵の集団に、とまどっている武器を持った人々。彼等がユーラフの防衛隊。その中には、見知った顔が三人。
 バラダー、ラケルタ、メヒリャだ。別れてから彼らはまだこの街に留まっていたらしい。

「……ボーズ、か?」
「おう、オッサン」

 ひょい、と空いている手を挙げる太一。横にいたラケルタがこちらから目をそらした。相変わらず表情の変わらないメヒリャ。

「……どうして……ここに?」
「どうしてって、ユーラフの援軍に」

 無表情なだけで驚いてはいるらしい。メヒリャの声色には驚愕が多分に含まれていた。

「そいつあありがてえが……アズパイアはどうしたんだ?」

 アズパイアは更に深刻だという情報は入っている。
 太一は奏を適当な石に座らせる。

「ああ。終わった」
「なん、だと?」
「全部片付けた。だからここに来れた」
「全部……?」

 信じられない、というメヒリャ。太一はあえて答えずに、魔物たちに向き直った。

「こいつらも俺が片付ける」
「片付けるっておめえ」

 バラダーが何か言い終える前に太一が消え、同時に血飛沫が舞う。およそ三分の一を一瞬で切り伏せた太一が、再び同じ場所に戻ってきた。
 どさどさ、と魔物が倒れる音は、太一が戻ってきてから発生した。
 一瞬。相手が動かないとは言え、瞬き一つ二つの時間で稼げる戦果ではない。

「は……?」

 驚くバラダーら冒険者たちを尻目に、太一は面倒そうだ。彼からすれば、早く動けるだけで、一匹一匹切り伏せる手間は変わらない。かといってエアリィの術は強すぎて使えない。いくら廃墟と化しているとはいえ、壊していいという免罪符にはならない。
 かかった時間は大したことないとはいえ、全ての魔物を切り捨てる手間を要した太一だった。





◇◇◇◇◇





 ユーラフに侵入した魔物は、太一が切り捨てた群れで最後だったと、メヒリャから聞いた。
 どうやらユーラフも救えたようだ。被害は少なくなく、犠牲者もかなり出たようだが。人をたくさん収容可能な娼館と冒険者ギルドにユーラフの住人は避難したらしい。戦いの最中、住人をギルドから娼館にうつす時、冒険者ギルドが囮になったという。冒険者では既に全滅しているとのことだ。
 何にしても、救えただけマシだろう。出来れば、ベッドに横たわる目の前の女性も救いたかったが。

「……坊や……来たのね……」

 ロゼッタが苦しげに呟く。
 娼館に入った太一を見た若い娼婦の娘が、挨拶もそこそこに太一の手を引いてここまで連れてきたのだ。
 ロゼッタの脇腹は真っ赤に染まっている。ここで働く娘を魔物から庇った際に負った傷とのことだ。

「ロゼッタさん」

 弱々しく笑う、目の前の女性。まさか、こんな形で再会することになろうとは。
 彼女の周囲に集まった女性たちがすすり泣いている。

「ふふ……その子が、カナデちゃんね……」

 太一の横に立つ奏に、ロゼッタは慈しむような目を向けた。

「可愛い……子じゃない……。ちゃんと、伝えられたの……?」
「ああ。伝えたよ」
「そう……」

 ロゼッタが手を伸ばす。が、その手は途中まで上がり、そこで力無く落ちた。その手を、太一が辛うじて受け止める。

「いい子いい子……してあげようと、思ったのに……」
「……っ。無理すんなよ。喋っちゃダメだ」

 太一の手を、ロゼッタが弱々しく握ってきた。なんと華奢な手。それでも、太一より数段強い女性。

「いい、坊や……カナデちゃんも……」
「ん」
「……はい」
「恋愛ってのはね……そんなに、キレイじゃないのよ……?」

 ロゼッタが何かを教えてくれるようだ。
 治ってからでいい、というのは、空気が読めていないだろうか。

「無様に……情けなく……、惨めな思いを、して……それでも、相手を……想うと幸せになれる……」

 痛みからだろう、秀麗な眉がひそめられる。

「それが……恋愛……。周りから見るとね……とても……カッコ悪いの……」

 正解か不正解かはどうでもいい。ロゼッタの教えなら、素直に受け止められる。

「でも、一人じゃないから……乗り越えられる……だから……恋愛はステキなのよ……」
「分かった。分かったから、もう喋るなよ!」

 人を虜にしてしまう笑みを、ロゼッタが浮かべた。

「いい……お互いが、お互いを……精一杯……思いやること……。これが、私が言える、最後の言葉よ……」
「最後なんて言うなよ。もっと相談に乗ってくれよ」
「仲良く……するのよ……?」

 ロゼッタが目を閉じる。
 おかしい。瞬きではない。
 何故だ。
 何故こんなことになる。
 周囲の女性たちの泣き声が一層大きくなる。ふと、奏が太一の服を掴んだ。その手は、震えている。

「くそっ!」

 ロゼッタの手を握る。
 こんな結末を受け入れられるはずがない。
 何のための力なんだ。その自答に応える者はいない。
 すすり泣きだけが響くなか、太一はロゼッタの顔を見詰めた。
 そして、違和感に気付く。
 何故彼女の胸は上下しているのか。

「ん……?」

 太一は彼女の口元に耳を寄せた。

くう……

すう……

「これは……」

 顔を上げる太一。
 目を丸くした女性陣と向き合う。

「寝てんぞ……この人……」

 太一の言葉を理解するのにかかったのは十数秒。ずっと泣いていた一人が、思い出したように言った。

「そういえば……私たちを守るために……この人、寝てなかった……」

 太一はへなへなとその場に崩れる。もちろん、彼だけではない。部屋にいた全員が。

「ひ、人騒がせな……」
「あ、あはは……」

 乾いた笑いが部屋に響く。
 だがそれは、とても幸せなものだった。極大の悲しみに包まれたぶん、より大きな。
 太一と奏は顔を見合わせる。そして、どちらともなく笑った。

 一〇〇〇を超える魔物に対し、一五〇人にも満たない冒険者で見事打ち勝った。
 その数は、容易く覆せるものではない。
 誰が立役者となったのか。当然とも言えるその疑問は、様々な者が動き出す切っ掛けとなる。
 アズパイア防衛戦は、水面下で新たな煙を発しながら、幕を下ろしたのだった。
ロゼッタさんは退場させようか迷いましたが、お気に入りなので出てもらうことにしました。

ラストシーンは某映画のオマージュです。
分かりやすいですね(笑)

これから三章のプロットの確認に入ります。
済み次第、執筆再開致します。

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