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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

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22/125

over run

ちょっとグロいかもです。
R指定しといてよかった。
 複数の気配を感じるようになったのは、夕方に差し掛かってきてからだった。
 こういった討伐の依頼を受けた冒険者は、ランクに関わらず、日帰りのために朝早く出発するか、さもなくば夜営の準備をしておくのが一般的だ。暗くなったらこういう森を歩かないで済むように。
 野性動物の夜目は、人間とは比べ物にならない。木々という障害物もあるため、逃げるのも妨げられる。冒険者といえど、油断すれば狩られてしまう。
 それに対して、太一も奏も、一切不安を感じていない。昼夜関係なく、野性動物の気配を感じれる事がまず一つ目。野性動物を脅威と感じることがない、これが二つ目。その気になれば時間を掛けずに森を抜けれる、これが三つ目。最後に、森で暮らしていたからか、森の中にいることに慣れている。
 これらが、森林の中でこれ以上なく落ち着いていられる理由だ。

「いるっぽい」
「やっと見付けれたか」

 森の中を歩き続けて正味二時間とちょっと。一〇ではきかない数の気配が、太一と奏に届いている。
 ここまでたどり着く途中でやたら牙の長い狼が威嚇してきた。実戦かと思った太一は、剣の試し切りを兼ねて手頃な木を一刀両断した。どうやらそれが威嚇になってしまっようで、キャンキャン鳴いて逃げていった。実はそれがフェンウルフだとは、太一も奏も全く想像していなかったが。
 それよりも今はゴブリンだ。少し小高い場所を見付けたので、そこで息を潜めて様子を見る。パッと見で五〇匹くらい。土が盛られた穴に出たり入ったりしている。どうやらあそこがコロニーのようだ。

「……キモッ」
「同感……」

 グギャグギャとけたたましく喚いている。それがゴブリン同士の会話らしい。
 子供のような大きさで、前情報通りオスメス共に一糸纏わぬ姿。紫の肌と、ぎょろりとした目がせわしなく動いている。
 ぶっちゃければ、キモいので近寄りたくない。

「奏。巣ごと吹っ飛ばしちゃえ」
「そうしたいのは山々なんだけど……」
「ダメか、やっぱ」

 奏は腰にぶら下げた大きめの皮袋を見る。ゴブリンを退治した証拠として、耳を持ち帰らなければならないのだ。今回は全滅が目的ではないが、数の調査も兼ねるため、出会ったゴブリンの総数のおよそ半分を持ち帰る必要がある。

「しゃあない。切り捨てる。買ったのが剣で良かった」
「流石に殴りたくはない?」

 そう問われて神妙に頷く太一。あれに触れる勇気が出ない。奏も納得の表情だ。

「奏は適当に魔術撃っててくれ。出来れば逃げ出すやつを優先的に」
「ん、りょーかい」

 ゴブリンが人に害しかなさないのは既に知っている。太一は、一匹も逃すつもりはなかった。

「短期決戦で行くか」

 呟いた太一の身体から、濃密な魔力が溢れだした。真横にいる奏は圧倒されてしまう。
 どうやらゴブリンたちもこの異常な魔力に気付いたようで、殆どが立ち止まって辺りを見渡している。見当違いなところを見ているあたり、見つかってはいないようだ。

「よっ」

 軽く何かに飛び乗るような調子で、奏の真横から太一の姿が消えた。

「ギャバア!」

 ゴブリン集団のど真ん中で、緑色の液体が舞った。太一が放ったすり抜け様の袈裟斬りに、斜めに両断されたゴブリンが二つに別れて倒れて行く。

「こいつは気分いいモンじゃないな」

 嫌悪感も顕に、太一は駆け出した。
 一匹切り捨てて分かった。
 人型の魔物を倒すのは重労働だ。主に精神的に。

「うえ、吐きそ……」

 返り血を浴びたくないがために、高速で移動しながら一刀の下に叩き切る。必然的に速度はゴブリンに対しては過剰となった。
 ゴブリンのコロニーに、突如として死神が現れた。何をされたのかも分からないまま次々と殺されていく仲間。ゴブリンたちには悪夢としか思えなかった。

「ギャビ!」
「グギャ!?」
「グビ!」

 ゴブリンには視認すら出来ない圧倒的速度の死神だけでも悪夢なのに。彼の者の凶刃が届いていない仲間が、何かに穿たれて次々と倒れた。
 何事か。一匹ではない。一撃で三匹がやられた。

「ギャ? ギャボ……」

 隣に立っていたはずの仲間を見て呆けていたゴブリンの喉を、何か鋭いものが貫通する。倒れ際彼が見たのは、水の槍に撃ち抜かれる、二匹の仲間だった。

「これは、しんどいわ……」

 水の槍を精製しながら、奏は顔を青くしていた
 今使っているのはウォーターカッターを直線で放つもの。ウォーターランスとでも言うべきか。いや、ウォータービームか。
 魔術の片手間にそんな事を考えても、気分は一切不安を晴れない。
 太一と同じく人型の魔物を倒す心構えが半端だった奏も、気分の悪さに襲われていた。
 だが、この時ばかりは、奏も目を背けられない。直接剣でゴブリンを倒さなければならない太一に比べれば、奏はなんと恵まれていることか。
 遠くで狙撃するだけでこれだけ辛いのだから、あそこで接近戦している太一のしんどさは推して知るべし。太一の為にも、奏は目を逸らしてはならないのだ。
 今度は両手で魔術を練る。戦闘が始まってから三分。太一と奏は既に半数以上のゴブリンを屠っていた。



◇◇◇◇◇◇



 血の臭いが森の広場に充満する。夜の訪れを知らせるかのような不気味な鳥の鳴き声が、太一の鼓膜を揺るがした。周囲を見渡せば、先程まで奇怪な鳴き声をあげていたモノが、地面を覆うように転がっている。
 ふわふわして覚束ない。痺れるような錯覚。右手が握る剣はところどころ刃こぼれを起こしている。骨ごと叩き伐ったのだから当然か。地面に触れそうな切っ先。そこから、緑色の液体が滴っている。剣は緑色に染め上げられていた。
 いや、染まっているのは剣だけではない。剣を握る右手も。いや、腕も。全身も。この鼻を突く不快な臭いは、自分の身体から……。

「うっ……げほっ……!」

 腹の底からせりあがってくる感覚に、太一は逆らわなかった。耐えようとすら思わなかった。外に出しても出しても止まらない。止めようと思えない。
 視界が滲む。えずいているのだから当然だ。この苦しさは、吐いているからだ。決して、心が潰れそうになっている訳じゃない。

「太一……」

 こちらを窺う声。聞き覚えは嫌と言うほどある。
 この世界で、太一の心の支えである人物の声。彼女を守る力が欲しかった。だから、強くなったのだ。
 大切な親友だ。彼女を不安がらせてはならないのだ。
 戻ると決めた。また高校生活を一緒に送ると誓った。
 望みなんて儚いものじゃない。
 決定事項だ。
 だから。
 こんなところで、折れてはならないのだ。

「大丈夫だ……」

 地面に着いていた両手に力を込めて、上体を起こす。
 くらむ頭を振って無理矢理覚醒させる。
 肉体的な疲労はない。ゴブリン程度を倒した位で疲れるような、柔な力ではない。
 しかし、起こしたそばから今度は反対に倒れかかる。保っていられない。
 太一の身体を、奏が支えた。

「嘘。そんなんで大丈夫なんて、信じられると思う?」

 ズバリと斬り込んでくる奏。

「平気だって。ちょっと気持ち悪いだけだよ。吐いたし、大丈夫」
「うーそ」

 再び切り捨てられる。

「辛いのに辛くないなんて嘘言う人の言葉なんて信じません」

 反論したかったが、思い当たる節が多すぎて返す言葉がない。
 奏の手が、服が、太一が浴びた返り血に染まっていく。

「ねえ太一」
「うー……何?」
「私達、覚悟足りなかったよね」
「……」
「私は太一みたいに直接ゴブリンに触れた訳じゃない。でも、吐いちゃった」

 苦笑い。

「魔物だと分かってるのに、人に近い姿してるだけで、耐えられなかった」

 太一を襲う気分の悪さ。その原因はそれだ。

「私達、生き物の命を奪う事すら忌避する国にいたんだよね。まして、人殺しは絶対にやっちゃいけない国に」

 その通りだ。たった一五年。それしか生きていないのに、人を殺めるのはいけないと、理性はおろか本能にまで染み込んでいた。
 ゴブリンに刃を幾度も突き立てた。
 太一の中で、知らぬ間にゴブリンが人に置き換わっていた。割り切ったつもりでいたのだ。
 心が起こした防衛反応。太一が味わっている苦しみはその結果だった。

「もうゴブリンとか、人型の魔物を相手にするの止める? きっと、楽になれる思うよ?」
「……」
「冒険者は辞めれないけど、受ける依頼は選べるしね」

 奏の提案は、とても魅力的だった。
 実は、これこそが自分たちが強すぎる弊害だと、二人とも気付いていない。
 少なくとも並の冒険者と同じ実力だったなら、生き残るのに必死だった。相手が誰かなど、考える余裕など無かった。
 太一も奏も強すぎて、命を脅かされない故に起きた事なのだ。戦いながら、他の事に意識を向ける余裕があってしまったからだ。
 しばし考えて、太一は前を向いた。

「いや……やろう」
「太一……」
「ゴブリンとか、人型の魔物を倒すことで助かる人がこれから先もきっといると思う」
「うん」
「折角強くなったんだ。目に届く範囲でいいから、人助け位出来るようになりたい」
「うん」
「奏は、それでいいか?」
「いいよ」

 驚くほどあっさりと、奏は頷いた。

「異世界の事だからどうでもいい、なんて、私は思えない。出来る人助けならやりたいと思う」
「そうだな」
「こうなる事を、ジェラードさんは分かってたと思う?」
「さー……。そればっかりはなあ。日本の事は話してないし」
「だよねえ」

 ゴブリンという、ファンタジー定番の魔物と戦うことで得られたのは、報酬の権利だけでは無かった。カネを積んだから得られるものではない、貴重な気付きだった。ジェラードがこういうものを狙っていたかは定かではない。しかし、感謝してもいいだろう。

「よし、もう大丈夫だ奏」
「うん」

 すっくと立ち上がり、奏に手を差し出す。彼女は太一を支えるために、中腰になっていたのだ。手を取った奏を引っ張り上げて立たせる。
 憑き物が取れたような互いの顔を見やって、笑いあった。
 直後、ゴブリンの耳を切り取らなければならないことに気付き、どちらがやるかを喧嘩の末ジャンケンで決めたのは余談である。
 どちらがやったのかは、当人が記憶の引き出しにしまい込み、セメントでガチガチに固めて封印してしまったので割愛する。



◇◇◇◇◇



 目を開けて飛び込んできた景色は、ここ最近は見慣れた天井だった。むくりと身体を起こして伸びをする。異世界に来て一ヶ月。また豊かさを増した胸元の膨らみが、薄い寝巻きを押し上げてそこそこの自己主張をしていた。
 テレビで見掛ける巨乳のグラビアアイドル程ではない。体型に見合った、奏的に不満の無い大きさである。
 ミューラが羨ましがる逸品と言っておく事にしよう。

「んー……あふ」

 二度寝の習慣が無い奏は、目が覚めた時間が起床時間だ。
 ベッド脇のカーテンを開ける。空の彼方が明るくなってきていた。
 元から早起きだったが、今日は随分と目覚めが早い。まあ、身体は睡眠不足を訴えてこないので、特に気にはしなかったが。
 隣室の太一はまだ寝ているだろう。掛け布団を蹴っ飛ばしてるんではなかろうか。
 まだ一緒に寝たことは無いため分からないのだが。

「……何が『まだ』よ」

 自分のバカな思考回路にツッコミを入れる。紅くなっているのを誤魔化そうにも、あいにく朝焼けはもう少し経ってからだ。
 一緒に寝る。それはそういう事だ。知らないと子供ぶる年齢はとっくに過ぎている。嫌悪感が無いことにも気付いてしまい一通り悶えてから、ようやっとベッドを抜け出した。
 寝巻きから部屋着に着替え、タオルを持って外に出る。向かうのは井戸。目がさめても、顔を洗わないと何となく起きた気がしない奏である。
 まだ大多数が寝てるだろう時間帯。出来る限り足音を殺して歩く。
 裏口を開ける。その先にある井戸には、先客がいた。

「おはよう」
「あら、早いね」

 藍色の髪を後ろで結い、頭にバンダナを巻いた素朴な感じの少女と挨拶を交わす。取り立てて美人では無いが、愛嬌のある笑顔が可愛らしい娘。
 この宿の一人娘、アルメダ。歳も近く、奏とは良く話す間柄だ。

「早いのはお互い様」
「まあ。わたしは仕事だから」

 一杯に水が汲まれた桶が二つ。最初は驚いたものだ。見掛けに寄らず力持ちである。

「そうだ。昨日はありがとう」

 やっとの思いで戦利品を集め、ギルドに戻る頃にはすっかり夜も更けていた。二四時間営業のギルドに感謝しつつ依頼完了の手続きを終え、宿屋に戻った奏たちを迎えたのは、ロビーを片付けていたアルメダだった。
 ゴブリンの血にまみれた二人を見て悲鳴をあげるというオマケもありつつ、シャワー等の準備を手早くしてくれたのは彼女だ。
 寝室に戻る時間も省いて奏をシャワールームに放り込み、太一には手桶二つと大量の手拭い、更に自分と太一の着替えも用意してくれた。

「ゴブリンの血はその日の内に落とさないと大変なのよ!?」

と鬼気迫るアルメダに気圧されて、素直に従ったのは正解だった。流石に冒険者も多く宿泊する宿の娘。深夜のミスリルはある意味で戦場となった。
 今着ているのはアルメダの服。奏が着ていた服は血がガビガビになってしまい、臭いも酷かったためゴミとなってしまった。

「昨日は大変だったねえ」

 依頼そのものは正直大したことはない。しかし色々な意味で大変だったのは事実である。

「まあ、仕事だから」

 言葉遊び。アルメダは一瞬きょとんとして、その意を察したのか楽しげに微笑んだ。賢い子だと思う。

「こないだまでFランクだったのに、もうEランクになっちゃって。それで最初に受けたのがゴブリンの討伐でしょ? ホントに凄いわ」
「そうかしら?」
「そうよ!」

 アルメダが両手を握る。

「ゴブリンは簡単に勝てる魔物じゃないわ。Dランクの冒険者だって、パーティ組んで行くくらいなんだから。Eランクじゃ、尻込みする冒険者も多いのよ?」
「……そうなんだ。運が良かったのね」

 徒党を組む魔物。個々の力は大したこと無くとも、数が多いというのはそれだけで大きな武器である。奏の言葉を安堵と受け取ったアルメダは、嬉しそうに笑った。

「帰ってきてくれて嬉しい。生還祝いに美味しいクーフェ淹れるね。食堂開けるから、後で来て」
「ありがとう」

 今なら貸し切りよ、と言って、アルメダは宿の中に入っていった。
 井戸を見つめて、奏は一人考える。

「帰ってきてくれて嬉しい」
「生還祝い」

 それは、ゴブリンの討伐に出掛けて、帰ってこなかった冒険者がいたことを、奏に理解させるセリフだった。
 「帰ったら旨い酒頼むぜ」と陽気に笑って出ていって、帰ってこなかった冒険者。一晩経ち二晩経ち、やがて悟るのだ。「ああ。彼とはもう、会うことはない」と。
 あくまでもこれは奏の想像である。だが、このような事を経験した時のアルメダの気持ちは、奏には分からない。確かに冒険者は明日の知れない稼業である。アルメダにとっては従業員と客だ。だが、希薄な関係だからと、割り切れるのだろうか。もし奏が、アルメダの立場だったら。
 闘っている最中はそんな事思いもしなかった。
 ゴブリンの討伐は、危険な依頼。
 どんな魔物だったかを思い出す。口に出せない率直な感想は、「あの程度」だ。
 太一と奏にとっては、命の危険どころか、苦戦するのが難しい相手だった。一体自分達にどれだけ縛りをかけたら、ゴブリン相手に危機感を覚えるだろう。
 本当に迂闊な事は出来ない。
 自分達は異常である。この世界の常識を頭で理解しているだけの奏。Dランクのマリエを圧倒し、ゴブリンを蹂躙して、漸くその意味を実感出来た、ような気がしたのだった。

実力は飛び抜けていますが、あくまで現代日本では普通の高校一年生。
この話は、異世界ファンタジーを書くにあたって必ず入れたかったものです。





over run
有名なTCG の魔法カードから拝借しました。
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