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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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帝国立魔術師養成学園の騎士候補生 二

最長未更新記録……しかし三ヶ月は空けさせないっ!

悩みに悩んだ本話。
未だに最善ではないと感じつつ、しかしこれ以上の改良は今の私では不可能と思い更新に踏み切りました。ここまでプロットを没にしまくったのは初めての経験でした。。。

大変お待たせしました……!
「よく来てくれた」

 端正な顔に柔和な笑みを浮かべ、メキルドラが立ち上がって両手を広げた。
 その行為に呆気に取られ、次に慌てたのは太一たち一行である。
 非公式とはいえ相手は国のトップである。入室の後はしっかり礼節を持って接しようとした矢先に先手を取られた。
 慌てて膝をつこうとする三人を、メキルドラは手を翳して制する。
 その顔には分かりやすく「無礼講でいい」と書かれていた。
 笑顔の裏に本心を隠す腹芸はお手の物のはず。それを信じていいものか、三人は決めかねた。

「ああ、そうだな。予の名において誓おう。この場は無礼講だ」

 そして、相手の顔色から言いたいことを察する洞察力。
 ジルマールとほぼ同じ流れを辿った。その笑みから深読みするに、恐らくはわざと。その辺りの情報も得ていたと思われる。
 やはり大国を統べる皇帝だけあり、情報戦やネゴシエイトでの勝ち目はなさそうだ。

(第一打席は三球三振、ってとこだな)

 どうせ読まれるのなら、取り繕っても無意味。
 せっかく相手もいいと言ってくれているのだからと開き直った太一が、本心を隠すのを止めた。
 雰囲気の変化を受けて笑みを深めるメキルドラ。
 体裁として帝国の略式で礼を取った三人を見て、皇帝は椅子に座り直した。
 顔を上げ、改めて執務室を、目が動く範囲で見てみる。
 分かりやすい豪華さはほとんど見られない。しかし、一つ一つはとても立派なものだ。一度買えば、買い換えの必要など発生しないのではないだろうか。

「質素だろう?」

 メキルドラが言う。

「ここを質素と言ってしまうと、世の中の職人が立ち直れません」

 ミューラが返す。
 曲がりなりにも王城に滞在した経験があり、太一たちは無知ではない。
 この部屋の調度品は、職人が見てくれの豪華さを一切追求せず、素材と造りの良さで価値を引き上げたものだ。
 ものの価値を見る目は持っているのだと、メキルドラは満足げに頷いた。

「意地の悪い質問だったな、許せ」
「……いえ」

 さっくりと謝られ、ミューラは辛うじてそう返すのが精一杯だった。
 経験的にも実力的にも、普通のローティーンからはかけ離れた少女であるミューラだが、流石に三大大国の皇帝相手には緊張している。前回、ジルマールとの謁見はレミーアが矢面に立ったため、自分達で何とかしなければならないというプレッシャーは並ではない。
 本来なら、メキルドラはそう簡単に謝罪できる立場ではない。自分に非がないと分かっていてもだ。相手側のそういう対応が、余計に緊張を助長する。

「さて。本来ならば色々と前置きがあるのが特権階級の特徴と言えるが、予はお前たちに対して下らぬ建前で取り繕うつもりはない」

 つまり彼はこう言っている。

「仕事を頼む側と仕事を受ける側。予と……いや、俺とお前たちはビジネスパートナーだ」

 自分と太一たちは対等である、と。

(……簡単に言ってくれるわね、もう)

 返す言葉がない。
 この若き皇帝と対等な立ち位置でやり取りが可能な者が、果たしてどれだけいると思っているのか。

「ビジネスパートナー、ですか……」
「ああ。ビジネスパートナーだ」

 奏の反芻に、メキルドラは同じ言葉で答えた。
 重ねて言うが、メキルドラと対等など、両手の指で数えたところで余るのは確実。
 世界中、という広い枠組みの中で狭い門を通過した内の一人に数えられる人物が、この場にはいる。

(ああ、やっぱ来たか……)

 両隣の少女たちの視線が太一に向けられる。
 いずれ自分に白羽の矢が向けられるとは思っていた。
 四大精霊との契約という、凡そ考えられないことをなした。他の人物が軒並団体の代表、という立場なのに対し、太一は一個人、という違いはあるが。
 奏とミューラの視線が向けられたことで、メキルドラの目も太一に移る。
 手札は己の力ただ一つ、ジョーカーである。
 太一は、皇帝の視線を正面から受け止めた。
 持ち得た戦闘能力以外では一般人に過ぎない太一と、帝国の頂点に立つ男との共通点が簡単に見つかるとは思えない。しかしレミーアは今不在。ここは自分達でどうにかせねばならない。

「……分が悪い賭けだなぁ」
「何か言ったか?」
「いえ、独り言です」

 ポツリと呟いた言葉に質問を投げ掛けられ、今度は堂々と誤魔化した。
 どのみちここを逃げる術はない。ならば腹を決めて開き直った方がいい。
 突如堂に入った姿を見せた太一に、メキルドラの斜め後ろに控えていたメイドの片眉がピクリと動く。
 彼女とてメキルドラの側近。相手が他国の王族だろうと悟られるようなへまはしないが。

「そうか。独り言ならば良い。さて、早速商談を始めようではないか」
「出来ないことなら引き受けられませんよ? 責任取れませんし」
「無論だ。お前たちに政をやらせようとは考えていないし、責任を押し付けるつもりもないから安心しろ」

 メキルドラが片手を上げると、メイドがどこからか取り出した書類を見つつ、訥々と語り始める。

「現在、この国はたくさんの問題を抱えています」

 鋭利な刃を思わせる声が執務室に響く。

「貴族同士の軋轢、不景気、過去この国が仕掛けた戦による他国との怨恨等々」

 世界一の人口を抱える大国だ。問題がない方がおかしい。エリステインもシカトリスも、大なり小なり問題があるだろう。

「それ以外にも解決すべき問題は数えきれませんが、今回、お三方にお願いしたい問題はこちらでございます」

 メイドはぺらりと書類をめくった。

「問題の内容は、レージャ教と思われる組織からの、帝国瓦解の画策。お三方にはレージャ教の企みを阻止して頂きたく存じます。活動場所は、帝国立魔術師養成学園」
「学園……学園?」

 レージャ教に気を付けろと言ったというエリステインの故公爵の姿が浮かび、何とも言えない顔をした太一だったが、続いた言葉に、太一は思わず二度呟いた。
 一度目は「この世界にも学園があるのか」という感慨、強い郷愁と言い換えてもいい。
 二度目は「レージャ教を止めるのに何故学園なのか」という疑問。

「そうだ」

 思わず考えに陥りそうになるが、頷いた皇帝を見てそれを一旦横に置く。

「お前たちもエリステインの重鎮と関わりがあるのだ、ちらりとでも聞いたことはあるだろう?」

 太一は首肯した。

「まあ、エリステインも我々も、まだ確証があるわけではない。だが、そう予測を立てるに足る材料があるのも事実。シカトリスも賑やかしを受けているとあの女帝が親書を寄越すくらいだ。少しずつだが、国という枠を越えつつある」
「……」

 太一は苦い顔をした。
 勘弁してくれ、と嘆きそうになったのは責められまい。
 聞いてみれば随分と規模が大きい話である。考えずとも面倒であることは明白だ。
 本音を隠す気が一切ない太一の分かりやすいリアクションに、メキルドラは楽しそうに笑みを浮かべた。
 一体どれだけ厚化粧をすれば気が済むのか、と言いたくなるほどに無数の面の皮を被った狸の相手をするのが日常のメキルドラ。
 故に、真正面から本音をぶつけてくる太一に、とても新鮮な気持ちを味わっていた。

「そんなでかい話、俺たちが受けていいとは思えないな……」

 額に手を当てて思わず、といった体でこぼす太一に、

「何故だ?」

 と、普段なら相手の考えを見透かそうとするところをあえて素直に問い掛けるメキルドラ。

「いや、単純に、俺たちは諜報活動ド素人なのが一つ。もう一つが、こんなデカい案件、しくじったら責任取れないというのが一つ……です」

 本音で答える。つい口調が普段通りになりかけ、辛うじて取り繕う。それくらいには、動揺していた。取り繕えていなかったが、あえて言うまい。

「構わぬ。だからこその商談だ。先程予は「責任は押し付けない」と言ったな?」

 確かに聞いた。それをメイドが「仰せの通りです」と肯定した。

「契約書に責任は取らせないと明記すれば済む話だろう。信用出来ぬというのなら、国璽を押しても良い」

 国璽と聞いて奏が目を丸くする。
 国璽を押された文書は公的にかなりの強さを持つ。それを反故にするということは、自分から国の威信を投げ捨てるのと同じだ。
 彼が提示する条件は破格と言えるだろう。
 奏からその話を聞いた太一は、むしろ訝しげな目をメキルドラに向けた。
 どうして彼はここまでするのか。
 答えは、メキルドラ本人から告げられた。

「召喚術師の少年。お前は自分の存在が持つ意味を把握していない」
「……」
「答えはシンプルだ。予は、帝国は、お前たちと事を構える事態になりたくないのだ。恩を買い、恩を売る。働きに対して正当な対価をもたらす相手なら、お前たちにとっては益となる存在だろう?」

 それは、冒険者としての活動と何ら代わりのない関係。違うとすれば、冒険者ギルドを介するか否かだけだ。

「益となる存在となれれば、お前たちに牙を向けられることもあるまい。身も蓋もないことを言えば、予はお前たちに媚を売っているのだ」

 あまりにあれな言い様に、太一の顔に何とも言えないものが浮かぶ。

「お前は、この国を陥とすのにどの程度時間が必要だ?」
「陥とすだけなら、五秒ですね」

 一切の犠牲を考慮しないなら、何も考えずに『トールハンマー』を城のど真ん中に撃ち込めばいいだけだ。
 答えながら、メキルドラがシンプルと言った理由が太一にも分かった。

「……言うに事欠いて五秒……いや、聞いたのは予だったな。しかし言ってくれる。どうやる?」
「無礼は許してください。城ごと陛下を消し飛ばします」
「……それ程の術を撃つのに要するのが、たった五秒と?」
「はい」
「やれやれ……参ったな」

 若き皇帝は苦笑を浮かべて脱力した。

「予が媚を売る理由が分かったか?」
「ええ。そりゃもう」

 今の話を聞いても、脱力こそすれ苦笑いで済ませたメキルドラに対し、太一こそ苦笑するしかない。

「お前たちに喧嘩を売れば間違いなく国が滅ぶ。であれば、友好な関係を作りたいと考えるのはおかしい考えではあるまい?」
「ごもっともです」
「行為に表し形にしなければ、口にしたところで伝わらぬ。これから信頼を築く段階の今は特にな」
「……」

 一通りコミュニケーションが済んだと判断したメキルドラは、「さて」と話題を切り替える。

「学園に潜り込んでもらうに当たり、必要なものは幾つか用意してある。例のものをここに持て」
「畏まりました」

 皇帝の命を受け、深々と礼をしてメイドが一旦下がり、数分後に戻ってきた。

「こちらを貸与致しますので、まずはお受け取りください」

 メイドが両手に捧げ持つのは銀色のトレイ。その上には、三つの指輪。
 これを受け取らなくば話が進まない。とりあえず手に取る。
 特に装飾もなく、宝石が一つついただけのシンプルな指輪である。
 指輪というからには、はめろと言うことだろう。

「はめても?」
「着けてみるといい」

 皇帝に促され、三人は適当に指輪をはめる。
 すると、合わないサイズのはずの指輪ははめた指にごく自然にフィットした。

「これは、魔道具ですか?」
「左様てございます」

 メイドが首肯し、皇帝は笑みをわずかに深める。

「どうやらきちんと効果は発動したようだな」
「え? ……あ」

 太一たちは顔を見合わせてぽかんと口を開けた。
 太一の髪と目はコバルトブルーに。
 奏の髪と目の色がピンクに。
 ミューラの髪はエメラルドに、目は濃い翡翠色に。
 それぞれ色が変化していたのだ。

「これは……」
「うむ。身をやつす魔道具だ」
「こんな魔道具があるなんて……」

 ミューラは愕然とした。 レミーアの元で数多くの知識を身に付けたが、こんな魔道具は知らなかったのだ。

「この魔道具は、今のところ帝国のごく限られた重鎮しかまだ存在を知らぬ。さすがの落葉の魔術師でも、これの存在は知るまい。厳重に秘匿しているのだからな。有用ゆえに、使い途は色々ある故に、な」
「色々、ですか」
「色々、だ」

 そんな重要なものを貸与されても……という思いは拭えない。それは自己評価の低さのためだ。もはや太一たちは、国家が最敬礼で迎えるべき存在になりつつあるのだ。帝国から見て、へりくだる必要はないが、秘匿技術を貸与するくらいの便宜を図る価値がある存在なのだ。
 太一、奏、ミューラは、先のエリステインでの内戦により、本人たちが思っている以上に貴族たちに名前が知られているという。
 隠してはいないが自分から明かしているわけでもない。国境を越えながらもその情報を得られるような格の貴族はその辺の事情を察し、「知っている」とわざわざ口にするほど間抜けではいないようで、むしろ厄介である。その根底には、皇帝と同じように「敵にしたくない」という思いがあるのだが。
 彼らが得た名声そのものは抑止力として大きな効果が見込めるが、馬鹿正直に行けば尻尾をつかむ前に相手が警戒して大人しくしかねないと皇帝が解説した。

「つまり、最初は泳がせておきたい訳ですね」
「その通りだ。当面は今まで通り動いて貰わねば困るのでな」

 メキルドラが片手を上げる。
 メイドが一歩前に出て、再び銀のトレイを掲げた。
 その上には、いつの間に用意したのか、黒い手帳のような小さな冊子が三冊。

「それは学院の生徒手帳だ。学院生であることを証明するものだな」

 受け取って中を見る。それぞれの偽名が記されていた。
 タイラー・ミラク、リーリン・キャロール、ミレーユ・エルディラ。それぞれ太一、奏、ミューラである。
 姿に裏の取りやすい名前を名乗れば、勘がいい者でもそうそう気付かないだろう、とメキルドラは言った。

「でも、俺たちが入城したこと、知っている人間は知ってますよね?」
「まあ、そうだな」

 特に反論せずにメキルドラは頷き、「問題ない」と続けた。

「この城に張り付く密偵は、まあいないわけではないがそこまで活動は活発ではない」
「いるにはいるんですね」
「ああ。かなりの手練れが少数な。予はあえて連中を泳がせているし、連中もそれを分かっているからそこまで踏み込んでこれない。予の子飼いの影は優秀だ」

 そこに微かに滲んだ、覇者としての、出来る男のみが浮かべられる笑みを、太一は同じ男として少し憧憬を抱いた。

「お前たちは予の密命を受けて動いていると、他の者には情報を流す。明日の早朝には既にこの城を旅立っていることになるな」
「へえ。誤魔化す方法は?」
「幾らでもあるさ」

 メキルドラからは自信しか感じられなかった。釣られて太一もニヤリと笑みをこぼす。精一杯張り合ってみたが、背伸びにしか見えなかったことだろう。

「他に疑問がなければ話を戻すが良いか?」

 太一始め全員が頷いた。

「さて、続きだ。お前たちの立場も用意してある」

 メキルドラが腕を組んだ。

「お前たちはエリステインからの留学生。エリステインの宮廷魔術師を勤める貴族に魔術の才能を見初められ、貴族の側近兼助手として学んでいる」

 実際はどうか知らないが、ありえそうなケースである。

「エリステイン貴族の側近たるお前たちの身元を我が国の貴族が保証することで、帝国はエリステインに誠意と友好を見せる運びになった。と、理由をでっち上げるわけだ。そのつもりで動いてくれ」

 言うに事欠いてでっち上げ、である。ぶっちゃけたよこの皇帝……と太一は思ったが、さすがに口にはしなかった。

「お前たちの身元を明かす貴族を紹介しよう。セロフを呼べ」
「畏まりました」

 メイドが頭を下げ、再度退室。そして五分ほどで戻ってきた。

「失礼致します」

 戻ってきたのは二人。一人はもちろん皇帝の側近であるメイド。
 そしてもう一人が、赤の混じった金髪を撫で付けた美丈夫。背は一八〇センチを超えているのではなかろうか。上に立つ者特有の空気が漂っている。
 そこそこの年齢を重ねているようで顔には皺が刻まれているが、年を取ってますます磨きがかかったと思われる活力が、全身にみなぎっていた。

「セロフ・ケンドル・ベルリィニ。馳せ参じました」
「ご苦労」

 彼が太一たちを保証する貴族なのだろう。セロフはメキルドラに対して、臣下の礼を取った。

「して、陛下」
「うむ。話をしていた通り、お前に預けるのはこの者たちだ」

 セロフの金色の眼が三人に向けられる。
 しばし交わる視線。やがて、セロフは納得したように頷いた。

「なるほど……。確かに一味違うようです」
「そうだろう」

 セロフの評はメキルドラと一致した。
 太一たちが齢一五、六の冒険者というのはセロフも聞いている。
 そのくらいの年代の冒険者は珍しくもなんともないが、レベルとしては駆け出しが殆どだ。
 そんな駆け出し冒険者に、彼の主君である世界最大国家の皇帝との謁見の機会など、よほどの功績がない限りまず与えられないと言っていい。
 そして、仮に謁見のチャンスを得られたとして、皇帝の御前において萎縮せずにいるというのはまずもって不可能。皇帝の感情の動き方によっては、ややもすればセロフさえも萎縮しかける時があるのだから。
 特に萎縮していないという事実そのものが、三人が只者ではないと如実に物語っていた。

「お初にお目に掛かる。私がそなた達の身元保証人を務める、セロフ・ケンドル・ベルリィニと申す。爵位は侯爵だ」

 優雅で流麗。そんな洗練され尽くした礼と共に自己紹介を受け、太一は無礼にならないように深めに頭を下げて返礼した。

「当面の活動方針についてはベルリィニ侯爵から聞くといい。無論、出来ないことは出来ないと言え。出来ることだけやってくれればよい」

 皇帝は組んでいた腕をほどき、執務机に肘をついて手を組んだ。組んだ手の奥で光る瞳が、太一に向けられる。

「さて、お前たちに依頼をするにあたり、ひとまず私が整えたのは以上だ。遂行中に足りないものや、必要なものがあれば都度ベルリィニ侯爵を通して申せ。では、依頼の受諾について是か否か答えをもらおう」

 是か、否か。
 考えるまでも無い。ここまでお膳立てしてもらっては、断ることなどできはしない。

「……出来る範囲で、やらせてもらいます」
「そうか。色よい返事を聞けて何よりだ」

 太一は頭を下げた。追従して奏とミューラもそれに倣う。
 二人に特に相談をしなかったが、まあそれはそれだ。
 肌で、己の直感で、この依頼は受けるべきだと太一は判断したのだ。
 全ての交渉を太一に任せたのだから、二人も異論はないだろう。
 後程契約書を作って持ってくるそうだ。それを読んだ上で問題がないならサインをしろ、など、細々とした確認のやり取りを終える。
 そして全ての確認が終わって退出の許可が出される。
 座っていたソファから立ち上がると、太一はふと皇帝を見た。
 相変わらず余裕の態度。終始全く揺らいだところが見えなかった。それは彼の強さだろう。
 彼の立場からすれば特に不思議ではない。
 この立場に立ったから、そうなるよう成長せねばならなかったのか。
 この立場に立とうと思ったから、それに相応しくなろうとしたのか。
 鶏が先か卵が先か。
 まあ、それは横に置いておくとして。

「陛下と俺、似てますね」

 太一は、思ったことを素直に口にした。
 奏が、ミューラが振り返る。
 メキルドラの目が、わずかに細められた。

「ほう。予とお前が似ていると? 何を根拠にそう思う?」
「うーん。根拠と言われると弱いんですけどね」

 顎に手を当てる太一。

「強いて言うなら、お互いの立場、ですかね」
「ほう?」
「俺も陛下も、真の理解者を得にくい立場ですよね」
「……」

 アルティアにおいて最大の規模を持つ国の皇帝。
 人類において並ぶ者のない実力を誇る召喚術師。
 持ち得た力のベクトルはまるで違えど、その力の大きさゆえに起きることについては、似通った部分があった。手揉みをして擦り寄ってくる輩。近くで甘い汁を吸おうとする輩。
 損得なしに、共に泣き、共に笑う間柄というのが、どれだけ尊いか。

「俺は、運良く三人、理解者を得ました。陛下はどうですか?」
「……予はこう見えて子供のように負けず嫌いでな。少ないがいる、と答えておこう」

 メキルドラの答えに、太一はちらりとメイドを、そしてベルリィニ侯爵を見た。

「それなら良かった。俺は別に強くないですし。誰にも負けない力があっても、孤独だったらきっと折れてますから」

 太一は、感謝の念を込めて奏とミューラを見て、今は遠い空の下にいる師の顔を思い浮かべる。

「まあ、陛下は俺なんかよりも強いでしょうから、孤独でも負けたりしなさそうですけどね」
「……」

 皇帝は、太一の顔に、年齢相応のものを見た。年齢不相応のふてぶてしさを発揮した先ほどの交渉から比べると、今の方がむしろ「らしい」と思えた。
 沈黙が流れる。その静寂が持つ意味は、何か。
 ややあって、皇帝は口を開いた。

「……今度、飯でも食うか、少年。そうだな、あえて安っぽい飯と酒がいい」
「……お互い、持つ者として、ですね?」
「ふ、正直過ぎるな。もう少しオブラートに包め」
「悪癖なんです……けど、善処します」
「そうしておけ」

 普通では持てないものを持つがゆえに、普通なら持てるものが圧倒的に少ない二人。
 それは戦闘力も権力もまるで違う二人に不思議な連帯感をもたらし、それが、互いが互いに向ける笑みとなって現れたのだった。
学院なので、太一と奏が再び制服に袖を通します。ついでにミューラも制服を着ます。
太一と奏は日本ではブレザーですが、ミューラにはブレザーとセーラーどっちが似合いそうですかね?

次の話はこれから書きます……。
+注意+
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