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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第二章:元高校生は冒険者として生活してます。

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三者面談

ギルドマスターの名前を決めました。
最初から決めとけよって?
すみません、最初はここまで物語に絡んでくる予定じゃなかったんです。。
このオッサン、書いてるうちにお気に入りになってきましたw
 随分とご大層な部屋。太一が抱いた素直な感想はそれだ。
 現在二人がいるのは、ギルドマスターの執務室。ギルドマスターともなれば、その方面での権力は相当な物である。中々格の高い相手が訪ねて来たり、また招いたりもするため、威厳を保つ装いは必要となるのだ。そこに、本人がそれを好むか否かはあまり考慮されない。
 アズパイアの冒険者ギルド、ギルドマスターといえば、この世界での恩人の一人。
 二人の前に座る小さいオッサン……もとい、ドワーフのジェラード・ボガートである。

「失礼な事を考えなかったか?」

 やけに鋭いジェラードに、太一は首を左右に振った。心外だ、という気持ちを表情に乗せて。
 ジェラードがどう思っているかは分からないが、太一にとってはじゃれ合い程度の感覚である。

「まあ良い。お前達と会うのは久しぶりだな」
「そうですね。一ヶ月ぶりくらいでしょうか」
「もうそんなになるか」

 紙がぱらりとめくられる音が部屋に響いた。
 Eランク昇格試験から一夜明けて。ついに討伐や採取の依頼を受ける事が出来るようになった。
 自分たちの生活費の他に、バラダー、レミーアに返す金を稼ぐ。それにはFランクの依頼だとそこそこの時間を要する。いつまでも借金に心を縛られるのも本意ではないので、とっとと片付けてしまおう、と一致したのが、昨日の夕食のとき。Fランクの依頼達成で得られる報酬の額を一とすれば、Eランクの依頼だと一気に一〇まで跳ね上がるのだ。これを利用しない手は無い。
 いつもより気合が入っているのは奏。日本では多重債務がどうのと騒がれていたため、とかく『借金』という言葉に抵抗がある。
 Eランク最初の依頼。まずはどんなものなのか感覚を掴むためにも、一件受けてみることにした。難しい文章はまだ読めないが、単語から前後の文章を予測して何とかどんな依頼なのか把握できる奏。
 一方太一も、奏から簡単に教わったりしながら、少しずつだが分かる単語が増えてきている。
 さてどうしようか、と依頼書が貼られている掲示板で悩んでいると、ギルド職員が太一と奏を見付けて呼びつけたのだ。
 人のよさそうな中年の男性職員が穏やかな表情を浮かべ、「お待ちしてましたよ」と言った。
 誰かと約束していた記憶は無い。太一が奏を見て、彼女が首を横に振った。
 首をひねる二人を見て、男性職員は用件を伝えていない事に気付く。
 彼が言うには、ギルドマスターが太一と奏との面会を希望しているとの事だった。
 少しざわつくギルド内。
 当然のリアクションである。
 ギルドマスターが特定の冒険者に面会を申し込むのというのは、滅多にあるような事ではない。その逆はそれほど珍しいものではないが。
 つまり男性職員の一言は、太一と奏が何かしらの理由でギルドマスターに注目されている、とイコールだ。
 ただでさえ冒険者として活動を開始してから、たったの一週間でEランクに上がった今話題の冒険者二人組である。
 FランクからEランクまでの所要時間が一週間。冒険者ギルドが今のランク制度を採用してから、歴代でも上から数えたほうが速いほどの優秀ぶりだ。
 太一の事は少し横に置いておき、奏もまた注目される要因である。若い女の冒険者は珍しくない。奏の美人さが珍しいのだ。彼女自身、時折向けられる劣情がこもった視線には気付いている。最もそれはこの世界に来てから始まったことではないため、問題なくスルーしているのだが。
 太一も奏もあまり目立ちたくは無い。
 その割には今まで目立つような行動を取っていた。矛盾しているのは、認識がまだ足りなかったからである。
 これだけ手加減しているのだから大丈夫だろう、と思っていた二人だが、実際は飛び抜けて非常識だった。
 レミーアが気にしていたのは正にここだ。
 いくら太一と奏がずば抜けていても、二人では及ばない事だって当然あるのだ。他の冒険者から避けられる事態は何としても回避すべきだ。
 そこで運が良かったのは、Dランク冒険者と同格だというマリエと模擬戦闘をする機会が与えられた事だった。
 まさかあそこまで呆気なく勝敗が決まるとは。予想外もいいところである。
 Dランク冒険者と言えば、一般的には一人前と呼べる者達だ。
 マリエに勝つという事は、一人前冒険者を上回ったといえる。無論冒険者として求められるのは戦闘力のみではないため、全てが上回ったとは思っていない。それでも、これは二人にとっては重大な懸案事項だった。
 まして今はEランク冒険者。マリエに劣っていて当然といわれるランクだ。相当に気を使わなければならないだろう。
 昨日夕食後遅くまでその事についても話し合い、出た結果がまずは目立たない事、だっただけに、出鼻をくじかれた形である。
 そして目の前のジェラードだが、彼は太一と奏が特殊な事情を抱えている事を知っている。
 これで目立ってしまえば、どこからユニーク・マジシャンとフォース・マジシャンの情報が漏れるか分からない。
 細心の注意を払うべきなのだ。
 最初に言い出したのは本人だったはずだ。
 わざわざ注目させてまで呼び出すとは、一体どういう事なのだろうか。

「ふむ。まずはランクアップおめでとう」
「ありがとうございます」

 奏が頭を下げた。

「このスピードにも驚いたが、マリエを物ともしない戦闘力にも驚かされたぞ」

 ジェラードは、手に持っていた紙をテーブルに投げた。

「それは俺達もだよ」

 紙に書かれているのはマリエの字。代筆のときに書かれていたものと特徴が似ていた。
 依頼書を見れば、様々な字があった。やはり人によってクセがあるらしい。

「レミーアに預けてみれば化けてきおって。どの程度腕を上げた?」
「んー。黒曜馬と遊べるくらいかな?」
「そうですね。あれ位なら脅威ではないです」

 ジェラードには隠す必要が無いため正直に答える。
 太一と奏の回答を聞いて、呆れたようにため息をついた。

「ワシすらも飛び越えおったか」
「へ? オッサ……ギルドマスターは結構強かったんだな」
「なんじゃその意味の無い言い直しは。……まあいい。ワシは黒曜馬を一人で倒す事は問題ない。が、それでも真剣に戦う。あんなヤツと遊べると言える時点で、ワシよりも強い」

 断定だった。
 聞けば、ジェラードは元Aランクの冒険者だという。
 Bランクの冒険者パーティで、やっと勝てる目算が立てられるのが黒曜馬という魔物らしい。
 因みにバラダー達が終始押し気味に戦えたのは、太一と奏に意識が向いている黒曜馬に対して奇襲が成功したからだ。正面切って挑んだ場合、あそこまで余裕の戦闘にはならない。だからこそ、バラダー達も一度取り逃がした。
 あの出会いは太一らにとって運が良かったが、バラダー達にとっても運が良かったのだ。
 Bランク冒険者は黒曜馬と一対一の戦闘はやるべきではない。それが、ジェラードが簡単に話した黒曜馬の立ち位置だ。

「凄く厄介なやつなんですね」

 とはいえ、この街に来るときに一撃で仕留めてしまった奏も、どこか他人事のようだ。

「流石はユニーク・マジシャンにフォース・マジシャンと言ったところか。笑うしかないのう」
「それだ」

 ジェラードの言葉に、太一が食いついた。

「俺だって普通じゃないって事は気付いてる。目立たないようにしようって決めたばっかなんだ。わざわざあんな目立つ真似してまで、何で俺達を呼び出した?」

 ギルドマスターからの呼び出しは、前述の通りとても意味を持つ。
 一体どんな用なのか。それはとても気になっていた。

「うむ。それはワシも同意見だ。よほどの事態で無い限り露見すべき事ではないと思っておる。Eランクとなった今、他の冒険者の目に触れる事も増えてくるじゃろう。その前に、直接話をしておきたかった。強引な形になったのはすまなんだ。ワシも、お前達がここまで早くEランクになるとは思っておらんかったのでな」

 いくら膂力やスタミナに多少優れていても、マリエならそのハンディを技術で埋められる。そう思っていた。
 身体能力と戦闘能力は必ずしもイコールではない。そういった常識を持っていたが故に。
 しかし実際フタを開けてみれば、マリエからの報告書には「手も足も出させてもらえなかった。一方的に負けた」と書いてあるではないか。これが接戦だった、等の報告だったら、ここまで強引な手段は取らなかった。「ギルド期待の新人」で幾らでも誤魔化せるからだ。
 才能を持つ者は稀にだが現れるし、「ああ、そんなヤツが出てきたのか」で周囲が納得する程度には珍しくは無い。このギルドでも、過去Eランク昇格時にギルド職員と互角の勝負を演じた「期待の新人」は何度か出てきたのだから。
 太一も奏も、依頼の時よりも強く魔力を行使した。それがマリエを圧倒する結果に繋がり、ジェラードのほうは慌てて太一と奏を呼び出した、というわけだ。

「でしたら、もう少し穏便に」
「うむ。そう思ったのだがな。拙速なくらいで丁度いいと判断したのだ。お前達の話を聞いてみて、ワシは自分の判断が間違っていなかったと思っておる」

 ジェラードは目を細めて太一を見た。
 あの時は、眼光だけで太一を竦ませたジェラード。だが一ヶ月経ち、その眼力は一切通用しなくなっていた。

「あのレミーアから教わった以上、手加減の仕方も聞いておるだろう。お前達は、一般人のつもりで戦って欲しい」
「一般人、ですか」
「うん。何か遠くなった言葉だよな、それ」

 ジェラードの言わんとする事を理解し、遠い目をする太一。
 一ヶ月前は、自分たちがその一般人側だったのだ。

「仕方あるまい。お前達が下手に力を出すとだな、なまじ力を持っている冒険者達からすれば恐怖の対象でしかない。ワシとマリエはともかく、何も知らん輩からすれば余計にだ」

 例えば、魔力を一切操れなかったとして。襲われないから黒曜馬の真横にいろ、と言われたら全力で拒否する。
 普通の冒険者達にとって、太一と奏は黒曜馬である。喧嘩は売らないから、と言われていても、近寄りたいとは思われないだろう。

「まあうん、分かるよ。レミーアさんには、一〇〇のうち三〇以上出すな、って言われてる。普段は一〇とかでも十分だって」
「マリエと戦った時はいくつ出したのだ?」
「二〇。騎士団団長レベルだってさ」
「なるほどのう。マリエでは手も足も出んはずだ」

 二割の力を出しただけでそれである。大体ジェラードの全盛期と互角程度だ。

「このギルドを拠点にする冒険者のランクの割合は、大体Eが四割、Dが三割だ。Cが一割、後はFランクの奴らだな」

 なるほど具体的にその数字を聞くと、よほど抑えなければ異端と認定されてしまう。今までの手加減ではダメなのだ。

「バラダーさん達はどうなんですか?」
「あいつらか。あいつらはこのギルド唯一のBランク冒険者で最強パーティ。昨日まではな」

 ジェラードが何を言いたいのか分かった。彼の視線はずっと太一と奏を見据えている。
 今日からは、最強の座には太一と奏が座る事になる。
 本人が望む望まないは関係ない。事実。決定事項だ。
 どうやって手加減しようか。二人の脳内をそれ一つが占領する。
 凄まじい強さを持つバラダー達をあっという間に飛び越えてしまった事をようやく実感できた。彼らの戦闘能力は多くの冒険者達があこがれるものだろう。それをぽっと出の子供である自分達が超えてしまった後にどうなるか。
 想像もつかないが、少なくてもいい事では無い。
 そんな時、ふっとジェラードの周りの空気が緩んだ。

「口うるさいオッサンの説教だと思ってくれて構わん。お前達はまだ若い。それほどの力があるのなら、生きていく事そのものに苦労はせんはずだ。自分を抑える事に疲れたらまあ、ワシに一言言え。発散の場所くらいは与えてやる」

 ジェラードという男は、悪い人間ではない。
 この忠告も、太一と奏を心配しての事だろう。過分な力だけ持ったガキだという認識はある。ひとたび使い方を違えればどのような事が起きるかも、再三に渡ってレミーアから忠告を受けている。

「助かるよマスター。マリエさんには『ちょっとデキるからって調子に乗るなよ?』って叱られたって言っておく」
「ふむ、なるほどな。悪くない線だ」

 その一言を聞いた冒険者がいれば、いい具合に勘違いしてくれるだろう。ある程度は、太一と奏をナメて見てもらったほうが現時点ではありがたいのだ。願わくば、ナメすぎていらぬちょっかいを太一と奏に出してしまう阿呆が出ない事を。
 太一と奏は別に聖人君子ではない。とても心配である。ちょっかいを出した冒険者の方が。そんな事を考えながら、しかし荒っぽい者が多いのもまた冒険者。その時は、仕方が無い。不届き者がフルボッコにされないことを祈るのみだ。
 因みに太一と奏が本当の意味で調子に乗ったらどうなってしまうのか。思い浮かべて背筋が震えたのは秘密である。

「私達、これから討伐の依頼を受けてみます。何か手頃な相手っていませんか?」
「ん? おるぞ。そうだな……ゴブリンなんかはどうだ」
「うわあテンプレktkr」
「何がキタコレよ」
「テンプレとはなんじゃ?」
「お約束、とか定番、って意味です」
「なるほどのう。確かに」

 奏の解説に納得したジェラードだが、認識には齟齬がある。
 太一たちは、ファンタジーのお約束、という受け取り方。
 ジェラードは、冒険者として幾度も相手をする定番、という意味。
 別の世界同士の常識故の違いだろう。だが会話そのものは妨げられていない為、その認識の違いには気付かない。

「ゴブリンは群れている上に粗末だが武器も使う。野獣よりは頭も良いでな、ひよっこには厳しい相手だ。こやつらに返り討ちにあって命を落とす冒険者も珍しくない。まあ、こやつらに勝てるようになったらEランク冒険者としては一人前だな」

 見た目は人型。背は一メートルを少し超えたくらい。紫の肌をしていて、ぎょろりと動く三白眼が特徴だという。体毛は無く、オスメス共に丸裸で何かを纏う習慣は無い。繁殖力が旺盛で、人族のメスなら同族他種族相手を選ばない。時折人間やエルフなどの女をさらって繁殖する事もあるという。生まれた子供は一年足らずであっという間に大人になる。
 どこから沸くのだと思うほど、倒しても倒しても現れるという事だ。

「試しにやってみるといい。実際の冒険者が相手にする魔物がどういうものなのか、良い経験になるだろう」

 普通は、Eランクになったばかりの冒険者が相手に出来る魔物ではない。
 だがそこは太一と奏。ジェラードは採取の依頼を適当にでっち上げて、秘密裏にゴブリンの討伐に行かせるつもりである。
 その旨を太一たちも了承し、話は決まった。

「お前達、チームを組んではどうだ?」

 チーム。
 バラダー達と同じものだろうか。

「どの道単独行動することは少ないだろう? 常に一緒に依頼を受けるなら、チームを組んでしまったほうが何かと便利だぞ」

 それはその通りだ。しかし、どうすればチームを組めるのかは分からない。冒険者になった時はチームを組む気は無かったし、マリエからも説明はされなかった。

「まあ、詳しい事はマリエから聞いてくれ。ワシも次の予定が詰まっているのでな。そろそろお開きとしよう。職員にゴブリン退治の依頼書を渡すように言っておく」

 ギルドマスターが暇なはずが無い。
 わざわざ時間を作ったという事だろう。
 この世界に来て、随分と人の厚意に触れた。本当に、運が良かったのだと思う。

「分かりました。では、失礼します」

 立ち上がり、一礼する奏。「サンキュー」と相当ラフに挨拶して奏にわき腹を小突かれる太一。
 彼らが去り静寂を取り戻した執務室で、ジェラードは自身の立派な椅子に腰掛けた。年季の入った椅子がぎしりと音を立てる。

「不思議な奴らだ。全く持って面白い。これだから、冒険者はやめられんな」

 あれほどの実力だ。全てを見下しても問題ない。だが、奏の方はとても謙虚だし、太一の方もざっくばらんではあるが、年長者に対しての礼儀が失しているわけでもない。
 あれくらいの若者冒険者は血気に逸っているのが通常だが、彼らにはそういったところは見られない。
 ジェラードの興味は尽きなかった。



◇◇◇◇◇



 丁度昼前。ギルドは大分閑散としていた。午前中に依頼を受けた冒険者達は殆どが出かけてしまったのだろう。数人がいるだけだ。彼らはテーブルに座って食事をしている。ここでも簡単に食事を摂れるのだ。
 棚で書類を見ながら仕事をしていたマリエを呼び寄せる。

「あら、タイチさん、カナデさん。聞きましたよ、ギルドマスターに呼ばれたんですって?」

 難儀ですねえ、と苦笑いのような笑みを浮かべるマリエ。面倒事があった、という方向に持っていくようだ。彼女も相当頭の回転が速い。
 折角お膳立てしてくれたのなら、乗らない手は無かった。

「そうなんです。ちょっと出来るからって調子に乗るな、って延々とお説教されましたよ」

 奏も苦笑いを浮かべる。無論演技だ。

「なるほどですねぇ。まあ、確かにEランクになるのは驚くほど速かったですからね。ギルドマスターもちょっと忠告したかったんでしょう」

 あらかじめ打ち合わせをしていたのではないか、と思うほどに自然な会話。
 ギルドマスターに呼ばれた、という一言で集まった注目も、今は完全に散っている。恐らくは、久々に「期待の新人」が現れた、という線で落ち着くだろうと思う。人数は多く無いが、それでも何人かがいる場所で布石を打つ事が出来た。

「それでですね。私達チームを組みたいんです」
「ああ、なるほど。Eランクになりましたもんね」

 チームを組むには簡単な手続きで完了する。
 チームを組んでいると、チームメンバーの平均ランクが、そのチームそのもののランクとして扱われる。
 ザ○リクやフェ○ックスの尾といった都合のいい物は無い現実の世界。自分と同じランクの依頼を、複数人で受けれればそれだけ死の危険が減る。
 更に、チームメンバー全員の依頼達成回数に計上される。デメリットは複数で受けても変わらない報酬額だが、生きていなければ金も何も無いため、それに目を瞑ってでも、チームを組む意義はある。
 但し、実際にそれが生きるのはEランク以降、討伐などが出来るようになってからだ。具体的にはチームランクの一つ上の依頼を受ける権利が発生する。それを達成できれば、その分早くランクアップも狙えるのだ。

「チーム名は何にします?」
「必要ですか?」
「無くてもいいですが、便宜上です。つけてる人のほうが多いですよ?」

 そういう事らしい。チーム名など考えていなかった。
 何にしようかと考え込む奏の横で、太一がのんきに言った。

「じゃあ『ああああ』で」
「何その勇者」

 いわゆるドラゴンを探求するゲームの伝説的勇者である。ふざけた名前の勇者は勝手に他人の家に上がりこんでは箪笥を物色し、壺やたるを衆人環視の中漁り、城の財宝を当然のように持って行き、理不尽な強さを持つパーティメンバーと共にモンスターを蹂躙する主人公。毒のある言い方をすると人でなしそのものだが、魔王を倒す世界の救世主のため、誰もが彼らの行為を笑顔の裏で涙を呑んで讃えるのだ。
 因みに太一も奏もあのゲームは好きである。ふと見つけたこの言い回しが面白く、覚えていたというだけだ。
 当然マリエには分からないやり取り。

「では。ああああ、で登録します」
「しませんからね!?」
「チェッ」

 露骨に舌打ちするマリエ。冗談だったのだ。彼女とも大分打ち解けてきた感じがする。

「無くてもいいんですよね? 考えてきますので、とりあえず保留にしておいて下さい」
「分かりました。では保留、と。チームの登録は完了です。他には……」

 これがありましたね、と、マリエが渡してきたのは一枚の紙だった。依頼書である。ジェラードが言っていたゴブリン討伐の依頼だろう。

「北の森をそこそこ奥に入ったところにありますので、気をつけて行って来て下さいね。……あ」
「ん?」

 不意に呟くマリエ。必要なことは大体聞いたはずなのだが。
 不思議そうな顔をする太一と奏に、マリエは顔を寄せて声を潜めた。

「出来れば、駆け出しの冒険者っぽい装備を整えたほうがいいと思いますよ。お二人には、いらないとは思いますが……」

 マリエがちらりと視線を配らせる。
 それを追いかければ、なるほど、彼女のいいたい事がよく分かった。
 ギルド内にいる冒険者は、皆武器と防具に身を包んでいる。皮だったり金属だったり、ローブだったりと様々だ。武器も同じで、巨大な剣やら槍に棍棒。二刀流ナイフなんて通な者もいる。杖も腰に携える程度の短いものから、身の丈ほどもある長い樫製のもの等。
 彼らと自分たちを比べてみる。太一と奏は布の服な上に丸腰。Eランク冒険者とした場合、確実に浮く。目立ちたくないと言いながら、初っ端からつまずくところだった。

「そうですね。装備は整えていこうと思います」

 声を潜められると、ついこちらも潜めてしまう。
 習性というものだろう。

「どこかいい店知ってますか?」

 奏の問いかけに、マリエは記憶を発掘する。
 武器屋防具屋はそう多くは無い。特に駆け出しとして一般的な装備品を整えるなら、と考え、消去法で残った店の名前を伝えていく。どうせ装備を整えるなら冒険者として必携の道具も一緒に買い揃えてはどうか、と道具屋の名前も一緒に。
 マリエに礼を言ってギルドを出る。
 ここから北の森に直行する予定だった。だが、このままで北の森に行くのは確かに常識外れだろう。太一と奏は装備を整えるため、行き先を変更する事になったのだった。
 
書き溜めをどんどん作ります。

読んでくださってありがとうございます。
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