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ミシハセ  作者: 金子よしふみ
第二章

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17/43

勤務

 翌日出勤をして、上司へ口頭で報告をした後、報告書をまとめる作業に取り掛かった。土産物の菓子箱三つを置いたデスクに入れ替わり立ち代わり通行しては手に取ってほおばって行く同僚たち。まるで波だな、と作屋守は集中できない作業中にその光景を生暖かく見ていた。あそこでは、あの宿からは海が見えた。眺望ではない。海に沿った道路にある宿だった。下手をしなくても秒単位で宿から海岸へ行けた。こんなに海を眺めたまとまった時間はこれまでなかった気がする。ただ見ているだけなのに意外に飽きないものだなと驚いたほどである。波打ち際の形状の変化ばかりではない。海面の動きさえ均一ではないのだなと改めてというか初めて認識したくらいである。海鳥が止まって漂って飛び立つ。異物の介入によって邪魔されても海は何事もなかったように繰り返し動いていく。波形は専門分野によって予測割り出せるのだろうが、自分は門外漢である。知っていたところで数式を書こうとは思わない。そんなことに頭を使いたくはない。ただただ海を見ていたかった。いや、それは海ではない、少なくとも海のほんの一部、まさに表面でしかない。そこしか見られないのだ。ありていに言えば、海の刻一刻変わる顔を見つめるのだった。顔となれば、好みが出て来る。当然その逆も。ああ、いいな、あの波、と思ってもその波は一期一会。再会はできない。できるのかもしれないが、今と同じように認識できるかは心もとない。海の顔の好き好みだけで海の全部を知った気になるのは傲慢だ。そんなことさえ思った。自重すべし、控えるべし、なんて内省的になることも作屋守にとってはそうそうあることではなかった。そんな彼にとって菓子を取るだけに行ったり来たりする波はすぐれて無味乾燥に感じられて仕方なかった。満員電車、朝の出勤光景。思い起こして、同じだと思った。いやいや、とすぐに思い改める。こんな思考になれる最近を成長とも考えていない。そんな感想を言ったところで、ただ自分の印象をこぼしたに過ぎない。波と同じと言うならば、行き来だけを見てぼそりというのは早計なのだ。早計に耽溺しがちなのが人間なのだ、なんて言ったところで、「拗らせましたか? 作屋さん」とあきれられるだけである。あくまで比喩なのだ。比喩で時間をつぶせないかと、往来の激しさで集中できないと、ぼやきの言い訳探しをしているだけなのだ。こんな時間を過ごすくらいなら、他にしたいことがあるというのに。

 結局は上司や同僚や後輩なんかと、土産の菓子をつまみながら土産話を時折することで休日前の勤務時間をつぶしたのだった。けれども、ミシハセのことも、よく分からん飲み屋のことも、奇妙な体験も話はしなかった。それとリサのことも。


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