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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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エリステイン王城にて

 ところ変わって、エリステインの首都ウェネーフィクス。
 王城のとある一室に招かれたレミーアは、王族が飲むにふさわしい格の紅茶を一口飲む。
 芳醇な香りがゆっくりと鼻を通り抜け、心が落ち着いていく。
 出されたハーブティーを目を閉じて味わう様は、麗人と称していいレミーアにとても良く似合い、絵になっている。
 並の高級店ではまず手に入らないであろう完成された風味を存分に楽しみ、音を立てぬようカップを置いた。

「非常にいい茶葉をお使いですね」
「そうですか。お口に合って何よりです」

 レミーアは掛け値ない賞賛を送った。
 含みのない賛辞の言葉を受け、しかしそれを受け取った側は返答をしながらも小さく苦笑した。

「レミーア様。わたしに対しては、友人のように気安くしてくださいと前回お願いしたではありませんか」

 少し意地悪げに笑い、「そうだったな」と言って纏っていた空気を変えるレミーア。

「いや失礼。とはいえ、王族の方が相手だからな。やはり殿下から許可を得てからの方が、礼節という意味でも筋は通っているだろう?」
「そうかもしれませんが……都度、このやり取りをなさるおつもりですか?」
「私はそのつもりだが。まあ、もっと友好が深まれば、この先態度を改めるのもやぶさかではない」

 二人の視線が行き来する。
 見つめ合うことしばし。先に音を上げたのは、気安い仲を望んだ方だった。

「……そうですね。友として、これから親交を深めていく段階ですものね」
「そういうことだ。それに、それをいうのなら殿下も口調を改めるべきではないかな?」
「……これは長年の癖なのです。そう簡単には、」

 と、ここまで言い掛けて、自分ばかりが相手に求めていると気付いた。王族という境遇ゆえ、心を開ける友人をこれまで持てなかったための弊害である。

「分かりました。今すぐには無理ですが、わたしも徐々に、口調を改めるとします」

 レミーアの対面に座るシャルロットは、そう言って微笑んだ。
 レミーアも納得したようで頷き返す。
 外の光が充分に差し込む部屋は明るい。そこは、壁の三方をガラスに囲まれた一室である。
 王族の、とりわけ親しい者のみが立ち入れるスペースに、レミーアは招かれていた。
 この場にはレミーアとシャルロット。そしてシャルロットの背後にティルメアが気配を薄くして立っているのみである。

「して、私に何用かな? シャルロット殿下」

 髪を耳にかけ、強い力を持つ目をシャルロットに向けるレミーア。
 自らに持つ信ゆえに、王族相手でも揺らぐことのない瞳。ジルマールを前にしてもぶれなかったのがそれを良く示している。生半可な気持ちでは、むしろ相手を呑んでしまう。

「はい。本日は、レミーア様にお話ししたい事柄がございまして、こうしてお招き致しました」

 それを受けるシャルロットも平然としたものだ。やんごとない身分の相手をするのが日常の彼女。海千山千の相手と話をするには、視線ひとつで一々右往左往していられない。

「ほう。話したいこと、と」
「ええ」

 シャルロットは白磁のテーブルにおかれたカップに手を伸ばして一度喉を潤した。

「タイチさん、カナデさんの御両名を召喚した理由です」
「ふぅむ……」

 椅子がわずかに軋む音がした。太一よりも頭半分ほど身長が高いレミーアが背もたれに体を預けたためだ。幾らスレンダーとはいえ女性特有の柔らかさは持ち合わせているため、この世界に来てから筋力量が増した太一に近いだけの体重があるのだ。
 微かに軋むだけで済んだのは、腰掛けている椅子の作りがいいためだ。

「殿下、確認したいことがある」

 少し黙考し、レミーアが腕を組んで問う。

「何なりと。知りうる範囲になってしまいますが」
「では。タイチ、カナデを召喚するよう殿下に命じたのは、ジルマール陛下ではないな?」

 レミーアは、かつてジルマールが「予の命令で召喚させた」という意味の言葉を、謁見の間で口にしたのを思い出していた。
 つまり、理由をジルマールが持っているはずだが、その推論にはレミーアの脳が強い違和感を訴える。
 仮にエリステインが何らかの意図をもって召喚をしたのなら、太一を自由にしすぎではないだろうか。肉体的にもそうだし、精神的にもだ。意図がある以上、有事の際には太一に言うことを聞いてもらわねば困るはずだ。
 何らかの枷は必要だ。有効そうな交換条件は、例えば「無事解決したら元の世界に戻そう」と迫り契約を取り付ける、など。
 太一を力で御すのは夢物語であるとレミーアも思うが、腑に落ちないのはジルマールがそういった策を一つも取っていないように思えることだ。非常勤の軍事参加は、拘束力として有用ではあるが絶対的な枷かと聞かれるとイマイチだ。
 よって、ジルマールの言葉は、あの場を繋ぐ方便だとレミーアは結論付けた。

「やはり、それには気付かれましたね……」

 シャルロットは一度目を伏せ、そして再度、レミーアの視線を正面から受け止めた。

「知らされていないのは詳細です。あの二人を召喚した理由は、概要しか教えて頂けませんでした」
「ふむ。では、概要だけは存じておられるのだな」
「ええ」

 シャルロットが首肯する。

「簡単に言えば、今後訪れる世界の危機に立ち向かって欲しい、ということです」

 レミーアは眉をひそめた。

「……こう言ってはなんだが、信憑性に欠けるな」

 世界の危機と言われて、レミーアは過去に読んだ文献の数々を頭の中で思い出した。レミーアは一流の魔術師であるが、同時に一流の研究者でもある。魔術の習得及び研鑽、そして研究のために読んだ文献の数は計り知れない。
 その中には世界史の文献も数多くあったが、有史以来、世界の危機と呼べるような歴史的出来事についての記述はなかったように思う。
 もっとも、発言と態度とは裏腹に、レミーアはシャルロットの言葉をはなから切り捨てているわけではないのだが。

「それは至極当然な感想です」

 その意図に気付いているかは分からないが、自分の言葉を一蹴したレミーアに対し、当然とばかりに頷くシャルロット。

「わたしも王女としてこの国、そして世界の歴史を一通り学びましたが、そのような記録は残されていないと記憶しています」
「うむ」

 とするならば、次に気になるのは情報源だ。口にしたのがシャルロットだからセーフなだけで、普通なら世迷い言と一笑されてもおかしくない『世界の危機』という言葉を、何を根拠に説いているのか。

「レミーア様は、『勇者と魔王』についてはどこまでご存知ですか?」
「……何?」

 勇者が魔王を退治する英雄潭。
 主に親が子に聞かせる冒険物語として語る話。
 それらはこの世界において国を問わず共通に知られる物語であり、一般的な認識である。
 だが、高度な文献を読める立場にあり、事高名な研究者や勤勉な王侯貴族という極一部の識者にとっては、『勇者と魔王』という言葉が持つ意味はまるで違ってくる。

「随分突拍子のないことを言うかと思えば、『勇者と魔王』と来たか」

 レミーアは長いまつげを臥せて天を仰ぎ、そして視線をシャルロットに戻した。

「納得だ。その名を聞いた以上、私は殿下の言葉を否定出来なくなった」

 先に述べたように、高度な文献を手に取れるような人物にとって、『勇者と魔王』という名詞が持つ意味は、名前から受ける印象とは全く異なる。
 正義の英雄と悪の親玉。それは、広く伝わるおとぎ話としてなのだ。

「つまり、殿下は『巫女』として選ばれたわけだ」

 言葉は要らないとばかりに、シャルロットは一度だけ、しかしはっきりと頷いた。肯定だった。

「ふむ……このことは、ジルマール陛下は?」

 言いつつ、シャルロットの背後に立つティルメアを一瞥するレミーア。その視線を正しく解釈したシャルロットが継いだ。

「お伝えしてあります。というよりも、新たなお告げがありまして、命令を受けたのです」

 そのお告げの結果、これまで誰にも、父王にすら隠していたこのことを、つい先日初めて明かしたのだと言う。
 ジルマールが頭を抱える姿が目に浮かぶようだった。

「他にはわたしと、その腹心のみに話してあります。エリステイン国内では、わたしと陛下を含め、現在知るのは数人のみです」

 そして、レミーアが数少ないその枠に今入ったというわけだ。事態が水面下で動いていると、レミーアは気を引き締める。
 シャルロットの影響力から考えて、それを徒に公にすれば何も知らない民ですらパニックになる。その混乱は大きくなるのが容易に予想され、乗じて良からぬことを企む輩が出て更に場をややこしくすることも考えられた。

「他の国にも伝えてはいないのだな」
「そうですね。まだ明かすなと告げられていますので」
「本人たちが知らぬのも、その指示ゆえか?」
「左様です」
「……この世界の危急と言いながら、悠長過ぎやしないか?」
「わたしもそう思うのですが……しかし、そう『お告げ』があった以上、従わないわけにはいかないのです」
「そうか、そうだな」

 現時点で知るのが極少数というのも、どうやら『勇者と魔王』の意思。ならば、それに対してレミーアから言うことはない。

「では、具体的に危機の内容はどの程度聞いている?」
「これも、まだ大雑把にしか明かされていません。お告げのお言葉をそのままお伝えすると、『セルティアの干渉により、アルティアの理に楔が打たれようとしている』とのことです」
「理に楔……? いや、それより、セルティアと言ったか?」
「……はい」

 苦々しい顔つきのシャルロット。レミーアも、目の前の姫君と同じような顔をしているだろうと、己の表情筋の動きから感じ取る。

「……殿下」
「何でしょう」
「セルティアについて、どのように言われているか知っているか?」
「人並みには。『創造力豊かな愚者の妄想』です。その通りだと、思っていました」
「そうだ。そして、私もそう思っていた。……が、本当に存在するというのか」
「皮肉なことに、お告げいわく、その愚者の妄想は遠からず当たっているそうです」

 シャルロットは、その言葉を笑みと共に言った。
 決して笑っていい場面ではない。シャルロットとしては笑うしかない、という心境なのだ。

「ふ、ふふ……そうか、やっと合点がいったぞ」

 そして、笑ったのはレミーアも同様だった。
 含み笑うレミーアを見つめるシャルロット。

「ずっと謎だった。何故タイチは、あのような次元の違う力を持って、この世界に現れたのかがな」
「……」
「なるほど、そうかそうか。今の話を聞けば、タイチには確かにあの力が必要だ」

 シャルロットは何も言わない。ただ、レミーアの言葉に心から同意していた。召喚魔法陣の何たるかを知る彼女にとって、太一がこの世界に来るのは必然だったのだ。
 奏がこの世界に来たこと、そして妨害が入った結果、不覚にも二人を野に放り出してしまったことについては反省しているが、過去には戻れないのだから今となってはどうしようもない。
 太一は順調に力をつけているし、奏も人類としては文句のつけようがない実力を得ている。このまま実力を伸ばしてくれれば、太一はこの世界を救うに足る力を得るだろう。巻き込まれた奏にも活躍の場は十分にあると思われる。
 悔やまれるのは、自身の対応のまずさ故に浅くない溝が出来てしまったこと。
 その溝を埋めるには、シャルロット自身が気付かなければならないと太一は言っていた。そしてその言葉はレミーアも聞いている。
 彼らが欲しかった言葉は何か。これだけ考える時間があれば自分なりの答えは導けた。今更ではあるが、それも伝えるつもりだ。しかしそれで今の微妙な関係が解消されるかは未知数。わだかまりが解消されないとしても、シャルロットは太一らと旅をしなければならない。
 己の腹の内を素直に表に出せない立場のシャルロットは、その経験を生かす。心苦しさゆえ、噛み潰した苦虫の味にも一切反応しないポーカーフェイスを貫き、レミーアに伝えるべきことを伝えることに注力する。

「現時点において、わたしに課せられた使命は三つ」

 人差し指、中指、薬指を立てた手をレミーアに見せるシャルロット。

「一つ目、厳格な情報統制」

 言葉に合わせて、立てられた薬指が折られた。

「二つ目、時空魔法による攻撃の洗練度向上」

 続いて折られる中指。

「三つ目、タイチさんを『勇者と魔王』の元に案内する」

 最後に人さし指が折られて握りこぶしとなった。シャルロットはその手を膝の上に戻した。
 話が続くと判断し、レミーアは視線で先を促す。

「以上の役目に関連し、二つ、レミーア様にお願いしたいことがございます」
「ふむ、何かな?」
「一つは、わたしに魔力の扱い方について稽古をつけて頂きたいのです」

 時空魔法について教えてくれとは言わない。ユニークマジシャンの魔法は、当然ながらユニークマジシャンだけのものだ。四属性からなる現代魔術の使い手とは、形態が全く異なる。
 しかし、魔法も魔術も、魔力を糧に発動するというのは共通している。
 シャルロットとて己の魔力操作については、先代の宮廷魔術師長を始め、ベラやスミェーラ等優れた魔術師指導のもとかなりの修練を積んできたが、目の前に座る世界屈指の魔女に比べれば稚拙もいいところだろう。
 彼女の魔法は、どれもが目を見張るほど強力な代わりに、洒落にならない燃費の悪さだ。
 巫女として、太一を補佐するために戦場に立つことも今後確実にある。その時に、数回撃って「魔力が切れました」では足手まとい。いない方がまし。
 魔法発動のために使う魔力の下限値は変えられない。ならば、使う魔力を余すところなく魔法につぎ込めるよう、魔力操作能力の向上は急務だ。

「……良かろう。稽古をつけよう。して、私は授業料として何を提供して頂けるのかな?」
「……」

 無論、引く手あまたの『落葉の魔術師』に教えを乞い、ただで済むとは思っていない。王族の強権をもってすれば無償提供させることも出来るだろうが、それは愚策である。よってシャルロットは、今後彼女に更なる協力をお願いする時のために、破格の条件を提示する。

「……対価として、時空魔法について、わたしが使える魔法の効果と詠唱をお教えしましょう」
「ほう?」

 レミーアの目に興味の感情が彩られる。
 光魔法、闇魔法、時空魔法、精霊魔法についての資料および文献は、少ないながらも確かに存在する。希少なため一冊で豪邸が建てられる程に高価だが、レミーアも個人的に三冊保持している。最近では、王立図書館に一〇日間一度も出ずに籠るという耐久マラソンのようなことをした際にまた数冊読破し、その知識は頭に叩き込んである。
 しかしやはりというべきか、文献だけでは痒いところに手が届かない。実際の使用者から話を聞けるというのは、レミーアの琴線に触れる最良の条件。

「……これは一本取られたな」

 楽しそうに、レミーアは笑う。シャルロットも微笑みを返した。
 授業料としては、釣りを渡さねばならないほどの好条件。
 文献が少ないのは、ただでさえ数が少ないユニークマジシャンが情報を外に出さないためだ。
 そこを狙って突いたシャルロットのファインプレーだ。
 時空魔法の情報の希少価値、機密度を知るであろうティルメアが、一瞬だが若干苦い顔を浮かべたのが端的にそれを表している。

「ふふ、恐れ入ります」
「殿下。もうひとつは何だね?」
「はい。万一、私がタイチさん、カナデさんと和解出来なかった場合は、間を取り持って頂きたいのです」
「タイチたちは、私が間に入るのを望まぬと思うが?」

 あえてレミーアは突き放す。

「存じております。情けないのは承知ですが、これについては実現させねばないものですから」

 淀みなく言い切った口調と裏腹に、シャルロットは困ったように微笑んでいる。

「……なるほど、巫女として、か」
「巫女として、です」

 シャルロットとしても、巫女であるという役目を除けば、太一と奏、己が喚び出した二人とのわだかまりは自分で取り除きたかった。
 何度失敗しても、対話を持ち掛ける。もしもそれで溝が埋まらなければ、シャルロットは自らの器と向き合うという現実に直面するのだ。
 だが、彼女は王族という身であり、そう易々と空き時間は作れない。一度失敗すれば次の対話のチャンスはいつになるか分からないのだ。そこまで時間を掛けて良いものではない。

「分かった。それも、引き受けよう」
「ありがとうございます!」

 ほっとした笑みを浮かべ、シャルロットは頭を下げる。レミーアは「うむ」と一つ頷いた。

「話は他に何かあるかな?」

 そうレミーアに問われ、顔を上げて話の終わりを告げるシャルロット。

「そうか。では、私はこれで失礼させて貰おう。まだ纏めねばならない文献が幾つもあるのでな」
「そうですか。また、図書館へ?」
「ああ」

 レミーアは紅茶をくいっとあおって飲み干すと、立ち上がりシャルロットへ優雅に一礼してから扉に向かう。
 そして、ドアノブに手を触れたところでシャルロットへ振り返った。

「そうだ、殿下」
「何でしょう?」
「あいつらは今ガルゲンにいる。戻るまでは今しばらく時を要するが、呼び戻す必要は?」

 シャルロットは首を横に振る。

「問題ございません。それについてはお告げを受けていまして。彼の地でやって頂く事柄二つがございます」
「ふむ?」
「ひとつは、レージャ教について『知る』ということ」
「もうひとつは?」

 シャルロットは何とも言えない笑みを浮かべる。

「新たな四大精霊と契約することです」

 レミーアは一瞬固まる。
 そして次の瞬間、笑い始めた。

「くく……ははは……あいつめ、どこまで行くと言うのだ」

 シャルロットは答えない。
 その問いに答える者は、誰もいない。
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