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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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帝国立魔術師養成学園の騎士候補生 七

重版記念に久しぶりの投稿。
お待たせしましたー。
 この世界においても、ペットを飼う、という概念は存在する。
 旅をした先で牧場を見ることはそれなりにあったし、牧羊犬で家畜をコントロールしているところもあったのだ。
 だから、奏の胸元から黒猫がぴょんと顔を出していても、特に違和感はない。
 ずっと宿にいるのは退屈だととうとうごね出したカリーナを宥めるために提示した折衝案は、「大人しいペットとしてならいいよ」だった。
 猫なのは見た目だけで、人間の人格を持っているカリーナにはいささか失礼ではあったが、提示した奏の配慮を察したのか、二つ返事で了承した。
 一般的に考えて、仮にカリーナが「喋る猫である」というのが露見すれば面倒なことになるのは避けられない。そんな面倒事は個人的にもごめんであり、目立つなら目立つで、計画通りにしなければならない。
 かくして、リーリンになついている猫、という体で行動を共にしているのである。
 そんなことを考えていたのだが、それは現状とはなんの関係もない。言ってみれば、現実逃避していたからだ。まさかそんなことはないだろう、と高をくくっていたはずが、今目の前で現実として起きているために。

「本当に翌日とは思わなかったなあ」

 太一はその先で広がる光景に呆れともつかないため息をついた。

「同感だよ」
「見てきたかのように言ってたものね」
「にゃあ」

 太一の言葉に同意する奏とミューラ。カリーナもそうだと言わんばかりに一鳴き。
 二人も太一と同じく「まさか」という思いだった。
 これでは、本当に毎日起きているということではないか。
 あっち、と訴えるシルフィに従い来てみればこの結果である。
 三人が立っているところから、距離にしておよそ一〇〇メートル強。行き交う人波の間を縫うように、時折見える人垣。
 人垣に遮られ、その中心に誰がいるのかは分からない。だが、強化を施した聴力であれば、聞き取ることはそう難しくはない。
 太一が聞いたところ、ざわめきの中、目的の人物の声が確かに聞こえた。
 聞き間違いかと奏、ミューラにも確認したが、二人も同じ声を聞いたという。しかも、台詞の内容まで一致というおまけ付けだ。
 目線でやり取り。介入するか否か、である。
 ここで介入すれば、大きな注目を浴びる。それが、プラスに働くのか、はたまたその逆か。
 答えは、すぐに出た。

「これはチャンスね」

 と言う、ミューラの一言によって。
 彼女が何を言いたいのか、太一も奏も正確に理解していた。
 介入決定である。
 三人は、人だかりに向かって歩き出した。



 アクト=バスベルは、目の前でにやつく五人の生徒たちを睨み付けた。
 先程までこの生徒たちに囲まれていた少女を背中にかばい、アクトは強い姿勢を崩さない。少女の頬は赤く腫れ、制服に砂ぼこりがついている。それが、アクトを退かせない大きな理由でもあった。

「やれやれ、君か。噂は聞いているよ。いい加減、私たちの邪魔は止めてくれないかな?」

 五人の真ん中、先頭に立つ金髪を撫で付けた青年が柔らかな物腰で声を出す。
 もっとも柔らかなのは物腰だけで、その眼は人を人と思わない、見下したものだった。

「邪魔だって? よってたかって一人の女の子を苛めておいて、それを見逃せっていうのか?」

 変なことを言ったつもりはない。苛めなど許せるものではないのだ。
 だが。

「見逃せ? 何故対等の物言いなのか理解に苦しむな」
「……何だって?」
「慎んで受け入れる。それが当然だ。立場の違いを理解したまえ」

 アクトは返す言葉をなくした。選民意識。排他主義。なんでもいいが、彼はそれが当たり前だと思っている。

「君が、貴族だからか?」
「当たり前すぎて答えるのもくだらないが、まあ、そういうことだね。彼女は私に対して罪がある。償わなくてはならないのだよ」
「だからって暴力を振るう必要はないだろ!? 心を込めて謝罪されたら、それを受け取れば済む話じゃないか!」
「分かっていないな」

 青年は首を振って笑った。アクトには、表情が歪んだようにしか見えなかったが。

「私は伯爵家の次期当主だよ? たかが平民が本来話すことも許されないのだよ。なのに彼女は、平民でありながら私の期待を裏切るという暴挙に出た。誠意を持ってその身を捧げ、奉仕することでしか償うことは出来ない」

 青年は次々と言葉を繋ぐ。彼の後ろにいる取り巻きたちはにやにやと笑いながら頷いている。
 理解が、出来ない。

「平民は、私たち高貴なる血によって生かされていることを理解しなければならないのだ。理解していない平民には、それを教育するのも、私たち高貴なる者が負う義務だよ」

 彼は、何を言っているのだろうか。
 よってたかって、複数で一人を責め立てるのが、暴力を振るうのが貴族の義務だと、彼は本当にそう思っているのだろうか。
 一度静かに、上がった熱を外に出すように息を吐く。
 アクトが考えなければならないのは、この少女を無事に逃がすことだ。相容れない価値観に熱くなるのは本題から外れたこと。今は必要ない。
 どうにかして隙を作らなければ。
 彼女が逃げやすいタイミングを模索する。

(……ん?)

 必死に考えを巡らせていると、ふと、伯嫡男に歩み寄る取り巻きの一人。彼は青年の耳元でヒソヒソと幾つか言葉を流す。それを受けた青年はふう、とため息をついた。

「……ふふ、まあ、いい。卑しい平民でありながらこの私の前に立ちはだかった君の勇気に敬意を表して、今日のところは引くとしよう」
「……え?」

 アクトの思考が追い付かない。先程まで勢いが良かった彼は、捨て台詞を吐いてこちらに背を向けようとしている。
 あれだけ権威を振りかざしていたのだ、今さらアクト相手に怖じ気づいたとは思えない。では、何故。

「あれ、何だ。行っちまうのか」

 ふと背後からかけられた声。
 ぴくりと反応し、足を止める伯爵家嫡男。
 バッと振り返ると。
 そこには、エリステインから留学しに来た三人組。
 人だかりが自然に割れていく。エリステイン宮廷魔術師の弟子という彼らの肩書き、そして、ここに編入してから見せつけた並々ならぬ実力の端々が、遮るものを無くさせていたのだ。
 足を止めた伯爵家一行。その中心人物はくるりと振り返り、タイラーに向き直った。

「君たちは例の編入生だね。話は既に私のところにも届いている。素晴らしい実力を持っていると聞いているよ」
「それはどうも」

 掛けられた言葉に対して、返事は素っ気ないもの。反応するかと思われたが、それはなかった。

「君たちほどの力なら、是非欲しい。私が家を継いだ暁には、側近として力を振るう気はないかな?」
「生憎だけどさ。あんたの右腕って地位は、エリステインの宮廷魔術師って肩書きと比べて、上回るもんなのか?」

 ガルゲン帝国には、伯爵家は複数ある。実力ある者を登用している家はたくさんあるだろう。だがそれは、王家、公爵家、侯爵家の順で収穫された畑の残り物である。タイラーたちの力をその目で見たわけではないものの、優秀な子飼いの魔術師が喉から手が出るほど欲しい伯爵家としては、伝聞だけでも勧誘の価値があった。
 対して、エリステイン魔法王国の宮廷魔術師。魔力量、魔力強度で群を抜く才を要求される上、それはあくまでも最低条件という、狭く、厳しい門だ。場合によっては貴族の爵位よりも価値があると言われる王国宮廷魔術師。
 その夢を蹴ってまで、ついていくだけの価値、カリスマを、お前は示せるのか。
 タイラーは言外にそう告げたのだ。
 貴族という地位を歯牙にもかけないその態度。横にいる二人の少女も、タイラーを咎めはしなかった。
 明らかに面白くないだろうに、伯爵家の跡継ぎは「分かっていた」と言わんばかりに薄く笑うだけだ。

「ふむ。そう言われると流石に分が悪い。君たちの勧誘は難しそうだ」
「わかってくれて嬉しいよ。他の貴族からも同じことを言われるんだけど、あんたのようにすぐに解ってくれる奴はホントに少なくてな」
「君たちにとっては面倒だろうが、帝国貴族の端くれとしては、勧誘を諦められない気持ちの方が分かる。断り続ければそのうち諦めるようになるだろう。下火になるまでは、耐えてくれたまえ」

 青年の言葉に肩をすくめるタイラー。
 しばらく勧誘はなくならないと正直に認めるところには素直に好感を覚える。

「それとなく言っておいてくれよ。俺たちは誰かに仕える気はない、ってさ」
「良いだろう。機会があれば、な」
「ああ、それでいいよ」

 機会があれば。実に便利な言葉だ。現状が改善しなくても機会を理由にできる。
 伯爵家嫡男とその取り巻きが去っていく。
 その背中を見送ってから、タイラーはアクトに向き直った。
 黒い髪をした少年の顔を見つめる。するりと現れて会話の主導権を手にし、そのまま貴族を立ち去らせてしまった。
 あのままバトルになだれ込む可能性も覚悟していたのに、終わりはあまりにも呆気なかった。

「アクト?」
「あ……ああ、ゴメン。ボーッとしてた。……ありがとう、助けてくれて」
「ん? 俺たち何かしたか?」
「……ふふ、何も、してないかもね」

 とぼけるタイラーに、アクトは思わず笑みをこぼす。
 中性的なアクトだからこそ、男女を問わず魅力的に映る笑み。
 タイラー……もとい、太一達は介入が成功したことを実感した。
 目立つため、というのも十分に達成しただろう。あれだけの衆目がある中で貴族の一派と問答をした上に、囲まれていたアクトを助けるという結果。
 これで印象付ける……とまではいかないものの、人々の記憶に残すことは出来ただろう。タイラーたちエリステインからの留学生は、騒動が起きた際アクト側に立つ、ということを。まだそういう疑惑の範疇ではあるだろうが、数度と重なればその疑惑は確信に変わるはずである。

「っと、そうだ。君、大丈夫?」

 アクトの背後でアクトとタイラーを見比べていた女子生徒の前にしゃがみ、ハンカチを取り出すリーリン。

「結構腫れてるね。それに、唇も切れてる」

 ハンカチを水魔術で手早く湿らせると、魔法回復薬ポーションを数滴垂らしてから腫れた頬に優しく当てた。

「つっ!」
「あ、ごめんね」

 ポーションは傷口に直接降りかけるとかなり染みる。さすがに呻き声を上げる女子生徒。それに思わず謝ったリーリンだが、手当てをされているということから少女が動かなかったため、リーリンも手を止めなかった。学院の生徒というだけあって、怪我、というか痛みに対しては一般人以上に理解があるようだ。

「これで大丈夫。明日になれば完全に痛みと腫れは引くはずだよ」
「あ、ありがとうございます……」

 周囲を見れば、だいぶ人は減っていたが、それでも当初の三割ほどの人が残っている。
 目撃者が多いほどいい。この少女を治療したのがリーリンであるという事実は重要だ。仮にまた貴族たちが彼女を狙おうとしたところで、怪我が治っていることに気付かない訳がない。
 彼女は平民であるらしく、言ってしまえばあの程度の怪我ではポーションを使って治療を行うような余裕はない。一家に一本や二本、日本で言う消毒液のような感覚で一般家庭にも常備されているのがポーションだが、これは基本的には冒険者向けのもの。一般人が気軽に使うには憚れる程度に値が張るのだ。
 彼女の家の経済状況は分からないが、多少の傷にポーションを使う余裕のない家庭であれば翌日以降も傷は残っているだろう。それがたった一日で綺麗に治る。つまり誰かが治療したことになる。そこで、治療したのがリーリンである、という風に、確実ではないがつながる可能性が出て来た。
 彼らは帝国貴族である。いくら勧誘に断られたからと言って、他国からの賓客扱いをされているリーリンたちの機嫌を損ねるのは体面的にもまずいだろう。タイラーたちと言い争ったりしているところを見られるだけで、「他国からの賓客の機嫌を損ねる真似をする、帝国貴族の面汚し」として別の貴族から見られてしまう。
 わざわざ治療したのだ。もう一度傷つけるような真似をするなら、毅然と抗議することも厭うつもりはない。その前に気が付き、手を引くことを願っている。
 もっとも、そんなことに気を使うのならば多少強引にでも保護してしまうのがいいのだが、ここは学園で、彼女にも授業がある。一度の欠席が響く以上、出来ればその手段は取りたくはない。
 まあ、そのためには彼女がどうしてああなったのか、を聞く必要があるのだが。

「……」

 タイラーやアクトを見て顔を伏せる少女。しばらく待ってみるものの話すつもりはないらしい。

「……仕方ないわね。話す気がないなら無理には聞かないわ。でも、困ったら一人で抱え込まない、それを忘れないこと。分かったかしら?」

 ミレーユの言葉に小さく頷くと、少女はたたっと立ち去った。
 彼女にも思うところ、また事情があったのだろう。無理やり話させてもきっといいことはない。
 少女が立ち去ってからしばらくして、周囲にいた見物人たちも少しずつ散って行った。

「ところで、アクト、お前は大丈夫なのか?」
「え?」

 人だかりが完全にはけたところで、タイラーが声をかける。
 その言葉に、そういえば囲まれていたのは自分もだったか、と思い出したアクト。苦笑いをしてタイラーたちに向き直った。

「ああ、僕は大丈夫だよ。いつものことだしね」
「いつものこと?」

 事前に得ていた情報通りの回答。だが、それを表に出す訳にはいかない三人は、いかにも初耳だ、という顔で反芻した。

「そうさ。ああやって理不尽に誰かが責められている場面に出くわすと、ついね」

 悪癖なんだよね、と渇いた笑みを浮かべるアクト。それに合わせて尻尾が垂れ下がっている。中々立派な正義感を持っている。それそのものは好ましいのだが。

「ちょっと、無鉄砲が過ぎる気がするわね」
「そう思う?」
「ええ」
「やっぱりか~……。そうやって忠告してくれる友達がいるんだけどさ。気がついたら身体が動いてるんだよ。その友達が一緒にいる時は加勢してくれるんだけどさ、いつも一緒にいるわけでもないしね」

 自分でもあまり良くはないと自覚しているうえでのことなのだから、考えての行動ではないようだ。
 いつか手痛いしっぺ返しを受ける可能性がある。いや、これまでに全く痛い目を見なかった、ということはあるまい。
 メリアからはアクトの味方でいてほしい、と言われている。
 その身を守るのもそうだし、それが学園で秘密裏に行われている抗争に一石を投じる結果になるから、と。
 あくまでも任務、そう思っていたが、実際に話してみて気が変わった三人。
 アクトは、非常に危なっかしい。
 放っておくことが出来ない。そこに確たる理由があるわけではないのだが、そう思わせる何かを持っている。
 タイラー達……いや、太一達はアクトの味方をすることに決めた。
 それは任務であることももちろんだが、個人的な感情でもだ。
 感情と実益が両立される選択肢である。

「アクト」
「ん? なんだい、タイラー」
「俺たち、お前の味方をすることに決めたよ」
「うん、ありがとう」

 そう素直に返事をして、固まるアクト。
 今言われた言葉を咀嚼して、その表情が驚愕に染まる。

「え、ええ!?」

 そんな展開は全く想定していなかった。そう思わせるアクトのリアクション。慌てるアクトを見て、太一達は笑った。
 そんな三人を物陰から窺う一人の男子生徒。彼はそっと姿を消す。
 太一達に気付かれているとも、知らずに。
+注意+
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