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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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精霊魔術師と古城探索 十二

古城探索編ラストです。詰め込んだので長いです。
 ミューラが放った『焦熱閃』と、死体が発する黒い光が拮抗する。

「ぐ、くっ!」

 渾身の近接戦闘用魔術が受け止められ、ミューラは意地になっていた。
 焼き尽くすか、押し負けて弾き飛ばされるか。首まで切り落としたのに、ここまで抵抗をうけるのが納得いかない。
 と同時に、何となくの予感がある。この魔術は、返される、と。
 予感というものがバカにならないとよく知っていたミューラは、反射的にそれに対応しようと身構えた。
 それは正解だった。
 首なし死体の黒い光が、『焦熱閃』を弾き飛ばしたのだ。
 行き場を失った二つのエネルギーが反発しあい、爆発を起こした。
 その爆風を受けて、しかし直前に距離を取ろうと行動していたミューラは、加速して死体から離れていく。

「あうっ」

 勢いがつきすぎて天井に背中を打ち付けてしまったが。
 そのまま落下するものの、何とか体勢を整えて着地に成功した。

「ほんっとに忌々しいわね……」

 掛け値ない本音が、エルフ少女の唇から漏れた。
 首がないまま、死体は放つ光をいっそう強めている。

「おめえ大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。ちょっと背中を打っただけ。大したダメージじゃないわ」

 その言葉通り、見る限りは平気そうである。
 本当に大したことはないと言わんばかりに、ミューラの視線は死体に向けられたままだ。
 あの炎系魔術は、至近距離で撃たせればケイオスとて無事では済まない。いや、対応を誤れば死に至る可能性も十分あり得る。相手の懐に潜り込まなければ破壊力が出せないという欠点はあるものの、それを補って余りある威力の魔術だ。特にミューラの卓越した近接戦闘能力なら、射程が極端に短いという点も、欠点にはなり得ないだろう。

「何だってんだ、あいつ」
「首を切り落としても倒れないアンデッドとか、面倒にもほどがあるわ」

 思わずといった体で口から漏れる愚痴。
 首なし死体はその場でだらんと両腕を下げたまま立っている。
 黒い光が明滅。
 次はどうやって攻めようか。そう考えたところで、異変が起きる。
 床が震え、下から突き上げるような強い衝撃が起きたのだ。

「っ!?」
「なんだこりゃ!」

 常人なら容易く足をとられて立てなくなるような揺れのなか、圧倒的なバランス感覚と強化された肉体によって、どうにか持ちこたえる二人。
 ミューラはチリチリとしたものを首の裏に感じる。冒険者として研ぎ澄まされた感覚が、何者かの接近を強く訴える。

「何か来るわ!」
「何かってなんだ!」
「知らないわよ! 下!!」

 言うが早いか、ミューラは脚力を重点的に強化して後ろに跳ぶ。ケイオスが少し遅れて追随した。
 二人がいた場所から三メートルも離れていない床に、大きな亀裂が走る。
 石造りの床は、まるで薄いベニヤ板のように砕け散った。
 その範囲は半径五メートルにも及び、ミューラとケイオスが立っていた場所を含んでいた。あのままいたら、確実に巻き込まれていた。二人の背中を冷や汗が流れる。
 そして、床を突き破って現れたソレを見て、二人は絶望感を覚えた。

「冗談じゃねえぞ……」
「……」

 この部屋に現れたのは、黒い、もや。
 辛うじて人型をしているが、それは二本の足で立ち、腕が肩と思われる部分から伸び、頭と思われる部位があったからだ。
 全体的な造型は、泥人形の方がよほどましである。
 そして、そんな感想など何処かへ吹き飛ばしてしまうような。
 桁の違う圧力が、ミューラとケイオスの肌をびりびりと刺していた。
 強い。
 ケイオスは、これだけのプレッシャーを感じた経験はあるだろうか。
 ミューラは、ある。
 これは八〇の強化をした太一と相対した時を上回る感覚だ。
 その感覚が正解だったとして、そこから導き出される答えはたったひとつ。
 勝ち目はない、ということ。

「終わりよ、ケイオス」

 ミューラは、油断なく構えていた心をほどき、身体を弛緩させた。
 戦闘態勢の解除である。

「お、おい、エルフ……」

 狼狽えるケイオスに、ミューラは微笑んで見せた。
 基本的に、ミューラの辞書に「諦める」の文字はない。
 だがそれは、常識的範囲内に物事が収まっている場合だ。多少の困難も、己の力を信じて立ち向かってきた。
 しかし、これはダメだ。
 八〇の強化をした太一には、どれだけ力を込めようと、どれだけ工夫を凝らそうと、一切通用しないのだ。
 力と技術の粋を集めたミスリルの剣での一撃が、木刀で鋼鉄を叩いたように弾かれる。
 渾身の魔術を、そよ風としか感じていないかのように防がれる。
 最大最強の技である魔術剣『焔狐』を、人差し指一本で事もなげに受け止める。
 八〇の強化とは、そんな領域の話なのだ。
 ミューラとケイオスが持つ最高の技が、低次元の話になってしまう。
 抵抗をする意味すら失うのだ。

「あれは、あたしたちがどう逆立ちしても、勝てる相手じゃない」
「……」

 逃走はしないのか。
 ケイオスはそう思ったものの、口にはしなかった。
 可能ならとっくにやっている。あの黒いもやは、ケイオスを、二人を捉えているのだ。
 あの首なし死体だけならば逃げられたかもしれない。
 しかし目の前の黒いもやからは、逃げられる気がしなかった。
 あまりにも力に差がある。どれだけ離れているのか、その距離が全く掴めないほどに。
 一体何がどうしてこのような状況になってしまったのか。
 ケイオスには全く分からなかった。

『にクだ……にく……キル……』

 人の声とも思えない、しかし人の言葉が、黒いもやからこぼれる。
 ずず……と重いものを引き摺るような音を発しながら、黒い人型の腕が形を変えてゆく。
 それは直線に、やがて先が鋭く。
 あれは、剣か。
 肉を切る、という言葉通りか。

「ちっ……ろくでもねえ最期だな」
「全くね」

 ケイオスはそうぼやいて、剣を持つ手を緩める。
 ミューラは剣を鞘に戻す。
 抵抗が無意味ならば、せめて最期は潔く。
 肉を切りたい、という化け物の願いを叶える糧となるのは癪だが、自分達の方が弱いのだから仕方あるまい。
 願いを貫き通すには、それを成せるだけの力も必要なのがこの世界の掟のひとつである。

『ハあア……にくダ……』

 重量感を感じさせない歩みで黒いもやが近付いてくる。その後方では、首なし死体が土の魔術を発動させていた。巨大な二本の岩の槍。狙いはもちろん、ミューラとケイオス。

(ここで、あたしも終わりか……)

 近寄る死を、どこか夢見心地で見詰める。

(ま、一度助けられてここまで生き延びられたのだから、上々なのかしら)

 黒いもやが、剣と化した腕を振り上げる。
 同時に打ち出される、二本の巨大な槍。

(あ……)

 蘇るのは。
 レミーア。
 奏。
 太一。
 そして、三人と一緒に笑う自分の姿。
 どうしてこんな時に限って、記憶というやつは鮮明になるのだろう。

(……いや、いやよ……こんなところで終わりなんて……)

 思わず、顔を歪めた。
 覚悟をしたとしても。
 生を諦めたとしても。
 死にたくないと、まだ生きたいと、願うのは当然の権利だ。
 ミューラも、人として当たり前に願ったに過ぎなかった。
 ところで、「持っている」という言葉を耳にしたことはあるだろう。
 ここぞというタイミングで美味しいところをさらっていったりする人物のことだ。
 例えば、仲間の絶体絶命のピンチには、必ず助けに来るような存在。
 黒いもやが突き破った床から、三つの魔力が飛び出した。

「やらせるか!」

 聞き慣れた、しかし久しぶりに聞いた気がする少年の声。

『ウゴアアアア!』

 黒い人型が悲鳴をあげる。その声に誘われて目を開けてみれば。
 剣に風をまとわせた異世界の少年が、剣を振り抜いてミューラの前に立っていた。
 致命傷にはなり得ていないようだが、それでも上半身と下半身を分かたれて、黒いもやは苦しそうに蠢いている。

『ボールライトニング!』

 続いて、こちらも聞き慣れた少女の声。
 太一の横に降り立った奏が、杖を振りかざしていた。何の前触れもなく顕現した電撃の球二発。死体が放った岩の槍を迎撃、相殺した。
 目の前で起きた出来事に着いていけず立ち尽くすミューラに。

「間に合った。無事みたいだな、ミューラ」

 と太一が声を掛けた。

「タイチ……?」
「おう」

 惚けているミューラに、横から軽い衝撃。

「ミューラっ……良かった……!」
「……カナデ?」

 抱き締められる。
 ようやく状況を理解してきたのか、ミューラは頬を紅潮させて奏を抱き返した。
 目の端にうっすらと光るもの。首筋に当てられていた死神の鎌が取り払われたのを実感したのだ。

「お、ケイオス。お前も無事だったのか」
「ああ。何とかな」

 ついでのような扱いをした太一だったが、ケイオスは気にした様子もなく応じた。
 太一としても特別含むところはなかったのだが。

「さて。奏、カリーナさんを頼む。後は俺がやる」
「ん、分かった」
「ケイオス、お前も下がっててくれ」
「分かってらぁ」

 ケイオスは強いが、相手はそれ以上の強さだ。
 特に今の脅威は不確定要素。闇雲に前に出られては困る。まあ彼ほどの腕があれば勝てる相手とそうでない相手の判別くらい出来るだろうから、今の忠告は念のため、という側面が大きい。
 太一は振り返って剣を黒の人型に向ける。
 ここから先へは一ミリたりとも先へ進ませるつもりはない。
 黒いもやと、その奥に首のない、黒の光を放つ死体。どうやらあの死体も敵らしい。
 まあ、一体も二体も変わらない。ここで仕留める。

「たいち。あれ。あのアンデッドから、哀しみの魔力が漏れてる」

 シルフィが示した先、首なしの死体に目を向ける。
 どう見てもアンデッドである。それと精霊が発する哀しみの魔力との繋がりが太一には見えて来ない。

『まタジゃマしやガっテ』

 どういうことかを問おうとした太一を、ブラッディヴァルハラーの成れの果てが遮った。
 その声は憤怒に染まっている。考察をしたいところだが、まずは目の前の障害に対処するところからだ。
 実体のない、エレメントのような存在になったブラッディヴァルハラー。物理攻撃はもう通用しないだろう。
 剣での攻撃に意味を持たせるために、太一は刀身に風の渦を高速で纏わせた。魔術剣のようなものだ。まあ、もどき、パクリ、真似事だが。

「悪かったな。今から相手してやるから」

 あえて上から目線で太一は剣を構えた。
 太一からは余裕が滲むものの、それは彼だからこそだ。ブラッディヴァルハラーは強い。具体的には、太一に魔力強化だけではなく、シルフィの魔法も織り交ぜようと思わせる程度には。レミーアやスミェーラという、世界最高峰の魔術師や戦士ですら、勝ち目が一厘も存在しない程度には。
 因みに、この戦闘を一瞬で終わらせることは可能だ。『雷神のトールハンマー』を一発ずつ叩き込めば大丈夫だろう。反応すらさせずにこの世から消し去る自信がある。
 しかし放つのは危うくなりそうだったらだ。ブラッディヴァルハラーの謎や、哀しみの魔力とやらを発する死体の謎が解けない。せめて手掛かり位はこの戦闘で得たいと太一は考えていた。
 『トールハンマー』を撃つ準備は既に済ませている。実験中止の可能性を捨てたわけではない。

「よし。原因探りながらやるぞ!」
「うん! 分かった!」

 むん、と両手を胸の前で握るシルフィ。頼もしさを覚えながら、太一は床を軽く走り出す。
 前傾姿勢で走りながら、太一は速度を急激に上昇させた。
 観戦していた者は、太一が消えたように見えただろう。

『ごガあ!』

 意味をなさないブラッディヴァルハラーの叫び声と、剣同士がぶつかり合う音が重なった。
 一拍の間。
 両者をほんの一瞬だけ魔力の渦が覆い。
 それが、弾けた。
 地球のものを引き合いに出すなら、銃声を数倍にも増幅したような音とでも例えるのが妥当か。そして、魔力の余波が周囲を薙ぎ払う。立っているのもやっとの衝撃。
 太一とブラッディヴァルハラーの両足を中心に、放射状にひびが入る。
 力と力の拮抗。
 これが、剣と剣を打ち合って起きるのだから、その力がどれほどのものかが分かろうというもの。
 鍔迫り合いをする気はないとばかりに、太一は剣を握る手からわずかに力を抜く。ブラッディヴァルハラーの剣がいなされて軌道がずれた。
 圧倒的膂力にものを言わせて、太一は剣を切り返す。
 まるで生き物のように踊る剣先に対し、ブラッディヴァルハラーは攻撃の軌道が読めているかの如く的確に防御していく。

「かてぇなこいつ」

 ブラッディヴァルハラーからの攻撃は、太一からすれば本当に大したことがないレベルだ。しかし一方、防御はとても優れている。
 骨の姿だった時と同じ特性を備えているらしい。

「なら、これはどうだ!」

 一瞬の、それこそ一秒にも満たない間隙。その一瞬に限って、太一は攻撃速度を二段ほど引き上げる。

『ウゴああア!!』

 ブラッディヴァルハラーが叫んだ。太一の攻撃が太ももと思われる部分を捉えたのだ。結果的に浅かったが、この一撃でどうこうしようと思っていなかった太一は、剣が届いた結果そのものに満足していた。
 どの程度の攻撃なら、ブラッディヴァルハラーの防御を抜けるのか。その基準を知っておけば、より優位に戦闘を進められるだろう。

「たいち」
「おう」

 攻撃を受けたことに腹を立てたブラッディヴァルハラーの反撃唐竹割りを、真下から振り上げた剣の一撃で受け止め、むしろ跳ね上げる。
 そこからの更なる追撃には少しばかりの時間がかかるだろう。
 太一が魔法を放つには十分だった。
 向けた左手の先には、太一に向かって飛ぶ石の槍。さきほど奏が迎撃したものと同じだ。
 馬鹿の一つ覚えのような印象を受けつつ、しかしこれを避けたりすれば背後の三人に当たるのは必定。
 よって、奏と同じく迎撃するのみ。
 瞬間で構築したとは思えないほどの風の壁が、ピンポイントで石の槍を受け止める。木材に潜っていく電動ドリルの刃のように、石の槍は短くなってゆき粉砕された。
 風の壁の実態は『エアロスラスト』の設置型トラップ。無数の風の刃を射出するのではなくその場で留まらせた結果だ。
 無論、砕いて終わりなんてつまらない真似をするつもりは太一にはない。
 喰らえ、と小さく呟き、左手を払った。
 砕かれた石の槍は、風によって弾かれるように飛んでいく。狙いはもちろん、石の槍を放った死体。
 発射から目標到達までは瞬き一つ。死体とその周囲に着弾した指先ほどの石が、脅威の破壊力を見せる。
 重機関銃の掃射のごとき数の暴力が、死体を砂煙に包んだ。
 やっと身体の制御を取り戻したブラッディヴァルハラーの攻撃は、太一が首なし死体を攻撃した後だった。
 再度振り下ろされる剣を危なげなく受け止めた太一は、今度は弾かずに押し返した。
 自身を明らかに上回るパワーで抵抗を受け、黒いもやがたたらを踏んだ。

「吹っ飛べ」

 それは、衝撃波だった。
 射程は短い。一〇メートルあるかないかだ。
 しかし、威力は常識の埒外にあったようで、ブラッディヴァルハラーは踏ん張ることも出来ずに吹き飛ばされた。部屋の壁に一直線に飛んでゆき、激突。
 砂ぼこりを巻き上げながらガラガラと崩れる壁に埋もれた。
 太一は剣を手元に引き戻し、自然体で様子を見ている。
 パラパラと床に落ちる砂ぼこりの音だけが鼓膜を揺らす。

「……」

 言葉もない、とはこういう時に使う言葉なのだと、奏とミューラは実感していた。
 太一が精霊と契約を結んでから随分と時間が経過している。
 これは当然というべきだろうが、シルフィがエアリィだった時から通算しても、近接戦闘に魔法を交えて闘ったことはない。
 レッドオーガの時は魔法を使って攻撃したが、あっという間に決着をつけてしまった。
 シルフィが使った攻撃魔法も数える程度。一番強力だったのはやはり『トールハンマー』だ。あれはもう、強力とかそんな次元の話ではない。
 後者は戦闘以前に精霊シルフィという存在そのものが太一に圧倒的なアドバンテージをもたらしていた。
 召喚したが最後、一歩たりとも動くことなく敵を葬る不落の砲台。それが太一だ。
 その太一が、初めて接近戦に魔法を加えた。
 そもそも、太一が魔法を使って戦うという事実そのものが事態の異常さを物語るのだから、そうそうあっても困るのは確かではある。
 奏とミューラにとっては、異次元の強さを体感できるまたとない機会だった。

「ねえミューラ」
「……なにかしら」
「見えた?」
「辛うじて、ね。動体視力を目一杯強化して、それでやっとギリギリだなんて思わなかったわ」
「ミューラもかあ……」

 奏もミューラも、早々に裸眼で追うのを諦めた。
 強化魔術で動体視力を最大限まで強化してやっと見えるようになったほどだ。
 身体強化による接近戦のレベルの高さは二人も知るところだが、やはり驚くべきは風の魔法である。
 破壊力ももちろん、しかしその特徴は速射力だろう。
 はたから見る限り、まるで詠唱していない。
 何気なく構えると同時に撃っている。魔術発動速度に自信があった奏とミューラだが、彼女たちよりもワンテンポ速い。
 その速さはレミーアに匹敵する。詠唱の簡略化と魔力精製の巧みさで世界最高峰の魔術詠唱速度を持つレミーアと。奏とミューラが到達できていない遥か高き領域。実際は紙一重ほどの差だが、それが目が霞むほどに遠いのである。
 その速さであの威力の魔法を放つのだから、つくづく規格外だ。

「……おい、なんだ、ありゃあ……」

 種が分かっている奏たちだから、この程度の驚きで済んでいる。
 太一の本気の戦闘を初めて見たケイオスの反応は、極めて正しいものだろう。

「何って、あれが本気になったタイチよ」
「本来の戦闘を見るのは、私たちも初めてだけれど」

 本気ではあるが、まだ全力全開からは程遠いのが、太一の恐ろしいところだ。

「……何をどうしたら、あんなんなるっつうんだよ……」

 そう絞り出すケイオスの様子を見て、奏とミューラは顔を見合わせて苦笑した。
 当然浮かぶ疑問。太一はシルフィの具現化を解いていない。彼のそばには、手のひら大の少女が見えているのだ。

「お前ら、あれ、知ってるのか?」

 あれ、とはシルフィのことを指していると思われる。
 ずっと疑問に思っていたことだったのだろうが、口にする暇がなかったのだ。

「悪いんだけど、教える気はないよ」

 もちろん、訊かれたからといって素直に答える必要は全くないが。
 奏がケイオスの質問を一蹴した。

「ちっ。幾らだ」

 ノリで答えが聞けたら幸運、位のつもりだったのだろう。舌打ちにはそこまでの感情はこもっていなかった。

「そうね……」

 ミューラが手のひらを広げてケイオスに見せる。

「金貨五枚ってか? 足元見やが……」
「いつ五枚なんて言ったかしら」
「……あ?」
「金貨五〇万枚」
「……」

 ケイオスは何かを言いかけて開いた口を閉ざした。
 吹っ掛けたミューラとて、お金が欲しかった訳ではない。
 言外に「教えない」というメッセージを込めたのだ。
 三大大国の年間国家予算の数割にも及ぶ大金。ケイオスの組織がどれだけ大きかろうと、そんな多額の金を持っているとは思えない。持っていたとしても、情報料として支払うには馬鹿馬鹿しいにもほどがある。

「それが嫌なら自分で調べることね」
「申し訳ないけどそういうこと」
「わーったよ。仕方ねえ」

 冒険者の能力はそれが即ち飯のタネ。
 その情報を簡単に出さないというのは冒険者の常識。ミューラはそれを適用しただけだ。
 群を抜いた実力者であれば、その情報は知れ渡るもの。人の口に戸はたてられない。太一ほどの力を持つ冒険者の情報であれば、そこかしこで噂になっていてもおかしくはない。
 しかしケイオスは知らなかった。今の今まで噂すら耳にしなかったというのは妙な話である。
 そして何より、太一のそばにいるあの小さな少女。
 あれは普通ではない。抑えているというのは感じられるが、それでも言い知れぬ存在感を纏っている。
 まあ、積極的に明かすつもりがないというのは分かったが、調べた結果正体が知られることに対して忌避している様子もない。調査してよいならと、ケイオスは引き下がったのだった。
 目の前の常識外な出来事に気を取られて、ケイオスは一つ失念していた。彼が契約している水と土の精霊の様子がおかしかったのだ。
 今ここで精霊魔法を使おうとしても、ケイオスに応じることはなかっただろう。
 属性は違うが、シルフィは精霊の頂点に立ちしエレメンタル。
 人間でいうところの、一般市民が国王を目の前にしたのと同じなのだから。
 背後で行われるやり取りを流しつつ聞いていた太一は、瓦礫にわずかな変化を認めて目を細める。
 覆っていた砂煙は晴れており、首なし死体は横たわっている。その死体から、黒い光が瓦礫に吸い込まれ始めたのだ。

「ん……。今度は何が起きる?」

 警戒を強めて観察する。
 積もった瓦礫が弾け飛んだ。大量の火薬で発破されたかのようだ。
 姿を見せたブラッディヴァルハラー。人を形作っていた黒いもやはそこかしこが解れており、左腕は少し引っ張ればちぎれそうな位に傷付いていた。太一の魔法がかなり効いたのだろう。

『おノレ……ニんゲンふゼイガ』

 発音がかなり怪しい。骨だった時と比べて顕著だ。その時はまだ聞き取りやすかった。

「倒すぞ?」

 たった一言に、自分がこれから成すことを込めて告げる太一。さきほどの魔法は、むしろ倒さないように手加減をした。
 哀しみの魔力がどのようにブラッディヴァルハラーに影響を与えたか、確かめる方法は分からなかった。ならば倒さぬようにダメージを与え続けてみたらどうなるか、それを見てみることにしたのだ。
 わざと煽る。それさえも実験のうち。
 何でもいい、手がかりが欲しかった。

『グヌウウう……コろス……コロスコロスコロスぅぅぅぅっっ!!』
「……」

 舌打ちを一つ。ブラッディヴァルハラーが壊れ始めた。
 相変わらず倒れている首なしの死体からは、今も黒い光が流れ込んでいる。

「なあシルフィ。あいつ、光を吸い取ってどうしようってんだろうな?」
『※◇◎∃¬㌔ゐ∽……!』

 後ろの三人が息を飲む気配を背中に感じる。ブラッディヴァルハラーの言葉が言葉としての体裁をなさなくなった。

「う……っ」
「く、あっ」
「うおお……」

 頭痛を引き起こすようなな金切り音が大音量で響き渡り、奏たちが耳を塞いでいる。
 思い出したように奏が一つ魔術を使った。ソナー魔術を応用した音を遮断する魔術だ。
 それによって鼓膜を揺らす不快な音が届かなくなり、三人は人心地ついた。安堵のため息を吐いたり、頭を振ったりしてしる。

「たいち。あれは、吸い取ってるんじゃないよ」

 太一とシルフィの間の会話は声を出さなくても問題はない。これほどの大音量の中でも静寂に包まれた部屋の中のように鮮明に互いの声が聞こえる。

「吸い取ってない? ブラッディヴァルハラーに流れ込んでるだろ?」
「それは間違いないよ」
「力が流れ込んでて、吸い取ってない。ってことは」
「そう。力を流し込んでるのは、あの死体の方」

 死体から、ずるりと黒い光の塊が出てきた。
 黒いのに、眩い。明らかに矛盾するのに、そうとしか表現しようがない光景。
 ブラッディヴァルハラーが、その光から逃れようとしている。しかし、足が縫い付けられているように動かせず、身体を不格好によじるだけだ。

「あれは……」
「うん……精霊の、なれの果ての姿……」

 太一には、太一だけは見える。
 黒い光の塊の中にいる精霊が。
 苦しげに悶えながら、ぐずぐずに朽ちかけた身体をのたうち回らせている。
 苦悶に歪むその顔。しかし、目は、ある感情に塗り潰されている。
 それは、哀しみと願い。
 強い悲哀に彩られた瞳を、その感情の発露を、精霊は一気にブラッディヴァルハラーに向けて放った。



 彼は、名も無き地精霊。
 精霊の格としては、中級の中堅どころ。
 弱いわけではないが、特別強い力を持つわけでもなく。
 しかし中級精霊ということで、周囲一帯の地属性の下級精霊を統括する立場にあった。
 もっとも、統括といっても軍隊や組織のように規律があるわけでもない。
 領域から離れそうになった下級精霊を呼び戻したり、他所の領域からきた精霊を元の場所に帰したりするのが主な仕事。そしてそれも滅多に発生するものではない。
 ここは奥地ゆえ滅多に人も訪れないが、領域内で土属性の魔術を使う者がいれば力を貸す。彼はそうして、長い時を過ごしてきた。
 基本的な行動パターンは、地面にもぐって泳いだり、大地の恩恵を存分に受けて緑を繁らせた木の中を探険したり。それ以外は殆どぼんやりしていた。
 日がな一日ぼーっとしていても、別に誰から咎められるわけでもなし。精霊はその場にいるだけでいいのだから。
 彼は元々はとかげのような姿をしていた。
 少しだけ焦がした土色の肌。尻尾には萌えたばかりの新緑を彷彿とさせる葉がぽつりと一枚ついている。
 身体を形成できない下級精霊と違うその姿。
 とはいえ、彼の姿は、精霊以外に捉えることはできない。
 それは絶対のルールだった。
 精霊は命あるものとは違う存在。存在としての格が違うのだ。
 精霊には命や時間という概念はないのだから。
 そうして、いつ自身の存在を自覚したかも覚えていないほどの時を過ごし。
 彼は、初めて、彼を『見る』ことができる存在に出会った。
 それは、人の姿をしていた。
 肌が浅黒い、暗闇よりも黒い髪を撫で付けた青年だった。肌に若干紫の色素が含まれているのが目立つが、造形は彼が知る人間そのものである。
 その人物は彼をじっと見つめ、声をかけてきた。

「精霊が、人と接することが出来るようにしたい」

と。
 絶対のルールを覆そうとする言葉の意図を察するのは彼には難しかった。しかし、自分の一挙一投足に反応を返す人物に出会ったのは初めてで、彼はこれまで感じた記憶のない感情を心に抱いた。
 促されるまま、彼はその青年についていった。行く先は、彼が受け持つ領域の端にある、歴史から捨てられた古城。
 アンデッドの巣になっていた筈だ。彼も数度、その中を散歩したことがあった。
 その城の奥の奥。とある広間。そこにたどり着いた瞬間から、彼の記憶は曖昧になった。
 浅黒い肌の青年に言われるまま。人と精霊の関係をさらに一歩、二歩と進めたいという言葉のまま。彼は青年に協力した。
 初めて出来た精霊以外の友人と、彼は充実した時を過ごした。
 そして、はたと気付いたとき、彼は精霊としての力を七割近く以上失っていた。
 実体を保っているのが、やっとだった。
 何故そんなことになったのか、記憶がぼやけている事実に愕然とした。
 彼は必死に訊ねた。
 何故こんなことをしたのかと。
 友に対し、言うことを聞かない身体を必死に動かし問い掛けた。
 そんな彼に。
 青年は。
 口を三日月のように歪めた。
 暗転。
 次に彼が気付いたとき、自分という存在が、狭い牢に閉じ込められていた。
 何故。
 信じたのに。
 初めて出来た、友だったのに。
 力を奪われた怒りよりも。
 騙された怒りよりも。
 裏切られた哀しみが、強かった。
 朧気な意識の中、閉じ込められた彼にたくさんの人間が触れて、何かをしていた。
 しかし、彼はどうすることもできない。
 哀しみだけが、募った。
 何もかもがどうでもよくなり、眠ることが多くなっていた。
 そんなある日。
 彼は、この城に近付く人間たちの姿を感じ取った。
 数は四人。
 そして、その中の一人の少年に、彼は強い興味を持った。
 全てを投げ捨てた彼が、久し振りに向けた外への意識。
 信じられなかった。
 その人物は、風の精霊王と強い契りで結ばれていたのだ。
 精霊王。
 この世界に存在する、あまたの精霊たちの頂点に君臨する存在。
 彼とは属性が違うが、それは関係ない。エレメンタルは、属性という垣根を越えて全ての精霊の王なのだから。
 力を失った。
 身体も失った。
 不自由という苦しみを悠久に味わうのは、自由を尊ぶ精霊には耐えられなかった。
 彼は、その少年との接触を求めた。
 救って欲しかった。苦しみから、解放して欲しかった。
 ことここに至って、手段を選ぶつもりはない。
 彼と同じ目を見る精霊がいなくなるように。
 その想いが、精霊王に伝わるように。少年に伝わるように。
 彼は、自身の存在の抹消を、強く強く願った。



 太一は、一瞬に流れ込んできた精霊の強い感情に、思わず動きを止めていた。
 これほどの思念を浴びせられるとは思っていなかったのだ。
 黒い光が、ブラッディヴァルハラーの中に入り込む。

『グブロアララアオオオア!!!』

 最早音でしかない叫び声。
 渦を巻いて天井まで伸びる魔力。
 これは、あの精霊の最後の力だ。
 残った全ての力を、絞り出しているのだ。

「たいち……」

 シルフィが、太一の服の裾をつまむ。
 わずかに滲む瞳が、訴えている。
 それは、精霊の王としての、願い。

「ああ」

 風の精霊王と契約を交わせる程の召喚術師。
 これまでは、何故こんな過ぎた力を持っているのかが分からなかった。
 あまつさえ、精霊として最高の存在である風の精霊王の力を貸してもらっているのだ。
 この世界で普通に冒険者として生きていくには、必要のない力。
 しかし、今なら分かる。何となくだが、分かる。
 精霊という、人とかけ離れた力を持つ存在と対等に接するなら、太一のこの力は、決して過剰ではない。
 力の殆どを奪われた中級精霊とはいえ。最後の力を全て燃やしているとはいえ。
 ここまでのエネルギーを発揮しているのだ。
 人間の領域を圧倒的速度でぶっちぎったところにある。
 背後で奏たちが身体を抱えて震えている。顔は真っ青だ。ケイオスとカリーナは、気絶してしまっている。
 太一に、彼らを馬鹿にするつもりはない。笑うつもりなど毛の先もない。
 これだけの魔力をまともに感じては、発狂してしまってもおかしくはない。
 奏とミューラが気絶せずに済んでいるのは、太一と共に、シルフィードと共にいて耐性があったればこそだ。
 正に、生き物と違う、上位の存在の力。
 精霊がなりふり構わず全力を出すと、ここまで凄まじいのか。
 太一は、ブラッディヴァルハラーをあっという間に乗っ取った土の精霊に目を向けた。
 そして、たった一言。

「君の願い、俺が叶える」

 それだけで、十分だった。

「シルフィ。今から俺がやりたいこと、やってくれるか?」
「……っ、うん、もちろん!」

 嬉しそうに笑うシルフィ。
 彼女にとって、精霊はその属性に関わらず、家族のようなものなのだろう。
 そんな相棒の望みなら、実現させたいと心から思う。

「はっ!」

 気合い一閃、剣を真上に突き上げた。これまでの戦いとは明らかに違う威力で、太一は魔法を放った。
 放たれたのは何の変哲もない風の弾丸。いや、変哲はある。その威力だ。
 空間が歪んだダンジョンである城の天井を容易く突き破り、あっという間に天空へと消えていった。
 パラパラと落ちる砂ぼこり。直径五メートルの大穴の先には空が覗いている。どうやら、昼間のようだ。
 久方ぶりに拝んだ青空に感慨を浮かべるでもなく、太一は左手を奏たちに向ける。彼女たちを空気の幕で包み込み、そのまま浮き上がらせた。
 突如の浮遊感に奏とミューラが慌てているが、太一は二人を安心させようと微笑む。

「太一……」
「……」

 三人と一匹が、穴を通って上昇して行く。

「慌てんなよ」

 それを見送りながら、天に向けた剣を振り下ろし、切っ先を太一に飛び掛かろうとしていたブラッディヴァルハラー……いや、土の精霊に向けた。
 途端に、壁にぶち当たったかのように動きを止める土の精霊。
 彼がどれだけ強かろうと、シルフィの魔法を駆る太一との間には、天と地ほどの差があったのだ。
 奏たちが十分な高度まで到着したのを確認し、土の精霊に施していた拘束を解除し、太一も飛行魔法で空を飛んだ。
 あっという間に城を抜け、三〇〇メートルの高さまで到達する。
 見下ろすと、広大な面積を持つ城が小さく見えた。太一が開けた直径五メートルの大穴も、視力の強化なしでは辛うじて見える程度だ。
 少し経って、城の屋根に姿を見せた土精霊。キョロキョロと周囲を見渡して太一を見つけた彼は、すさまじい勢いで跳躍した。
 重力と空気の抵抗を無視してぐんぐんと太一に迫る。しかし、どうやら空を飛ぶ能力はないようで、太一の元まで辿り着くことなく再び落下していった。
 視力を強化してブラッディヴァルハラーを観察する。
 二つの感情が見てとれる。
 憎々しげな感情は、まだ残滓が残るブラッディヴァルハラーのものだろう。
 もう一つは、何かを待つような、期待するような感情。土精霊のもの。

「分かった、待ってろよ。すぐ終わる」

 太一はそこで、奏に抱かれたカリーナをちらり見た。まだ気を失っている。
 視線を城全体に移す。
 この城で起こった悪夢。もはや二〇〇年も昔の出来事だが、未だそれに縛られている魂があるのも事実。
 全てをここで、断つ。

「シルフィ、顕現」

 森羅万象を癒すかのごとき、淡いエメラルド色の光。
 シルフィが、等身大の姿を取り戻した。
 限定解除した本人ながら、その存在感の大きさに改めて嘆息が漏れる。

「シルフィ」
「ん」

 今は見とれている場合ではない。軽く頭を振って意識を取り戻し、太一はこれから放つ魔法を告げた。

「『トールハンマー』準備」
「了解」

 轟! と吹きすさぶ風が、太一の服をはためかせる。
 晴れ渡った空が、突如夜のように暗くなる。
 広大な森を覆うほどの暗雲が、天空で渦を巻いた。瞬くのは雷光。
 四大精霊は、天候さえも操る。
 この世の終わりでも来たかのような、見るものを畏怖で震わせる光景だった。
 かつて放った『雷神の鎚』からは一味も二味も違う。
 やがて、太一の剣が電気を帯びた。
 それは、引き金である。指先ひとつで命を奪う銃のように、太一が剣を振るえば、『トールハンマー』は発動する。
 太一の脳裏を、様々な想いが駆け巡った。
 なす術もなかったスライマンの懊悩。
 尊厳を奪われたカリーナの苦痛。
 生者を憎むことを強要されたカリーナの夫。
 自由を奪われた土精霊の悲哀。
 望まぬ形で果てざるを得なかった、この城の人々。

「救うぞ!」

 この方法で救えるのか、太一には分からない。
 だが、彼にはこれしか思い付かなかった。

「うん!」

 シルフィが応じた。
 太一は剣を振り上げ、そして、勢いよく振り下ろした。
 全ての色を塗り潰し、白い一柱が、城を覆うように天から落ちる。土の精霊が、笑ったような気がした。
 光の奔流、という言葉では足りぬほどの光源。太一はシルフィの力を得た強化で、奏たちは空気の幕で覆って防いでいる。光の周囲は数万度に達している。防護手段がなければ丸焦げだ。
 自然現象の落雷と違い、『雷神の鎚』は太一が決め技として誇る大魔法。数えれば凡そ六秒間、雷が振り続いたことになる。

「終わっちまえ、くそ悪夢」

 一拍の間を置いて響き渡った落雷の轟音が、太一の呟きをかき消した。
 数えればあっという間の六秒間。しかし、目の前で起こる超常現象を見つめるという意味では永遠にも思える六秒間。
 太一が込めた魔力が、『トールハンマー』に全ての消化される。雷がその役目を終えて姿を消し、続いて天を覆っていた雷雲が徐々に薄くなっていく。
 途切れ途切れになった雲の隙間から太陽の光が降り注ぎ、幻想的な光景が広がっていた。
 『トールハンマー』が落ちた城を見てみる。
 黒煙があがっている。その隙間から、着弾地点が見えた。
 森にぽっかりと口を開けた大穴。
 直径はおよそ一〇〇〇メートル。底まで見通すのは例によって不可能だ。
 城の姿は跡形もない。レングストラット城は、それを包んでいた魔力もろとも完全にその姿を消した。
 これでよかったのだろうか。
 未だに疑問はつきない。
 だが、太一にはこれしかできない。彼に退魔などの力はないのだ。
 風の精霊王の魔法であれば報われるのではないか。そんな想いもあった。そうだ。やり方が間違っていたとしても、救いたいという想いには一片たりとも偽りはない。救いたかった人たちのためにも、胸を張っていようと決めた。
 辛そうな顔をするシルフィの頭を撫でながら、太一は犠牲者の安らかな眠りを祈った。
かなり強引に終わらせた感は否めません。

後日談は次の幕間にて。
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