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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

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金の剣士

誰が出てくるでしょうか?



クイズにすらなってないですね(笑)
 ウェネーフィクス。
 エリステイン王国の城下町。他国からは畏怖と敬意を持って『王都』『首都』と呼ばれる、魔術の象徴とされる大都市である。
 交流が盛んで、自国他国問わず様々な者が訪れるこの街。活気に溢れているのが平常のウェネーフィクスは、しかし今は陰鬱な空気に支配されていた。
 首都の玄関口である東の大正門。太一と奏が思い浮かべるのは巨大な関所と言ったところか。経済活動の活性化のため、広い門戸を開いているはずなのだが。
 現在、入都しようとやってきた者達が長蛇の列を作っていた。
 混雑か。
 否。
 待たされてもせいぜい数時間のこの門で、二回夜を明かすことがおかしい。
 門の近くで並んでいた商人の男。彼はエリステインの北側を数ヶ月かけて旅をし、各地の名産を取り揃えてようやくウェネーフィクスに辿り着いた。
 この地を訪れるのは初めてではない。過去数回も、幾分待たされた記憶があった。
 最初の数時間は待つのも予想済み。
 半日が経ち、「今回は手間取っているんだな」と感じる程度。
 一晩明けて「何やってんだ?」と思うようになった。
 そして今、二度目の朝を迎えた。限界を迎えたのは彼だけでは無かっただろう。
 最初は小さな不満が燻っていただけ。二日も野宿させられれば、文句の一つも浮かぼうというもの。火は瞬く間に燃え上がり、今はそこかしこで大炎上だ。

「いつまで待たせんだ!」
「門番は何やってやかる!」
「責任者出しやがれ!」

 飛び交う罵詈雑言。彼らの憤りも当然だ。なんの説明も無しに突如として門が閉ざされ、訳も分からずに待たされる。その間の釈明は一切無し。
 やがて沸騰しきった一部の者が「門をぶっ壊すぞ!」と騒いだところで、城壁の上に人影が見えた。
 この門を破壊するなど、常識の範疇では不可能である。高さ五メートル。厚さ数十センチの巨大な門だ。表面には強固な反魔術結界が施されている。宮廷魔術師を一〇〇人集めてようやく突破出来るだろう。
 そうだ、やっちまえ、と周囲も囃し立てる。
 言った本人とて、出来るとは思っていない。
 頭にきて吐いた、言うなれば単なる暴言。
 乗っかった周囲も同じ。
 説明も釈明も無いまま待たされた鬱憤晴らしだ。
 誰もがそう思う中。
 城壁の上に立つ者だけが、そうは思わなかった。

「この場にいる者全て、王国に仇成す危険分子の可能性ありと確認した!」

 空気が、固まる。

「全員引っ捕らえろ! 抵抗されたら殺害を許可する!」

 固まった空気が、どよめきとなって動き出す。

「ドルトエスハイム家の名に於いて、貴様らを拘束するッ!」

 ドルトエスハイム家。
 エリステイン魔法王国の建国以来、三〇〇〇年を支えてきた公爵家。世界的にも名の知れた貴族。大物中の大物。王族といえど、容易くは扱えない存在。
 普通に生きていたらまず関わりの無い名前だ。
 予想外の名に止まる時間。
 その時、門が重厚な音を立てて開いていく。
 その先に悠然と構えていたのは、二〇〇〇を超える完全武装の騎兵隊だった。
 逃げ惑う人々と追う騎兵。
 阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出した人物は、満足そうに二度頷いて、悠然と背を向けたのだった。



◇◇◇◇◇



 このクーフェは、異世界に来て一番美味しいかもしれない。目の前のカップを見ながら、奏は正直にそう思った。

「どお? 美味しい?」

 テーブルを拭いて回っているアルメダからそんな声が届いた。

「うん。凄く美味しい」
「良かった。クーフェ淹れるの苦手なんだよね」

 これで? 下手な喫茶店より美味しいのに。苦笑するアルメダを見ると、今の言葉は本心のようだ。
 舌が肥えていると言う気は無いが、少なくても今まで飲んだ中では五指に入る味だ。

「大丈夫。これならお金取れる」
「大袈裟」

 大袈裟なものか。
 アルメダも満更でもないようで上機嫌になっている。
 ちらほらと他の宿泊客がやってきていた。そろそろ街が動き出す時間帯。奏が普段起きる時間帯でもある。
 とはいえ、奏の実際の活動開始はまだまだ先。共に冒険者をしている面倒臭がりな少年が起きてからだ。
 多少の寝坊なら大目に見るが、度が過ぎるなら叩き起こそう。そんな事をちらりと考えつつ、目の前の絶品クーフェに舌鼓を打つ奏。
 一時間が経ち、二時間が経ち。朝食を摂って部屋に戻って身嗜みを改めて整えて。
 奏は今も食堂でのんびりしていた。
 太一の朝は遅い。流石に奏と約束していれば、そこそこきちんと起きるのだが、何もない日はぐっすり寝る。
 本当に良く寝る。
 呆れる程良く寝る。
 結果として、太一が起きたのは午前九時の鐘を目覚ましにしてだった。

「ふあああぁ……」

 盛大な欠伸をしながら食堂に降りる太一。アルメダとお喋りに興じていた奏が太一に気付き、思いっきり呆れた顔をした。

「おはよう奏……とアルメダ」
「おはよう太一。ぐっすり寝れた?」
「おう。お陰様でな」

 嫌味に気付け、と心の中で毒づいてみる。

「わたしはついで?」

 お姉さん悲しいなー、と溜め息をつくアルメダ。

「嘘つけぃ。んなことこれっぽちも思ってないだろ。それと同い年な」
「お! 突っ込み鋭くなったねえ」

 定番のやり取りである。奏の「またか」という顔がそれを物語っていた。

「今クーフェ淹れてくるから。ストレートでいいんだよね?」
「それでいいよ」

 地球にいたときからブラックでコーヒーを飲んでいた太一。最初はかっこつけであった。苦い思いと顔をしながら、それでも飲み続け、いつしかブラックを美味しいと思うようになっていた。
 因みに奏はミルクを入れる派。コーヒー用のポーションは入れない。どうやらそこはこだわりのようである。最も、異世界にポーションはないのだが。

「はいどうぞ。生還祝い」

 クーフェ豆から挽いて淹れたそれは絶品だ。苦手とは思えない。

「サンキュー……って、何だって?」
「昨日初依頼だったんでしょ? 無事に帰れておめでとー、ってこと」
「そういうこと。ん、何とか無事に戻れたよ」
「血だらけで立ってるからびっくりしたよ」
「ああ、それはすまんかった」

 奏と同様、太一も服を借りた。これはアルメダのお父さんの服である。腰回りにそこそこの余裕があるが、まあ着るものを借りてるのだから、文句を言う筋合いではない。
 洗って返すのはもちろん、替えの服をもう少し持っておくべきだと思った出来事でもあった。

「この時間まで宿にいるってことは、今日は休み?」

 ふと周りを見渡せば、数人の冒険者らしき人物が、思い思いに寛いでいた。
 冒険者が、一回依頼を受けたら休みを取ることは知っている。普通に考えれば、連続で依頼をこなすのはかなりしんどいのだ。
 だが。

「いや。俺は今日も依頼受けに行こうと思う」

 太一の言葉を聞き、その意味を理解したアルメダが目を丸くした。
 だったら早く起きなさい、と刺してくる奏の視線には気付かない振りをする。依頼を受けたいという考えは奏も今知ったのだが、それについての突っ込みが無かったのはありがたい。

「大丈夫なの? 昨日結構大変だったんでしょ?」

 確かに大変だった。精神的に。
 しかし肉体的にはピンピンしている。一晩寝れば、回復出来る程度の疲労しかなかった。
 なので、こう答える事にする。

「俺も奏も、体力が一番の取り柄なんだよ」
「私は太一ほど体力無い」

 彼らの不思議さは体力うんぬんで片付けられるものなのか。
 やり取りを見て、アルメダは割と本気で首を傾げていた。



◇◇◇◇◇



 たん、と軽やかな音を立てて、太一が着地した。

「採れたー?」

 奏の声が届く。

「おー。採れたよー」

 離れた場所にある林の前で屈んでいる奏に向かい、太一は答える。今しがた飛び付いた崖の位置を見上げた。
 凡そ一〇メートル。結構高さがあって苦労した。ジャンプが低すぎたり高すぎたりして、アジャストが難しかったのだ。
 結局狙った場所にしがみつけたのは、都合四回目のジャンプでだ。
 切り立った崖に生える香幻花。受領した採集依頼のひとつだ。普通は強化魔術を施して、落ちないようしっかり崖にしがみついてよじ登る依頼だが、太一は崖を見て「余裕で届く」と判断したため飛び付いたのだ。
 加工して粉末にすると、幻惑効果を発揮するらしい。魔物にも効果的で、より優位に立つために冒険者も利用する便利アイテムの元。このアイテムは中々高価らしく、報酬も結構割がいい。最も、力業で捩じ伏せる事が可能な太一に、必要性は感じない。

「そっちはどう?」
「いい感じ」

 ナイフで地面を掘っていた奏が振り向いた。土に汚れた手袋を外し、腕で汗の滲む額を拭う。
 籠にはとある植物の根が集まっている。こちらも上々のようだ。
 マギの根っこ。煎じた液体は、避妊の効果があるという。夜の町で働く女性たち必携の一品だ。何に使われるのかを聞いて、太一と奏はお互いに顔を逸らした。思春期真っ只中の男女である。
 この二つの依頼は場所がとても近いためセットで受けられるとてもオトクな依頼だが、掲示板には二日前から残っていたらしい。理由を聞いて納得した。そこは野獣が多く棲息し、更に猛毒を持つ小さな蜘蛛が大量にいるのだという。
 毒という言葉に怖じ気づいた太一と奏だったが、受けてみれば大したことはない。結界を張っていれば、蜘蛛の牙など恐れるに値しなかったのだ。
 また獣の方も、二人にとっては敵ではない。鋭い牙の野犬に近づき、頭を撫でて腹を向けさせた。群れていた野犬たちだが、今は少し離れたところで安心したように寝ている。何故彼らになつかれたか分からない二人だが、野犬たちは「強者に逆らうべからず」という本能に従った結果である。
 香幻花も採った。マギの根っこも採集すべき本数は確保した。もういいだろう。

「はー。これで防具の分取り返したか?」
「そうね。まさか一日でダメにしちゃうとは予想外だった」

 ゴブリンの血で汚れた防具は、もう使えなかった。アルメダに聞いたところ「これは捨てるしかないわね」とばっさり言われてしまったのだ。革や布にとって、ゴブリンの血は天敵だという。
 今後は気を付けよう。買ったばかりでゴミとなった防具を見て、そう強く思った太一と奏であった。

「さあて、けーるかー」

 大口を開けて欠伸をする太一に、奏は頷いた。日少し傾いた程度。人目につかないように強化すれば、夕方頃には戻れるだろう。

「ソナー魔術オッケー。うん、周囲に人はいないよ」
「分かった。……それマジで便利だな」

 太一は近くに寝転がったまま頭を起こした野犬の頭を二撫でしてから立ち上がり、前を向いて強化を施す。

「よし出発!」
「うん。街はそっちじゃないからね」

 流石の方向音痴だった。



◇◇◇◇◇



 冒険者ギルドは静かな喧騒に包まれていた。
 このところ二人の少年少女が一週間でEランクに上がり、冒険者たちの間を賑わせている。もっとも話題に上がるのは奏の方だ。この世界では珍しい綺麗な黒髪にすらりとした美人。彼らとしても、黒髪以外は平凡な太一よりも、奏の話をした方が盛り上がるというものだ。
 そんな彼らにとって、今一番ホットな話の種が、冒険者ギルドの一角で凄まじい存在感を放っていた。

「おい……金の剣士だぜ……」

 誰かが言う。

「本当だ……生きてたのか……」

 別の誰かが言う。

「相変わらずすげえ美人だなあ」
「あいつまだ一五にもなってねえって話だぜ?」
「何だよ、オマエそっちの趣味かよ」
「バカヤロ、青田買いに決まってんだろ。唾つけときゃあ三年後が楽しみってもんだぜ」
「ハッ、やめとけやめとけ。てめーみてえな凡夫を相手にするオンナじゃねーよ」
「あんだとお!?」
「やるかコラア!」
「うるせえよバカ共があ!」

 話の種になっている少女は、黙ってカップを傾けている。まるで何も聞こえていないかのように。

「金の剣士がここに来たのっていつ以来かな?」
「さあねえ。少なくても半年は見てないね」

 彼女の事が気になるのは、野郎共だけではないようだ。別のテーブルを陣取る女冒険者たちも、口にするのは『金の剣士』の話題だ。

「また依頼持ってかれちゃうなあ」
「そうよねえ。あの若さであんな強いなんて反則よ」

 彼女たちはDランク冒険者。かなり長い期間そのランクを続けているベテラン。Cランクには上がれていないが、Dランクとしては腕利きである。
 『金の剣士』は、彼女たちを歯牙にもかけない腕を持ちながら、彼女らと同じDランクの冒険者である。
 一説では、模擬戦と称してあのバラダーと互角に切り結んだとか結んでないとか。Bランク冒険者相手に、そんな噂が立つこと自体、普通ではない。
 カップをソーサーに置いてから目を閉じてずっと微動だにしなかった『金の剣士』が、ゆっくりと目を開けた。
 彼女はじっと、ギルドの入り口を見詰めている。
 少しの間。
 数分か、或いは数十秒か。ギルドに入ってきた男女。思わぬ注目を浴びて戸惑う二人
に、金の剣士が声を掛けた。

「タイチ、カナデ、二週間ぶりね」



「タイチ、カナデ、二週間ぶりね」
「ミューラ!?」
「どうしてここに!?」

 ギルドとテーブルで頬杖をついてこちらを見ているのは、レミーアの家で三週間共同生活をしたエルフの少女だった。
 ほんのりと優雅な雰囲気が漂うのは果たして気のせいだろうか。

「二人の様子を見に来たのよ。レミーアさんに言われてね」

 集まる注目もなんのその。ミューラは太一と奏に席を勧めた。二人は多少周囲の視線が気になったが、それ以上に、久々に会った友人との再会が勝った。

「レミーアさんに?」

 ミューラが頷く。

「そう。冒険者として生きるなら必要な知識はたくさんあるから、あたしが二人に教えてこい、って」
「なるほど」

 確かに知識は必要だ。今は採集や討伐だけだが、じきに護衛や探索など、依頼の幅も広がって来るだろう。或いは、二人で依頼を受けるだけでは無くなる事も有りうる。

「今日は何の依頼受けてきたの?」
「採集の依頼」
「そう」

 何を採って来たの? と訊こうとして留まるミューラ。太一と奏の事だから、Eランクの依頼の難易度はどれも同じに映っているに違いない。
 実際はEランクの依頼でも、難易度はピンキリである。下手なことを話させて周囲に余計な印象を与える必要はない。

「明日からはあたしも一緒に依頼受けるわ」
「ミューラも?」
「ええ。これでもランクDだから。冒険者としては先輩よ?」

 彼女も冒険者だったらしい。新たな事実発覚である。ミューラ自身は言わなかっただけで特に隠していなかったし、太一も奏も聞かなかっただけなのだが。
 とはいえとても心強い。腕は立つかもしれないが、冒険者としてはひよっこ、という自覚があっただけに。

「分かった。よろしく頼むよミューラ」
「私からも是非お願いしたいな」
「ええ。引き受けたわ」

 何だかレミーアの家で共同生活していた頃を思い、少し懐かしくなる三人。直後、それはたった二週間前の事だったと気付き、三人で笑った。
 この時は、三人共気付かなかった。ギルドの奥から強い視線が向けられている事に。三人は連れ立って、夕食は何にしようかとギルドを後にした。
このところ筆がよく進みます。そういう時はサクサク更新します。
更新間隔が空いたら「詰まってやがるm9(^д^)プギャー」と思っておいて下さい(笑)

読んでくださってありがとうございます。
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