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異世界チート魔術師(マジシャン)  作者: 内田健
第二章:元高校生は冒険者として生活してます。
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凛先生の現代知識有効利用講座

ついに四〇部投稿!

よく続いたなあ……


この話からはやりたい放題です(笑)

「一発で群れに大ダメージを与えるだと?」


 ジェラードは、凛の言葉に自身の耳を疑った。

 申し出そのものは大歓迎だ。広範囲殲滅魔術が使えるのなら、それを拒む理由はない。

 だが、どうやって。

 例えばレミーアでも、どんなに範囲の広い魔術を使ったとして、三桁を一発で倒すのは不可能だろう。

 凛は「外さなければ一〇〇はかたい」と言った。どうやってそれを実現するのか、見当がつかない。いくらフォースマジシャンとはいえ。


「そんな事が可能なのか、リン?」


 レミーアもにわかには信じられないのか、凛に問い返していた。

 凛は間髪入れずに肯定する。

 この場で顔色を変えていないのは言った張本人である凛と、その友人太一。ミューラもレミーアもジェラードも、どう受け取ればよいのか分からず、もて余していた。


「凛にやらせりゃいいんだ」

「簡単に言うな小僧め」

「凛が出来るって言ったら出来るんだって」


 それにどんな根拠があるのか。やけに自信満々に言い切ったが。


「……任せていいのか? 作戦に今更手を加えるのだ。やっぱりできませんでは済まんぞ?」

「問題ないです。タイミングさえ間違えなければ」


 その魔術そのものの成功は疑っていないようだ。ふとミューラとレミーアを見てみれば「やらせてみよう」と目が語っていた。

 ジェラードとしても、出会い頭の一撃で三桁の魔物を倒せるという凛の提案にはとても魅力を感じている。


「……良かろう。ではせめて、何をする気なのかを教えてくれ」

「分かりました」


 凛が頷く。


「使う属性は火と水です。起こす現象の名前は、水蒸気爆発」


 すいじょうきばくはつ。言葉からイメージが一切沸いてこない。どうやら爆発を起こすらしいが、火と水は相反する属性だ。普通、被らないように注意して発動するものだ。

 「何発撃てる?」「憶測だけど、三発かな」「じゃあ、頭で一発だけだな。使いきるのはまずい」「そうだね」

 二人のやり取りを見守っていると、魔術を撃った後の話になっていった。ここまで成功するのが前提の態度を取られると、むしろ信じない方が酷いことのように思えてしまうから不思議である。

 「こんなに魔力使うのは初めてかも。そこは気になる」「心配すんな。俺が凛抱えてすぐに離脱する。凛には指一本触れさせねえよ」「……ばか」

 太一と凛の間にピンク色の空気が流れ始める。やり取りを見守ったことによって、三人は胸焼けを覚える羽目になったのだった。






◇◇◇◇◇






 小細工なしで真正面から魔物たちとぶつかるはずの作戦。地平線に見える黒い塊を前に一時待機を命じられた冒険者たちは、戸惑っていた。

 斥候役の報告によれば、魔物それぞれの移動速度によって三つの群れに分かれているらしい。第一陣の数はおよそ一四〇。アズパイア防衛戦に参加した冒険者の総数とほぼ同じだ。

 単純計算で一人一匹。初戦としては悪くはない。ここで勢いをつけて士気を高めようと考えていた冒険者も多かっただけに、肩透かしもいいところだ。

 ジェラードは一発楔を撃ち込むと言っていた。

 果たしてどういうことなのか。

 その答えは、異口同音に沸き立った一つの言葉から始まった。


「地面に大量の水が」


 ある者は騒ぎ立て、またある者はただ絶句している。

 地面がくりぬかれ、そこに多量の水が溜まる。ちょうど魔物の群れの進行方向。今から方向転換は難しいだろう。特に、団体行動では。

 魔物たちがその地点に到達した瞬間。

 数個の大きな火球が水溜まりへ飛んで行く。それが、起爆の合図。獲物を心待ちにしていた猛獣の如く、地面が急激に弾けた。

 そこからは一瞬の出来事だった。

 轟音を撒き散らし、目を疑うような規模の爆発が、魔物の群れを丸ごと飲み込んだ。






◇◇◇◇◇






 腹の底に響くような振動が、アズパイアを揺らす。同時に猛烈な突風が、三人を襲った。ギルドの屋上からでも分かる。今の爆発がどれほどの範囲を吹き飛ばしたのか。

 上空に立ち上っていく黒煙を、三人はぼんやりと眺めていた。

 水蒸気爆発。水が気化すると体積は数千倍に跳ね上がる。気体を急激に膨張させて起こすものだと、凛は言った。


「火山ありますよね。地下水脈と溶岩がぶつかると、条件にもよりますが、水蒸気爆発が起きるんです。今回はその原理を利用します」


 こともなげにそう言ってのけた凛。ニホンでは、火山がどういうものかが分かっているのだ。この世界では、『大地の神の怒り』などと呼ばれ、原理すらろくに分かっていない超常現象だというのに。


「レミーア。あの魔術、どんな価値がある?」


 レミーアはゆっくりと視線をジェラードに向けた。


「……本気で聞いているのか?」

「まさか。戯れだ」


 ふん、とレミーアは鼻を鳴らした。


「一撃で戦局が変わる。戦術級だ。あんな規模の魔術を一人で発動されたら、バカバカしくてやってられん」


 だろうな、とジェラードがごちる。


「では、リンそのものの価値はどう見る?」

「……」


 レミーアは答えない。その横で、ミューラがごくりと唾を飲んだ。


「パッと見だが、直径で一〇〇メートルは吹っ飛ばしたぞ」

「……分からん。だが、私なら脅したくはないな」

「ほう?」


 その返答に、ジェラードは興味深そうに顔を覗き込む。


「リンが出来ることがあれだけとは到底思えん。その気になれば、更にえげつないことも可能なのだろう」


 火属性の魔術と水属性の魔術を当たり前のように混ぜて使った。この世界での魔術の常識に真っ向からアンチテーゼを唱えたのだ。


「精神状態が平常なら、性格的にやらぬだろう。力を誇示して喜ぶたちでもないし、闇雲に痛め付けるのを是とすることもない。だからこそ、無闇に追い詰めたらどうなるか想像もつかん」

「なるほどな」


 納得いった様子で腕を組み、数度頷くジェラード。レミーアは彼を一瞥し、「それに」と続けた。


「下手にリンに手を出せば、タイチが確実に出張ってくる。私からすれば、そちらの方が余程脅威だ」


 ジェラードはもちろん、修行を課したレミーアも、冒険者として共に活動したミューラすら、太一の底を見たことがないのだ。力をセーブしているにも関わらずあの強さ。太一が全力を出したら、どうなってしまうのか想像すら出来ない。


「私はな」


 レミーアが不敵に笑んだ。


「アズパイアに手を出している愚か者に、本気で忠告してやりたいのだ」


 タイチが守りたいものに、手を出すな―――

 冗談でもなんでもないレミーアの言葉。その意図が本当に良く分かったミューラとジェラードは、心から頷いたのだった。






◇◇◇◇◇






 凛が火の玉を作り出し、スタンバイさせる。一つ一つが摂氏一五〇〇度の高温。

 先ほどくりぬいて作り出した池に、これを叩き込むのだと言う。


「実際、本当に上手くいくのかは分からないけど……」


 苦笑いする凛。凛にしては珍しい見切り発車。出来るだろうと踏んでかかっているとは思うのだが。

 実験したわけではないから不安なんだろうな、と太一は予想する。水蒸気爆発など、実験する場所が無いのだから仕方がない。


「大丈夫だろ、多分」

「ホントに気楽ね」

「んなもん、やってみないとわからないんだから仕方ないじゃん」

「……正論だけに何か腹立つ」


 そんなやり取りをしているうちに、魔物の一陣が大分近くまで来ていた。


「始めるよ?」

「いつでもどうぞ」


 太一がそう言ったのを確認して、凛は火球を放った。空気を裂いて飛んで行く火の玉を見送って。


「……っ、あれ」


 かくんと、凛が崩れる。


「大丈夫か?」

「あ、あはは。三割じゃきかなかった……半分くらい魔力使ったみたい……」


 凛が魔力を半分も使ったところは見たことがない。つまり、それほどの規模だということ。


「た……」


 立てるか、と聞こうとしたところで、太一と凛から一〇〇メートル離れた辺りで爆発が起こった。

 水蒸気爆発は成功だ。が、どうやらそんな事を言っている場合ではなさそうだ。

 爆発そのものに巻き込まれる心配はない。充分に距離は取っている。だが、爆発の余波はその限りではなかった。太一が目を向けると、とんでもない速さの突風が爆発点を中心に八方に向かって広がっている。

 そんな物理現象に、何かを避けるといった事は有り得ない。避けるどころか薙ぎ倒すのだ。

 凛はまだ立っていない。


「凛さん! 失礼します!」

「えっなに……きゃっ!?」


 謝りながら凛の背中と膝裏に手を差し込み、抱えあげてジャンプ。赤いフェンウルフを倒した時と同じ六割の強化だ。

 爆発の余波からあっという間に遠ざかり、太一は動きを止める。


「ここまで離れりゃ平気か」


 太一は黒煙を見上げた。爆発の凄まじさを物語る景色。まるで戦争だ、等と分かったような感想を抱き、武器と文明は違えど戦争と変わらない状況に身を置いている事に気付いた。

 自分達が助かるだけなら、別に魔物が一〇〇〇体だろうと二〇〇〇体だろうと怖くはない。だが、アズパイアにはマリエがいる。アルメダがいる。良くしてくれた武器屋のオヤジにカフェのお兄さん。

 守りたい人がたくさんいるのだ。

 だからこそ、こうして数減らしを行うのだ。


「凛。もう大丈夫か?」


 まだ抱えていた。魔力で強化している今だと、凛に限らず人一人程度はスプーン程の重さも感じない。

 凛を見ると、そっぽを向いてしまっていた。耳まで真っ赤だ。何で照れる……と考えて、自分がどんな風に凛を抱いているか気付いてしまった。

 これはあれだ。

 ギャルゲー等では鉄板の。


「お姫様抱っこですね、わかります」

「言うなぁ……恥ずかしいからぁ……」


 凛の声が弱々しい。降ろして、と言わないのは何でだろうか。その辺が察せるほど、太一は女心は分かっていない。残念ながら。


「まあ、人見てないからいいじゃん」

「見られてたらホント死ぬ……」


 しばらくそのまま立ち尽くして、凛がようやく太一から降りた。

 まだ若干顔が紅い凛と共に、太一は魔物の群れに向かった。

 目立たないように、総数を減らす。

 恐らく持久戦になる、とはジェラードの弁。時間が経てば経つほど苦しくなる。戦闘後半に差し掛かった辺りで相手にする魔物の数を減らしておいた方がいい、とのレミーアの助言に従う事にする。

 先制パンチは大成功。これからが本当の開戦だ。

現代知識の完璧な正確さよりも、チートでスカッとする方を優先します。

水蒸気爆発のネタ下さった方、ありがとうございます。


因みに、作者も女心は分かってません。


読んでくださってありがとうございます。


2019/07/16追記

書籍化に伴い、奏⇒凛に名前を変更します。

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