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異世界チート魔術師(マジシャン)  作者: 内田健
第二章:元高校生は冒険者として生活してます。
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忍び寄る危機

何とか土曜日更新間に合いました。


土日のどっちかで一回は更新しようと思います。

 魔物があのように遺体を放置するような真似はしない。三人はその結論に至り、人為的だったと一致した。

 誰が。どのような目的で。

 あのような行為は、日本でなら法律で罰せられる重罪だ。許されるはずがない。

  あれからムラコ茸をいくつか採取し、森の中を探索しながら、魔物を狩りながら歩いた。

 あの赤いフェンウルフ。

 どういう理由で生まれたのだろうか。突然変異で片付けていいとは思えない。何等かの手懸かりがあればいいと考えて森をうろうろする。

 が、そうそう事が上手く運ぶはずもなく。目立った成果を挙げられぬまま夕方を迎え、三人は肩を落として北の森を後にした。

 ギルドに着いたのは、すっかり日が暮れた頃だった。

 入口付近でぐるりと顔を見渡し、マリエがいないか確認する。話をするにも、事情を知っている彼女の方が話が早くて面倒が少い。

 のだが。マリエを見付けることは出来なかった。休憩でもとっているのか、それとも奥で仕事中か。いないのなら仕方がないと、カウンターに向かい、手頃な職員に声をかける。


「ども」

「あ、皆さん。どうされましたか?」

「依頼を受けてきたんです。はいどうぞ」


 凛が腰袋から昨日受け取った依頼書と、ムラコ茸が入った布の袋を取り出して渡す。


「なるほど、確かに。戦果の方はいかがでしたか?」

「これっす」


 太一は大きめの皮袋をどさりとカウンターに置いた。たった一日にしては多すぎる戦果に、女性職員の営業スマイルがひきつる。


「ゴブリンのコロニーを一つ潰して、フェンウルフを四〇頭位やっつけてきたわ」


 お昼はパスタ食べたよ。

 友人に他愛もない事を告げるのと同じノリで言うミューラ。

 この職員は、マリエの愚痴から、太一のチームが常識を蹴り飛ばして歩く規格外だと知っていた。実際にこうして相対して、自分の認識が甘かったと実感する。


「ち、ちょっと数が多いので、報酬は明日お渡しでもいいですか?」

「構いませんよ」


 働かなくてもしばらく生きていけるだけのお金は持っている。慌てて受け取る必要はない。


「それでは、完了手続きはこれで終了になりますが、他に何かありますか?」


 いつもの定型文。

 話を終わらす社交辞令。

 今から大量の戦利品を数え上げ、報酬を準備しなければならない。

 早くその作業に入りたかったのだが、太一は彼女を呼び止めた。


「すんません。ギルドマスターに会いたいんすけど」


 言われて、彼女は顎に手を当てた。ギルドマスターは、今は。


「すみません。今来客中で……」

「大丈夫ですよ。タイチさん、リンさん、ミューラさん」


 丁重に断ろうとした彼女の台詞を遮ったのは。


「あ、マリエさん。こんばんは」

「こんばんは。その様子だと依頼は終えたようですね」


 書類を抱えたマリエが、階段を降りてきたところだった。


「ええ。ついさっき戻ってきたわ」

「そうですか。相変わらず早いですね。ギルドマスターの部屋、入って大丈夫ですよ」


 来客中ではなかったのか。そこにずかずかと踏み入るのは若干躊躇いがある。

 だが、マリエが言うのならよいのだろう。三人は礼を言って階段を登っていった。


「マリエ。いいの?」

「いいんですよ、先輩」


 今しがた太一たちの応対をしていた彼女は、マリエにとって先輩らしい。


「ギルドマスターの来客は、彼らにとって縁深い人ですから」

「ふうーん」


 特に言及する気はない。ギルドマスターとも懇意にするあの三人組とのやり取りは、実質マリエの独占状態だからだ。彼女が接したのは本当にたまたまである。


「あ、そうだ、マリエ」

「はい?」

「これ。あの子たちが狩ってきた魔物の戦利品。報酬は明日でいいって言ってもらったから。もちろん、貴女にも手伝ってもらうわ」


 カウンターに鎮座する大きな皮袋。

 北の森にいるのはゴブリンとフェンウルフ。彼らならこの程度は片手間でこなすだろう。

 だが、この作業をする方は片手間とは行かない。相変わらずブレない非常識っぷりに、マリエは溜め息をついた。

 疲れた様子の後輩の苦労を思い、先輩職員は苦笑いするのみだった。






◇◇◇◇◇






「陣はどうだった」


 極めて平坦な声で、老婆が問うた。


「火炎系魔術の影響で吹き飛んでいた。跡形も無かった。奴等の実力を侮っていたことは、認めなければならない」


 それに答える中性的な声もまた、特に何かを憂いでいるとは思えなかった。

 本当にとるに足らないのだと思わせられる。


「肝心のあれは無事か」

「今回のはダミー。本命は当然無事だ。無論、残りの陣も全て健在だ」

「そうか」


 それだけ聞ければ満足なのか、彼はそれきり口を閉ざした。


「進捗は?」

「四〇パーセント」

「上々じゃな」


 続いて老婆も黙る。誰もが喋らなくなると、その暗闇には誰もいないのではないかと思うほどの静けさだ。息を吸い、吐く音すら聞こえない。


「この程度は小細工だ。少々派手だけどな」


 その一言を最後に、暗闇には再び長い長い静寂が訪れたのだった。






◇◇◇◇◇






 扉をノックし、了解を得てからノブを捻る。見慣れてはいないが、驚くほどでもなくなったジェラードの執務室。


「おう。お前たちか」


 当然、ジェラードがいる。


「久し振りだな」


 何故か、レミーアもいる。


「レミーアさん!」

「来客ってレミーアさんだったのか」


 いつもの格好であるジェラードに対し、レミーアは黒の質素なドレスに生地の透けているケープを羽織っている。

 現代では女性用だが、中世では男性用だったはずだ。まあここは異世界なので、地球の常識で考えない方がいいだろうが。

 何より、そんなことは些細である。レミーアはいつも通りレミーア。扇情的な格好をするのは家でも外でも変わらないらしい。太一にとっては目に毒である。主に胸元が。

 凛とミューラに睨まれる程度には、太一も意識してしまった。そんな三人を見て、レミーアが一瞬意味深な笑みを浮かべたのには、この場の誰も気付かなかったが。


「タイチよ……レミーアは名で呼ぶのか。何故ワシはオッサン呼ばわりなのだ」

「オッサンだし?」

「オッサンですよね?」

「オッサンね」


 もうよい、と呟き、疲れたように項垂れるジェラード。本気で咎めてこないということは、じゃれあいの範囲内ということだろう。


「はっはっは。その通りじゃないか」

「やかましい。ワシの倍以上生きとるババアが」

「ふふ。私は長寿だからな。二五〇歳位までは女として現役だ」

「何を。ワシとて後一〇〇年は男として現役だぞ」

「男の嫉妬は見苦しいな。なあ、オッサン?」

「うぐぐ……」


 途端にじゃれあいを始める二人。太一と凛を手紙の一通で保護させた通り、仲は悪くないらしい。


「話の途中で悪いんだけど」

「何だ?」


 二の句は継がずに、立派なテーブルに二振りの剣を置いた。

 炎に焼かれ、刀身が黒くなった剣を。

 あの冒険者たちの、形見を。

 罵り合いという名のコミュニケーションを即座に止め、その剣を見詰める二人。尋常な痛み方ではないそれの内一本を、ジェラードはゆっくり手に取った。


「……どうした、これは。誰かに襲われでもしたか?」

「大分高熱で焼かれているな。リンか? それともミューラか?」


 柄の部分など炭化してボロボロだ。レミーアは視線を太一たちに向ける。


「私とミューラでやりました」

「二人でファイアボール六発です」


 凛とミューラでファイアボール六発。明らかに過剰。オーバーキル。一体どんな状況ならそんな事態が起こるのか。レミーアが眉をひそめる。


「攻撃の為じゃないんだ。弔うためにやった。あ、やってもらったか」


 自分でやったのではないため言い直す太一。

 もちろん、問題はそこではない。


「弔うとはなんだ。何が起きた」


 ムラコ茸を取りに行って、ついに戻ってこなかった冒険者。彼らの変わり果てた姿を見付けた。死者になってまで冒涜されていたので、全てを灰にすることで無かったことにしようと思った。

 あの時思った素直な気持ちを吐露する。

 レミーアとジェラード。

 太一たちと比べれば圧倒的に大人な二人。

 つい。知らず知らず。頼っていた自分たちがいたことに、話をしながら頭の隅で思っていた。


「そうか。彼らか。惜しい人材を無くしたな」


 剣をじっと見詰め、彼らと会話するように呟くジェラード。


「フェンウルフが襲ってきたと言ったな。本当か?」

「本当です」


 ミューラの答えを聞き、唸るレミーア。フェンウルフは頭がいい。太一たちとの力量差は一目見れば分かるだろう。三人から仕掛ける事はあっても、フェンウルフから攻撃を仕掛けるなど有り得ない。強い者に挑んでいくような精神など、フェンウルフは持ち合わせていない。


「普通のフェンウルフじゃなかったな。身体とか一回り大きかったし、真っ赤だったし」


 レミーアの疑問を察したように、見たままを答える太一。


「……待て。今なんと言った?」

「えっと。普通のフェンウルフじゃなかった?」

「その先だ」

「一回り大きくて、真っ赤」

「……」


 レミーアは口許に手を当て、視線を下に向けて黙考する。

 雰囲気の変わったレミーアに戸惑う太一たち。ジェラードは剣をことりとテーブルに置き、彼女を見詰めた。


「ミューラ。お前なら差しで勝てるか?」

「……勝つまで、時間が掛かります。二人いると、より確実ですね」

「そうか」


 ジェラードは驚いた。一時期低ランクながら圧倒的な強さでもって、討伐依頼を次々とこなしていった金の剣士。そのミューラをして、勝つまで時間が掛かるという。一体この少年少女はどれだけの強さの魔物と出会ったのか。


「何か分かりましたか?」

「ああ。順を追って説明してやる。まずは赤いフェンウルフの強さだが、恐らくは黒曜馬と同格と言ったところだろう」

「黒曜馬だと? フェンウルフが?」

「うむ。では説明しよう。お前たちが倒した魔物は、“真紅の契約”を受けている」


 真紅の契約。カシムが使用した魔操術の一種。対象の魔物の強さを数段引き上げ、更にある程度の命令が出来るようになるというもの。

 魔操術について調べていたら、そういうものも見付けたとレミーアは言った。

 それを使えば、最底辺の魔物でも、そう易々と手出しが出来ないレベルまで引き上げることが可能だというのだ。特徴として、身体が大きくなり、色が赤くなるのだということだ。


「しかし、此度の連中は本気だな」

「どういうことだ」

「それほどの法外な効果を持つ術が、何の代償もなしに使えると思うか?」

「なるほどな。そういうことか」


 真紅の契約を行使するのに必要な供物は二つ。

 一つは術者の魔力。

 そしてもう一つは術者の血肉。

 それらを捧げることで、真紅の契約は完成する。

 ここでいう血肉とは、肉体の一部である。両手両足を失っても、人生で四度しか使うことが出来ない。五度目は体内の臓器が全て失われる。

 死の術、とレミーアは形容した。正にその通りだと思う。

 この時点でそれを看破出来たのは幸運だろう。レミーアの手柄は大きい。

 しかし、レミーアには不安が一つあった。

 真紅の契約と、フェンウルフの異常増殖。果たしてそれは無関係なのだろうか。別々に区切って考えるべきではないと、直感が告げている。そのせいでレミーアは、最悪の組み合わせがあることを見逃していた。彼女の頭脳のレベルを考えれば、ケアレスミスと言っていいものだ。

 それが発覚するのは、アズパイアを揺るがす事件が発生してからの事である。

読んで下さってありがとうございます。


悪の秘密結社っぽい人達の組織名は、もうしばらくお待ちください(笑)


2019/07/16追記

書籍化に伴い、奏⇒凛に名前を変更します。

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