悪寒
帰宅してすぐに作屋守が行ったことはパソコンを起動させることだった。インターネットを開く。そこで落ち着きを取り戻して、コーヒーを準備することにした。ミネラルウォーターをマグカップに注いでインスタントコーヒーをスプーンで一杯そこにこぼし、電子レンジで温めた。出来上がりのデジタル音。取り出して一口だけ啜ってパソコンの前へ。
検索ワードには宿泊した宿の住所を入れた。地図に画面を変えて、立体画像でたどれるように移動。何日間か世話になった玄関を忘れはしない。そこからアイコンを動かしていく。そろそろあの飲み屋になるはずが、道路やその周辺は確かに覚えがあるのにあの飲み屋が見当たらない。あったと思われる場所にはすっかりすたれた店舗がある。印象は違うがたたずまいは似ている気がする。作屋守は眉を寄せて首を傾げた。そのままアイコンを動かす。もう一軒見たい場所があった。リサの宿泊した宿である。
「え?」
その場所は確かにあった。が、すでに廃業していた。看板はもう字がかすんでいて、整えられていたと思われた玄関ドアには錆が見える。
「どういうこと?」
作屋守はコーヒーを飲むのを忘れて、あちこちとアイコンを動かしてみた。
「はあ?」
宿の隣に見慣れた入り口があった。あの飲み屋のである。眉間にできたしわが一層深くなる。
「もうわけわからん」
飲み屋も宿も営業中ではない。となれば、リサは一体どこにいたのだろう。出会いは何だったのだろう。アイコンを動かすと道路に画像が変わった。通行人がいる。作屋守の息が止まった。顔にはマスキングが加工されていたが、ファッションがあのままだった。飲み屋の客の片割れだった。あの人は存在する。飲み屋が廃れていると言うのに連中はどこにいたのだろう。それにもう片方の客はどこにいるのだろう。リサは? 地団駄踏んだところでどうにもならないというのに、作屋守は画面を見続けた。喉の渇きを感じて飲もうとしたコーヒーはもうすっかり冷めてしまっていた。




