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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

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レッドオーガ

 ジェラードとレミーアがいるテントは、陣営の最奥部にあった。数人の冒険者が入れ替わりにテントから出てきた。誰も彼もが厳しい形相を浮かべていて、緊急であると物語っている。
 彼らの背中を見送って、三人はテントの中に入った。
 ジェラードとレミーアは、顔をしかめ、机を睨めつけている。

「レミーアさん。オッサン」
「おお、お前たちか」

 太一の声を聞いて初めて、ジェラードが顔をあげた。それはレミーアも同じだ。決して鈍くない二人が、入室しても気付かない。それが、事態の異常さを示す。
 オーガ。北の荒野に棲息する魔物。かなり強い魔物だ。Cランクチームから、挑むことを許される魔物。単独撃破を目指すなら、最低でもBランクを要求される。
 バラダーたちなら、単独で戦うことも許されるだろう。
 ただし、オーガよりも黒曜馬の方が実は強かったりする。オーガはパワーこそ凄まじく、巨体故にとても強そうに見えるのだが、いかんせん鈍重である。オーガでは、黒曜馬を捉えることは出来ない。かの肉食馬の攻撃もそれほど効く訳ではないが、持久戦で馬の勝ち。それが魔物格付けの評価らしい。

「今呼びに行かせようかと思っていたところだ」

 レミーアが言う。
 当然だと、三人は思った。申し訳無いが、冒険者たちには荷が重いだろう。

「オーガが出たって聞きましたが」
「ああ。間違いない。全部で五体とのことだ」
「五体か……」
「接触まではどのくらい?」
「後二〇分」

 あまり芳しくない。殆ど余裕がないではないか。

「じゃあ、とっとと狩っちまおうぜ」

 これは太一たちだから口に出来るセリフだ。太一にとっては敵にはなり得ない魔物。奏にとっても負ける敵ではない。ミューラには少し苦しいが、一体だけなら勝つことは出来ると断言出来る。オーガ五体なら、さして時間も掛からずに倒せるはずだ。
 三人が早く戦場に出れば出るほど、冒険者たちの危機が減っていく。
 ジェラードはゆっくりと息を吐き、視線を三人に向けた。

「お前たちに、伝えておく事がある」

 何だろうか、随分と改まって。

「先程、状況の詳しい報告があった。魔物たちの数を、四割ほど減らすことが出来た。お前たちの戦果が大きい」

 一時間程度で三五〇を狩ったのだ。どうやら効果が現れてきたらしい。
 ジェラードが続ける。

「アズパイア側だが、先程戦死者が三〇名を超えた。重傷者三七名、軽傷者他全員。今戦えるのはおよそ五〇人。まあ、想定内だ」

 想定内?
 三〇人が命を失ったこの状況が、想定内というのか。

「意外そうだな。もしかして、誰も死なないとでも思っていたのか?」

 三人で冒険者たち全体の八割の撃破数を稼いだのだが。一番の戦果を挙げていて、誰にも恥じる必要は無いというのに。

「ジェラード」
「む……。……今のは忘れてくれ」

 太一たちを責める気は、ジェラードにはなかった。彼らがこの街に滞在していたことそのものが幸運なのだ。三人がいなければ、もっと早く決着していただろう。アズパイアが、魔物に蹂躙されるという形で。
 ここまで持ったのは、太一たちのお陰である。感謝こそすれ、責める理由がない。
 だがそれでも、衝動に近いかたちで出てしまった。太一と奏の境遇、実力を隠したいという思い。それら全てを分かっていた。しかし、冒険者が次々と息絶えて行くなかで、実力を隠している二人を見て、衝動を抑えられなかったのだ。

「気にすることはない。ジェラードも少し気が立っているだけだ」

 仲間が次々と死んでいくのを聞けば、八つ当たりのひとつも言いたくなるだろう。彼とて完璧ではないのだ。

「すまんな。少し大人気なかった。」

 自らの半分も生きていない少年少女に、非を認めて謝罪が出来る。それだけで十分、彼は大人である。

「いや、いいさ。俺たちが実力を出せば済む話だろうしな」

 実力なら、もう十分出している。オーク三〇〇以上に加えて、オーガを倒しにいくと、頼もうとしていた事を太一の方から言ってもらったのだ。

「……。では、オーガも任せたい」
「おう。ちょちょいとシバいてくるぜ」
「あー、タイチ。待て」

 ボヤボヤしている時間は無いと、早速出ていこうとした三人を、レミーアが止めた。
 後二〇分しかないのだ。時間の浪費は避けたい。しかし、こういう時のレミーアが、無意味な行動を取ることはないと、三人は良く分かってもいた。

「どしたん?」

 振り返って彼女を見る。頭を一頻りかいてから、レミーアは太一を見据えた。

「悪い知らせがある」

 ギクリとしてしまった。太一。奏。ミューラ。三人の強さを良く知っているからこそ、常に余裕のある態度を崩さず、大抵の事を「問題ない」と一蹴してきたレミーアが言った、「悪い知らせ」という言葉。
 レミーアは一度息を吐いた。

「斥候からの報告だ。一回り大きい、赤いオーガがいた、とな」

 思わず息を呑んだ奏のリアクションは、至極当然と言えるものだった。
 一回り大きい。赤い色。
 北の森で見たフェンウルフが思い浮かぶ。凄まじいパワーアップを手に入れた魔物の事を。
 底辺ランクに位置するフェンウルフでさえ、考えられない程の強さになったのだ。それが、オーガに施されたとなれば。

「お前たちの想像通りだ。そのオーガは、恐らく“真紅の契約”を受けている」

 信じたくない事実。襲い掛かる不安をどこかに投げ捨てるように、太一は笑った。

「そいつは厄介そうだな。それ、俺に相手して欲しいと?」

 レミーアは頷く。ジェラードが険しい顔を更に険しくしている。

「まあそうだよな。アズパイアで一番強いの、多分俺だもんな」
「そうだな」

 自分がどれだけ強いとか、誰々より強いとか、そういうのは興味なかった。降って沸いた、棚ぼたな力。便利なのは間違いない。幸運と思いこそすれ、それを誇る気は無かった。
 そんな太一が、自分の強さを明確に口にして評価した。
 その意図が、痛いほど伝わってくる。

「ついに一〇〇の力を出すときが来たかあ」

 そこで、太一は黙りこむ。たっぷり数十秒の時間を費やし、やがてその言葉を口にした。少し、震えていた。

「……俺、勝てそうか?」

 自らの命をBETする職業、冒険者。一攫千金を手に入れられるか、或いは人知れず果てるか。
 そんな職業についていながら、太一も奏も、今まで呑気に暮らしていた。
 もちろん、手を抜いた訳はないし、真剣にやってもいた。だが、ギャップがあった。
 この世界で生きる冒険者たちとは、埋めようのないギャップか。

「……分からぬ。今回ばかりは、保証してやることは出来ん」

 ガラガラとなにかが崩れ去る。
 結局は、そういうことだったのだ。
 ただ、安全圏にいただけ。危険などない。自分達が、死ぬことはない。それが分かっているからこそ、冒険者をやれていたのだ。

「そう、か……」

 奏も、何かを言ってやる余裕はない。死の危険があるのは自分も同じだ。
 ミューラは驚いていた。本当の意味で恐怖を感じている、自分より遥かに強い二人を見て。
 レミーアは、こうなるだろうと分かっていた。この三人が共にいて、危険を感じることなどそうそうない。いや、全くないとは言わないが、それでもこのように命を脅かすような危機を感じた経験は無いだろう。これが、自分で望んだのなら、叱咤するところだ。だが太一と奏は、やむを得ず冒険者になったのだ。自分達で金を稼ぐために、取れる手段がこれしかなかった。
 成り行きとはいえ自分で決めたことであるのはもちろん、その通りだ。
 しかし、それでも、安易な脊髄反射で批判するのは躊躇われた。表面だけ見て批判するのは猿と同じだ。いや、そんなことを言えば猿に失礼なくらいにはたちが悪い。
 強敵を求めるような戦闘狂ではないし、最強を目指す、というような夢を持つわけでもない。ただ、日々の生活を維持するための手段。
 冒険者の厳しさは甘んじて受けるつもりだった。
 しかし命を賭ける覚悟はしていなかった。
 つまり冒険者としては半端。言ってしまえば、そういうことだ。

「勝てないかもしれない、か……強敵、なんだな……」

 太一が背負うのは、アズパイアすべての命。数千の命を預かり、負けるかもしれない戦いをするということ。
 レミーアとジェラードが見る限り、太一は、このプレッシャーに潰れそうになっている。
 やはり、無理か。

「タイチ、カナデ。お前たちは無理せずともよい」
「え?」

 二人が無理だと言うなら、無理強いさせる気は無かった。
 予想外の言葉に、呆ける太一と奏。

「元を辿れば、こちらの世界の問題だ。後は、私達が何とかするさ」
「何とかって……何とかなるんですか?」

 レミーアは、笑うだけだった。穏やかな笑顔。太一と奏には、出来そうもない。

「ジェラード。ここから先はお前にも前線に来てもらうぞ」
「分かっている。こうなるだろうとは思っていた」

 二人が連れ立って、テントを出ていく。

「タイチ、カナデ。アンタたちと冒険出来て、楽しかったわ」

 ミューラが、二人の肩を抱いた。

「ミューラ……。あなたも、行くの?」
「ええ。あたしは、この世界の人間だから」

 笑顔が眩しくて、まともに見ることが出来ない。太一と奏の頬に、ミューラは軽く口付けをした。

「大好きよ、二人とも。無事、ニホンに戻れるのを願ってるわ」

 何故、彼女は責めないのか。腰抜けだと、いっそ罵ってくれればいいのに。

「バイバイ」

 出ていくミューラの背中を見ることすら出来ない。
 今の挨拶は、今生の別れ。だというのに、声をかけるどころか、見送ることすら出来なかった。
 一体どれほどそうしていたのだろう。数分か? もっと経過したか? 或いはそんなに経っていないか?
 二人が見つめるのは地面。外の喧騒が、やけに遠くに聞こえる。

「……あんたら、何でここにいるんだ」

 太一と奏の背中に、声が掛けられた。
クッション回です。

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