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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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帝国立魔術師養成学園の騎士候補生 十三

「それで?」

 次は何を見せてくれるのか。そんな期待を込めて、太一はアクトを見る。
 アクトは不敵に笑い槍を構えると、四肢に風を纏わせていく。

『風人脚』

 風属性ならではの、自身のスペックを引き上げる魔術。機動力、運動性能、反応速度が格段に引き上げられ、攻撃の最終的な威力もある程度の上昇が見込める。
 差違は大きいが、その目的とするところは強化魔術と同じだ。
 風属性の使い手として、その方法がどれだけ効果的かはよく分かる。
 だが、同時に難易度も高い。
 アクトは腰を据えてパワーで押し込むタイプではない。技術と速さに主軸を置く方だ。目まぐるしく動きながら相手を翻弄する戦い方。
 そのスタイルとの相性は抜群だが、出来る、と扱える、は別物だ。切り返しの度に細やかな調整が求められる。
 シルフィのアシストを得られる太一と違い、アクトはそれを自身の制御能力のみで行う必要がある。
 まだ見たことは無かったアクトの一手。ただ使えるだけなら通用しないのはアクトも分かっているだろう。努力によって、こうして実践で使う決意が出来るところにまで昇華させたということだ。

「行くよ」

 風を十分な密度で纏わせたアクトは、おもむろに一歩踏み出す。

「!」

 弾かれたように、あっという間に。
 アクトは、太一の至近に迫っていた。
 これまでと比べ、明らかに速度が倍加している。
 迎撃のために太一が放った突きをかがむことでかわした。
 曲げた膝を伸ばすことで生まれた弾丸のような勢いでもって、太一に膝蹴りをお見舞いし、空中に吹き飛ばす。彼を追い、アクトもまた跳び上がった。
 先ほど空中から魔法を放った太一以上にジャンプしたアクトは、槍を下から振り上げ、太一をより高く打ち上げる。
 今のは入った。アクトは槍から伝わる手応えに、クリーンヒットを確信する。
 だが。
 無論、これで終わらせるつもりはない。

『中空疾走!』

 風を纏う今のアクトならば、難易度の高いこの魔術もどうにか使える。空気を足場に、空を飛べなければ重力に従うしかない空中で、更に加速する魔術。
 だん、と、まるで地を蹴ったようにアクトがより高く跳んだ。
 上空に浮く太一よりも高く、一息で追い抜いたアクトは。

「は!」

 鋭く息を吐き、自然と腹から声が出る。その瞬間に込められた力を、放ったかかと落としのインパクトの瞬間に込めた。
 今日一番の強力な一撃が、太一に直撃し、彼を撃ち落とした。
 アクト自身の攻撃の威力と、落下による加速が合わさり、太一は地面に叩き付けられ、舞台が割れた。
 ひびの入った舞台と、中心の砂煙。そこに、アクトは両手をかざした。
 飛行魔術は使えない。アクトの身体は重力に引かれて落下を始めている。
 体勢が崩れる前に、撃つ。
 ぎゅっと、空気を圧縮する。余計な時間は与えたくない。そのためには、一番出が速く、威力が高い魔術が必要。
 至ったのはシンプルな答えだ。

「それっ!」

 圧縮した空気の塊を、下に向けて投げ落とす。
 それはあっという間に太一のもとにたどり着き、炸裂。
 『火球ファイアボール』のように熱こそ持たないが、それに匹敵する爆発である。
 鮮やかな連続攻撃に、観客がどよめいた。
 身を乗り出してその光景を食い入るように見つめるエルザの顔には不安が滲み、一方アクトのチームメイトである奏とミューラは何でもないことのように舞台を眺めている。
 対照的な両者の視線を受けつつ、アクトが着地する。
 荒い息で胸を弾ませながら、立ち込める砂煙を見つめる。
 これまでの訓練ではついぞ達成出来なかった直撃。それも、アクトにとって会心ともいえる攻撃が全て入った。
 これが効いていてくれなければ正直厳しいのだが、何故だろうか、平然としていそうな気がするのは。

『アクト選手の猛攻が決まったー! タイラー選手立ち上がらない! ダウンとして、カウントを取ります!』

 実況の少女の声が聞こえる。

(これで決まってくれれば……いや、でも……)

 これで決まらないとなると、アクトにとっては厳しいことになる。その一方で、彼がこの程度で参るようなタマではない、と、アクトは、太一に対して妙な信頼を抱いているのだった。
 パラパラとした小石が落ちる音。アクトの呼吸をかき消すように、カウントが進んでいく。





(くそ、なんなのだ、あれは!)

 少女は憎々しげに、親指の爪を噛んだ。
 完全に想定外だ。まさか、アクトにこれほどの力があるとは。
 あの速度。攻撃力。
 この学園でも上位に位置するのは間違いない。
 いや、下手をすれば最上位にも食い込むかもしれない。
 例えばアクトと武力での一対一になれば、少なくとも少女に勝ち目はない。
 仮にバックに自分がいることがばれ、アクトから決闘でケリをつけようと言われでもしたら。
 貴族として、投げつけられた手袋を拾わないわけにはいかない。正面切って挑まれた決闘を拒むような真似をすれば、求心力はあっという間に地に落ちる。そして、再浮上するには想像を絶する実績が必要になる。それは、決闘に負けるよりも酷いのは火を見るより明らかだ。家名を汚したとして、下手をすれば父親から勘当される恐れもあるのだから。
 学園の特色から考えれば、この大会後、あの獣人娘の味方は格段に増える。
 無論、貴族と平民という意識が生徒たちにはある。高貴なる血を継ぐ者がとうといのは当然だ。
 問題は、そういう意識を持たない嘆かわしい者が、あろうことか貴族側にもいることだ。少数だが、確かに存在することも事実。
 無いとは思うが、この大会後、その少数派の数が増えることになれば、これまでのような工作は難しくなるだろう。
 仮に不当な貶めと見なされてしまえば、第三者からの横槍を受ける可能性すらある。

(ちっ……)

 取り巻きたちの様子をこっそり確認して、少女は心の中で舌打ちをした。
 殆どの者が、舞台上で繰り広げられるバトルにのめり込んでいる。
 己の土台が傾く可能性を含み始めたのはよく分かっている。
 アクトがこれまで見せてきた実績によって、部下の極一部から向けられる敬意が減ってきているのだ。
 気にしなければ目につくようなものではない。それに、少女に付き従う者たちの総数に比べれば高が知れている。
 だが、事はそう単純ではない。
 離反された、という前例が出来てしまうことそのものが良くない。
 早急に手を打ち、求心力の回復をせねばならない。

(どうするか……)

 相手の攻撃が抜群に効いている現状、平凡な手ではダメだ。
 何か、大きな事を起こさなければ。
 実際は用意してある手はあったが、情報提供者筋によって一旦保留とされていたのだ。
 それが使えない以上、違う方面から。しかし、もうここまで来てしまっている。今さらどうやって。

「お忙しいところ失礼致します、お嬢様」
「……なんだ」

 あれこれと脳内で策を検討し、思考の海に沈んでいた少女を、側仕えの者が強制的に引き上げる。
 考え事を中断させられ、少女は不機嫌そうに返事をした。
 忌々しくもあったが、この側仕えは少女をよく分かっているので、邪魔をすることは滅多にない。
 つまり、邪魔をしてでも報告すべきことがあるということだ。

「はっ。報告致します。かの者の使いが参りまして、保留を解除するとのことでございます」
「そうか」

 上から目線なのが気に食わないが、今は協力関係なのだからと、ぐっと飲み込む。
 あの手が打てるのならば、この程度の不愉快さは目をつむってもよい。

「よかろう。では、手はず通りに進めろ」
「はっ。既に第一段階は指示を出しております。次の段階へ進めてもよろしいでしょうか?」
「手際がいいな。進めろ」
「仰せのままに」

 風は、向いてきた。
 少女は少し機嫌をよくして、舞台に目を向けた。





シックス! セブン! ……』

 カウントが続いている。だいぶ息が整ってきたアクト。
 太一は未だに起き上がってこない。
 このままカウントされれば、アクトの勝ちだ。
 そんなはずはない。
 太一にこんな攻撃が効くはずがない。
 今にも、あの砂煙の中から攻撃されてもおかしくはないのだ。
 そう思って、気を引き締めていた。乱れた息を整えるために楽な姿勢を取りたいのを気迫で我慢し、緊張を保ち続けている。
 だが、人間は楽な方に流れがちな生き物だ。
 それは、鉄の意志で自己を律し続け、厳しい鍛練を積み続けたアクトであっても例外ではない。
 少し、考えてしまった。
 欲が、出てしまった。
 このまま、カウントが数え終わればーー
 と。
 まるで、その一瞬を見計らったように。
 ドン、と腹に響く衝撃と共に、砂煙が強烈なつむじ風に巻き上げられて消し飛んだ。

エイト! ナイ……っと、これは!?』

 実況も不意を突かれたのか、驚きの声が上がる。
 アクトもまた、一瞬抜けた気を、慌てて引き締める。
 だが、一度切れた糸を即座に完璧に結び直すのは難しい。
 半端な緊張状態。
 強敵を前にして、これは良くない。
 そして、ままならない準備しか出来ないアクトを、相手が待つことはない。
 すっと立ち上がった太一。口の端が切れたようで、血がにじんでいる。それを手の甲でぬぐって、血が付着しているのを確認すると笑みを浮かべた。

「いやー、今のは効いたぞ。すげーな、マジで。こんな手札を隠してたのか」

 それは、掛け値のない賛辞であると、これまで交流してきたアクトには分かった。
 彼は気休めにもならない世辞を言ったりはしない。
 何せ、彼への直撃など、これまでの訓練では一度も達成したことがないのだから。その度に自身の至らぬ点を指摘され、何度耳が痛い思いをしたことか。
 それが、高威力の連撃全てをヒット。
 訓練に時間を割いた太一にとっては、喜ばしいに違いなかった。

「いや、あはは、ホント、すげーな。あははは!」

 太一が、心から楽しそうに、嬉しそうに笑う。
 決着が着く前に太一が立ち上がったことで、まだまだこの試合が見られるとわいた観衆も、太一の笑い声に押されて静かになっていった。
 そこに、ただの笑い声だけではない、凄みがあったからだった。

「あはは……は……」

 太一はそこで笑いを止める。
 ず、と、急激に圧力が増した。

「ぐ……っ!」

 ビリビリと。少しでも気を抜いたら押されそうな錯覚さえ覚える。
 アクトは知らない。
 このような領域は、体感したことがない。
 なんだこれは。これが、人間が発するものだというのか。
 太一が施した強化は、エリステイン魔法王国のスミェーラ将軍を基準にしたものだ。
 紛れもなく、人類の最高レベルである。

『お……こ…………れは……』

 圧倒的なそれに当てられたか、実況の少女が懸命に振り絞った声も続かない。
 三大大国と呼ばれるに値するだけの屈強な軍を抱えるエリステイン。その、軍人たちの頂きに、自分の腕前でもって周囲をねじ伏せ、君臨する女の強さ。
 間違いなく。
 この学園の生徒たちが目指し追い掛け、走り抜けたその先。
 届かないと知りながらも精一杯手を伸ばして掴もうとしている目標そのものが、確かにそこにあった。
 太一はおもむろに剣を鞘に納めると、ベルトから外して放り投げる。
 ゆるやかな放物線を描いた剣は、思わず手を出した様子のカピーオの手に収まった。
 武器を放棄するという行為に疑問を覚えているアクトに、太一は言った。

「勘違いするなよ? 俺の剣術は付け焼き刃でな。こっちのが強いんだ」

 太一が、握った拳をアクトに見せる。
 決してバカにしている訳ではない。むしろ、これからが本領であるとアクトが理解したのを見てから。
 太一は腰を落とす。

『風人脚っ!!』

 その動作に、どうしようもない悪寒を覚えさせられ、アクトはなりふり構わず自身を強化。
 全力で後退しようと足に力を込めた瞬間。

「っ!?」

 懐に、太一が潜り込んでいた。
 振るわれる太一の拳が腹部にめり込む寸前で、アクトは辛うじて後ろに跳んだ。

「かはっ!?」

 ボディブローとバックステップの勢いそのままに吹き飛ぶアクトは、口から血の塊を一つ吐き出し、しかし辛うじて着地する。
 ずざざ、と三メートルほど地面を滑って。

(もう追い付かれた!)

 今すぐ腹を抱えてのたうち回りたいほどの鈍痛に耐えながら、アクトは懸命に太一がいるほうを睨み付ける。

(いない……はっ!?)

 上からアクトを踏み潰さんとする太一を、自身の上に出来た影でどうにか気付き、間一髪逃れる。
 太一が激突した地面が砕けた。
 ギリギリ。際どい。
 痛みと度を超えた推進力のために制御しきれず、地面を滑りながらも、アクトは体勢を整えるために必死で距離を取る。
 だが。
 その動きさえも太一には丸見えだったと、アクトは知ることになる。
 太一はその場から移動していない。
 だが、まっすぐ向けられた太一の手のひらが、高速で移動するアクトにぴたりと照準を合わせていた。
 太一の様子に一瞬歯噛みし、次いで、彼の周りに浮かぶものを認めて目を見開いた。

「あれは……!」

 太一の周囲に無数に浮かぶ、丸く平たい円盤。
 太一が見せたそれは。
 風属性上位殲滅魔術、『風月輪』。
 この学園における生徒の上級魔術の習得者は、極一部の上位者のうち、更に一握り。
 それも、慎重に詠唱をしてどうにか出来るかどうか、が関の山だろう。
 太一のように、何でもなさそうに、当たり前のように実戦で使うなど。
 ……と、そんな考察をしている暇など、アクトには分かった無かった。

『風月輪』

 太一が、躊躇いもなく魔術を撃ってきたからだ。
 広範囲にダメージを与える殲滅魔術。避けるのは非現実的。
 取れるのは防御だけだ。

『エアロアーマー!』

 今のアクトが即座に出せる、最高の防御手段。
 対魔結界などではとてもではないが防げる気がしなかった。かといって、この『エアロアーマー』も、どれだけ威力を削げることか。
 広範囲ゆえに威力が分散されるとはいえ、相手は上級魔術なのだ。
 初級魔術しか扱えない魔術師と、中級まで操れる魔術師との間には、一生懸命背伸びをしてもその距離さえ分からないような、割と洒落にならない差が横たわっている。同様に、中級と上級との間には、隔絶とした差が存在している。必要とされる魔力の量、求められる魔力操作能力をはじめとしたもろもろの要求水準は段どころか桁が違う。
 そして、アクトが使った『エアロアーマー』は中級魔術。無いよりマシでしかない。事実、アクトもせめてもの抵抗として、繕わずに言うなら気休めのつもりで唱えたに過ぎなかった。
 アクトは防御魔術行使後、両腕で顔をかばい、痛みに備えた。
 直後、風の連撃がアクトとその周囲を薙ぎ払う。
 連続する轟音を響かせ、無数の炸裂。一つ一つは小さいものの、威力は当然見た目以上。手加減はされているとはいえ、滅多にお目にかかれない上級魔術。その威力と迫力に、観客たちは目をむいた。
 『風月輪』の弾が切れ、砂塵が晴れていく。

「う、くっ……」

 ところどころに切り傷を負ったアクトが、ポタポタと血を落としながらも、辛うじて立っていた。
 見事に耐えきったのである。
 広範囲をターゲットとする特性上、命中率は格段に高いものの、分散されるのはアクトにとっては幸運だ。太一が、狙いを定めていなかったのもラッキーと言うべきだ。もっとも、後者については意図的だったが。
 これが単一のターゲットを狙う魔術であったなら、それで終わりだっただろう。
 実際には総弾数のうち半分も当たっていないのに、信じられないダメージを受けているのだから。

「ぐ……っ」

 がくりと、アクトがついに膝をついた。
 一発の拳と、一度の魔力行使。
 先ほどは太一を一方的に攻めたアクトを、たったそれだけの攻撃で今度は逆に膝をつかせた。
 分かる者には分かる。
 今の太一は、かの魔法王国最高戦力である女将軍と互角と言われる、帝国の英雄と肩を並べんとするレベル。
 アクトは学生で、軍人ですらない。善戦したと手放しの賞賛を浴びてよいほどだ。
 アクトの中には、よくやった、がんばったよと自身を肯定し、もう休めと促してくる声と、まだ出来るはず、これほどの相手にもう終わりはもったいない、もう少しだけ踏ん張れ、と続行を呼び掛ける声の二つがあった。
 アクトとしては、後者の声に従い、もっとぶつかってみたい。あれだけの力を持つ相手に胸を貸してもらえる機会に恵まれただけ幸運。もう二度と、そんなチャンスは来ないかもしれないのだ。
 だが、立っているのさえ辛いと悲鳴をあげる身体は、抗いがたいほどに休息を欲している。
 臥してあるわけではないためダウンは取られていないものの、このままではストップがかけられるかもしれない。
 そんな終わり方はごめんである。太一からの追撃はあるか。そう思って彼を見てみると。
 太一は、自分が地面を砕いたことによって出来た岩に腰掛け、アクトを見ていた。

「タ、イラー……」
「あれで倒れないとか本当に凄いな。見違えたな」

 太一は言う。
 心からの賞賛の言葉を。

「十分だろ、もう。これだけやれるんだ、誰もお前に文句なんざ言えないさ」

 アクトは驚きのあまり口をぱくぱくさせた。

「タイラー……君は、僕に、降参しろって…………言うのか?」

 まさか。
 たったこれだけで。
 終わりなのか。
 短くも、これまでの修行の中でも最高に濃厚だった彼らとの特訓の日々。
 あの時間を。
 彼はたった二回の攻撃で、終わらせるつもりなのか。

「そうだ。だってさ、『風月輪』を受けて立っていられるやつが、この学園に何人いる?」

 そうかもしれない。
 受けたからこそ分かる。
 あれは、学生レベルでどうこう出来るものではない。
 この学園にも冒険者ランクB相当の実力を持った生徒は一握りほどいるが、彼らもアクトも、太一の前ではどんぐりの背比べでしかないだろう。
 馬鹿にされている訳ではないというのは、アクトにもよく分かる。
 十分だ、という彼の言葉は、本心から出てているのだ。そう言われるくらいには、アクトは十分に力を示すことが出来たのだろう。
 だが。
 それでも。
 いや、だからこそ。
 これで終わりたくはない。
 そんな言葉を言わせている自分は、嫌だった。
 うつむくアクト。
 その手は震えている。
 何故だろうか。
 理由こそ分からないが、根拠のない自信がある。
 この手には、これまで以上の力が入りそうな、そんな自信が。

「……て、……らう」
「……ん?」
「続けてもらうって、言ったんだ……!」

 からだのあちこちに出来た傷から血を噴き出させながらも、アクトは立ち上がる。
 そんな獣人の戦士を見て、太一は本気で驚いていた。





(……おいおい、マジかよ)

 太一は苦笑する。
 まさか本当に立つとは。

(こいつは、わざわざ嫌な役回りを演じた甲斐があったな)

 大会前にアクトが見せた力の片鱗。
 あわよくばそれが開花すればと思っていた。
 だが、そうでなくても、アクトは十分な力を見せたのだ。
 もう十分だろう。そう言った太一は、心からそう思っていた。
 まあ、誤解される余地を残した言い回しをしたのは間違いないが。
 全ての力に目覚めなくても、力は存分に見せ付けた。当初の目的は達せられたのだ。及第点、いや、合格点だ。
 ただ、太一は。
 アクトが持つ力を、その先を見てみたかったし、引き出して欲しかった。
 そのためには、結果的に嫌われようとも。
 それでアクトが才能を開花させたならば。アクトにとっては、プラスになるのだから。

(こいつは……ついに来たかな)

 充実していくアクトを見て、太一は満足げに、わずかに笑った。
 これならば、百点満点。
 ならば、後は見せる……いや、魅せるだけだ。
 アクト・バスベルが、どれたけのものかを。

(目を見開けよ。お前らが軽んじてきたアクトがどんだけのもんか、刻み付けてやる)

 浮かべたわずかな笑みを引っ込める。アクトの気迫が高まるに合わせて、太一もまた、気合いを溜めていく。
 準決勝第二試合は、ついに最終局面に入る。

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