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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

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太一と奏絶賛無双中

魔物の数に何か現実感が無いかも分かりませんが、まあ、ファンタジーということで(笑)
 首尾よく水蒸気爆発を成功させた奏は、魔物退治でも好調だった。
 移動速度と防御力を上げる強化魔術を常時発動。攻撃面では必殺の威力を保ちながらも魔力の消費を控えるという離れ業を駆使し、次々と魔物を倒していく。
 これだけのことを同時に、楽々とこなすことの価値を、奏は知らない。この時点で奏に匹敵する魔術師は、世界中を探して一〇〇人見付かるかどうか。
 世界でも屈指の水準である恵まれた魔力値と魔力強度を、レミーアが課した質の高い修行が余すところなく生かしきる。この場にレミーアがいれば、歴史上最強のフォースマジシャン候補だと太鼓判を押した事だろう。
 今奏が倒しているのはオークだ。北の森で、ミューラがやっつけた二足歩行で槍を持った猪の魔物。
 目前のオークに、水の槍を三発撃つ。大体どこを穿てば一撃で倒せるかはもう分かっている。その急所も、個体によって多少の誤差があるため、それをカバーするために三発。水の槍がオークのみぞおちやや左に着弾し、茶色い体毛の魔物はぐらりと崩れた。
 素早く周囲を見渡し、オークが数匹固まっているのが見えた。一々確殺はしていられない。奏は両手を彼らに突きだし、別の魔術を発動する。フレイムランスの対極。全てを凍てつかせ、貫く槍。

『フリーズランス!』

 奏の前方に直径二メートル程の冷気の膜が生成される。そこから、無数の氷柱を断続して放つ。一撃一撃に高い威力を孕むフレイムランスに対し、フリーズランスは一撃の威力はそれなりながら、手数を重視した魔術。因みに、フリーズランスなる魔術はこの世界にはない。理由は、氷属性実現が難しいからだ。水属性魔術師にとっては最高難度の一つに分類されている。
 よってこれは、奏が思い付きで使ったオリジナル。

「おっ、これ便利かも!」

 フレイムランスが強敵へダメージを通すためだとすれば、フリーズランスは対雑魚敵用だ。
 氷柱の針ネズミとなったオークたちには一瞥もくれず、奏は次の標的に向かって駆け出す。
 戦乙女と形容するに相応しい奏の活躍。
 奏は真面目にオーク退治をしている。
 アズパイアを救うために、真剣に。
 ちらりと、一〇〇メートルほど離れたところにいる太一を見る。
 そして、ため息をついた。
 太一はすたすたと戦場を歩いている。移動速度を上げている奏とくらべれば、酷く緩慢な動きだ。
 オークたちは太一に近寄れない。その魔力にあてられて固まっているのだ。ふと、太一の腕がぶれる。オークが、真っ二つになって倒れる頃には、太一は剣を鞘に納め、次の獲物に向かって歩いていた。なんという無駄のない攻撃だ。抵抗どころか動きすらしない魔物など、敵と呼ぶことは出来ない。

「何あれ……」

 太一と奏。オークたちから見てどちらが与し易いか。考えるまでもない。であれば、奏にオークが殺到してもおかしくはない。現に十数分前、それは起きた。
 八方から押し寄せるオークの波に、流石にまずいかと身構えた奏。だが、魔物は奏のところまで辿り着かなかった。否、辿り着けなかった。上空から奏の側に降り立った太一が、「五割」と呟き、徐に魔力を解放する。
 オークたちはそれで全員が固まった。ただ魔力強化するだけで強力な牽制をした太一は、半分任せた、と言い残して、オークを切り捨てながら歩いていく。

「各個撃破なんて小賢しい真似は無駄無駄。大人しくしてろって」

 太一の言葉が理解できたのかどうかは分からないが、オークたちは、それ以降精細を欠くようになった。
 奏が倒しているオークの動きは鈍い。

「これ、やっぱ太一のおかげ、よね……」

 多彩さ、柔軟さでは太一よりもかなり先を歩いていると奏は思っている。
 太一はとても単純だ。だが、現代にはシンプルイズベスト、というような言葉もある。まして太一はシンプルを極めたような存在だ。どんな小細工を仕掛けようと、圧倒的なエネルギーでもって真正面から砕きに来る。避け続けるのも、いなし続けるのも、一度しくじれば終わりというプレッシャーを抱えながらだ。奏だったら、敵に回すのは御免被りたい。切実に。
 奏に難敵として認定された太一は、戦闘が始まって七〇匹の魔物を倒していた。

「オークが相手じゃ弱いもの虐めだよなあ」

 と呟く太一は知らない。街にいる冒険者たち大多数にとって、オークは互角か格上に位置する事を。
 手頃なオークを回し蹴りで吹っ飛ばす。少し離れたところにいたオークたちを巻き込んで倒れた。

「ストライク」

 こんな時、遠距離から攻撃できる手段があればと思う。魔力を飛ばせるかと思って試し、それは成功した。だが、攻撃手段にはなりえなかった。放った後の減衰率がシャレになっておらず、一〇メートル離れたところに的として置いたワイングラスすら破壊出来なかったのだ。
 よって、近付いて止めを刺すしかない。一撃で済むように、或いは自身の精神保護のため、オークの額に一度ずつ剣を突き立てる。
撃破数七六。数十分での戦果としては十分すぎる程だ。
 が、このなんとも非効率な戦法に、もどかしさを覚えるのも事実だ。

…………―――

「ん?」

 ふと、太一の耳に誰かの声が届いた気がした。はて、なんと言ったのか。小さい声で、内容までは聞き取れなかった。

「気のせいか?」

 見渡したところで周囲に誰かいるわけでもなく。奏はそれなりに離れたところで戦っている。

「まあ、いいか」

 あまり気にしないことにした。アズパイアに程近いところでは、冒険者たちが防衛ラインを引いている。それを引き上げる一助にするのが、太一と奏の役割だ。
 ミューラも冒険者たちに混じって戦っていることだろう。サボったのがバレると怒られるため、引き続きオーク退治に勤しむ。
 それから十数分としないうちにオークを全滅させるという冗談のような戦果をたった二人で挙げることになる。手抜きしても怒ることが出来ないものであると、太一は全く気付かないのだった。





◇◇◇◇◇





「くっくっく」
「何事だ」
「……気でもふれたかの?」

 突如暗闇に響いた含み笑いに、怪訝そうな声が次々と発せられる。それを受け止め、急に笑い出した人物はやっとそれを収めた。

「すまないな。我々の予想を簡単に蹴り飛ばされたものだから、ついな」

 どういうことだ。こいつは、何を言っているのか。別に隠すつもりは無いのか、その者は続ける。

「宣戦布告に魔物一五〇体を一度の爆発で吹き飛ばし、その後オークの群れ二〇〇匹を一時間前後で殲滅。例の二人が開戦から今までに挙げた戦果だ」
「……バカな」

 開戦から、まだ二時間も経過していない。一体どんな裏技を使えばそんなことが可能なのか。

「正攻法だ。奴等は搦め手等一切使っていない。我々に対する当て付けとしか思えんな」

 二時間もせずに、正攻法で三〇〇以上の戦果。騎士団が出動したというならまだしも、Cランク冒険者に挙げられる戦果ではない。

「さすが、王宮直送の情報だ。下馬評以上だな」
「悠長だな。これからどうするのだ?」

 彼らに残された手は多くはない。アズパイアへの侵攻そのものが、彼らが切った切り札の一つだ。

「あれだけあった複製陣の効果は切れておる。召喚陣も、“真紅の契約”も、後一度ずつ使えば効果は切れるのだぞ?」
「なるほどな。そういうことか」

 老婆の言葉に被さるように、渋い男の声が響いた。

「御明察。最早それしかない。それを操るには、我ら三人の命が必要となるがな」
「まあ、そうなるか。アレを操ろうと言うのだからな」

 老婆が「貧乏クジか……やむを得ん」と呻く。変わり果てた三人の死体が見つかるのは、大分先の事である。





◇◇◇◇◇





 アズパイア付近に設置された簡易な陣営に戻ったのは、戦闘開始から三時間が経過した位だった。
 ギルド職員が駆けずり回っている。マリエもいた。こちらに気づくことなく、すぐにどこかに行ってしまった。
 顔を知っている料亭のお姉さんが、軽食を作っていた。傷ついた冒険者を、町人たちが治療している。
 さながら野戦病院。
 日本にいたらまずお目にかかれないものだ。前線で魔物を殺すだけが、戦争ではない。どこかで聞いたその言葉が真実であると、目の前の光景が語っている。

「よお。もっときつく縛ってくれよ。俺の貴重な野生の血が流れちまうだろ」
「ったく。バカ言ってんじゃないよ。自分の怪我考えな!」
「はっはっは。冒険者なんざ怪我が勲章だろ!」

 妙に賑やかな会話が、二人に届く。いちムードだなあ、と思ってそちらを見てみると。

「何が勲章だ。左腕喰われた癖にカッコつけてんじゃないよ」
「左腕の一本くらいなんだってんだ。減るもんじゃねえし」
「減るんだよこのバカ!」

 左肩の包帯を真っ赤に染めて高笑いするいかつい男。左肩から、その先がない。
 彼は、アレンの懇願にいの一番に乗った槍使いの冒険者。彼のそばの地面に投げ捨てられた槍は、半ばから折られていた。

「おいバカ」
「んだよどいつもこいつも人をバカ呼ばわりしやがってよお」

 左肩がない男に近付いたのは、武器屋のオヤジ。つい先日、太一に鋼の剣を見繕った人当たりのいい中年だ。

「おら。てめえのために剣持ってきてやったぞ」
「あ? 剣なんて軟弱なモンの世話になんのかよ……」
「こいつは斬る剣じゃねえ。突き刺す剣だ。先も少し潰してあっから、ちっとばかり鈍いが、長持ちはするはずだ」
「へえ。そいつあありがてえ。幾らだオヤジ」
「カネは生きて帰ってきたら払いやがれ。それまでツケといてやる。……踏み倒すんじゃねえぞ」
「辛気くせえ面すんなよやる気失せんなあ」

 やはり無傷では済まないらしい。
 当然だろう。これは戦争なのだから。
 太一と奏は相当に幸運である。この程度の相手に、怪我を負う心配は無いのだ。

「タイチ、カナデ」

 背後からの声に振り返る。ミューラだった。どうやら特に怪我もなく無事らしい。浴びた大量の返り血が、彼女の戦いが凄惨だったと物語っているが。

「ミューラ。無事か」
「もちろん。この位の相手なら、遅れは取らないわ」

 それはその通りだろう。ゴブリンやフェンウルフなどが殆どだ。ゴブリンの中には弓矢を持っていたり、弱い魔術で攻撃してくる個体もいるにはいたが、所詮はその程度。ミューラの敵ではない。
 と、分かっていても、やはり心配なものは心配な訳で。

「万が一ってこともあるじゃない」
「まあね。それは否定しないわ。というかアンタたちこそお疲れ様。どうだった?」

 ミューラは、太一と奏がどんな役割をこなしたかを知っている。人知れずに、しかし物凄い数の魔物を倒してきたんだろうな、と思う。
 人払いするために、ミューラを連れて天幕の外へ。そこで狩った総数を明かす事にした。誰かに聞かれるのはあまりよろしくない。

「ざっくりだけど、奏の魔術入れれば三〇〇以上か?」
「三五〇は行ったでしょ」

 二人から言われた数字に、ミューラは頭痛を覚える。冒険者百数十人がかりで、まだ二〇〇を越えたところだ。ミューラも頑張って四〇は狩ったが、比較対象にすらならないとは。しかも、相手はオークだという。
 ……深く考えるのは止めよう。
 二人は規格外なのでむしろこれくらいが平常運転。
 そう考えれば気も楽になるというもの。
 これだけの戦果なら、作戦もかなり楽になるだろう。そう思ったところで、天幕に怒号が響いた。

「オーガだ! オーガが出たぞ!!」

 三人の脳裏に、あの巨躯の怪物が思い浮かぶ。凄まじいパワーを持つ、あの巨人が。
 普通の冒険者で太刀打ち出来る相手ではない。
 三人は顔を見合わせ、ジェラードのところに急いだ。





フリーズランス
氷魔術で氷柱を無数に作り出し、放つ魔術。細かい狙いは苦手。
奏オリジナル。
氷魔術は難度が高く、使える者がいても技術を秘匿してしまうため、一般に出回らない。



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