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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

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疑心

なかなか執筆が進みませんが…
とりあえず更新。
休日がんばりますね!
 巡回初日。
 結論から言えば、何も起きなかった。
 森の奥にある少し開けた場所に、数十本からなるメリラの木があった。背はそれほど高くなく、逆扇状に広がる枝の下に、メリラは実を付ける。
 多いなあ、と漏らした太一に、三割は売り物にならない、と農夫が教えてくれた。
 厳密な管理を重ねても、三割が売れない。確かに厳しい。
 そう教えてくれたのは、髭面で面倒見が良い男、マギル。
 少々神経質ではあるが、メリラ農産に強い誇りを持っているライテ。
 そして誰に対しても腰の低い、マギルやライテと比べて若いカシム。
 今回のメリラ密猟に対する農家団体の代表者三人。それに、太一、奏、ミューラを加えた六人で、北の森を歩いた。
 メリラの木には、計画ではもうすぐ収穫を迎える実がたわわに実る頃だという。しかし実際見てみれば、メリラの実は随分と減っており、木の下には何度も往復したとみられる足跡が無数についていた。
 既にやられた後だったのだ。
 愕然とするライテに、言葉も荒く怒りを口にするマギル。失望したように顔を俯けるカシム。
 リアクションの取り方は様々だが、皆小さくないショックを受けている事が簡単に分かった。
 ろくに得たものも無いまま街に戻り、やけ酒を煽るという三人と別れ、太一たちは宿に戻った。
 この日注意深くカシムを見ていたミューラ。だが、今日の行動や仕草、言動を見る限り、怪しい点は無かったという。
 まあ初日だから、と気を取り直したのだが、二日、三日と時間が経ち、一向に何も起きはしない。
 メリラも、初日から一切減っていなかったのだ。

「おいおい。密猟者はこんなに大人しいもんだったか?」

 流石に焦れてきたようで、マギルがそう溢したのは、北の森の巡回を始めて五日が過ぎてからだった。

「さあな。密猟者の事なんか知りたくもない」

 ライテも不機嫌そうに吐き捨てる。

「まあまあ。冒険者の方を雇ってるんですから、見付けたらこちらのものですよ」

 カシムがそう諭すものの、彼の顔も焦燥の色が濃い。
 森に入る度にソナー魔術を使っている奏だが、半径二〇〇メートルの範囲に引っ掛かるのは野獣かフェンウルフのみ。
 密猟者が見付からないのは太一たちのせいでは無いが、何となく申し訳なく思ってしまう。

「カナデ?」

 問い掛けるミューラに、奏は小さく首を左右に振った。
 奏も人間だから見落としがあるかもしれないと、太一も周囲の気配を探っているが、相変わらず進展はない。
 今日も不発か。そう考えはじめたところで、奏が太一の腕を掴んだ。

「奏」
「太一。メリラの木の近くに何かいる」
「密猟者か!?」

 奏の言葉は、行き詰まっていた一同にとっては神の啓示に等しかった。

「待ってください!」

 走り出そうとしたマギルを、奏が大声で引き留めた。

「何だカナデちゃん! 何で止める!」

 振り返り鬼の形相で奏を睨むマギル。奏は更に強い気迫を纏って受け止めた。いくら強面でもマギルは農夫。一方の奏は現役冒険者。しかもその辺の有象無象とは訳が違う。結果的に視線のみでマギルを押し返した。

「メリラの木の近くにいるのは、どれも人間の大きさじゃありません。闇雲に突っ込むのは危険です」

 勝手に突っ走られたら守りきる自信はない。口にはしないが、偽らざる本音でもあった。

「……チッ。分かった。おれたちはどうすればいい?」
「私の側を離れないでください。相手が危険だった場合、太一とミューラで無力化します」

 戦闘になった場合にどうするか。予め決めていた事だった。
 桁違いの制圧能力を持つ太一を主力とし、遠近と間合いを選ばないミューラが遊撃、様々な状況への対応力に最も優れた奏が後方支援と、万一の退却経路確保。
 冒険者として団体での戦闘経験も持つミューラが決めた役割分担である。
 三人がそれを承知したのを確認し、メリラの木の元へ向かう。
 そこにいたのは、

「オーガとオーク!? 何故こんなところに!」

 ミューラが口にするより早く、カシムが魔物の正体をいち早く看破した。
 ミューラはカシムを静かに見詰める。

(この人……オーガとオークを何で知ってるの? 北端の荒野付近にしかいない魔物なのに)

 ミューラは、レミーアの家にあった魔物大全という図鑑を読んでいたため知っている。しかし、普通は例え冒険者だったとしても、自分に関わりの無い魔物の事など分からない。
 ましてカシムは農夫のはず。アズパイア近隣に出没する魔物の事ならまだしも、北端に棲息する魔物の知識など、最もいらないものに分類されるだろう。
 カシムへの警戒心をより一層強め、ミューラは目の前の脅威に意識を向けた。
 オーガ。鈍い青の肌をした、身長四メートルを超える巨人。武器は鍛えぬかれたその筋肉。単純ゆえに破壊力は凄まじく、Cランクの冒険者チームなら挑むのを許されるような相手だ。
 オーク。端的に表せば、二足歩行の大猪。ゴブリン以上の知能を持ち、木の槍を武器にしたりする。彼等は強い者の威を借る習性があり、今はオーガを軸としているのだろう。
 折れたメリラの木に群がる一匹のオーガと三匹のオーク。密猟者ではないが、手早い駆除が必要だ。

「俺とミューラが片付ける! 奏ここは任せた!」
「分かった!」

 ミューラが俊足を発揮してオークに飛び掛かる。パワー馬鹿の相手を太一に任せ、雑兵は手早く掃除。打ち合わせしてないのは、言う必要も無いからだ。
 抜剣から横薙ぎの流麗な剣閃が手近なオークの槍を切り落とし、返す斬撃がその胴に深い痛手を与えた。

「ぐひぃ!」
「やっ!」

 呼気と共に尚も剣を振るミューラ。血飛沫の合間を縫うように二度、三度と剣が振るわれ、やがてダメージが致死を越えたオークは、仰向けに倒れた。
 太一の雑な剣とはまるで違う、本物の剣術だ。

「ひゅう♪」

 思わず出た口笛。太一は視線をオーガに向けた。

「デカブツ! お前はこっちだ!」

 飛びかかりながら拳を振りかぶる太一。
 オーガは自分に迫ってくる小さな人間を嘲笑った。そのちっぽけな存在は、あろうことか自分に肉弾戦を挑むつもりらしい。腰の剣は何のために持っているのか。
 かつて倒した冒険者たちは、剣や槍で完全武装し、遠距離からの魔術攻撃も駆使してきたというのに。
 あの時は苦戦したが、最後は己の肉体の強さにものを言わせて押しきった。
 彼等に比べれば、その度胸は認めてもいい。しかし。愚かでもあった。
 ここはひとつ、少年の行いがいかに身の程を知らないかを、教えてやるべきだ。
 ここまで考える知能があるかは分からないが、オーガが太一を侮ったのは事実。太一に合わせ、巨大な拳を振りかぶる。
 ドパアン!
 空気を震わす炸裂音。太一とオーガの拳がぶつかり合った。
 奏とミューラはあからさまにあきれ、それ以外の観客が全員目を丸くした。
 力比べで押しきったのは太一。オーガの巨体を強制的に数メートル後退させたのだ。

「デカいからどんだけ強いかと思ったら」

 肩をぐるぐる回しながら、太一が言う。取るに足らない相手だと言うように。

「……オーガと力比べとか平気でやるのね」
「何か言ったかミューラ?」
「何でもないわ。早くやっつけちゃって」

 りょーかい、と気だるそうに返事をして、太一が両足に力を込める。
 最初はやる気満々だったのだが、手応えある力では無いと分かってしまった。太一にとっては、弱い者苛めに等しい。

「一発で終わらせる」

 一体どんな魔術を使ったのか。太一はオーガの頭上三メートルの高さに浮いていた。
 実際は魔術でもなんでもない。太一が立っていた場所が抉れていた。魔力強化をして移動しただけである。
 見上げた時には真上から迫る少年の姿。直後脳天に凄まじい衝撃が走り、その瞬間にオーガの意識は暗転。太一は腕を振り抜き、オーガを地面に仰向けに叩き付けた。
 一撃。オーガは絶命していた。ふと横を見れば、ミューラが三匹目のオークを切り伏せたところだった。

「奏。どうだ?」
「……うん。周りには何もいない」

 奏の言葉を聞いてから太一は魔力強化を解き、ミューラは剣の血振りをして鞘に納めた。今後何があるかは分からないが、当面の危機は去ったと言っていいだろう。
 悠然と戻ってくる太一とミューラを見て、ライテは恐る恐る奏に問い掛ける。

「君ら……何者なんだよ……」

 奏は周囲に目を配らせ、ライテを見ずに答えた。

「私たちはただの冒険者ですよ」

 それ以上、返す言葉がない。農家たちがすがる思いで雇った冒険者は、彼等の常識を打ち砕く実力の持ち主だった。




◇◇◇◇◇




 被害に遭ったメリラの木は三本。何とか少なく食い止められた形だ。太一たちでなければ、オークはともかくオーガに勝てたかは怪しい。いやむしろ、生きて帰れたかどうかすら定かではない。
 生きてアズパイアに戻れたことに安堵するマギルたちと別れ、太一たちはギルドに向かった。カウンターで書類を整理しているマリエに近付く。

「あら。タイチさん、カナデさん、ミューラさん」

 連れ立ってやって来た三人。どうしました? と声を掛けようと思っていたのだが、三人の顔が少々厳しいものだったので続きを言わなかった。
 沈黙を以て促すと、太一が口を開いた。

「ギルドマスターに会いたいんすけど」

 ジェラードは今来客対応中だ。だが、それを伝えたところで「出直す」と言いだすような雰囲気ではなかった。

「分かりました。ギルドマスターは今立て込んでるので、終わるまで待っててくださいね」

 少し長く待ってもらうことになるだろう。ジェラードとて暇な人物ではないが、予定に太一たちとの面会を入れるとマリエは決めた。
 彼等は待つことに対して何か言ってこなかった。「分かりました」とだけ言って、ギルドのテーブルに座ったのだ。具体的にどれだけ待たせるかは分からないため言っていない。つまり、そうまでしても話すべき事があると言うこと。

(そういえば、タイチさんとカナデさんがあんな仏頂面してるのは初めて見たかも)

 マリエの記憶にある二人は、他の冒険者では持ち得ない余裕に溢れていた。だから真剣な表情をしながらも肩の力は抜けていた。
 考えれば分かることでもない。マリエはギルドマスターの部屋に急ぐ事にした。彼等が会うためにギルドで待っている、と。

「……」

 同僚にカウンターの業務を任せて奥に引っ込んだマリエを眺めながら、ミューラは自身の記憶をもう一度掘り起こす。
 オーガ。
 体高は平均でおよそ四〇〇センチ。体重は約一五〇〇キロ。個体差があるため概算だが、強ち外れてもいないと思う。
 棲息地はエリステインでは北端の海岸線から少し南に進んだところにある荒野。北側に住む人々にとってオーガは、アズパイアに住む人々にとっての黒曜馬。
 圧倒的な体躯と強靭な肉体にものを言わせた力任せな魔物。シンプル故に強い。ミューラでも勝てはするが、太一のように力で対抗は不可能だ。
 エリステインの南側に位置するアズパイアからオーガを倒しに行こうとすれば、北の森の先にある標高五〇〇〇メートル級の山脈を越えるか、山を大きく迂回しなければならない。直線距離は、首都ウェネーフィクスまで行くのと同じ。魔物一匹を倒すための労力としては大きすぎる。
 それほどの距離が離れた場所に棲むオーガという魔物が、何故北の森にいたのか。
 そもそも冒険者ですらないカシムが何故知っていたのか。
 ミューラ自身確証には至っていないが、オーガとカシムは切り離せない気がするのだ。
 太一と奏にもこの事は伝えてある。二人の神妙な顔つきは、繋がりかけたピースが、あと一歩で繋がらないもどかしさからだろう。
 三人の思考が戻ったのは、マリエがギルドマスターの手が空いたことを伝えに来てからだった。
 マリエに連れられ、ジェラードの部屋に案内される。
 形式通りの挨拶を手短に済ませ、早速本題に入った。

「オーガがいた、だと?」
「ええ」

 顔をしかめ、この部屋の主、ジェラードが呻いた。
 苦虫を噛み潰した表情が、事が重大であると理解させる。彼の横では、マリエが言葉を失っていた。

「バカな……。そんなことが」

 ミューラは嘘を言っているのか。そんな思いを胸に、ジェラードは彼女を見る。
 分かっている。そんな嘘をついて彼女に一切の得など無い。こうしてジェラードとの面会をいきなりねじ込んで来る程だ。

「何故オーガがいたのかを突き止めて対処しない限り、北の森は危ないわ」
「うむ。しかし……」

 ミューラの主張はとても正論。
 早急に調査を開始し、北の森への立ち入りを禁ずるべきだ。
 ジェラードとてそれが最善だと分かっている。杞憂ならそれも良し。安全なことが確認されるのだから何も問題はない。
 オーガクラスの魔物が出る森は、最早かなりの危険地帯だ。だが、いくつか考えられたその可能性が、ジェラードに頭痛を覚えさせた。

「く……仕方あるまい。オーガの件が解決するまで、森への立ち入りは許可制だな」
「うん。それがいいと思う」

 ミューラとしても、オーガがいる、と街の人々に告げるべきかは迷っている。
 今まで危険はゴブリンとフェンウルフだけだったのだ。闇雲に不安がらせるのが良いとは思えない。
 とはいえ、それで余計な被害が出ては本末転倒。

「ジェラードさん」
「む?」

 奏が神妙に口を開いた。

「次、カシムさんに突っ掛けてみようと思います」
「……」
「これは賭けです。でも、農夫として過ごしているはずの人がオーガを知ってたりと、疑わしいところが多すぎます」

 慎重な奏から聞くとは思わなかった言葉。
 本当に、驚かせてくれる。

「ふむ。だが相手は依頼主だぞ。違ったらどうするのだ?」

 奏の脳裏に『疑わしきは罰せず』という言葉が過る。
 だが、奏はあえてその言葉を頭から消した。

「その時は……」
「謝るよ」
「ほう?」

 今まで黙っていた太一が言う。

「疑ってごめんなさい、ってな」
「それで許してくれればいいがな」
「まあね」

 太一は笑う。どこからそんな自信が出てくるのか。

「オッサンだって、あのカシムってやつがきな臭いって思ってるんじゃないの?」

 その通りだ。太一たちとの初顔合わせといい、オーガを知ってる事といい、まるで、暴かれるのを待っているかのような……。

「……そういうことか」

 合点がいったジェラードを見て、太一がニッと笑う。

「もしカシムがそうなら、迂闊過ぎると思うんだ。どんな思惑かは分からないけど、向こうがわざとやってるなら納得がいくだろ?」

 その道のプロならあまりにも杜撰。ジェラードがそういう依頼を行うなら、念には念を入れて農家の人間になりきる。
 太一もそう思う。映画なんかに出てくる凄腕のスパイがこういう真似をするときは、大抵はわざとだ。
 奏が強気に出ると言い切ったのも、太一が抱いていた違和感の理由を聞いたからだ。

「せっかくのお誘いだから、乗ってやろうかと思ってさ」
「おなごの前だからってかっこつけおってからに」
「俺男だもん」
「ふん。いいだろう。好きにやれ。ヤバい事になったらワシも力を貸そう」
「頼りにしてるぜオッサン」

 話は纏まった。
 次の巡回警備は明日。
 勝負の時まで、残り一二時間。
太一が強すぎて戦闘らしい戦闘になりません(笑)

読んでくださってありがとうございます。
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