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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

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決着

エアリィと初戦闘。
 ゆっくりと起き上がるレッドオーガ。その目は何を映しているのか、濁っていて察する事は出来ない。

「何だ……?」

 思わずと言った様子で呟くレミーアに聞けば、魔力が際限無く漏れているとのことだ。まるで、穴の空いた鍋のように。
 魔力を持っているからこそ、魔物と呼べるのだ。故に魔物から魔力が漏れだすなど有り得ない。レミーアはそう続けた。

「要は異常ってことか。勝手に弱くなってんなら、ラッキーって事にしときゃいいんじゃね?」
「それはそうだが。常識として有り得ないから、驚いているんだ」

 さもありなん。

「じゃあ、ある程度無くなったら一気に決めるか」

 太一は様子を見ることにしたようだ。自分で弱くなってくれるのなら、そのまま放っておけばいい。それが太一が下した結論。
 その決定に意を唱える者はいない。もちろん理にかなっているというのもある。もう一つの理由として、戦うのは太一だからだ。本人が考えたようにやるのが一番いい。
 油断無くレッドオーガを見詰める太一。節約のためか、魔力強化はしていないが。起き上がったレッドオーガは、じっと動かない。まるで、彫像のようだ。レミーアが、今も魔力が漏れていると言った。
 どの程度、時間が経っただろうか。かなりの集中力を発揮していた太一が、ふっと息を吐く。
 前触れは一切なかった。レッドオーガが口から火球を吐き出す。人の背丈ほどもあるそれはかなりの速度で、人の視力の限界を超えて飛んで行った。
 激しい光源と、数秒遅れて届く爆音。そして、突風。

「なんだあ!?」
「バカヤロー! あのバケモンの仕業だろ!」

 それは誰かの目に入らないというのが有り得ない規模。やがて遠くの空を支配する黒煙が、爆発の大きさを雄弁に語る。

「……奏」
「私以上。聞くまでもないでしょ」
「やっぱりか」

 太一が訊ねたのは、「水蒸気爆発とどっちが上か」だ。皆まで聞かずともその意図を理解した奏が、先を打って否定した。

「レミーアさん……」
「うむ。今ので魔力が大分減った」

 突風に倒れないよう、レミーアに支えられていたミューラは、師の顔を仰ぎ見る。

「オーガは、炎など使う魔物ではない。恐らくは、真紅の契約が原因だろう」
「タイチと互角にやりあえるようなヤツの技なら、あの威力も納得、というわけだな」

 何故、ここまで冷静でいられるのか。
 アズパイアのトップ集団であるレミーアたちが慌てては、それが他の冒険者に容易く飛び火するからだ。一度飛び散ってしまった火種は、もはや収拾は不可能。ここで狼狽した姿は見せられない、という責任感から。
 正直言えば、かなりまずい。あれが暴走してこちらに走ってきたら、太一で止められるだろうか。リミッターが外れている状態では、どこまで強くなっているのか全く分からない。
 あの真紅の契約は、これが本当の目的なのだろう。強さを引き上げるのは当然として、もう一つの付加価値。現に、強化されたレッドオーガが放った火球の破壊力は目を見張るものがあった。アズパイアなど軽く焦土になってしまう。
 レッドオーガの様相が大分変化してきた。巨大なシルエットが揺らいでいる。高温を放つ身体が、周囲の水分を蒸発させているのだ。

「タイチ。そろそろ……」

 一〇〇の強化を施した太一でなければ、近寄る事すら難しいと思われる。その旨を伝え、止めを刺してもらおうと考えたレミーアは、動きを止めざるを得なかった。

「……気づいたか」

 ゆらゆらとぎこちなく揺れる頭が、ぐりんとこちらを向いた。ホラー映画のゾンビのような覚束なさ。しかし、はっきりとこちらを見据えている。

「タイチ。頼む」
「分かってる。でもまずは、あれをどうにかしてからだな」

 太一は前を向いたままそう告げた。なんの事だ……と思い、視線をレッドオーガに向け、危うく声を出すところだった。
 あれほどの大きさの火球は見たことがない。
 ほんの一瞬。時間にして五秒も目を外していない。そんな短時間で、あれほどの大きさ。
 終わった。
 レミーアはそう、他人事のように思った。ミューラとジェラードが背後で脱力したのを気配で感じる。いくら太一が凄かろうと、あれを止めるすべがあるとは思えない。
 これで助かったなら奇蹟だろう。これから太一が、正にその奇蹟を起こすとは露ほども思わずに。
 火球は既に放たれ、こちらに飛来してきている。レッドオーガも漏れなく巻き込まれ、吹き飛ぶだろう。当人はそんなこと、意に介していないだろうが。
 寄ってくる絶望に気を取られ、全員が一切気付いていない。
 太一が「どうにかしてから」と言ったことに。
 どうにか出来ると疑っていない、断言だったことに。

「エアリィ」

 太一が何かを呼んだ。

「はいはーい」

 呼び掛けに応える、この絶望の渦には相応しくない可愛らしい声。

「薙ぎ払え」
「がってん!」

 どばん! と。
 絶望に向かって見えない何かが殺到し、あっさりと、消し飛ばした。
 これには誰もが声を失った。
 直径にして五メートルはあった火の玉が、無かったことにされたのだ。

「おお、言うだけあるなあエアリィ」
「とーぜん! アタシを誰だと思ってるの?」

 太一が何かしたのは分かる。だが、何をしたのかが分かった者は皆無。太一の「とっておき」をあらかじめ知っていた奏を除いて。
 当事者に視線が集まる。太一の周囲を、薄い緑色の光を放つ球体が漂っていた。

「え……?」
「は……?」
「何……それ……」

 今のが恐らく太一の奥の手。だが、驚くのも当然。そんなことが出来るなんて全く思っていなかったのだから。

「それとはひどいなー。アタシにだって意思はあるのよ?」

 本気で咎めていないのは、ころころと笑う声から分かる。

「嬉しそうだなエアリィ」
「それはそうよ。たいちのおかげて、こうしてアタシの声が届くんだから」

 太一のおかげ。
 声が届く。
 それはどういうことだ、と問う前に、球体がまとう光を取り払った。
 現れたのは、見た目一二~三歳ほど、奏やミューラより少し幼い少女だった。その大きさは掌大と、大分不思議さを醸していたが。

「アタシの名前はエアリアルよ。エアリィって呼んでね」
「エアリアル……だって?」

 レッドオーガの炎をかき消した時以上に驚くレミーア。もちろん、彼女だけが驚いた訳ではない。
 四大精霊シルフの使いとも、代弁者とも言われる、風の上級精霊。この世界において、四大精霊に次ぐ格の高さを持つ精霊だ。
 伝承の中にしか出てこない精霊が今目の前にいる。すぐに現実と受け入れるには、些か酷というものだ。
 そして、予想外なのはもう一つ。

「精霊って、結構ラフなのね……」

 もっと、荘厳な存在だと思っていた。しかし蓋を開けてみれば、天真爛漫な笑顔といい、あだ名で呼んでと願い出ることといい。ミューラがこぼした一言が、端的によく表していた。

「アタシが、というより精霊が召喚術師以外の人とこうして話すのは初めてだもの。教えておくと、精霊によって性格は違うのよ?」

 エアリアル改めエアリィはにこりと笑う。ミューラは思わず見とれ、赤面した。なんだこの可愛いのは。素直な感想である。

「まあ、アタシがどうとか、この状況は何とか、細かいことはさておいて」

 細かくはない。さておくな。
 誰かの心の声をすっぱりスルーし、太一に向き直った。

「まずは、あれをやっつけてからね」

 未だレッドオーガは存在している。
 いつまた、炎攻撃をしてくるかは分からないのだ。

「たいち。アタシの力、どう使うか試してみたら?」
「そうだな。さっきのはエアリィに丸投げだったもんな」

 エアリィを喚び出し、魔力を大雑把に渡しただけ。どう火球を消すかはエアリィに任せたのだ。召喚術師は精霊に思うように術を使わせて、初めて召喚術師と呼べる。
 どうやるかは、エアリィから聞いている。かつて存在した召喚術師と契約していた精霊から、どんなやり取りをしたかを聞いたからだと、エアリィは言った。
 ならば、まずはそれに倣ってみることにしよう。それが太一とエアリィにとって正しいかは分からない。
 それでも、かつて正解だった方法を取るのは、きっと悪いことではない。

「魔力で、何するかをイメージ……じゃ、はい」

 太一は練った魔力をエアリィに渡すイメージを持つ。それを受け取ったエアリィは、右腕を下から上に振り上げた。
 耳をつんざく破壊音が届き。そして、大地に長い長い亀裂が生まれる。その射線にいたレッドオーガの左肩から先が、剪定バサミで切り落とした小枝のように吹き飛んだ。

「……おおう」

 考えた本人が驚いている。

「密度を上げて細くして風の刃、かあ。面白い使い方するね」

 そうまともに誉められると恥ずかしくなってくる。有名なゲームの風魔法をイメージしただけだったために。
 そもそも、イメージだけで魔術は撃てるのだろうか。今まで一切縁のない生活をしていたために、いまいち掴めていない。

「ってか」

 太一はエアリィを見る。

「俺大した魔力渡してないぞ。随分威力高かったな」

 どんなもんだろう、と思っていた太一。エアリィに渡したのは、自身が三〇の強化をするときと同程度。それで大地を割るほどの威力が出るとは。

「それはね。たいちの魔力が強かったんだよ」
「強かった?」
「うん」

 エアリィが頷く。

「過去三〇〇〇年位遡っても、たいちが一番強いんじゃないかなあ?」
「さんぜ……」

 地球では紀元前と呼ばれる数字だ。たった三〇年だって、想像などつかないと言うのに。
 それより前は分からない、とエアリィは舌をペロッとした。

「それよりたいち」
「ん?」
「戦いの最中に余所見はダメだよ?」

 言われて見る先はレッドオーガ。口から炎を吐き出したところだった。
 今度はあれを防ぐ術を。咄嗟に出来ることなどたかが知れている。奏のような真似は出来ない。奇をてらわず、正攻法で対抗する。
 空気を集めて叩き付ける。行ったのはそれだけだ。それだけだったが、それで十分でもあった。歴史上でも類を見ない太一の魔力強度と、エアリィという精霊。二人の力が合わさった攻撃の前には、レッドオーガの炎など些細なものでしかない。

「一気に決めちゃうか」
「うん」

 再び攻撃を無効化され、レッドオーガは何を思っただろうか。
 炎を放つたびに弱まるのは分かっている。だが、わざわざそこまで待ってやる理由はない。
 先程の風の刃をなぞる。ただし、一発ではない。
 当たらないとも限らないのだから、念には念を。全部当たるならオーバーキル。しかし、無駄な時間をかける気はない。
 驚くほどあっさりと。
 レッドオーガは細切れになり。
 戦いは、終わりを告げた。
召喚術師太一VSレッドオーガはあまりにもあっさり。
意図的です。
何故なら、力の差がありすぎるから。


最終話は次にします。
付け足したいエピソードが出来ました。
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