挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

28/125

召喚術師

太一の属性についてです。
予め言っておきます。
太一の属性、判明まで引っ張りましたが、珍しいものを考えることができたわけではないので、その辺ご了承ください。
「ああ、大失敗……」
「もー気にするなって」

 溜め息をつく奏を、太一が慰める。カシムを逃がしたことが、大分堪えていた。
 あの時ソナー魔術を使っていれば、追うことも出来た。一瞬で二〇〇メートルもの距離を移動出来るはずがないのだ。まして隠れて逃げているのだから尚更だ。
 あの時は大分冷静さを失っていた。いや、失わされていた。してやられた感が奏を支配していた。
 太一とミューラにしてみれば、奏がソナー魔術を持っていることを知っているのだから、一言アドバイスしてやれれば良かったのだ。それが出来なかった時点で自分達も同罪、奏を責める気は毛頭無かった。

「次は逃がさない。それでいいわよカナデ」
「うん……」

 納得いっていない様子だったが、とりあえず頷く奏。冒険者になったばかりの太一と奏に、しっかり機転を利かせろと誰が言えるだろうか。
 事実、報告を聞いたジェラードも、カシムを逃がしたことを一切咎めなかった。戦闘能力が高くても、経験が追い付いていないのを承知の上で太一たちに依頼したからだ。
 二日間は、依頼を受けない予定だ。
 毎日依頼を受けるのが普通だった太一と奏にとっては珍しい事と言えるだろう。
 名誉のために弁明すると、決してさぼる訳ではない。

「久々だな、この森も」
「……そうね。二週間ぶりくらい?」
「そんなになるか」

 異世界に来てから既に一ヶ月以上が経過している。
 人は順応する生き物とはよく言ったもので、太一も奏も、すっかり冒険者生活に慣れていた。最も、それは二人が持つ桁違いの力の恩恵だ。まともに冒険者をやっていたら、とてもではないがこんな余裕はなかっただろう。

「あたしは一週間しか経ってないんだけどね。すぐ戻るとは思わなかったわ」

 ミューラはそうごちる。
 聞けば、一ヶ月、二ヶ月のスパンで太一たちと冒険者をやる予定だったらしい。
 それもこれも全てあの密漁者の事件が、いや、そこにいたカシムのせいだ。

「あれは仕方無いだろ」
「そうだけど」
「今思うと、全部あいつの差し金でも驚かないかも」
「確かに」

 カシムの頭のよさは凄まじかった。何故監視対象である太一たちに依頼を受けさせることが出来たのか。カシムがここにいて、「全て私が仕組んだことです」と明かしてきたら、疑うどころかむしろ腑に落ちてしまいそうなのが腹ただしいところだ。
 大分離れた某所では、話題の慇懃無礼な男が、風邪を引いたかと自身の体調を考えていたのはどうでもいい余談である。
 それはさておいて。
 レミーアの家への一時帰宅は、無目的ではない。
 カシムは、自身を斥候、刺客と称した。悪い予想をするなら、どこかの組織が、太一と奏を知っているということ。そして、カシムが魔物を操れる可能性があるということだ。
 それらをレミーアに報告して、彼女の智謀に協力を仰ぐ。はっきり言って手に負えないというのが正直な感想だ。
 それ以外にも、沈み気味の奏のリフレッシュも兼ねていた。
 道中人がまずいないと思われるところを強化による高速移動ですっ飛ばし、アズパイアを出て二時間程度で、レミーアの家にたどり着いた。
 がちゃりと扉を開けて、家に入る。ここは三人にとって実家と同じである。

「ただい……ま」
「おお。タイチ、カナデ、ミューラ。帰ったのか」
「……」

 レミーアがいた。彼女の家だ、当然だ。問題は、彼女が下着姿だったということだ。固まる三人と、何が原因か分からないレミーア。
 なんという、デジャヴ。

「服を着てください! その格好でバナナをくわえない!」

 ミューラが声を荒げた。その横では奏が太一の目を両手で塞いでいる。太一の視界は真っ黒だ。だが、聞こえてしまう。どうしてこう、音だけというのは想像力をかきたてるのか。

「固いことを言うな。私の家で家主の私がどんな格好でいようと構わぬだろう」
「レミーアさんが良くてもあたしたちが良くないです!」
「減るもんでもなし……あーあー分かった分かった。今服を着てくるから騒ぐな」

 レミーアが自室に引っ込んだのを確認して、奏が太一の顔から手をどけた。
 視界が開けた途端、厳しい視線を向けてくる二人の美少女に身が縮こまる思いだ。

「……見た?」

 奏が低い声で問い掛けてきた。

「見たというか、見えてしまったというか……」

 そう答えるしかない。
 あのタイミングでは、見るなと言う方が無理だろう。
 それは分かっている。誰が扉を開けても、あの事態は避けられなかった。不可抗力をそれ以上責める訳にもいかず、奏とミューラはやむを得ず引き下がった。
 前にも同じような事があったが、あの時は随分と悪ノリした記憶が蘇り、二人で仲良く頭を抱えたのだった。




◇◇◇◇◇




 キッチンではミューラがクーフェを淹れている。その横ではレミーアが軽食を作っていた。出てきたのはたっぷりの油で揚げたポテトフライのようなものだ。
 ジャンクなものに目がない太一は願ったりだ。一方遠慮がちにつまんでいるのは奏とミューラ。ギッシュな油が気になるらしい。こんがりと狐色に揚がったそれは、大いに食欲を刺激しているようだったが。
 そんなことは気にした様子のないレミーアが、「魔術師たるもの、脂肪位は魔術で燃やせ」とのたまい、二人が猛烈な勢いで食い付いたのを太一は圧倒されながら見ていた。

「何? オーガがいただと?」

 カップがテーブルに置かれる。コトリと音がした。

「そうなんです」
「北の森にか……で、そのカシムとやらが、連れてきた、と言ったのか」
「はい」
「ふむ……」

 腕を組んで背もたれに寄り掛かるレミーア。果たして、彼女の頭脳はどのような答えを弾き出すのだろうか。
 密漁者たちは、素直に罰を受けると言い出したとジェラードから聞いた。その変わりように驚いたのだが、話を聞くとどうやら太一たちのおかげだと言うのだ。
 あの時のカシムとの舌戦。(というには一方的にやり込められたが)
 自分達の半分にも満たない少年少女が、想像もつかない世界で生きている。それを目の前で見て、密漁なんかやっている自身が恥ずかしくなったのだそうだ。自警団には、「どんな罰も受ける。望みを言うなら、再出発だけはさせてほしい」と異口同音に訴えたという。
 彼等の改心に携われたのなら、依頼を受けた意味もあったのだろう。カシムの件で心がもやもやしていた三人にとって、それはいいニュースだった。
 報酬は満額の五〇〇万を受け取った。メリラの木を間接的にとはいえ三本もダメにしたのだ。半額でいいと訴えたのだが、聞き入れられなかった。
 三人で普通に暮らして二年間は働かなくても良い大金である。持ち歩いていても強奪される心配はまずないが、どこかで落っことしても怖いので、全額を即ギルドの口座に預けた。一人おおよそ一七〇万ゴールド。ミューラは「剣を新調する」と喜んでいた。
 ここが日本なら、あれも欲しい、これも欲しい、となった太一と奏。だがここ異世界で、どんなことにお金を使えばいいのか分からない。まあ、持っていて困らないのもお金であるため、無理に使う必要はないのだが。

「ふーむ。心当たり、無いこともない」
「マジか」

 本当に何でも知っている。Wiki○ediaみたいだ。

「文献で知ったのか、人から聞いたのかすら覚えとらん知識だが、それでも良ければ話そう」

 是非もない。何でもいいから取っ掛かりが欲しい。

「実在するかは分からんが、いくつか説があるのは確かだ。魔を操る術。そう書いて魔操術と呼ぶ。まあ、そのままだな」

 確かに。捻りも何もない。

「どのような仕組みかは分からぬ。魔術だと主張する説もあるし、未知の術式だとする説もあるからな。ついでに言えば、どこの誰が伝えているのか、世界のどこにあるのかすら分かっていない」

 なのに、その術の存在そのものは、静かに語られているらしい。

「何だか雲を掴むような話ですね」
「全くだ。だが気になるな。カシムとやらがどこの者かも掴める切っ掛けになるやもしれん。私も調べてみることにしよう」

 調べてみる。それで思い出した事が太一にはあった。

「そいやレミーアさん」
「ん? なんだタイチ」
「俺の属性って何だか分かった?」

 ああ、とレミーアは頷く。太一はもちろん、奏もミューラも気になっていた事だ。

「タイチは、恐らく精霊魔術師だ」
「精霊魔術師」

 この世界に存在する精霊から力を借りるのが魔術。精霊魔術師は、確かより強い力を行使出来るのでは無かったか。三週間も前に一度だけ聞いた話なので、あまり覚えていないのが正直なところだが。

「確か精霊と契約するんでしたね。契約という絆が、凄まじい力を発揮できる理由だと」
「その通りだ。よく覚えていたな」

 すらすらと答える奏。やはり彼女と太一では頭の出来が違う。

「お前が修行中に聞いたという声、精霊の可能性が高い。いずれ、契約も可能になるだろう。どうだ、最近、精霊の声を聴いていないか?」

 この辺りは知的好奇心を刺激されているのか、レミーアはワクワクしているのを隠そうともしていない。
 その期待に答えられないことを申し訳なく思いながら、太一はそれを否定した。

「いや……声を聞いたのはあの時が最初で最後だな」

 精霊はどこにでもいるが、特に自然の中に多くいるという。草原や森など、何度となく自然の中に身を置いたが、ついぞ声は聞こえなかった。

「そうか」

 残念そうに項垂れるレミーア。が。

「待て……あれから、一切聞こえていないのか?」

 レミーアの雰囲気が変わった。

「あ、ああ……あれ以来聞いてないな」

 いきなりの事に、奏とミューラも驚いている。

「精霊魔術師の素質を持つなら、精霊の方から好んで声を掛けてくる。精霊の声を聞ける人間などそうはいないからな。こう言ってはなんだが、声を掛けられる側の都合はあまり考慮されぬ。違和感を、覚えんか?」
「……?」
「確かに」
「言われてみればそうかも」

 太一だけが分かっていない。

「タイチと話すのが、精霊は楽しい、ということだ。行く場所によっては四六時中声が聞こえてもおかしくない。だのに、精霊の声を聞いたのが一度だけとお前は言った。妙だろう?」
「確かに」
「むう。そこそこ自信のある予想だったのだが、外れていたか?」
「いや聞かれても」

 聞こえないものは聞こえないのだから仕方がない。

「まあ、そうだな。精霊魔術師については他のユニークマジシャンよりも分かっていない事が多い」
「珍しいんですね」
「うむ。あとこれは推測の域を出ないのだが……」

 はきはきと喋るレミーアには珍しく、濁すような言い回しだった。

「精霊魔術師には、その更に上のランクがあるらしい」
「上のランク?」

 ユニークマジシャンの上、ということだろうか。

「ああ。召喚術師というものだ。初めて聞く名だった。文献でも暫定的にその呼び名を使用しているようだったしな」
「召喚術師?」
「精霊魔術師が更に進化したものだ、と書かれていたが、どういう方向に、どのように進化したのか皆目見当がつかん。言葉通りなら、精霊を召喚することになるのだろうが……」

 説明のための確たる物を持っていない。推測の域を出ないのだ、とレミーアは付け加えた。

「レミーアさんにも分からない事があるなんて」

 ミューラの呟きは、彼女にとってレミーアがどういう存在なのかを示すもの。それに対してレミーアは。

「何を言っておるミューラ。この世には分からんことの方が多いではないか」

 と、至極最もな事を言うのだった。
読んでくださってありがとうございます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ