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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

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北の森のメリラ

ダンジョン期待されてた方ごめんなさい。
こういうプロットだったんです。
 次の定期馬車は大体二日後。
 立ち寄った道具屋の主人に、炭坑探索の依頼を受けたと話したら教えてくれたのだ。聞けばユーラフとは昔から取引があるとのこと。
 薬草や干し肉、水を入れる革の袋等を買い込む。定期馬車は食事等を出してくれるわけではない。利用者が自分で用意するのだ。それを忘れてしまうと、味わうのは空腹と喉の渇き。恵んでくれる人も稀にいるそうだが、それはそれて恥ずかしい。
 二日分の食料。結構な量だった。
 荷物がたくさん入る魔術が施されたものもあるにはあるが、物凄く高価。アズパイアのような辺境の街にはそもそも置いてない。
 最もかさ張るだけで、重さそのものは問題にならないのだが。
 馬車が来る日までは適当な依頼をこなしつつ。
 さあ出発しようかと馬車が来る西の門へ向かう途中で、見知った顔が前を横切った。

「あれ。マリエさんじゃないですか」
「あっ! タイチさん! カナデさん! ミューラさん!」

 こちらを見つけたマリエが、安堵の表情を浮かべて駆けてきた。
 何だろうか。
 思わず面食らっていると、マリエは太一、奏、ミューラの顔を見渡した。

「ギルドへ来てくれませんか?」
「えっ?」

 マリエの言葉にもう一度面食らう三人。今は依頼遂行中である。
 ただ「はい分かりました」とは言えない。

「ちょっと待って。あたしたちこれからユーラフに行かないといけないのよ?」

 その依頼を受理したのは他ならぬマリエである。

「分かっています。ギルドの都合ですから依頼失敗にはなりません。是非三人にお願いしたいんです」

 何となく断りづらい空気が漂う。わざわざ探しに来たということは、状況に余裕が無いと解釈することも出来る。

「行こう。太一、ミューラ」
「ん」

 奏の言葉を間髪いれずに肯定する太一。あれだけはしゃいでいたのに随分な変わりようだ。

「……仕方ないわね。炭坑は別の機会に行こうか」

 予定が乱されてしまったが、まあ、こんなこともあるだろう。美麗な眉を一瞬だけ潜めて、ミューラは気持ちを切り替えた。
 マリエに連れられて入った部屋は、ギルドの会議室である。
 そこには数人の男たち。そして、ギルドマスター、ジェラード。彼がいる時点で、何やら良くない臭いを感じる。
 男たちも関係者だろう。彼等はみな、よく日に焼けた顔をした中年の男だった。

「ほう。間に合ったか。でかしたぞマリエ」
「久々だなジェラードのオッサン」
「はっは。お前の無礼さが逆に新鮮だな」

 アズパイア有数の実力者であるジェラード。太一のように恐れもなく馴れ馴れしくする者はそういない。

「で、どんな用なんですか?」

 流れをぶった切ってミューラが前に出る。いつぞやか、エルフとドワーフの仲は良くないと聞いた気がする。だが、ミューラ個人はドワーフを特別敵視していない。予定を乱されたからだ。

「うむ。彼等の依頼内容を聞いてな。お前たちが適任だと判断した。ワシの権限において発令する、ギルドからの指名依頼だ」

 指名依頼。
 失敗の許されない依頼が来たときに発生するものだ。ギルドが依頼を必ず解決出来ると太鼓判を押す冒険者が選ばれる。即ち、この冒険者は優秀だと、ギルドが公式に認めることに他ならない。
 太一たち三人はDランク冒険者チーム。異例中の異例だ。

「あたしたちが適任?」
「どういう事です?」
「そう急くな。それも説明してやる」

 ジェラードは男たちを一瞥した。

「もう予想は着いてると思うが依頼主は彼等だ。依頼内容は北の森の巡回警備の護衛と密猟者の捕縛の補佐、そして密猟者を護衛する魔術師の撃退。報酬は五〇〇万ゴールド。一〇〇万ゴールドは先渡しだ。期間は密猟者の捕縛及び魔術師の撃退まで」
「五〇〇万? 二年は働かなくていい額じゃん」
「バカ。それだけ困難な依頼って事じゃない。犯人見つからなきゃいつまでもやるのよ?」
「あ、そうか」

 因みにこの報酬額は、長引いた場合の補償も含まれている。内容を考えればそこまで破格ではない。農家団体と街が身を切って捻出した額である。

「因みに何が密猟されてるんですか?」

 北の森で何か採れると聞いたことはない。せいぜい猟師の狩り場、そのくらいだ。

「市場で買い食いせんかったか? メリラだ」
「メリラかあ」

 あのパイナップル味のグレープフルーツ。他の果物の三倍はする値段だが、瑞々しさと甘さがはまってしまう逸品。太一と奏も何度奮発したことか。高いと分かっていてもつい食べたくなってしまうのだ。

「アズパイア一番の名産品だ。北の森でだけ採れるんだが、最近密猟者に乱獲されているのだ」

 ここ一ヶ月で、値段が倍近くまで高騰した。
 街に安くはない権利費を毎年支払うことで収穫に参加できるようになるという。
 そもそも、北の森のどこでメリラが採れるのか、まずその情報料が半端ではない。メリラの農家となるまでに凄まじい投資が必要なのだ。
 メリラは簡単には採ることが出来ない。日照量が基準に達しなければ実が成らない。少し水が足りないだけで甘さが半減してしまう。きちんと日が当たるよう周囲の植栽を含めて管理し、水が足りなければ川から引く。森の中というのも、畑での栽培よりも難易度が高い理由だ。
 緻密な計画を立てなければ、市場の流通にすぐ影響する。
 貴重な果物だと、素直にそう思った。
 北の森で採れるというのも、依頼遂行で必要だからであり、この情報を正規ルートで買おうと思ったら一〇〇万ゴールドはするという。
 本来もっと高値で売れてもいいのだが、そこは農家と商人の企業努力の上に成り立つという。
 話を聞けば、密猟者が出てもおかしくなかった。

「うーん。確かに重要な案件だと思いますが、わざわざ指名依頼にする理由はなんですか?」
「うむ。先程魔術師の護衛がいると言ったな?」

 確かに聞いた。

「彼等の仕事仲間の一人が、その魔術師に怪我をさせられた。奴さんが使った魔術の目撃情報を検討した結果、密猟者の護衛は最低でもBランク冒険者相当の腕前があると判断した」

 人が襲われているという情報は、緊張感を生み出すのに充分だった。
 Bランク冒険者。バラダーたちと同等。魔術師と考えれば、メヒリャを相手にすると考えた方がいい。確かに、並の冒険者には辛いだろう。

「バラダーさんたちじゃダメなん?」

 太一は思い浮かんだ事をそのまま口にしてみる。

「ダメということはない。だがあいにく長期間の護衛依頼に出ていてな。今街にいる冒険者で一番信頼出来る実力者がお前たちだ。これは街の名産を守る依頼だ。生半な輩に任せていいものではない」

 そう言い切って、ジェラードは口を閉じた。どうやら太一たちに伝えることはそれで全てのようだ。奏とミューラが頷く。この話を聞いたら、断る理由はなかった。

「分かった。受けるよその依頼」

 不安がないわけではない。話を聞く限り、太一と奏にとっては、この世界に来て初めて相対する強敵である。もしかしたら怪我を負うかもしれない。
 だが、わざわざ名指しされたのだ。腕は立っても経験値が心許ない太一たちに依頼するのは、ジェラードにとっても苦渋だったに違いない。
 自分達が持つ常識外の力、チート能力を信じてみる気になった。

「頼んだ。聞いての通り、あんたたちの護衛は彼等に一任する」

 やり取りを聞いていれば、それは言われずとも良く分かる。だが、納得出来るかと言うと別問題。太一たちの倍以上は軽く生きている農夫たちから見て、太一と奏、ミューラは冒険者気取りの子供にしか見えない。

「大丈夫なんですかい? わっぱにしか……」
「心配いらん。戦闘力は保証する」

 ギルドマスターの言葉は重い。冒険者でないとはいえ、農夫たちもそれは分かっていたのだろう。
 質実剛健の塊のようなジェラードにきっぱりと言われ、反論は封じられた。

「そうですか。では貴方を信じましょう」
「お、おい……」
「我々は荒事は専門外。だからギルドに依頼したんですよ? プロの言葉なら、従うのが得策でしょう」

 そう仲間たちを説得したのは、農夫の仲では比較的若い男。

「私の名はカシム。頼みますよ、若い冒険者さん」
「太一だ。こっちは奏とミューラ。解決出来るように努力するよ」

 二人はがっしりと握手を交わした。

「……?」

 太一は違和感を覚える。彼は農夫のはずだ。だが、それにしては。
 それぞれと挨拶を交わし、農夫たちはギルドを出ていった。
 依頼状を作ってくると言って、マリエが会議室を辞した。残ったのは太一たち三人とジェラードだけだ。

「……どうしたタイチ」

 自分の右手を見つめて動かない太一に、部屋を去ろうとしていたジェラードが足を止めた。

「あのカシムってヤツ、変だ」
「何だと?」
「太一?」
「どういうこと?」

 三人の声を聞いて太一が顔をあげる。彼自身も戸惑っていると顔に書いてある。

「なあオッサン。あのカシムって農家なんだよな? 間違いないんだよな?」
「うむ」

 力強く頷くジェラード。

「ミューラ。農家が畑耕すとき何使うんだ?」
「え? 鍬よ?」

 当たり前の事を問われて不思議そうな顔をするミューラ。

「……あいつの手、何であんなに綺麗なんだろう」
「……」

 ここにいるメンバーは皆賢いし、洞察力も低くはない。太一が何を言いたいのか理解できた。
 太一が見たカシムの手は、農作業に従事する者特有の節くれも無ければ、掌にタコも無かった。
 メリラ農家は、何もメリラだけを生業にしているわけではない。皆自分の畑を持っているし、そこで仕事も当然している。農具を握らない訳が無いのだ。
 もちろん農家になったのはつい最近だからという可能性も無いことも無い。
 しかしこの世界での常識は、農家は親の畑を継ぐもの。幼い頃から修業を兼ねて手伝いも当然するものだ。不自然な要素だった。

「……警戒する必要がありそうだな」
「そうですね」
「タイチにしてはナイスな観察力」

 メリラ農家側に『異物』が紛れ込んでいる可能性がある。この段階で気付けたのは、確かに太一のファインプレーだ。
 だが、太一が覚えた違和感はそれだけではない。それが具体的にどういうものなのか説明が出来ないのがもどかしかった。
 明日から、本格的に北の森の巡回警備が始まる。
読んでくださってありがとうございます。

第二章もそろそろ折り返しです。
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