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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

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一〇〇

太一が全力を出しました。
戦闘描写って、難しいですね……。
 レミーアに肩を貸してもらい後退した奏は、ミューラが背もたれにしている岩に寄りかかっていた。枯渇寸前まで魔力を使ってしまったため、まともに動くことも出来ない。
 あれだけの魔術を二連発で放ったのだから、レミーアからすれば当然の状態と言えた。
 底が知れない。
 ミューラが奏をそう評していたのを思い出す。確かに単純な戦闘力では太一だ。だが、彼女の凄さはそこではない。
 最後に放ったファイアストームも。
 開戦の狼煙がわりになった水蒸気爆発も。
 レミーアにとって、レールガンの前では霞む。
 弾丸を目で追おうという行動すらおこがましい、神速の大砲。奏は「電磁加速砲」と言っていた。発射前、腕に宿っていた電流を見る限り、電気を使うものなのだろう。
 原理の想像すらつかない。何をどうやれば、あんなモノを撃てるのか。あの速度。撃った瞬間、橙色の線が空中に現れた。恐らくあれが、奏が放った砲弾の軌跡。
 あれを避けられる者がこの世界にいるのか甚だ疑問だ。
 レミーアの疑問は、太一の一言によって解決することになる。
 これから見せ付けられる人外のスペックをもってして、「防御一択」と言わしめた事によって。

「レミーア。タイチに知らせんでよいのか?」

 ジェラードの言葉に、レミーアは思考を中断する。やや間を置いて、首を左右に振った。

「教えぬ方がいいだろう。集中を乱すのが良いとは思えん。相手が相手だからな」
「確かにそうだな」
「私が、魔力を使いすぎたから……」

 ぐっと唇を噛む奏。本当に悔しげだ。

「馬鹿を言うなカナデ。間違ってもお前のせいじゃないさ」
「ユーラフにはバラダーたちがいるそうだ。奴等に期待するしかない」
「そういうことだ。私たちとて、他人を心配している余裕はないぞ」
「…………。そうです、ね……」
「辛いかもしれんが、私たちはタイチの心を乱してはならない。分かるな?」

 レミーアの言うことはよく分かる。分かるが、感情がついていかない。
 ついさっきやってきた早馬。アズパイア侵攻の余波が、隣街のユーラフに飛び火したということだ。バラダーたちを筆頭に、冒険者や自警団でなんとか食い止めているという。
 飛び火というだけあって、アズパイア程の魔物は来ていないというが、崖の縁を歩くような攻防を強いられているとのことだ。

「太一……」

 息を整えながら、奏は同郷の少年の背中を見詰めた。釣られるように、視線が太一に集まる。今は、こっちだ。目前の脅威を除かねば、滅ぶのはアズパイア。太一に命運を託すしかない。
 奏のファイアストームを防ぎきったレッドオーガに、太一が今まさに挑もうとしているところだ。

「おー、改めて見るとでかいな」

 レッドオーガに近寄って見上げる。距離はおよそ一〇メートル。五〇メートル近く詰めたことになる。
 オーガ相手でさえ、あんな無防備に近付くのは危険だ。それを、更に凶悪なレッドオーガ相手に出来るのだから、太一が余裕を持っている事が分かる。

「よし。とりあえず、殴ってみるか」

 そう、世間話をするように呟いて。
 太一が飛び上がった事を視認出来たのは、レッドオーガを含め、太一を見ていた者のうち一割にも満たなかった。
 アッパーカットを顎に。そのまま打ち抜いて更に膝の追い打ち。勢いを殺さずにレッドオーガの頭に着地して、降りながら後頭部に回し蹴り。
 太一がレッドオーガに放った攻撃の一部始終。
 文章にすると冗長だと、目撃者は口を揃えるだろう。実際は破裂するような音が三連続で響いただけだからだ。
 高さ七メートルはある巨体が前に一歩よろめいた。
 驚きを隠せないのはそれを見ていた冒険者側だ。徒手空拳でレッドオーガに挑み、攻撃の勢いであの巨体を移動させた。
 奏が見せた術式の方が見栄えは確かにある。それでも、どちらが実際凄いかと聞かれれば、太一の攻撃だ。
 タイヤみたいだ。レッドオーガを殴打した素直な感想。
 手首をぷらぷらとさせながら、太一は紅い化物を見上げる。堅さに弾力があり、攻撃を全て吸収された感じだ。
 後頭部を一頻り擦ったレッドオーガが、太一に向き直る。そして、右足を振り上げた。

「っ」

 プロレス技で言うところのストンピング。跳びながら退避。地面に蜘蛛の巣状のヒビが走った。あんなのをいちいち受け止める気にはならない。
 太一は、自分の対応が、レッドオーガの思う壺だと気付く。
 太一がいる場所は空中。
 太一の背の丈ほどもある拳を握るレッドオーガ。
 当然だが、逃げ場はない。

「上等!」

 太一も拳を軽く握る。全身をリラックス。レッドオーガの打撃に太一も合わせる。狙うのは相殺。避ける暇は無いが、単なる防御では面白くない。
 いい力測定にもなるだろう。
 巨大な紅い岩とも呼べるレッドオーガの拳。
 向かってくる塊に、脱力状態で拳を突き出した。
 太一のセンスのよさはここに集約されていると、奏は思っている。スポーツをまともにやったこともなく、体力的にも日本では平均レベルだった太一が、運動神経がいいと言われる所以。
 一連の動作のどのタイミングで力を入れるのがいいかを掴む感覚が抜群に優れている。
 ボール投げでいえば投げる瞬間の指先、テニスでいえばボールがラケットに当たる瞬間。太一はそこで力を入れる。前後の動作が不格好でも、およそ素人と思えないパフォーマンスが出来るのはそれが理由だ。
 太一に格闘技の心得はないし、奏もまたしかり。力を入れないで突いた方がいいと、感覚的に思ったのだろう。太一の腕は鋭い軌道を描いた。
 思わずレミーアとミューラが耳を押さえる。エルフ族は耳がいい。太一とレッドオーガの激突は、二人にとって大音量では済まない轟音だった。
 拳を打ち合ってから数瞬。太一はやおら飛び退くと、右手を掴んでうめき出した。

「いってー!」

 まさか、太一にダメージが通るとは思っていなかった。つまり、打ち負けたということ。
 痛がり方を見る限りそこまで深刻そうではないが、それでも驚きだ。八〇の力を出している太一を、パワーで上回っている。

「コンクリかよ……」

 素手でコンクリートを殴った感覚に近かった。ここまで強く殴った事はないが。
 太一の手が真っ赤になっている。かなり痛そうだが、あれは太一だからこそあの程度で済んだ、ともいえる。
 にやりと笑うレッドオーガ。太一はその顔を見上げ、同じように笑った。その笑みの理由は余裕の表れか、それとも強者に会えたことへの喜びか。前者の割合が多いように見える。それでも後者を否定しきれないのは、太一がここまで力を出す機会が無かったからだ。自分の力を相当もて余していたことだろう。

「一〇〇」

 そう呟きが聞こえ、奏がまばたき一つした瞬間。
 レッドオーガの顔面があった辺りで左手を斜め上に振り抜いている太一と、殴り飛ばされて宙に浮いているレッドオーガの姿を目撃することになった。
 大地が震動する。レッドオーガの巨体が地面に叩きつけられ、土埃を巻き上げた。

「ええー……」

 どう驚いたらいいのか分からない様子で、そう搾り出す奏。
 その横では、ミューラがこれでもかとばかりに目を見開いている。
 レミーアも全く同感だ。凄まじすぎて、どう凄いのかを説明するのに苦労する光景だ。
 まさかあんな巨大な魔物を、文字通り殴り飛ばすとは。かつて八〇の力で地面にクレーターを開けたことのある太一だから、まあ突拍子な訳でもない。
 問題は、地面は無機物であり、今回は魔物が相手ということだ。
 魔物とて魔力によって自身を強化しているし、そう容易く吹き飛ばされてはくれないものだ。重量が同じの人形と冒険者。同じ力で殴ってみてどちらが倒しやすいか。踏ん張る冒険者の方が圧倒的に倒しにくいだろう。

「大して効いてないだろ。遊んでないで立てって」

 太一の言葉を理解したのだろうか。やがて薄くなっていく土埃に巨大な影が映し出される。
 殴った感じでは、八〇のときと違いダメージが通っている印象があった。だがそれでも、効果抜群とはいかない。速度にある程度割いたため、威力の方が低くなってしまった。
 一〇〇の力を使うのは初めてで、本音を言えば使い切れていない。どのくらいの分量で割り振るとどんな効果なのか、手探りでウェルバランスを見付けるしかない。
 実戦でそれを探すなんて面倒な思いをするのなら、修行の時から慣れておけば良かったとごちる太一。恐ろしいことに、一〇〇の力でどのくらいの時間戦えるかも分かっていない。
 まずは騙し騙し。
 力もそう離れていない。
 自動反撃機能付きという絶好の訓練相手。こんなチャンスはまたとないだろう。ギリギリまで色々試せると、太一は頭を巡らせるのだった。





◇◇◇◇◇





「あれが、一〇〇の力か……」

 レミーアが見たのは太一の力の片鱗に過ぎないことが証明された。八〇の時で目にも映らぬ速さだった。最大限目を凝らさなければ追うことすら許さないそのスピード。あの巨体をよろめかせる程のパワー。
 正直に言えば、あの実力を持った者が仲間としているだけで奇跡である。
 そして今、太一がギアを一段上げた。レミーアの知識をもってしても、太一の強さをどう例えればいいかすぐには出てこない。
 ただ、国が滅ぶのは間違いない。騎士団をぶつけても、宮廷魔術師で守っても、太一は意にすら介さないだろう。読んで字の如く蹴散らして、やがて城を破壊すると思われる。

「全く、悪い夢のようだ」
「同感だ」

 この事実に目を背けてはいけない。太一に一〇〇の力で殴られ、普通に立ち上がるような魔物が敵なのだと。レミーアと奏が万全で、全魔力を一撃に注ぎ込んでも、勝てそうにないと。

「太一、訓練がわりにしてますね」

 多少なり魔力が回復し、やっと息切れが治まった奏がそう言った。

「訓練だと?」

 奏の言葉がすんなりと入ってこず、ジェラードは思わず聞き返した。

「はい。一〇〇の力を出すのは初めてだから、色々試してるんじゃないでしょうか」

 そんなことを悠長に出来る相手とは思えない。だが、奏は言い切った。彼女が見ているのは太一の動きではなく、表情。試行錯誤をして悩んでいる顔だった。

「余裕だな、あんな強敵を相手に」

 素直に同意出来ないジェラードと、奏が言うならそうなのかもな、という顔をするレミーアの対比が面白い。
 安心させる材料になるだろう。奏は教える事にした。

「太一にはとっておきがあるんです。勝てる算段は、あります」

 疑いもせずに断言した奏。レミーアとジェラードは、遠くでトンデモ戦闘を繰り広げる太一に目を向けた。





◇◇◇◇◇





 どんな感じで試せばいいのか。深く考えた結果、基本は自然体が最もいいのではないか、という結論に至った。何も考えずに強化すると、必要な箇所を満遍なく強くする事が出来る。
 具体的には、パワー、スピード、防御。それと視力、思考能力。
 この五つが、戦闘時に強化を施す基本部分だ。
 視力と思考能力を上げるのは何故か。CPUとメモリーである脳と、情報をインプットするデバイスである視力が、高速で移動する自分を処理しきれなかったのだ。それに気付いたのは、紅いフェンウルフを倒すのに六〇の力を出したとき。
 奏とミューラにこのことを話したら、「むしろ何で強化してないの?」という白けた目で見られてしまった。
 二〇や三〇では必要なかった。二〇程度であれば、体感で原付スクーター位の速さだったからだ。一五歳の太一が何故それを知っているかは考えない方向で。決して真似をしてはいけない。
 そんなことがあり、一〇〇の強化をしている今は、必須だ。圧倒的なパワーとスピードは、頭できちんと処理をしなければ振り回されるだけだ。
 太一の強みは、並外れたそれらのスペックを、きちんと理性的に操れること。更に、相手に合わせて強化の場所を任意で変えられることだ。
 手札はこれだけ。奏は「八と二とジョーカーしかないね」と大富豪に例えていたが、言い得て妙だと太一も思う。仮に相手の手札が分かったとして、そんなカードしか持っていない相手とでは勝負にすらならない。
 それが自分だと言うのだから、喜んでいいやら複雑な気分だ。
 いや、今は喜ぶべきだろう。
 この力のおかげで、この怪物を止める事が出来ている。倒す目算が、立てられる。

「コンボやってみるか」

 魔力強化の集大成。太一はレッドオーガから距離を取り、脱力して一度息を吐く。
 心を落ち着け、レッドオーガを一瞥。
 距離は一〇〇メートル。軽めの一足跳びでこれだけ跳躍できるのだから、自分のスペックが信じられない気分だ。
 正確に時間を計ったら一秒経過していない。太一はレッドオーガの顎を膝で打ち抜いた。背後を見ていないので気付かないが、太一が蹴った地面が抉れている。踏み込みの力が強すぎたのだ。因みに、太一を見ていた者から見ると、地面が弾け、太一の姿が消えたように見えただろう。頸椎が外れそうなほど跳ね上げられたレッドオーガの顔面に向かい掌底の寸止め。風圧で両目を閉じたのを確認し、鼻っ柱をフルパワーで殴り付けた。
 ゴキボキ、とあまり心地よくはない手応え。レッドオーガが頭から後ろに倒れていく。レッドオーガの胸に両足をつけて、思いきり跳躍。その勢いが加算され、大地に叩き付けられてワンバウンドした。
 これは流石にいいダメージが入っただろう。
 初撃はスピードにモノを言わせ、次の風も高速の手の動きで生まれた風圧。殴打は、強化を膂力に割り振った。跳躍に関しては普段と変わらないが、それでも殴った勢いに加算出来たのは良かった。
 たん、と軽快に着地した場所は、奏やレミーア、ジェラードに近い位置だった。

「ふう」

 息をつく。

「太一」
「奏? おお、こんなとこまで跳んでたのか」

 振り返れば、見知った仲間たち。皆の驚いた顔に、逆に驚く。しかし、すぐに納得がいった。己のしたことを思い出せば、簡単だった。

「あー……。まあ、人間やれば出来る?」
「それで片付くわけがない」

 レミーアにピシャリと言われて肩を竦める太一。

「太一。傷は平気なの?」

 ちょいちょい、と頭を指す奏。触れてみて、手についた血を見て、出血していることに気付いた。

「あら。気付かなかった。まあ問題ない」

 思い当たる節は結構ある。レッドオーガと戦い始めた当初、少なくない被弾をした。流石に頭でっかちなレッドオーガだけあって、一撃一撃の威力は高く、何度かいなしきれなかった。多少だが身体のあちこちが確かに痛むし、流血もしている。
 ジェラードが心配していた理由がこれだ。最初は互角に見えたのだ。
 今は、レッドオーガの攻撃を受ける気がしない。太一と比べてあまりにも巨大すぎるのだ。当てるだけで苦労していることだろう。
 太一にとっては知ったことではない。戦いやすくて何よりだ。

「全く……お前をはめる型が見つからん」

 そうごちるジェラードの肩をまあまあ、と叩いてやる。フレンドリー作戦で宥めようと思ったが、本人がやったのでため息をつかれてしまった。

「それがタイチの全力?」
「そうだなあ。全力っちゃあ全力かな」

 ミューラが近付いてくる。杖をついて。無理するなと言いたいが、こんな目に遭わせたのは覚悟がなかった自分だと気付いた。
 医療の心得がある冒険者が、「後遺症とか傷痕は残らないだろう」と言っていたのが不幸中の幸いだろう。

「悪かった、ミューラ」
「え?」

 きょとんと目を丸くするミューラ。他にも色々言葉が浮かんできたが、あえて言わない事にした。怪我をさせた、とか、女の子なのに、とか、そういう言葉だ。
 しかしミューラは自分から進んで冒険者をやっている。そういうのは覚悟の上なのだろう。まして死ぬ覚悟さえ決めているような少女に、そんな言葉は失礼だと感じたのだ。
 それでも。もう少しでミューラを喪う事になっていたと思うと、謝らずにはいられなかった。
 謝ったことで少しスッキリした太一と、何故謝られたか分からないミューラ。
 二人を含めて、奏、レミーア、ジェラードが一斉に同じ方向を向く。
 レッドオーガが、巨大な魔力を放っていた。


決着は次で。



荒らしらしき人が現れました。
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次は二章最終話。
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