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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

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どの世界にも、イチャモン付けてくる人はいる。

鉄板。テンプレ。お約束。

分かってても、書かずにはいられませんでした。
 ミューラと合流してからは、あちらこちらで声が掛けられた。
 彼女の容姿と実力はアズパイアではかなり有名なようだった。

「すげえなミューラ。大人気じゃん」
「ミューラ可愛いからね」

 贔屓目なしに、ミューラは美人である。それは太一はもちろん、奏も認めている。
 自分の容姿がどういうものかあまり理解していない彼女の事だから、そういう事を言われても嬉しくないかと思いきや。

「何よ。褒めたって何も出ないわよ!?」

 と、ツンデレ(太一談)の名に恥じないお約束の返事が返ってくるのだった。
 照れて紅くなるミューラ。感情を表すのが珍しいのか、街の人々も皆驚いている。この街にいたとき、彼女がどれだけ無愛想だったかを知らしめるものだった。
 アルメダに心底驚かれながらミューラの部屋を奏との相部屋で取り直し、パパッと夕食を摂って、集まったのは奏とミューラの部屋。本当は食堂でも良かったのだが、良くも悪くも目立ってしまうミューラが共にいるので、人目のつかない場所に移動したのだ。

「さて。早速動こうと思うんだけど、タイチとカナデは平気? ……ううん、訊くまでもないわね」

 愚問だった。

「近い内馬車で少し遠くまで行こうと思う」

 少し遠く。
 日本にいたころなら。関東から関西まで五〇〇キロの距離も新幹線で三時間。朝出発して昼には着いてしまう。金と時間さえあれば、「そうだ!」という思い付きで京都に気軽に行けてしまうのだ。しかしこの世界では五〇〇キロは、もう壮大な旅である。
 五〇キロの距離だって、細かい差異はあれど一時間で移動できてしまう環境だったのだ。
 日本の移動手段の話になったとき、レミーアの家から首都ウェネーフィクスまで、ものを選べば二時間掛からないと言ったら大層驚かれたものだ。
 この世界には魔術という便利なものがある。だが、魔術も万能ではない。レミーアやミューラのリアクションを見れば、すぐに思い至ったのだった。

「どのくらい離れてるの?」
「そうね。馬車で二日かしら。ダンジョンに潜るわ」

 ダンジョン。その妖しくも魅力的な響きに、太一はビビッと来てしまった。

「ダンジョン? どんなところなの?」

 辛うじて響きに騙されなかった奏が問い掛ける。

「そうね。五〇年前は炭坑だったところよ。盗賊が塒にして罠が仕掛けられまくった挙げ句、今は魔物の巣窟になってて、危険なところ」
「罠! 魔物! みなぎってきた!」
「うっさい」

 騒ぐ太一を奏が一喝して黙らせる。

「アズパイアから街道を西に向かうと村がある。そこからダンジョンに入ることになるわね」
「なるほどね。馬車ってそんな頻繁に出てるの?」

 片道二日。そうおいそれと行ける距離ではない。

「大丈夫よ。向こうの村にとっては、この街での買付は死活問題だから。半月に一度は出てるの」

 なるほど。それなら納得である。
 目的の村はユーラフ。炭坑での採掘がメインの収入源。しかしミューラが言った通り、凄まじい危険が伴うのだ。だから定期的に冒険者など腕の立つ者に潜ってもらう必要がある。かなり危険で対象を選ぶため、炭坑探索の依頼は常に出ていると言うのだ。
 掘り出した鉄鉱石等は武器防具の原材料でもあるため、冒険者側にとっても重要だ。持ちつ持たれつの関係と言うわけだ。

「次の馬車がいつ来るかにもよるけれど、そう待たないはずよ」

 確かにどんなに待っても二週間。そこまで待つものでもない。その間依頼を受けていればいいのだ。

「なあミューラ」

 ずっとダンジョン攻略の妄想をしていたらしい太一が、ふと問い掛ける。

「どうしたの? 何か分からなかった?」
「んにゃ。その依頼って冒険者ランクはいくつだ?」
「えっと、Dね」
「あらー。そんじゃ無理だな」

 心底残念そうに言う太一。太一も奏も、今のランクはEだ。力尽くで最速攻略記録も樹立出来る実力を持っているが。

「忘れたの? チーム組んでれば、一つ上のランクの依頼も受けれる事」
「「あ」」

 完全に忘れていたようだった。

「それに、あたしも二人のチームに入れてもらうからね。実力的には十分の筈よ」
「十分っていうか……」
「下手な盗賊集団より脅威じゃね、俺ら」

 太一。
 奏。
 ミューラ。
 どこの貴族領を滅ぼす気だろう、とは言わないミューラだった。




◇◇◇◇◇




 予定としてはまずミューラのチーム加入手続きと炭坑探索の依頼受領。そしてユーラフの馬車がいつ来るかの情報収集。馬車がすぐ来るならその準備。来ないなら手頃な依頼をこなす。
 行動は至ってシンプルだ。

「ミューラさんが加入、ですか……」

 疲れた様子で、マリエが呟いた。太一と奏はどれだけ人を驚かせれば気が済むのだろう。昔の事とはいえ、元Aランクのジェラードを軽く越える実力を持つのに加えて、この冒険者ギルドで最も目立つ存在であるミューラとチームを組むなんて。

「あれ、何か不味いすか?」
「そんなことは無いです……手続きは名前を書くだけですし」

 ミューラとチームを組む意味を、いやチームを組める意味を、太一と奏は分かっているのだろうか。
 太一の後ろで談笑する奏とミューラ。どうやら知己のようだ。何も心配していない彼女たちの様子を見て、「分かってないな」とかぶりを振るマリエ。太一はマリエのリアクションの意味が分からず、首をかしげるばかりだ。

「はい。これでミューラさんはタイチさんのチームのメンバーになりました。他に何かありますか?」
「これ受けます」

 さらっと渡されたのは、ユーラフの炭坑探索依頼書。マリエはめまいがした。
 Dランクにおいて最も難易度と危険度が高い依頼である。これを三人で受けて達成出来るのなら、Cランクの実力十分と断言してもいいくらいだ。
 もしマリエだったら、自分と同じくらいの実力者を最低でも六人は確保したいところだ。

「えーと、ユーラフ炭坑探索ですね……はい、確かに処理しました」

 疲れたようにカウンターに突っ伏すマリエ。
 目立ちたくないと言っていたではないか!
 そう声を大にしたい気分だった。

「はあ……タイチさん。一応言っておきますが、無理はしないでくださいね?」
「分かってますよ」
「本当ですかー?」

 太一と奏は、Eランクの依頼を二つ受けただけで、五〇万ゴールドを荒稼ぎしているのだ。もうそれだけて無理どころか無茶苦茶なのだから。
 ぶっちゃけマリエの二月分の稼ぎである。
 その実力と才能に、ちょっぴり嫉妬しているのも否定出来ない。

「今回は勉強の為なんす。ヤバかったら速攻で引き揚げるっす。命あっての物種なんで」

 全く。口だけはよく回る。そんな風に言われたら、強く出れないではないか。

「……分かりました。今回はそれで納得しておきます」
「助かります」

 太一は軽く頭を下げて、カウンターに背を向けた。
 ギルドを出ていく三人の背中を見送る。
 と、その三人を追うように、五人の冒険者が出ていった。

(まさか……ね)

 マリエの予感は、残念ながら外れなかった。

「おい」

 後ろから声が聞こえる。自分達に掛けられたものだと思わなかった三人は、気にせず目的地に歩いていく。

「おい! 返事くらいしたらどうだ!」

 太一の肩が強く掴まれた。がくりと足が止まる太一。常に強化をしている訳ではない。強化が無ければ普通の一五歳だ。

「何か用すか?」
「ああ。ちょいとテメェに話があんだよ」

 振り返った太一が見たのは、屈強な男五人組だった。見れば、全員がにやついている。正直きもちわるい。

「こっちに、あんたたちと話すことは無いんすけど」
「テメェになくてもこっちにゃあんだよ。大人しく言うこと聞きゃいいんだ」

 横柄な。
 奏とミューラが騒ぎに気付きこちらを見ている。あまりいい感情を抱いていない顔だ。
 周囲の人々が、太一と五人から距離を取った。

「はあ……で、なんすか?」

 心底面倒臭げに先を促す太一。
 絡んできた先頭の男が、満足げに口を開いた。

「テメェ、金の剣士とチーム組んだんだな」
「それが?」
「俺たちが先に誘ってたんだぜ? それを横からしゃしゃりでてくるとは感心しねえな。なあ?」

 残りの四人も頷いている。ああ、こいつら絡んできてるだけだ。太一はそう確信した。こういう輩は相手しないに限る。

「縁が無かったんすね。残念。じゃ」

 肩を掴んでいた手を払って踵を返そうとする。今度は更に強い力で腕を掴まれ止められた。少し痛かった。自分で良かったと思う。

「おいおい、心が籠ってねえな」
「……じゃあどうすりゃいいんすか?」

 その言葉を待っていたのか、男たちは笑みを深くした。これはロクなことは言われないな、と感じる笑みだ。

「金の剣士と、黒髪の嬢ちゃんを俺たちのチームに移籍させな。そうしたら、テメェの失礼も大目にみてやらあ」

 予想通り過ぎる展開に、ちょっとは捻りが欲しくなってしまう。

「テメェに代わって、俺たちが冒険者のイロハを教えてやるよ。モチロン夜の方もな!」

 ギャハハと響く笑い声。
 奏もミューラも、嫌悪を隠そうともしない表情だ。
 太一ははじめて、力を持っている事に心から感謝した。

「奏、ミューラ。こいつらお仕置きしてもいいよな?」

 軽い口調だ。笑みさえ浮かべている。
 奏の横で、ミューラが息を呑んだのが分かった。
 付き合いの長い奏は分かる。太一の目が笑っていない。あそこまで怒った太一を見たのはいつぶりだろうか。

「あ? テメェ誰に向かって口きいてんだ? ちょっと先輩に対する礼儀を教えてやるよッ!」

 殴りかかってくる男の拳を、左手で受け止める。はっきり言って、遅い。ビデオのコマ送りかと思うほど。施しているのは一〇の強化なのだが。
 まさか止められると思っていなかった男は、目を丸くした。鍛えているように見えない太一の腕は細い。

「礼儀か。是非教えてくれるか? 先輩」
「ご……お、お……」

 男は顔を赤くして唸っている。動かせないのだ。太一は左手を小指側にゆっくり捻っていく。

「ぐあ……っ!」

 関節をあらぬ方向に捻られ、男が苦鳴を漏らした。掴んだ手を離しながら押してやる。痛みから解放され、男がたたらを踏んで蹲った。

「もういいだろ?」

 気のない太一のセリフ。これで退いてくれればと思ったが、まだ甘かった。五人で突っ掛かった冒険者たち。人の往来で恥をかかされて黙っているわけにはいかない。人それを自業自得というが、彼等は退けない。面子がかかっているのだから。
 そういうのは割とどうでもいい太一と奏、ミューラにとっては理解できない感情の揺れである。

「テメェら、何見てやがる! このガキ黙らせろ!」

 痛めたらしい右腕を押さえたまま、男が叫ぶ。それに合わせて四人が一斉に得物を抜いた。たちまち、悲鳴がそこかしこから上がる。街の中で武器を抜くなど、マナーが全くもってなっていない。
 彼等はこうして今までもやってきたのだと、推測するには十分だった。

「あーあ、抜いちゃった。もう言い訳出来ないぞ?」
「抜かせ! ガキ一人に何が出来る!」

 残りの四人が、最初に殴りかかってきた男と同じくらいの強さなら、彼等の無力化は問題ない。
 ククリナイフを上段に振りかぶって接近してきた男。その降り下ろしの一撃は、殺す気満々だった。それはマズい。だいぶ腹は立ったものの、彼等を貶めるつもりはない太一。男の懐に入り込み、ククリナイフを握る手首を掴んでひねり、ガードの甘いボディにリバーブロー。カランと乾いた音を立てて、ククリナイフか転がった。格闘技など知らないため、強化しているからこその手段だ。
 武器を持つ冒険者を、細身の少年が武器も抜かず、目にも止まらぬ速さで無力化させた。呆気に取られる男たち。いや、この騒ぎを遠巻きに見詰めていた者たちも同じである。
 太一はククリナイフを拾い上げ、悠然と男たちの元に向かう。

「な、何のつもりだ!」
「何のつもりかって? 先に抜いたのはそっちだぜ? 俺が抵抗しなきゃ殺す気だったんだろ?」
「……」
「殺すつもりだったってことは、殺されても文句は言わないんよな?」

 かつて読んだ剣客漫画の登場キャラクターが取っていた構えを真似てみる。実際に剣の腕が上がるわけではない。この場のイニシアチブを握れたため、少し箔をつけるためのポーズだ。
 自分で思った以上に様になっていたようで、彼等は一様に顔を青くしていた。

「わ、分かった! 俺たちが悪かった! もう見逃してくれ!」

 都合のいいことを。
 別に彼等をどうこうする気はないのだが、もう一言位は言っておいていいだろう。そんな気がした。

「そうやって助けを求めてきた相手に対して、あんたらは今まで何と言ってきた?」

 返事はない。いや、出来るわけは無いだろう。彼等の振る舞いを考えれば、答えを聞くまでもないのだから。
 太一はククリナイフを肩関節から先だけ使い投擲した。最初に殴りかかってきた男の足から二〇cmのところに突き刺さる。男が悲鳴を上げた。

「次は威嚇じゃ済まなくなる。その辺覚えとけ」

 縺れる足取りでそそくさと退散する五人組。その姿を見送ってから、太一は踵を返す。奏は「ナイス!」的な顔で、ミューラは「意外な一面を見た」的な顔でそれぞれ迎えてくれた。

「あんたやるねえ!」

 ばしんと背中が叩かれた。

「おふっ!」

 思わぬ衝撃に、肺から空気が少し抜ける。

「あいつらを懲らしめてくれてスッキリしたぜ!」「見たかよあのツラ!」「これで少しは懲りてくれるといいわね」「手がつけられなくてこまってたんだよ!」

 四方八方から届く賞賛と感謝の言葉。彼等は色々な人に随分と迷惑をかけていたらしい。
 彼等に抵抗する術を持たない人々からすれば、太一は救世主だろう。
 意図せずならず者にお灸を据えて、一躍ヒーローとなった当の太一はと言えば。
 急に頭を抱えて蹲った。

「やっちまった……恥ずい……埋まりたい」

 どうやら結構頭に血が昇っていたようで、自分の行いを思い出して悶えていた。
 随分と人間臭いヒーローを見て、皆思わず笑った。
 街角には和やかな空気が流れていたのだった。
土日は随分と書けました。
のでストック二つ目放出します。
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