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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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帝国立魔術師養成学園の騎士候補生 十二

 戦いは激しさを増していく。
 学園生のそれとしては、もはや最高レベルと断言してしまっても問題はないだろう。
 火花が散り、耳をつんざくような衝撃が走り、火炎魔術がリングを焼く。
 左右からクロスするような斬撃。片方を剣の刃で、もう片方を柄で受けたミューラは、たん、と地を蹴る。
 逃がさぬとばかりに追いすがるカピーオの足元に、火球を三発。
 発動速度と威力重視。カピーオからすれば、被弾覚悟で突っ切ることも出来なくはない。
 間合いを詰める代償のダメージ。カピーオは即座に足を止め、『ファイアボール』の炸裂の範囲外に逃げる。

「……迷わず逃げる、か。慧眼ね」
「骨を切らせて肉しか断てぬのでは割にあわん」

 はたから見れば、互角のように思うだろう。大盛り上がりの観客席だ。
 だが、ある程度以上に目端がきくものからすれば、それは誤った状況把握である。
 常に近距離から中距離を維持せんとし、またそれを巧みに実践し続けるミューラと。
 相手にはりついて息もつかせぬ連続攻撃で攻めたいが、間合いを詰め続けることが出来ていないカピーオ。

「さて、と。ねえ、分かってるんでしょ?」

 とミューラが言えば、カピーオは苦笑する。

「ああ。お前の目的ばかりが達せられて、こちらは得意な距離での戦闘をほとんど許されていない。実に見事だ」

 隙のない魔術と剣の複合攻撃。剣の腕で見ても、カピーオからすれば抜けるビジョンが描けていない。加えて、魔術の腕に関しては比べるまでもないほどに差がある。にも関わらず、彼女はまだ底は見せていない。カピーオは、余すところなく力を出しきっているのに。
 流石に、国の威信を背負い留学生としてやってくるだけはあるとカピーオは思っていた。
 年の頃は彼と殆ど変わらない。無論才能の差はあるだろう。だが、それを生かすための努力は必要不可欠。
 カピーオは、世界の広さを体感していた。

「同じことをしていては打開など出来ぬことはよく理解した。であれば、すべきことはひとつだ」

 カピーオの周囲が歪む。魔力が高まる。

『おっと! カピーオ選手、接近戦を挑まない! 違う手を打ったと考えてよいのでしょうか!?』

 実況の少女が叫ぶ。
 その声を聞きながら、ミューラは剣をゆらりと下段に構えた。
 ざり、と地面を踏みしめながら腰を落とし、ミューラもまた魔力を練る。高まるエネルギーのなかを、彼女の絹糸のような髪がたゆたい始めた。

『カピーオ選手に触発されたか! ミレーユ選手もまた魔力を高めるー!』

 これまで力強くしなやかに地を蹴りミューラに切りかかっていたピカーオが凝縮する魔力と。
 それを受けての流れるような反撃、という戦い方をしていたミューラの洗練された魔力。
 運が不要だとは言わないが、運だけでここまで勝ち抜くことは不可能だ。
 どの試合も、選手の実力は間違いないと言ってよく、観客が望むレベル、いやそれ以上だった。
 小細工の通用しないルールでの、正面からの競いあい。見応えは抜群。選手同士が観客のボルテージも鰻登りだ。
 だが、それも長くは続かなかった。
 二人の魔力が、物理的な力を持ったかのようにのしかかり始める。
 学生のレベルでカピーオの領域にまで手が届いているのは一握り。ミューラに至っては、数年か数十年に一人いるかいないかのレベル。
 日常的に魔力に触れ合っている学生たちでさえ、ここまでの力にはそう巡り会うことは出来ない。
 一般人からすれば余計にだ。普通に生活していれば、一生お目にかかることがなくても不思議ではない。
 戦う力を持たない者からすれば、冗談のような光景。
 そんな二人が発する魔力と戦意は、一般人はもちろん、学生すらも沈黙させるところまで高められていた。

『こ、これは……圧力がどんどん上がって……緊張がこちらにも伝わってきます……』

 実況の声までもが小さくなる。
 思わずそうなってしまったのだろう。学生としては最高レベルのぶつかり合いを前に、空気が強張っていく。

「いくぞ……!」
「いつでもどうぞ」

 声を交わしあってから数瞬。からん、と、どこかから小石が転がる音が聞こえた。
 膨らみきった風船が破裂するように。
 両者は一直線に飛び出す。
 その勢いのまま二人は激突。
 両サイドから交差するように双剣を叩き付けるカピーオと、剣を下段から振り上げるミューラ。
 甲高い音とともに、
 宙を舞う、三本の刃。
 半ばから砕かれ、破片が陽光を反射してきらきらと輝いていた。
 二人の激突に、武器が耐えられなかったのだ。
 思わず、観客の目が奪われる。
 両者が担ぐのが自身の得物であったなら、破壊とはならず、健在であった。
 武器は壊れた。
 だが、試合はまだ終わっていないーー
 と、誰もが思った、その時。
 カピーオの動きが止まる。
 ひたりと、首筋に感じる冷たい感触。
 見れば、サーベルの形をした鋭い石の剣が、カピーオの頸動脈があるところに触れていた。

「土属性の、剣か……」
「あいにく、剣なら自前でいくらでも用意出来るの。ま、名剣、とまではいかないけれど」

 ミューラは肩をすくめた。
 即席で作るのだ。流石に、名匠が良い素材で鍛えた剣を上回ることは出来ない。
 が、それでも、十分だ。何せ、魔力が続く限り何度でも作り出せるのだから。
 先ほどまでの緊迫感の余韻か、静まり返った場にミューラの声がよく通った。

「そうか……参った。降参だ」

 続けて発せられたカピーオの言葉も、ミューラの台詞と同様よく通った。
 静寂が支配するなか、最初にハッと我にかえったのは解説の少女だった。

『こ、降参! カピーオ選手降参宣言! この勝負、ミレーユ選手の勝利です!』

 解説少女の声が会場に響き、勝ったミューラと負けたカピーオに向けて、そして、激戦を繰り広げた二人に向けて。
 一番の歓声が上がった。





 勝ったミューラは、カピーオに背を向けて自陣に向かって歩き出す。
 その途中、護拳に通した人差し指で石の剣をくるりと回すと、まるで手品のように、最初からそこに無かったかのように剣が消えた。
 ミューラなりのパフォーマンス、ファンサービスである。
 あの地に立つのは、いずれも劣らぬ実力者。
 それにもまた、どよめきと声援が送られる。
 初戦を戦った二人だけでなく、これから戦う選手たちにも、この歓声と好意的な目は向けられていた。
 この学園の層は厚い。大会の準決勝ともなれば、どこに出しても恥ずかしくないレベルの使い手が並ぶことになる。
 それは、少し事情を知る者ならば誰にでも分かる、いわば衆知の事実だ。
 つまり、この会場にいる観客のうち半数を超える者から認められているのだ。
 確かに、エリステインから来た留学生の二人には劣る。それは間違いない。素人目から見ても分かるくらいだ。
 だが、活躍している。速度と技、そして巧みな試合運び。チームメンバーが図抜けているために目立たないだけで、実力は示している。黒星以上の白星を挙げているのだから。
 もはや、これまでような工作による貶めは通用しないだろう。
 学園は実力至上主義。強ければ、認められる。この大舞台で、これだけ力を発揮すれば、疑う余地などない。

「おのれ……」

 だからこそ、許せない。
 この歓声を浴びるのが我慢ならない。
 どこまでもどこまでも、あれが、邪魔をするーー

「そうよ……あれさえいなければ……」

 増幅する。
 負の感情が。
 殺意が。
 憎悪が。
 怨恨が。
 制御が出来ない。
 否、する気が起きない。
 いつからか。制御できない感情の荒ぶりを、抑えよう、という理性が働かなくなったのは。

「やりますか?」

 と、耳心地にいい男の声。
 そう、いつも、この声が、女に冷静さと安らぎを思い出させてくれる。
 今はもう、この声だけが頼りだ。制御の効かない感情を抑えられる、唯一の。

「最大のカードは、準備が終わっています。後は、あなたが決裁するだけです」

 隣から聞こえた声に、女はゆっくりと頷く。
 この声の言うとおりにしていれば、大丈夫。この忌まわしい連鎖を、きれいに片付けてくれるはずだ。
 女はそう思って、委ねた。

「かしこまりました。では、そのように」
「手札をすべて切るのよね?」

 最大のカードを切るに当たって、もはや出し惜しみはなんの意味もない。
 これを切った後は、手にはなにも残らないのだ。ならば、最大限レイズするのが当然だろう。

「はい。すべて、です」
「いいわ。しっかりやりなさい」
「かしこまりました。では、次の試合終了と同時にショーを始めます」
「ええ」

 男が立ち去る。

「見ていなさい……終わりにしてあげるわ……」

 女は親指の爪に歯を立てながら、そう漏らす。
 その呟きは、会場を埋め尽くす大音声に飲み込まれ、溶けていった。
 背を向けた男の口元が三日月に象られたことには、ついぞ気付かないままーー






『さあ! どんどん参りましょう! 準決勝第一試合! 中堅戦です!』

 先鋒戦によって生まれた白熱した空気が冷める前にと、虎獣人の少女が声を張り上げた。

『この人の境遇は皆さんも知るところだったでしょう! しかし、こうして自らの手ではね除けてきました! 奮闘をここでもきっと見せてくれることでしょう! 赤サイド! アクト選手!』

 アクトへの声援も大きい。初戦のパラパラとした拍手とは大違いだ。
 得物であるショートスピアを無造作に持ったアクトが、舞台の上に立つ。

『対するはこの人! もう説明は不要です! 三回戦以降、すべての対戦相手を相性など関係なく一分以内に沈めてきた剣士! エリステインの留学生の名は伊達ではありません! 青サイド! タイラー選手!』

 名を呼ばれ、太一も舞台に立った。
 奏の試合を見てから、太一は一切の思考を、勝つためだけに使った。
 過剰なダメージを与えないよう、魔力強化の加減には細心の注意を払いつつ、勝つために本気を出したのだ。
 そこには一切の油断は介在せず、対戦相手には全くつけ入る隙を与えなかった。
 レミーアやミューラという、戦術においては上を行く存在と訓練を繰り返し、エリステイン魔法王国軍のトップ、スミェーラとの模擬戦の経験が生きていた。

(緊張は……し過ぎてないな)

 アクトを見やり、太一は心の中で呟く。
 緊張も、し過ぎれば身体も思考も鈍らせてしまうが、適度な緊張は良いパフォーマンスのためにむしろ必要だ、とは、奏が言っていたことだったか。
 そう、すべてはこのときのため。
 ここまでは予定調和。これからが、仕上げだ。

「さて、ついにこの時が来たわけだ」

 太一は笑みを浮かべてアクトに話し掛ける。
 それを受け、アクトも笑う。

「うん。見せるよ。どう変わったか」

 気負いなし。気力十分。気迫満々。
 ベストコンディションだ。

『さあ参りましょう! タイラー選手が星を一つ取り戻すのか! はたまたアクト選手がここで一気に決めるのか! 運命の第二試合目、始めっっ!!』

 歓声をバックに、実況の声が会場に響き渡った。
 アクトは槍を回して構え、太一は鞘を少し前に出し、剣の柄を軽く握る。
 生まれたのは膠着。二人はその場で微動だにしない。
 始まらない戦闘。しかし、両者の間にわだかまる緊張感が肌を刺し、観客から声を奪っていった。
 五秒。
 一〇秒。
 初手をどうするか、相手の読みを読んで外してを繰り返している。
 それは目線のみでの攻防。
 間合いの奪い合い。
 先に動いたのは。
 果たして、アクトだった。

「ふっ!」

 短く息を吐き、一気に距離を詰める。
 突きの構えから、太一の剣の範囲外で、飛び出しの勢いを利用した一回転。そのさなか、ショートスピアを両手で握る。
 遠心力と加速によって生まれたパワーのすべてを切っ先に乗せて、鈍器のように太一に叩き付けた。
 一瞬の体勢変更。突くのでも薙ぐのでもなく、殴りかかるという一手。いきなりそれを見せられた太一は楽しそうに笑い、剣を引き抜くとアクトの槍の切っ先を迎え撃った。
 爆ぜる空気が八方に散った直後、二人の距離がわずかに離れる。
 一メートルと少しのショートスピアと、切っ先の長さ七〇センチほどの片手剣の打ち合い。
 間合いでは当然アクトが有利。だからこそ太一は巧みに動きながら距離を詰め、アクトもまた後退しながらうまく立ち回って間合いを取らせない。
 太一が発揮する力は、三回戦以降と変わっていない。彼の相手の誰もが、ここまでやりあうことは出来なかった。
 つまり、アクトは太一の対戦相手たちのことは超えているということだ。

「ずいぶん変わったなアクト! 良くなってるぞ!」
「君たちとの訓練で得たものを、試合で試してきたから、ねっ!」
「おっと!」

 振り上げられた回し蹴り。この試合初めて見せられたアクトの徒手空拳。
 太一はたんたんと軽快に距離を取る。
 実況の少女が興奮に任せてこの試合を評しているが、それさえも遥か遠くから聞こえる。
 もちろん、追撃をしない手はない。
 アクトは槍を払い、武器を媒介して『エアハンマー』を放った。
 不可視に近い風の弾丸。それは距離を取る太一にあっという間に追い付き着弾、砂塵が巻き上げられた。
 誰の目にも直撃したかに思われた。
 だが。
 その砂煙の頂点から跳ぶ影。

「っ!」

 アクトは息を呑む。
 期待はしていなかったが、やはりあの程度ではダメージなど見込めない。精々が牽制程度だろう。

「次はこっちの番だ。こいつをどうするか、見させてもらうぜ」

 ヴンーー
 その震えは、観客にも聞こえただろうか。
 太一の属性は、アクトと同じ風である。
 だから、風属性の攻撃をしてくることは分かっていた。
 アクトはごくりと唾を飲み下すと、しっかりと重心を落とし、両手で槍の石突き付近と切っ先付近を握り、身体の前に構える。
 太一が何をしようとしているのか、風の魔術師であるアクトにはよく分かったから。

「まずはテストその一だ!」

 上空で、太一が振りかぶる。

(あれは、タイラーの身の丈くらいのバスタードソード!)

 どうやったかは分からないが、風の魔術でそれを創ったようだ。何人が、見えているだろうか。
 直撃すればただでは済まない。避けるか防ぐか。悩んでいる暇はなかった。
 横に薙がれた右腕から放たれるバスタードソード型の風魔術。緩やかな弧を描きながら、アクトの鳩尾の下辺りを目掛けて脇目もふらずに飛ぶ。
 コントロールも抜群、外れないーー
 太一の魔術の精度は相当いい。

(あのリーリンやミレーユでさえ、コントロールミスはたまにやるって言ってた。でも、タイラーは違うんだ! 外れて欲しいなんて消極的なことじゃダメだ!!)

 留学生の二人が見てきた限り、この少年が魔術を外したところは一度たりとも見たことがないという。
 まあ、百発百中なのにはからくりがあるのだが、無論アクトは知らない話だ。
 避けるか。それがおそらく最適解。防御に徹すれば耐えられるはずだ。だが、引き換えにどれだけのダメージを甘受せねばならないか分かったものではない。
 けれども、アクトは、逃げたくなかった。タイラーからは、逃げたくなかった。
 アクトは、あえて不利な条件に挑む。効率や理屈ではない。自分の「本当はこうしたい」という願望に素直に従って。

「はあああ!」

 この瞬間を預けるのは、やはり手に持ったショートスピア。
 アクトの愛槍ではないが、磨いてきたと胸を張れる技を認めたのか仮の主であるアクトによく応え、あの(・・)タイラーといい勝負をさせてくれるショートスピアに。
 その切っ先に今の全力の風を纏わせ。
 そして、回転しながら迫るバスタードソードの軌道に沿えた。
 その回転の周期を見極めてーー絡めとる。風を纏わせた槍を跳ね上げ、バスタードソードを弾き飛ばした。
 もう一度やれと言われても二度と出来る気がしない、極限の集中だからこそ成立した受け流し。
 ターゲットを見失ったバスタードソードが、肩で息をするアクトの後方に着弾し、爆発する。
 後ろからの爆風を受けつつ、アクトは笑った。

「やるな。その凌ぎ方は予想外だった」

 太一が着地し、アクトを讃えた。

「鍛えてもらったからね。まあ、賭けだったけどさ」

 言いつつ、構える。槍の先を、ピタリと太一に向けて。

「そりゃ何よりだ。まだまだ、こんなもんじゃないんだろ?」
「もちろんだよ」
「楽しみにしてるぞ」

 太一は剣を肩に担いだ。仕切り直し、第二ラウンドである。
+注意+
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