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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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精霊魔術師と古城探索 エピローグ

最後のがやりたかった。反省はしているが後悔はしていない。
 ガラガラ。ガラガラと。
 整備らしい整備もされていない道を馬車が行く。
 時折小石を踏みつけて馬車が跳ねるが、今ではそれも慣れたものだ。
 もう目と鼻の先にファムテームが見えている。
 古城探索という非日常から、日常へ戻ってきたのだ。
 クロは馬車と共に森の外にいた。一応城の周囲の気配を探ってから『雷神の鎚』を放った太一だったが、気兼ねなく撃てたのはクロが距離を取っていたからだ。主の考えを読んだような行動に、太一たちは驚き、そんな彼らにクロはふっと鼻をならしたのだった。
 『トールハンマー』によって大地に穿たれた大穴は、放っておくと相当危ない。シルフィの風魔法によって穴の縁を斜めに削るようにして埋めた。
 円柱型だった大穴は、擂り鉢型の穴に形を変えてある。蒸発してしまった土を補うため、相当な量の土を削らざるを得なかった。擂り鉢と濁したが、実際は隕石でも墜落したかのような大クレーターとなっている。

「ふう。これで終わりだな」
「そうだね」

 程無くして馬車はファムテームの門をくぐり、街の中に入った。
 のんびりと馬車を進め、久しぶりに宿に辿り着いた。ずいぶんと長い間ここには来ていないように思える。ファムテームでは一泊しかしていないのだからそう感じるのも当然か。

「そいじゃケイオス。これでお別れだな」
「……おう」

 何とも納得いっていなさそうな彼に、太一は極めて平坦に別れを告げた。
 あの大穴と、太一の真の力を垣間見た彼からは当然のように多数の詰問が飛んだ。しかし太一はそれをことごとくいなした。
 結果として、ケイオスの疑問にはこれっぽっちも答えていないのだ。

「ここまでしらばっくれられるとは思わなかったぜ」
「知りたきゃ代価持ってこいよ」
「五〇万枚とかぼったくりもいいところだろ」

 一度は納得したものの、情報料としては桁がおかしいのは誰が聞いても明らかで、今は理不尽だという思いが抜けていない。

「納得できなきゃ他当たってくれ」
「足元見やがって」

 ぶつぶつと続く文句も、太一には何の痛痒ももたらさない。
 ふてぶてしさを最大限に発揮した。

「まあいい。調べっからよ」

 じゃあな、と言って、ケイオスは馬車から遠ざかる。
 背を預けあった仲間ではあるが、お互いにあえて淡白に応じた。あまり感傷的になると余計に別れが辛くなるのだから。
 背を向けて遠ざかろうとしていたケイオスが、そうだ、と言ってから振り返った。

「どうした?」
「報酬忘れてたわ。ほれ」

 放られた手のひらに収まる程度の小さな皮袋を、太一がキャッチする。平たい金属の円盤の感触が多数。中を改めるまでもなく、貨幣だろう。

「中を見ねぇのか?」
「ケチなのは飯代だけじゃないのか?」

 ケイオスは肩を竦めた。食事代をけちったのは記憶に新しいが、この報酬をケイオスはけちれないだろう。
 何せ彼は太一の素性を知りたがっている。報酬を渋って嫌われるような愚を犯すとは思えない。いずれ必ず、向こうから接触してくるだろう。もしも出し渋っていたなら、その時の対応をそれなりにすればいいだけだ。面倒が避けられるなら、一度の報酬の損は安いものだ。

「確かに渡したぜ」
「ああ。受け取った」

 皮の袋を掲げる太一。じゃらりと音がする。
 今度こそ去っていくケイオスの背中を見送って、太一たちはお互いを見やった。軽い苦笑いは、これが彼からの依頼だったのを忘れていたためだ。濃い時間を過ごすのに手一杯だった。
 普通なら報酬に一喜一憂するのが冒険者だが、すでに大金を持っている上に、その気になれば金稼ぎには困らない三人にはそこまで執着はない。自分達が非常識であることも自覚はしている。
 まあ、非常識が服を着て歩いているような存在(太一)がパーティにいるのだからさもありなん。
 太一と奏には物欲があまりない。というよりは異世界に欲しいものがあまりない。武器は最上級のミスリル製。防具も適度に買い換えているが被弾回数が少ないので痛まない。レミーアによって衣食住は保証されている。
 これが日本で、同じ価値の日本円を持っていたなら。太一は単車を買って免許を取り、カスタムにツーリングと楽しんだだろうし、奏は奏で自分専用のテニスコート、なんてものを求めたかもしれない。そして、二人とも両親に親孝行をしただろう。
 異世界アルティアでは叶えようもない願いだ。
 馬車を預けて部屋を取り、久方ぶりに身体を清め、食事をとって部屋へ。
 太一(野郎)は一人部屋、奏とミューラ(婦女子)は同室。そのうちの二人部屋の方へ、三人は集まっていた。その視線は、一所に集まっている。

「なあ」
「分からないわ」
「まだ何も言ってねぇし」
「聞かなくても何言いたいかは分かるわよ」
「それもそうか」

 それっきり落ちる沈黙。三人の視線は再び同じところへ向かう。

「本物だよね?」
「そうね」
「そうだな」
「触れる……実体あるよね?」
「そうね」
「そうだな」

 二人の返事はおざなりだ。気のない返事をされる奏も気にした様子はない。
 太一とミューラの視線は奏の胸元へ。ミューラはともかく太一がその箇所を凝視してしまえば、いかがわしい奴とそしられても文句は言えないが、今回ばかりはその心配はないだろう。
 ミューラはもちろん、太一も奏の女性の象徴というべき双丘を見ているのではない。そこに抱かれた、黒い子猫を見ていた。

「あの城に、囚われてた訳じゃないってことか?」

 女性陣からの反応はない。無視したわけではなく、応えようがなかった。
 子猫はすやすやと寝ている。レングストラット城を発ってからそれなりに時間が経っているし、こうして抱き上げたりしているのだが起きる気配がない。これが猫なら、よほどのんびりな性格をしていない限りは、抱き上げたりすれば目をさますだろうに。
 とりあえず、起きてくれないことにはどうしようもない。横に置いて先送りにする。三人の頭脳は今頃ウェネーフィクスの王立図書館に引きこもっているだろうから。
 そう。黒猫も気になるが、もうひとつ、気になることがあるのだ。

「じゃあ、読んでみようか」

 ミューラが封筒を取り出す。
 それは、この宿に帰ったときに主人から渡されたものだ。
 宛名には『タイチ、ミューラ、カナデへ』とある。

「まさか、レミーアさんからの手紙とはな」
「全く予想してなかったわ」

 差出人はレミーア・サンタクル。太一たちの師からだった。

「どうやって、あたしたちの居場所に正確に届けたのかな」
「さあ? とりあえず、読んでみるわね」

――自慢の弟子たちへ――

 そんな書き出しから、手紙は始まっていた。

――夜もガルゲン帝国ならそこまで寒くないだろう。元気にしているか。お前たちなら滅多なことで怪我などしないと思うが、今後も気を付けろ。こちらは不調だな。まだ時空魔法の手がかりを掴めておらん。もう少し待て。――

 まるで目の前で話しているかのようで、思わず彼女の顔が見たくなった。

――憂うことはない。私に任せておけ。さて、何故この手紙がお前たちの元へ正しく届いたか疑問に思っているだろう。勿論方法はある。だが。――

 不意の話題変化。それを妙に感じ、視線を交える。

――だんまりを決め込ませてもらおう。無論帰ってきてからもな。女の秘密というやつだ。――

「ちょっ」
「おい」
「女の秘密って……」

 突っ込みどころ満載の文面に、しおしおと脱力する三人。
 何せ相手はレミーア。叡知の塊だ。便りが手元にあるのも、きっとあんな方法やこんな手段でどうにかしたのだろう。

「…………続き読むわよ」

 気を取り直し、再び視線を手紙に落とす。

――旅は順調か。寄り道しなければとっくにガルゲニアに着いているだろうが、そうもいくまい。もろもろの面倒に巻き込まれた結果、現在地はファムテーム近辺といったところか?――

 途端に、三人は顔を上げて忙しなく周囲を見回す。
 今なら『実はついてきた』と言いながらひょっこり顔を出されても、驚きはしない。
 やがてレミーアの気配がないと確認した三人は、もう驚かない、と固く決心して先を読む。この手紙はレミーアなりの冗談なのだろうか。

――心の準備という意味では、まだガルゲニアに着いていないのはいい状況だ。――

 やはり、面白おかしいだけの手紙ではなかった。三人は居住まいを正した。

――結論から述べよう。お前たちにガルゲニアでの依頼が入っている。――

「依頼?」
「ガルゲニアでこなす依頼よね?」
「それが何でレミーアさんから知らされるんだ?」

 思わず首を捻りつつも、先に目を進める。

――ここでは詳しい事は書けぬ。依頼人から口止め、いや筆止めされている。本人が細やかに説明すると言っているようなのでな。説明を聞いた後、依頼を受諾するかどうか考えるといいだろう。――

 どうやら、考える余地はあるらしい。まあ、依頼が『きた』だけで、『受けた』わけではないから、当然だろう。
 筆止めとか、ところどころで遊んでいる文面に都度突っ込みを入れながら、さらに先を読む。

――因みにだが、依頼人はメキルドラ・サインス・リクシオン・ガルゲンという名だ。――

「……」
「名前に、ガルゲン……」
「もしかして……」
「そう……その通りよ」

 ミューラは額に手を当ててゆっくりと頭を左右に振った。

「メキルドラ・サインス・リクシオン・ガルゲン。ガルゲン帝国の皇帝陛下よ」

 断っても、なんて気安く考えられる相手ではなかった。しかも依頼人からの説明があると書いてあった。
 この手紙から読み取れるのは、帝国重鎮との会談。下手をすれば皇帝との謁見の可能性が浮上してきたのだ。

「マジか……」
「まったくもって……」
「厄介事の足音がするわね……」

 エリステインだけでなく、ガルゲンでも皇族、最低でも貴族と関わるのが確定してしまい、げんなりする太一たち。
 依頼の検討結果を、顔を出さずに文章で断るのも、冒険者の間では珍しくない。が、相手が国となればそうはいくまい。
 従う理由も義理も、ましてや義務も存在しないが、それでも闇雲に敵を増やす行為は阿呆だ。進んで心証を悪くする理由はない。

――依頼については受けるも受けないもお前たち次第だ。私から言えるのは一つ、賢明な判断をしろ。――

「賢明な判断を、ってことはだ……」
「ええ……」
「受けざるを、得ないよね……」

 断れどころか受諾推奨としか受け取れない。こちらに決定権を委ねてはいるものの、レミーアとしてはむしろ受けた方が良いと考えているのだ。

「太一……」
「どうする?」
「どうするもなにも、やるしかないだろなあ」

 ため息混じりに、今後の行動が決定した。
 乗り気でないのは仕方ない。

「……まだ続きがあるわ」

 もう何度目かわからないが、再度気を取り直して手紙を読む。そこには、とんでもないことが書いてあった。

――なお、この手紙は読了後自動的に爆発、消滅する。――

「うおいっ!」
「マジで!?」
「洒落になってないわよ!?」

 ミューラが手紙を放り出し、奏が思わず伏せる。
 太一は脊髄反射というレベルで自身に強化を施し、二人の盾になった。更に二人を風の結界で包む。刹那という制限下で、最大限の防御を構築した。
 頭の片隅の冷静な部分で「弁償かあ……」等と妙にのんきな思考を巡らせながら、衝撃に備える。
 皇帝からの依頼、という機密情報が記載された手紙だ。隠滅という選択は分かるのだが、爆発させる必要はあるのか。
 至近距離での爆発。しかし、幾ら待っても起こらない。

「……あれ?」

 流石に変に思った太一が、手紙を拾い上げる。
 ざっとこれまで読んだ部分を流して、『爆発する』の箇所にたどり着く。
 そこには、更に続きがあった。

――皇帝からの依頼は事実だが、爆発については冗談だ。最初にそう書いたろう。では、また会うときを楽しみにしている。――

「だってよ」
「最初に? …………あ」

 何か閃いた様子の奏が、手をぽんと打った。

「分かったか?」
「うん。これ……冒頭の段落を縦読みだよ」
「たてよみ?」

 頭にハテナマークを浮かべる太一とミューラが手紙を覗き込んだ。

「……あ」
「なる、ほど……」

 自。夜。憂。だん。
 じょうだん。
 何だかどっと疲れたのは、仕方のないことだろう。手紙に書かれた依頼もそうだし、この冗談もそうだ。

「……」
「……」
「ネタ仕込んでんじゃねー!!」

 太一の叫び声が部屋にこだました。
 これだけ騒いだのに、黒子猫は相変わらずぐっすり寝ているのだった。
次からは第二部です。
四章はほぼ丸々ガルゲン帝国編です。
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