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ミシハセ  作者: 金子よしふみ
第六章

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42/43

答え

「川村さん、ちょっといいですか?」

 社内の食堂へ移動。自販機でカフェオレとミルクティを買った。彼女にミルクティを渡す。以前の飲み会で判明した大学の同期性という話をきっかけにして、島での体験を話した。『佐州拾遺記聞』をきっかけにミシハセを調べた事、リサに会ったこと、夜の不思議体験、飲み屋の不思議体験などなど。リサとの同衾は話さなかった。

「リサさんと言う方に想いを寄せた、と言う話?」

 恋バナを唐突に聞かされた身としては、どのように会話を合わせるか一筋縄ではいかない。

「それも含めて……」

 カフェオレを一口啜ってみても作屋守の口ぶりはやはり拙い。聞かされている方としてはコンテキストの読解力を試されてでもいるのかとぼやきたくなるほどであろうが、川村に気を害された様子は微塵もなく、ただただ作屋守が何を告げるのかをじっと待っていたが、

「あの、私もちょっといいかしら」

 しびれを切らしたわけではなく、唐突に思い出したように早口に作屋守を遮った。

「作屋さんが不思議な体験と言って、今になってふと思い出したことがあるの。夢、そう、寝ている時に見たから、いえ、ぼんやりしてしまって見えた映像、だから夢と一言でまとめてもいいかしらとは思うのだけれど、一言で言うととり憑かれた、と言うのでしょうか。自分が自分でないような感覚なの。映画を見たような感じと言うのかしら、いえ、違うわ。どちらかと言うと、そう。ゲームの中にいるような、と言った方が合っている気がする。そんな感じの体験だったわ」

 この表現、「ゲームの中にいるような」という表現は、「ここがゲームではない」という前提が成立している上での比喩である、と川村もまた彼女に言わせればとり憑かれた経験をしたことになる。とりついたのはやはりムジナかなどと思っていると、

「作屋さんと話している今が正気なのかどうかも怪しく思えてきて仕方なくなるものね」

 川村はニッコリとほほ笑んだ。悪戯っぽさの中に彼女の言葉が深刻ではなく、作屋守に何かを言わせようとする冷静さを作ろうとする感じだった。

「これは幽玄だね」

 現実が比喩になる。幽玄な現実もやはり現実である。では、

 ――私は現実をどのように認識しているのか

 幽玄が多発する、二人称として間と言うか距離のあるものとして認識していたのではないだろうか。改めなければならない。「自分は、『現実とは~』であると認識する」と、確認する、決断のような心持になった。つまりは、それは社会や世界という物をどのように見ているのかを確かめることになる。翻ってそれは自分が生きて来た歴史を振り返ることになる。初めて、世界の中で生きている実感、湧き上がる感じがする。そこに自分の横に彼女がいてほしいと願う。

 ただ一点。ごくありふれた、取ってつけたような理由から始まる、恋愛関係でいいのだろうかと懸念する。有か無しかと言えば関係が成立している以上、ありなのだ。だけれども、と。これでいいのだろうかという懸念というか、ささくれみたいな気がかかりがどうも消えてくれない。

 凡庸な男にはありふれた話が似つかわしい。そう思い直して、作屋守は川村にこう告げた。


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