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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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精霊魔術師と古城探索 十

 頭を割られて横たわる元人間を見下ろし、ミューラは大きく息を吐いた。
 精霊を食い物にする所業、情状酌量の余地はない。
 警戒度を一段階引き上げる。
 相手は用意周到な連中。手加減なしの尻尾切りを目の当たりにした故だ。
 残酷だが当然の帰結。この世の摂理そのものに喧嘩を売っているのだ。バレれば世界中から敵視される。それが分かりきっているのだから、痕跡を残すわけにゆくまい。もしも構成員が口を割りかねない事態に陥ったなら、その口を永遠に閉ざすような工作は必須だろう。
 問題は、この方法だ。
 ミューラにはまるで見覚えがなかった。
 恐らくは発言や心理状態等に類する要素を発動キーとするのだろう。
 だが、魔術の類いで発生したものではないと、ミューラは半ば確信していた。
 魔術で再現されたと仮定してみる。

「……いいえ、無いわね」

 即座に否定。
 ミューラはそんな魔術に覚えはない。使える使えないに関わらず数多の魔術を座学でレミーアから教わった。中には魔術の考案者を疑うようなえげつない魔術も確かにあったが、言葉や感情などを発動の条件にする魔術は教わらなかった。
 知識が不足している、たまたま思い出せない等はあっても、あのレミーアがまるで知らない魔術、というのはあり得ないとミューラは思う。
 では、別の手段で検討。
 遅延魔術という線は無い。
 奏が得意とする『リベレイションスペル』は、詠唱を終えていつでも発動できるようにした魔術を待機させ、即座には使用せず術者の望むタイミングで任意に発動させるものだ。
 正体不明の術がリベレイションスペルなら、どこにいるかも分からない構成員を日がな一日術者が監視している必要があるのだ。そんなものは考えるまでもなく、実用性など皆無だと分かる。
 更に別の手段……設置型の魔法陣ならば可能だ。予め効果を設定した式を含んだ陣を描き、それを対象に刻めばいい。
 いくつかのキーワードが対象の口から発せられる。
 或いは屈服した、という感情を感知する。
 それを起動条件に、対象の脳を破壊する。
 だがそれも、この男を始末するのに使われた手段ではない。
 待機状態であれば一切痕跡を残さない魔法陣だが、起動準備に入った瞬間に、魔法陣に込められた魔力が活性化する。起動時から発動までは若干のタイムラグがあり、魔力を検知してから効果を逃れるのも決して不可能ではない。
 どれだけ起動時の魔力発生を抑えても、ゼロに出来た試しはない。隠蔽性に優れる魔法陣の、唯一の欠点であると言えるのだ。
 だから、ありえないと断言できる。
 あの時、感じたのは得体の知れない力。少なくても魔力ではなかった。
 端から魔術の可能性は無いと分かっていたが、それでも理論武装をして確信を深めるには必要な手順だった。
 自分の仮説を証明するためにこれだけの思考を数秒も掛からずに終えたミューラである。

「どうするの?」

 この死体が一般に認知されていない力で葬られたとの認識を新たにする。
 男のそばにしゃがんで屍を見詰めていたケイオスに問い掛けた。
 手掛かりはもう物を言わない。
 協力を仰いできたのは彼の方である。よって、彼が「もういい」と考えるのならそれで終わりだ。
 無事にここを脱出し、太一と奏にこの事件を話して、レミーアに助力を願って独自に動けばいい。

「くそ……本当に気に食わねえ連中だ!」

 ミューラの問いに答えるかわりに、ケイオスはそう吐き捨てる。
 末端の尻尾を切り捨てる。組織を守る上では有効な手段だが、それは即ち命の軽視と同義だ。
 闇の深さは相当だと、この出来事から悟るのは容易だった。

「恐らく、もう逃げる準備を始めてる筈だ」

 ケイオスが立ち上がる。同じことを考えていたミューラは頷いた。
 冒険者の探索の手が中々入らないこのダンジョン。隠れ蓑とするにはおあつらえ向きだろう。
 引きこもり息を潜め、このダンジョンで生きるのに困らない実力があるのなら、生活する準備さえ怠らなければ選択肢としてはかなり良い。
 そんな好条件の物件に、組織の人間がこの男だけだったと考えるのは難しい。相手はバレれば鼻つまみ者であると自覚している筈だ。
 このダンジョンのように身を潜められる場所はそう多くないと考えれば、アジトひとつにつき一人というのは非効率、複数人いると判断するのが妥当だ。
 そして口を割ろうとした組織の構成員を容赦なく殺害する手際。残りの構成員がそれを目敏く察知し、撤退の準備を始めていても不思議ではないと考えられる。

「そうね。その通りだと思うわ」
「今から探しても間に合わない可能性はたけえ。だが、探さないってのは少しの可能性にも蓋をしちまうってこった」

 そしてケイオスの言葉もその通りである。

「メンバーの一人がここにいるってことは、隠れ家はそう遠くにはないと考えることも出来るわ」
「お前の言う通りだ。無駄足になるかもしんねえが、もう少し付き合ってもらうぜ」

 彼が何の目的をもってこの辺りを歩いていたのは不明だが、今はそこを想像するより歩くのが先だ。男がやってきた方面に、足を進める事にする。
 相変わらず代わり映えのしない景色だが、これまでとは少し違う。
 今まではダンジョン全体がトラップのようだったのだが、この近辺ではそれがない。アンデッドの魔物が時おり出てくる以外は、普通に進行が可能なのだ。

「雰囲気が違うわね」
「このダンジョンらしくねえな」

 考えられるのは、ここをアジトにしている一味が、ダンジョンの効力を何らかの形で失わせた可能性だ。
 どうすればそれを実現できるのか想像もつかず警戒に値するが、ミューラとケイオスも歩きやすいと言う恩恵を享受しているため、今は深く気にしない方向で一致している。
 歩くことしばし。
 そこは広い正方形の地下室だった。長尺のメジャーがあれば、一辺が凡そ三〇メートルもあると分かっただろう。
 そこには年季の入った長テーブルが幾つかと、座っただけで壊れそうな脆い椅子が多数。そして藁を敷いただけの粗末な寝台が一五。
 もぬけの殻である。
 人の姿は見受けられない。部屋の光源だったのだろう、天井の魔道具シャンデリアに魔力を込めて灯りを確保した。
 手近なテーブルに近付き、カップを手に取る。ほのかにクーフェの香り。

「ついさっきまで、人がいたのは間違いないようね」
「そうだな」

 ケイオスはフォークに刺さった食べ掛けの干し肉を見詰めている。
 やはり予想通り、最低限の荷物を持って、大慌てでここを引き上げたらしい。
 カップの横に残されていた、メモがわりにされていたのだろう羊皮紙。

『一三二』
『かまど』

 とだけ書かれ、それ以外は空白だ。その二つの文字も、繋がっていないことから別々の意味を持つのだと予想できる。
 きちんとした記録を残すのなら、辛うじて読めるレベルのミミズのような文字ではなく、丁寧に記すだろう。
 とはいえ、何かの手掛かりにはなるかもしれない。ミューラはそれを手に取った。

「手掛かりになりそうなものはなさそうね」
「まあ、連中もそんなへまをしやしねえだろ」

 一頻り部屋の中を探ってみて、成果どころか隠し通路もなかった。。強いて言うなら先程の羊皮紙くらいか。
 そもそも目立つ痕跡を残すような間抜けなら、ケイオスもここまで苦労して追ってはいない。
 二手に分かれて追うのも手だったが、それは採用しなかった。敵の戦力が不明な以上、一人で追うのは自殺行為だ。こちらの戦力を分散するのも今は得策ではない。敵の姿が見えないだけで、どこかで待ち伏せをしている可能性も否定できないのだ。ここは、敵地である。
 先程の羊皮紙レベルの情報はケイオスの所属する組織も得ているらしく、現物を確認した上で「いらねえ」とミューラに返却した。
 因みに『一三二』と『かまど』が何を意味するのかは、分かっていないという。

「やっぱし無駄足だったな。まあ、一人でも仕留めただけ慰みにはなるか」
「そう考えるのが建設的ね」

 成果ゼロではない。本当に、本当に微々たるものだが、構成員の一人を結果的にとはいえ倒したのだ。人数が一人減り、組織を潰すのに一歩近付いたと言える。
 霞を掴むような手応えのなさの前では、そう自分を慰めたくなるのも無理はなかった。
 話は変わるが、ひとときの休憩を取った部屋で、ミューラの探知結界に侵入した気配について覚えているだろうか。
 ケイオスが感じた、精霊が哀しんでいる、というせりふを覚えているだろうか。
 精霊を食い物にする組織への怒り。
 その構成員との戦闘。
 それら二つを経て、気配について失念してしまうという失態を犯していた。
 その結果が、二人に歩み寄っていた。

「……!」

 ほぼ同時に、ミューラとケイオスが振り返る。
 視線の先には、この部屋唯一の入口。
 石の床を叩く足音が、二人の耳に届く。間違いない、こちらに近付いている。
 乗り込むときに扉は破壊した。室内と通路は繋がっている。

「誰か、追ってきたのか?」
「巡回に出ていて、撤退を知らない他の構成員?」

 二人は視線を合わせることなく推測を口にする。

「にしちゃあ、変な足音だな」
「そうね。不規則すぎる」

 靴音とおぼしきそれは、かつ、かつ、かつとリズムよく鳴らない。
 不協和音というか、まるで千鳥足で歩いているかのようなのだ。
 臨戦態勢を維持したまま、近寄ってくる足音に耳を澄ませる。
 やがて、その姿が二人の網膜に映った。

「さっきの……」
「……オイオイ」

 現れたのは男。それだけなら、別にどうということはない。
 問題はその男が先程二人の目の前で命を落としたはずだったからだ。
 頭からは大量の血があふれ、床をぴたぴたと濡らしている。見開かれた目は濁っており、焦点があっていない。両腕はくっつけただけ、と言わんばかり。力なくぶら下がっている。

「もうアンデッド化しやがったのか?」
「そう、かもしれないわね」

 何となく二人の歯切れは悪い。このダンジョンなら有り得なくはないのだが、それでも目の前で生きていた男がこうして動く死体として目の前に現れると、あまり気分がいいものではない。
 睨みをきかせるミューラとケイオス。
 バランス感覚が損失し、たまにふらつく男の死体。
 続いたにらみ合いは、刹那だった。

「っ!」
「ちっ!」

 床を蹴り、跳びずさるミューラとケイオス。二人が立っていた場所に、石で出来た三ツ又の槍が突き刺さっていた。
 見た目にはそこまで派手さはない。
 だが、魔術に対する造詣の深い二人には分かった。
 この魔術は、派手さがないところがもっとも恐ろしいと。

「こいつぁ……」

 ケイオスが死体を睨み付ける。
 今の魔術、発動がほとんど感じられなかった。信じられないほどの隠密性に加え、かなり速い。
 さらに威力も、ミューラとケイオスが避けるくらいには存在する。
 先制攻撃、不意討ち、暗殺、牽制。
 あらゆる場面で役立つであろう、非常に優秀な魔術である。
 そして何より、魔術そのものは『ロックランス』という土属性ではポピュラーな中級魔術であることだ。

「どういうこと?」

 この結果が分からないミューラは、隙なく立ち上がりながらそう呟く。
 これだけの魔術を操れるのなら、先刻戦ったときになぜ使わなかったのか。
 発動の気配を希薄にして使えるのだから、十分な牽制になったはずなのだ。二人がかりだから負けはしないが、とはいえそう易々と拘束はできなかっただろう。
 そう思ってじっと観察してみる。
 と、男の腰の辺りで、わずかに黒い光が瞬いた。

「危ない!」

 声を張り上げるミューラ。

「こなくそっ!」

 鈍く重い音。
 ケイオスが真横に薙ぎ払った大剣が、突如彼に向かって飛んだ岩の塊と激突したのだ。
 まただ。また、発動の瞬間の魔力の流れを認識できなかった。
 男の腰の辺りで一瞬黒く光った、恐らくそれが発動キー。構えたり狙いを定めるそぶりもないのが気になるが、攻撃が正確なのは間違いない。
 そんなことに不平を言っていても、状況は変わらない。

『キアアアアアア!!』

 人間の声帯から出たとは思えない、もうこれは声ではなく音だ。
 思わず歯が浮くような不快な音に、ミューラもケイオスも顔をしかめた。
 そして死体は、膝をその場で深く曲げた。

「来るわよ!」
「上等だ、ちきしょうが!」

 低いながら圧倒的な飛距離で、一気にミューラの元へ飛び込んでくる。
 その勢いを乗せ、腕が降り下ろされた。
 相当な速さだが、対処できないレベルではない。しかも剣を持った相手に素手。
 肘から先を切り飛ばしてやろうと思い、ミューラはその考えをとっさに頭から吹き飛ばした。
 金属同士が擦れあうような硬質な音。

「なんだあ!?」

 ケイオスにも死体の突進は無謀に見えていたのだろう。予想とは違う、ミューラと競り合う光景に、驚きの声が漏れる。

「くっ!」

 予想以上の力に、ミューラが少しずつ後ろに押される。
 ミスリルの片手剣と鍔迫り合いを演じているのは、三〇センチほど伸ばされた死体の爪だった。
 この表現が正しいかは不明だが、死体として生まれ変わった時に生えたのだろうか。
 接触部分から火花が散る。
 それはどうでもいい。この爪は、ミスリルの剣と鍔迫り合いができる硬度を持っている事実の方が大事だ。
 さすがにミスリルよりは硬くないようで、少しだけ刃先が爪にめり込んでいる。だがこの爪を切り飛ばすのはかなり頑張らねばならないだろう。
 手間に対する効果を考えると、爪の攻撃は剣できちんと受けきるようしっかり意識すべきだ。

「おらあ!」

 と、横から振り下ろされる大上段の一撃。
 ケイオスの大剣が男の死体に向かって空気を切り裂いていく。
 死体はミューラを押し込むのをあっさり諦め、身軽な動作でバックステップして離れた。
 あの膂力と得物によって繰り出される一撃は、受け止められないと判断したようだ。
 そして小賢しいことに、死体の癖に転んでもただでは起きない。
 男の周りに浮かび上がったのは、複数の砂の矢。
 あれに撃ち抜かれると、標的には複数の細かい穴を穿たれる。治療にはしかるべき術者が必要で、対処ができないと傷口が腐り落ちる。
 つまり、今あれを受けるわけにはいかない。

「あたしが迎撃する! あんたは攻撃!」

 文句を言わせる暇を与えない。ミューラは素早く呪文を紡ぎ、砂の矢と同じ数だけ火の球を生み出した。届く前に空中で叩き落とす。

「待て! 砂には水だ! 攻撃はてめえがやれ!」

 横を見れば、ケイオスも多数の水球を生み出していた。
 砂の矢が撃ち出される。

「分かったわ!」

 考えている暇はない。ミューラはケイオスの言葉に従い、狙いを変える。死体に向けて『ファイアボール』を放った。
 こちらに迫る砂の矢。それらはケイオスの水球によって全て相殺された。直後、爆発が起きる。
 『ファイアボール』が全弾、男の死体に直撃したのをミューラは目撃した。
 アンデッドには火属性が効果的。確かに魔術攻撃なら、ケイオスが支援でミューラがアタッカーだろう。
 二人いるという利点を生かさない手はない。

「……けっ。死体の癖に味な真似しやがる」
「確かに、鬱陶しいわね」

 黒煙が晴れて開いた視界。
 土の壁が、死体の立っていた場所をぐるりと囲っていた。
 『ウォール』系統の防御魔術。土属性で使えば、物理的に相手の攻撃を防ぐ石の壁が生み出せるのだ。

「どうする?」
「長々と相手すると厄介だな」

 石の壁がさらさらと崩れ始め死体が現れた。
 ミューラの『ファイアボール』を一度に複数受けて、防ぎきるだけの防御力があることが証明された。

「決め手に欠けるなぁちきしょう」
「大技は隙も多いし消耗も激しいから」

 相手の隙を作らずとも、どれだけ防御されようとも、撃てれば一撃で仕留める技を、二人と持っている。
 ミューラの持ち技は魔術剣『焔狐』。
 ケイオスの必殺技は『シュトルム・ヴァッサー』。
 どちらも、決まれば多少相手が格上でも倒せるだろう。問題はその準備期間と、命中率だ。
 ミューラの『焔狐』は、発動に時間がかかる。準備中はほぼ無防備といっていい。ケイオスの『ハイドロブラスト』は隙が多い。避けられる可能性がある。
 どちらも片方が時間を稼ぐ必要があるのだが、それも簡単ではない。特に死体が操る出が速い土属性の魔術がとても厄介だ。
 発動させてしまえば、当てられる可能性が高いのはミューラの『焔狐』か。
 そこまで考えたところで、男の死体が地面を蹴る。悠長に考える時間はやらないということか。
 もっとシンプルに、目の前の獲物を狩りに来ただけかもしれないが。
 死体の手に、石で出来た斧が生み出される。土属性魔術では基本となる、武器の生成だ。
 かなり大きく、両手で扱うべきそれを、片手で悠々と振りかぶる死体。
 身体強化魔術を使用したミューラを力で押し込むだけはある。

「オレが出る!」

 力比べなら、ケイオスの方がミューラより優れる。
 巨大質量同士がぶつかり合い、衝撃が部屋に走る。

『オアアアア!』
「うおおおお!」

 そのまま鍔迫り合いへ。膠着状態に陥るかと思われ、であればその隙を逃す手はないとミューラは攻撃の準備を始める。
 思い切って『焔狐』を準備しようかと考えるが、次の光景を見てその時間はないと考え直した。
 互角のパワー。同じ重量級の武器。
 差が出たのは得物の質。
 死体の大斧は魔術で作られた即席武器。あくまでもその場凌ぎ。
 一方ケイオスの大剣は、ミューラから見てそれなりに手間とコストをかけて、長く使えるよう作られた業物だ。
 それぞれの目的を考えれば差は歴然。
 そして使用者二人の力は拮抗している。
 ケイオスの剣が、大斧の切っ先にめり込み始めた。

(……チャンス!)

 威力よりも準備時間の短さに優れる魔術剣を使用。更に空いている左手で魔力を練り、魔術の発動準備を終える。

「はあっ!」

 そして、あえて声を出して死体との間合いを詰めにかかった。

「!」

 それは、力をきちんと発揮すると同時に、ケイオスへの合図でもある。
 死体に、ミューラを気にする余裕はない。ケイオスは他方に気を割いてどうにかできる男ではない。

「うおおおお、らあ!!」

 力を込めるのは一瞬。きらりと瞬く銀色の剣が、黄土色の斧の刃を切り飛ばした。
 振り抜かれる剣を避けるために、死体は後方に飛び退くしかなかった。
 弾丸のように迫るミューラ。右手の剣には炎が渦を巻く。あれを受ければただでは済むまい。空中で対応しようと行動を起こす男の屍。一瞬すら驚かずに即座に対応しようとする姿勢は、驚嘆に値する。
 手に生み出される石の投げ槍。ミューラを迎え撃とうとして作られたそれは、放つ前に水鉄砲に弾かれた。
 首尾よく邪魔をしたケイオスは、不敵に口の端を上げた。

「行け! 決めちまえ!」

 ようやく作った隙。防御をさせなければ、最高の技でなくても倒すことは出来る。ミューラは剣を左から右に振り抜いた。
 肉を切り裂く手応えと共に、死体の首と胴が離れる。
 さしものアンデッドといえど、首を切り落とされてしまえば動けなくなる。
 これで終わりなのだが、ミューラはこの死体を、普通のアンデッドの枠にはめて見ていなかった。

「跡形すら残さないわ!」

 剣を振り抜いた勢いで左半身が前に出る。それに合わせ、左手を死体に向けた。
 魔術剣での一撃から至近距離での魔術に繋げるコンビネーション。それそのものは珍しくはないが、ケイオスが感嘆を覚えるほどの流麗さは、一朝一夕で身に付くものではない。

『焦熱閃!』

 完全に終わらせる。その心づもりで、いつぞやかゾンビに放った時の数倍の威力を持たせて放つ『焦熱閃』。
 ミューラの左手が、まばゆい光に包まれた。
 離れているケイオスすら熱波にあおられて汗が滲む。あれが直撃している死体はたまったものではないだろう。
 これで終わりだと、勝利だと、ミューラもケイオスも疑わなかった。
 圧倒的な熱量に包まれた死体の腰が、黒く光った。
ケイオスの必殺技、ハイドロブラスト(仮名)の名前を募集します。

これぞ厨二! な名称に自信のある方、感想に書いてください。
一人一回、一つのみでお願いします。

作者の琴線に触れた名前を採用します。

締切は今週金曜日まで。

6/18 追記:ケイオスの必殺技名変更
+注意+
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