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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

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奏先生の現代知識有効利用講座~第二弾~

奏さんが大活躍したので、分けました。
「ミューラ、だ……えっと、具合はどうだ?」

 大丈夫か?
 出かかったその言葉を呑み込んで、太一はミューラにそう声を掛けた。
 大丈夫なはずはない。よく気を失わずにいられるものだ。なるべく負担がかからないように、優しく抱え上げたのだが、それだけで小さく呻いた程だ。

「え、ええ……何とか」

 と言いながら、ミューラは気絶しそうになったのを隠した。
 ゆっくり抱き上げられたのに、その衝撃が痛みとなって全身を駆け巡った。そこで意識が飛び掛けた矢先、ミューラは気付いてしまった。自分が物凄い抱えられ方をしていることに。
 アドレナリンがたっぷり出て、一時的な麻酔のようになったのが原因だが、ミューラはそこには気付かなかった。
 大怪我で良かったと思う。周りに悟られたら、色々な意味で死んでしまう。
 衝撃的出来事にぼーっとしている間に応急処置が始まり、大分容態も安定し始めていた。

「無茶をしたな、大バカ娘。タイチとカナデがこなかったらどうするつもりだったんだ」
「……ごめんなさい」

 か細い声で答えるミューラを見据えるレミーアのこめかみには青筋が浮かんでいる。一発どつきたい位の心境なのだろう。

「ごめんで済んだら騎士団はいらんぞ」
「……」
「全く……私より先に死ぬなと何度も言ったろう。不孝者め」

 ミューラは答えない。変わりに、目尻にじわりと涙が滲む。そのリアクションが予想外だったのだろう、ハッとしたレミーアはバツが悪そうに頬をかき、目を逸らした。
 そんな二人を微笑ましげに一瞥したジェラードが、視線を太一と奏に移した。その目は一転して鋭くなっている。太一は飄々と、奏は何食わぬ顔で。つまり、どちらも表情を一切変えずにその視線を受け止める。
 目立ちたくない上に死ぬのが怖い。だから、この場に立つのを拒んだのではなかったか。

「……どういう心境の変化だ?」
「ああ。尻を叩かれたんだよ」
「誰にだ?」
「アレンに」

 冒険者たちに、アズパイアを救ってくれ、と頭を下げた少年の姿がジェラードの脳裏に浮かぶ。

「ほう?」

 興味深そうに先を促すジェラード。

「それだけ強いんだからたくさん守れるだろ、と。グサッと来ました」
「なるほどな」

 やり取りがそれだけとは思わないが、要約するとそういうことなのだと、ジェラードには分かった。

「連続で済まんが、もう一つ聞きたい」
「何ですか?」

 ジェラードがちらりと視線をオーガたちに向けた。これだけ隙だらけな自分達を前にして、微動だにしない侵略者たちを。
 「ああ」と頷いて太一を見る奏。

「俺が止めてる」

 事も無げに、太一はそう言った。
 止める?
 オーガを?
 にわかには信じがたい太一の言葉。ミューラとレミーアが太一を見た。話が聞こえたのだ。

「止める、だと? どうやって」
「オッサン」
「なんだ」
「地に足は着いてるよな?」
「無論だ」
「踏ん張れよ、しっかりと」
「何……?」

 ずっと明後日の方角を見ていた太一が、すっとジェラードに視線を移す。

「く……!?」

 ジェラードがふらりと、二歩下がった。こちらを見ていた二人が目を丸くする。今まで生きてきて、プレッシャーだけで後退りさせられたのは初めてだった。
 ふっと、自身に向けられていた圧力が全て霧散する。ジェラードは呼吸が止まっていたことに気付き、ふう、と大きく息を吐いた。

「な、何だ……今のは……」
「何って、魔力強化」
「八割の魔力強化を、オーガたちだけに向けてるそうですよ」
「八割……」

 強い強いと思ってはいた。だが、実際にこうして体験して、太一の凄まじさがよく分かった。これだけの圧力を放ちながら、まだ全力でないのか。
 実際、レッドオーガを除くオーガたちはガチカチに固まっている。恐怖すら覚えているはすだ。逃げ出したい心境だろう。
 レッドオーガも動かないが、過ごし方意味合いが変わる。これまでとは段違いの敵が現れ、警戒を強くしているのだ。
 ここにいる者達全員に言えることだが、オーガらが逃げることは絶対にありえないという事を、誰も知らない。あの三人組から魔操術を受けているため、逃げるという選択肢が存在しないのだ。
 太一と奏にとっては、知っていようと知っていまいと関係無い。そこにいて逃げないのなら倒すだけだ。
 ミューラの手当てが終わったのを見届けて、二人はオーガたちの方に向き直った。

「さて。やっつけるか」
「うん」
「お前たち」

 向けられた背中に向かって、ジェラードが声をかける。

「いいのか、任せて。バレずには済まないぞ?」
「構いませんよ。私たちも自重する気ありません」

 奏が言う。

「そーいうこと。まあ後の事は、あいつら倒してから考える」

 太一も続く。

「……そうか」

 であれば、もう何も言うことはない。太一と奏に任せた方が良いのは、あの攻撃を受け止めた事、雷魔術でオーガを一撃で仕留めた事が物語っているからだ。

「さて。とりあえず弱い方から駆除するか」

 邪魔なものを払いのけるように、太一が言った。

「うん。じゃあ、そっちは私がやる」

 腰からナイフを抜き、奏は小さいオーガを見詰めた。

「二匹いるけど平気か?」
「うん。とりあえず一体には即退場願おうかなって思って」
「そっか」

 さらりととんでもないことを言い出した奏。彼女の言葉が聞こえた者は、全員がその華奢な後ろ姿に目を向ける。

「何するんだ?」
「えっとね。電磁加速砲」
「……はい?」
「こう言った方が分かりやすいかな? レールガンだよ」
「……みさk」
「はいアウト」
「ビリビr」
「同じだから」

 よくわからない事を口走った太一を強制的に遮り、手を突き出してナイフををオーガの一匹に向けた。無作為に選ばれたオーガは、幸せだったかもしれない。

「えーっと。確か」

 奏の右腕に電気が走る。火水土風の属性をどう混ぜて使ったら電気になるのかが太一は気になった。
 だが、あえて聞かない。聞けば丁寧に説明してくれるだろうが、それを理解できる自信が太一にはない。
 やがて腕の電気の密度が増し、奏の右手が青白く輝き始める。

「これはお釣りよ。多くても返さなくていいから」

 弾ける音は、空気が急激に熱せられた故。空中にオレンジの線が真っ直ぐ引かれた。距離にしておよそ一〇〇メートル。目視測定だから正確ではないだろうが、大体そんなものだと結論付けた。
 高熱に当てられて、線に沿って地面が焼けている。
 射線上にいたオーガの真ん中に、直径一メートルの大穴が空いていた。あれで生きていられる訳がない。死んだことすら自覚しないまま、オーガは地面に倒れ伏した。

「ひゅう。すっげえ」

 現代科学の真髄のひとつとも言っていいと、太一は思う。他にもたくさん理論があるとは思うが、一介の女子高生がレールガンの原理を知っているだけで凄まじい。
 何でこんなことまで知っているのか。そう問われれば、太一は「奏だから」と答えるだろう。それで納得しておいた方がいいこともある。

「さてと。これで一対一ね」

 残った最後のオーガに視線を向けたまま奏が問う。

「ねえ太一」
「ん?」
「火災旋風って知ってる?」
「知らん……でも、ろくでもなさそうだな、それ」
「うん。まあ簡単に言うと、炎の竜巻」
「……」
「高熱で火災を起こして酸素を急激に失わせて、周囲から取り込もうとして起きる風が強いと起きるの」

 風魔術で酸素の供給を後押しする、と奏は宣う。
 奏がやらんとすることを理解した太一は、呆れた目を向ける。
 自重しないとは確かに言ったが、随分と弾けたものだ。

「お前……えぐいぞ」

 太一に突っ込まれた奏は膨れていた。

「だって。ミューラあんなにボロボロにされたんだよ? 悔しいじゃない」
「そういうこと。じゃあ仕方ないね」

 掌に火球を生み出す奏。心なしか、燃え方が強い。

「一応風の壁作っておかないと。こちらまで酸欠になるかもしれないし」
「……ホント、えぐいわ」

 太一はこの時心に決めた。絶対に、奏を本気で怒らせないようにしよう、と。
 奏の前面一メートル程の場所に生まれる風の壁。これで防御は万端と言うことか。

「……ふう。かなり魔力使ったかも。これ撃ったら、大したこと出来なくなっちゃう」
「ご利用が無計画だからだな」
「うん……結構頭に来てたみたい、私」

 苦笑いする奏。

「じゃあ、行くよ?」
「おう」
「名付けるなら、ファイアストーム」

 太一の返事を聞いて、奏は火の玉を放り投げた。太一の魔力で相変わらず動けないオーガは、迫る火の玉を眺めるだけだ。大きさ的には、ミューラのファイアボールと変わらない。
 もちろん、性質は全くの別物だが。恐らくこれは、高温での燃焼を目的とした魔術。ナパーム弾にも似た効果があるだろう。
 ボン、と炎が上がる。灼熱のゆらめきが、あっという間にオーガとレッドオーガを包んだ。そこに風を送り込み始める。数十秒という短い時間で、巻き上がる炎の渦が生まれた。
 うわあー、と太一が呆れている。視覚的にも派手だが、それに恥じない威力を誇る攻撃魔術。
 およそ数分続いた炎の渦が収まってゆく。高温でゆらめく空気の中、灼熱地獄に曝された二体のオーガが視認できるようになる。
 オーガ一体は、完全に丸焦げになっていた。

「あー。ウェルダンだ」
「倒せた、かな……?」

 奏の息が切れている。電磁加速砲にファイアストームと、強力な魔術を二連発で放った。更に数時間前には、水蒸気爆発も起こしている。これだけ派手に魔術を使えば、自然回復では追い付かないのも道理だ。

「……あいつ、タフすぎだろ。普通に立ってるぞ」

 確かにオーガに対してはオーバーキルだったのだろう。しかし一方、レッドオーガは多少焦げがある程度で、効果のあるダメージが与えられたとはいまいち言いがたい。
 あの業火を耐えきったということ。

「効いてない、かあ……酸素が無くても……オーガって死なないのね……」
「そこ? あの高温が通じなかったのに、気にするのそこなの?」

 奏は杖にもたれ掛かる。

「レッドオーガも倒せたら、と思ったんだけど……ダメだった」
「奏……」
「私、もう……電池切れ……」

 それは一目見れば分かる。もう余力は残っていないだろう。

「疲れたから……タッチ交代……」

 ぽん、と太一の肩に触れて、奏はその場にへたり込んだ。

「お疲れ奏。後は俺がやる」

 奏の実力を考えれば、電磁加速砲を使ってからのファイアストームは、はっきり言って非効率極まりない。最初からファイアストームを使っていれば良かったのだ。
 一体ずつ倒したい、という衝動に駆られる程、ミューラを傷つけられたのが腹に据えかねたのだろう。
 もっとも、太一だって人の事は言えない。

「さて。始めるか」

 多少なりともダメージを与えられ、怒りの咆哮を上げるレッドオーガに、太一は改めて魔力を練り始めた。
レッドオーガとの対決は次話で。


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