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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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帝国立魔術師養成学園の騎士候補生 十五

 大歓声が耳朶を打つ。
 確かに勝敗は決した。
 だが、この歓声は、結果に対してのものではない。
 人々を魅了するような試合を繰り広げた太一に、そして、アクトに向けられたものだった。

「どうだ? 体調は?」

 手の甲の、風の剣を消してから、太一はアクトに声をかける。

「うん……正直、立ってるのもやっとだよ」

 確かに立ってはいる。
 しかし、きちんと、ではなかった。
 あれだけの激戦。しかも、最後はずっと最大限の力を発揮し続けたアクト。
 体力は限界のはずだ。
 本来の力を引き出し、それを使い続けた。
 それ故に。ある程度合わせていたとはいえ、四〇の強化をした太一を相手にあれだけの善戦が出来たのだ。
 が、身体の方は、その力に慣れていないはずだ。
 力を使いこなすには、きちんとした訓練が必要だ。
 桁外れな魔力量と魔力強度を持つ太一だからこそ、そのことを身をもって思い知っていた。
 アクトからのその答えは、太一の想定した通りだった。

「ま、あれだけ集中してたんだ、限界以上の力出し切った感じだろうしな」
「そうだね……」

 力が抜けそうになるのをこらえている様子のアクト。

「じゃ、戻って座ってろよ。もう無理することはないし」
「そう、するよ」

 ふう、と一度息を大きく吐いて、アクトは踵を返して奏たちの元に戻っていく。
 太一もまた、アクトに背を向けてエルザたちのところに向かう。
 そんな二人に、観客席からは惜しみない拍手が送られた。

『圧倒的な戦いを私たちに魅せてくれた二人が、互いの健闘を称えて戻っていきます! 皆様! 今一度、素晴らしい戦闘を披露した二人に盛大な拍手をお願いします!』

 客席からの歓声と拍手が一段階高く、大きくなる。
 それは紛れもなく、アクトを認めたという証明。
 自身が優れた戦士であると認めさせた、アクトの功績。
 これは、太一だからこそ出来たことである。
 もちろん、奏、ミューラでも不可能ではない。だが、適役は間違いなく太一だった。
 二人以上の力を発揮し、それに喰らいつかんとする姿だったからこそ、こうして沸いているのだから。
 アクトに目を付けた者は多いだろう。
 帝国軍関係者が、アクトのその力を欲しがらない訳がない。次世代を担う有力な騎士の候補として名前が挙がるのは想像に容易い。
 また、有力貴族が、その力を見初める可能性も非常に高い。少しばかり礼節がなっていなかったとしても、目をつむってでもその才能を優先する、と考える者も少なくはないだろう。
 もはや、学園内での評価にとどまらないのだ。
 はんぱな小細工ではこの状況は覆らない。
 次の展開として、自陣営に引き込むためアクトに接触してくるだろうと予測できる。
 更には情報収集も行われるはずだ。そこで、アクトにちょっかいがかけられている現状は露見する。
 もちろん、アクトを標的にする貴族との敵対をおそれ、手を引く貴族もあるだろう。だが、くだらぬちょっかいでせっかくの才能が潰れるのを惜しんで行動に移す貴族も出てくると思われる。
 仮にそうならなかったとしても、アクトと敵対する貴族もまた、他の貴族との軋轢を考慮に入れる必要が出てくるため、牽制にはなる。
 そうなれば、しめたものだ。
 アクトをつけ狙う貴族は、一気にやりにくくなるに違いない。
 これで、目的はほぼ達した。
 アクトの評価が上がっては困るのだ。何か、リアクションを起こしてくるに違いないだろう。次は、それを叩き潰せばいい。
 今後は、それに目を配れば――
 そこまで考えたところで。

ドオン!!

 腹の底に響くような爆音と共に、大地が跳ね上がる。
 爆発の衝撃で、地面が揺れたのだ。

「っ!?」

 太一は一気に思考を戦闘態勢に移行、魔力強化を施す。常人ではまず手を出せない、五〇の強化だ。
 感覚を一息で研ぎ澄まし、周囲を見渡した。
 そこかしこから、悲鳴と怒号が上がる。
 プレートアーマーとフルフェイスヘルムで武装した集団が、あちらこちらから観客席になだれ込んできていた。
 さっと全体を見た感じでは、どうやら観客を標的とした無差別な殺戮は行われていないようだが、逆に言えば対抗しようとした警備兵や貴族の護衛、思わず一般人でも過剰な抵抗をした者は容赦なく斬られているようで、散発的に血しぶきが舞っていた。その動きは、体系化された高度な戦闘技術を修得した兵のものだった。
 今も、視線の先では、学園の生徒をかばって教師が一人、凶刃を受けて血の海に沈んだ。

「カピーオ!!」
「分かっている!!」

 まずは、手近な者からだ。
 エルザは問題ないだろう。あのカピーオが、エルザを守っていないわけがない。現に、彼は隙も油断も遅滞すらもなく、エルザの守りに入っている。エルザもまた、この大会でここまで勝ち残るだけはあり、実力は折り紙付きだ。カピーオとエルザ。二人は互いに互いの死角をフォローしながら、こちらに向かってきていた。
 続いて、アクトだ。
 実力的には問題なくても、太一との激戦を繰り広げたばかりで消耗している。この場で一番危険なのは彼だが……それもまた、心配は要らなかった。
 奏とミューラが、周囲を警戒しながらアクトの元へ辿り着いていたからだ。

「これは……」
「テロか?」

 それぞれ合流し、客席も含めて観察をする。
 無差別の攻撃は相変わらず行われていない。
 狼藉を働いた連中にどのような目的があるにせよ、これは幸運だ。運がいい、と思うべきだ。

「いつまでもこの状態が続くとは、思わない方がいいわね」

 そう、ミューラの言う通りである。
 今大丈夫だから、今後も大丈夫であるわけがないのだ。
 そこに明確な根拠があるならまだしも。
 現状、会場中の非戦闘員を人質に取られているに等しかった。

「……手詰まり、ですわね。手が出しにくいですわ」

 無意識なのだろう。親指の爪を噛みながら、エルザは悔し気に顔をしかめた。
 手詰まり。
 本当にそうなのか。
 いや、違う。
 少なくても、太一にとっては。
 だが。

「皆さん!」

 そのまま、その手段を行使すべきか決めかねていたところへ、ふと、この場にいないはずの少女の声。
 そちらを向けば、素早い動きでこちらに向かってきた、エルメリア・ケンドル・ベルリィニ――メリアの姿。
 観客席にいたのだろうが、この状況でよくここまでやってこれたものである。

(そういえば、彼女は斥候だったね)

 彼女の姿を見て、奏は記憶を掘り起こして頭の中で呟いた。
 姿が見えるから目立ちにくいが、彼女の気配は希薄である。無論、ここまで遮蔽物など一切ないために露見しない、ということはないが、少なくても飛び出しの際にテロリストたちの意表をつくことは出来たはずだ。
 彼女から大分遅れて、数名のテロリストたちがこちらに向かってきている。
 敵をここまで誘き寄せた、という意味では余計なことだが、どのみちそれも時間の問題だ。早いか遅いかだけで、ここに敵がやってこないなどありえないのだから。そう考えれば、気にするほどのことでもなかった。

「あ、あなたは、エルメリア様……」
「ごきげんよう……いえ、この状況でごきげんはありえませんわね、エルザベート様」
「ふふふ、いえ、お気になさらず」

 エルザが、メリアを見て目を丸くした。
 伯爵家令嬢のエルザと、侯爵家令嬢のメリア。
 やり取りは、その家格に見合う穏やかさ、優雅さだったが、二人の目は相変わらず鋭く周囲を見渡している。
 メリアはエルザに「ごめんあそばせ」と断り、太一たちの方に身体を向けた。
 エルザもまた、この非常事態であるため、当然のように空気を読んで、一つ頷いてそれを了承した。

「メリア。ここに来て良かったのかしら?」

 そこそこの距離をかなりの速度で走ったにも関わらず、ほとんど息を乱していないメリア。かつて自身の能力についてはそれなりの自負を見せていたが、その自負に見合うだけの実力に内心で称賛を贈りながら、ミューラはそう尋ねた。
 メリアは気付かれないようにアクトを一瞥し、すぐに視線をミューラに向けた。

「大丈夫です。ことここに至っては、もはや、意味はないと考えております」

 ミューラの問いかけに対して、やや答えになっていない答えを返すメリア。
 その内容といい、親し気なミューラたちの様子が気になっている模様のエルザだが、口を挟むつもりはないようだ。

「そっか。じゃあ」

 奏の、理解した、という頷きに、メリアは微笑みを浮かべた。
 その微笑みは、強い意志を感じさせるものだった。

「はい。わたくしの、エルメリアの名においてこの場を預かり、責任を取ります。皆様ならば、この場を収められるでしょう?」

 結論から言えば、可能である。
 というより、その方法を使うか否かを考えていたところだったのだ。
 悩んではいたものの、結局は力を使うべき、という結論にすぐ達していただろう。
 それを、メリアが後押ししたかたちだ。メリアもまた、太一の、太一たちの力を知っている数少ない一人だからだ。
 であれば、もはや、ためらうことはなかった。

「おい、貴様ら!」

 メリアを追ってこちらにやってきていた三名のテロリストが、鋭い声で誰何する。
 速い方だろう。ただ、メリアが彼らをうまく出し抜き、また、テロリストたちに比べて装備が身軽なために速かっただけの話だった。
 そして、彼らが到着した時には、既に話し合いは終わっていた。

「タイラー……ううん、太一、頼んだよ」
「おう」

 太一がテロリストたちの方に向き直る。奏がタイラーを言い直したことに、アクトも、エルザも、カピーオも訝し気な表情を浮かべた。

「ああ、そうだ、メリア。責任なら、陛下に取ってもらえよ」
「え? いえ、それは……」

 この国のトップ。皇帝に責任を取らせればいい、という太一の言葉に、さすがのメリアも言葉を濁らせた。

「おい、さっきからごちゃごちゃと! 状況が分かっていないのか! その口を閉じろ!!」

 テロリストが声を荒げるが、太一は彼らに目を向けているが、見てはいなかった。

「どのみち、ここまで来たらもう一貴族どうこうの話じゃないと思うわね」

 ミューラもまた、太一に同調して、その手を指輪にかける。

「うん。国立の学園を対象にしたテロ行為。これはもう、国に対して宣戦布告するのと同じだよ」

 そして、奏のその言葉を合図に、三人が同時に指輪を外した。
 その瞬間、三人の偽装が解ける。
 タイラーとリーリンは、髪と目の色がそれぞれ黒に、ミレーユは金髪碧眼のエルフに。
 三人は、ついに仮初の姿を捨てて、本来の姿を晒した。
 身をやつしていたことを白日の下に晒したことで、テロリストたちはもちろん、メリアを除く三人の動きも止まる。
 身をやつす道具。そのようなものは、見たことも聞いたこともない。
 知られてなどいない。当然だ。
 これは国の機密。皇帝であるメキルドラがそう言っていた。
 が、今は非常時だ。そして、これからすることを思えば、姿をやつしていることに意味はない。
 ここには帝国貴族も大勢訪れている。であれば、エリステインで大暴れした太一たちの情報は知っていないはずがない。
 言いたいことがあるだろう。
 聞きたいことがあるだろう。
 けれども、彼らが口を開くいとまを、与えるつもりはなかった。
 変装とは次元が違うレベルの変身という存在によって生まれた間隙を見逃さず、そのキーワードを紡いだ。

『召喚。エレメンタル・シルフィード』

 テロリストたちは、人智を超えた力の奔流によって、一人残らず暴圧された。





 時は少し戻る。
 これまでに開催された対抗戦を振り返っても、歴代屈指の名勝負に数えられるだろう。
 飛びぬけた力を持つ隣国からの留学生に、平民出身の学生が限界を突破して喰らい付き、誰からも喝采を浴びる激戦を繰り広げた。
 これを称えずに、誰を称えるのか。
 帝国貴族として、自国民が見せた意地は国益にすらなりえそうな程に見事なものである。
 冷静な自分が、貴族としての青い血が、そう訴える。
 一方で。
 その声を容易く塗りつぶす黒い声が、頭の中にがんがんと響き渡る。

「何故、あの女が喝采を浴びているの? ねえ、何故なの?」

 ハンカチを噛みしめ、彼女は呪詛のような声を漏らす。

「だからこそ、これからの絶望が、より色濃くなるのではないでしょうか」

 彼女の呪詛に応える男の声。若く聞こえるが、意外なほど貫禄があり、重厚な声だ。

「うふふ。そう、そうね。そうだったわね。だから、やるように指示を出したのだったわね」
「左様でございます」

 それは、ほどなくして起きる。
 会場のそこかしこから届く悲鳴と怒号。戦いの音。
 やがて音が鎮静化すると、鉄さびの臭いが漂い始めた。
 期待した通りである。
 それは、暴力の音と臭い。
 これで、ようやくだ。
 ようやく、彼女が本当に待ち望んだ結果が訪れる。後は、その時を、ここでゆっくりと待つのみだ。
 彼女は今後の展開と手に入る予定の"成果"の仮初を手に、会場を睥睨し、そして視線を舞台の真ん中に向けた。

(……あら?)

 そこで彼女が見たのは、今まさに舞台の中央にいるターゲットに向かい、見覚えがあるような、親しみを覚えるような少女がかなりの速度で向かっているところだった。その後ろを、幾人かの同志の部下が追っている。

(はて、あの子は誰だったかしら……うっ!?)

 そこまで考えたところで、急激な頭痛が彼女を襲う。
 頭痛は数分間にもわたって続いたように感じられたが、ふとそれが収まった時、件の少女はもうすぐ中央に辿り着こうというところだった。
 どうやら、あまりの痛みによって長く感じられただけで、実際には本当に少しの間だけだったらしい。

(まあ、自分の娘が誰かなんて(・・・・・・・・・・)、どうでもいいわね(・・・・・・・・))

 その思考がどれだけ破綻しているか、あるいは狂気じみているかに一切気付くことなく。
 少女のことなど全く気にならなくなった彼女は、中央の様子を、豪奢な扇でゆっくりと仰ぎながら鷹揚に見下ろした。
 さて、せめて悪あがきの一つでも見せてくれれば、このショーも面白くなるというものだ。
 いくばくかのやり取りが行われているが、それもまた、よい余興となるだろう。
 そのように考えていると。
 ふと、一人の少年と、二人の少女が、追ってきた武装兵の前に歩み出る。
 確か、彼らは悉く邪魔をしてくれた留学生だったはずだ。
 愉快な気分になる。
 その抵抗も、この状況でどこまで続けられるか。
 彼、彼女らが地面に伏す姿を夢想していると。

「これは……!」

 例の男の声が、彼女の耳朶を打つ。
 せっかく良い気分に浸っていたというのに、これを邪魔するとは。
 男というのは、どこまでいっても無粋だ。
 この風情が分からぬのならば失せよ。
 そう、言おうとして。

「っ!!?」

 ずん、と。
 実際には無音。
 しかし、腹の底に響く轟音を幻聴するような。
 凄まじい圧力が、会場全体にのしかかった。
+注意+
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