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浩は眼を閉じてため息を一つ吐く。そして
「とりあえず、この時点で一度、話をまとめる。俺を拉致した理由は、お前の抱えている問題を解決するのに俺にその力を引き渡すため。俺が居なくなる事で周りに反応があるかを見たのは、慧と社会的に入れ替わる事を望んだからだ。おそらく俺、宮川浩の存在は無い事にするんだろ?死んだ事にするか失踪したかで。俺はお前に変わり資産家の資産運用を引き受けつつ、その力を使って教団からお前がこれまで守ってきた人達を守る。その力で俺が不幸になるとしても慧はそれを引き受けて欲しいと思っている。こんなところか?」
と僕に言って向き合う。
「ああ、その通りなんだ。浩はこんな事を君に願う僕の事を怒るかい?浩がいつか不幸になる事を分かってこんな事を望んでいる」
「いや、怒って良いのか俺には分からない。力になれるならお前の力になっても良いと思っている」
ありがとう。と心からの感謝を口にする。
「浩からその言葉を聞けて安心したよ。それじゃ浩の拘束はとくね」
ジャケットに忍ばせていたナイフを取り出し浩の手足を縛っていたロープを切る。
浩は数日ぶりの手足の自由を確かめながら口を開く。
「俺がこれからする質問と、それに対する慧の覚悟の事を考えたら俺はそうするしか無い。そう思ったからな」
「てっきりさっきのまとめの時に言ってくれると思ったよ」
と返す。きっと言いたく無かったのだろう。おそらく最後の質問が僕たち兄弟の邂逅の終わりの始まりだからね。
今思えば浩とはもっと早く会っておきたかった。もっと多くの事を語り合いたかった。心からそう思う。これが最期の心残りだ。お互いの状況と事情を考えるとこのタイミングしかなかったわけだけどね。
そして、浩は抑揚なく想定していた質問を口にした。
「それじゃ、最後の質問だ。そのゲームブックを受け渡すのはどうやって行うんだ?」
「僕の死ぬところを浩に見届けて貰う。それによってゲームブックの所有権は浩に移る」
そうか、と浩は表情を変えずに言う。浩はおそらくこの答えと目的に早い段階で気づいていたんだろう。途中で口を挟み質問をしてきたのは情報を多く集めるためと、僕がここで死ぬ流れになる事を少しでも先延ばしにするために。
「止めるかい?」
浩に問う。
「いや、さっきも言った通り受けるよ。それがお前の最期の望みだ」
浩は視線を下げ俯く。言葉の重さに抑えつけられる様に、
そして浩はまた口を開く
「そのナイフでか?」
その質問で右手に持ったナイフを見た。だけどこれじゃ無い。
「いや、これは浩の拘束をとくため用意していた物だ。そのために用意していたのはこれさ」
背中のベルトに挟んでいた拳銃を取り出す。確かオーストリアの軍や警察が使用していると説明を受けた。
「本物か?そんな物を手に入れるのは苦労しただろ?」
「いや、話に出ていた顧客がくれた。僕の事をもっとも早い段階で見つけて支援してくれた方でね。身を守るのに使いなさいって。持ってみると意外と重い」
まさかあの方もこんな使われ方をすると思ってなかっただろう。
「本物ならそうだろう。でもそれは銃の中ではプラスチックを使っている分軽い方だ。まぁ、モデルガンでも最近はリアリティーを重視していて近い重さがあるが。って、そんな物断われよ。銃刀法って知ってるか?」
「詳しいじゃないか」
「まぁ男の子だしな」
確かにろくでもないものだが断わり切れなかった。何より
「まぁ僕も男の子だったわけですよ」
と嘯く。半分は本音だったけどね。
「それなら、日本刀にしとけ。あれなら登録さえすれば本物でも所持は合法だから」
少しお互いにここで笑顔を取り戻す。ここでこちらからも質問させて貰う。
「ねぇ、浩。父が死んだのは浩が殺したのかい?」
浩は口の端を釣り上げ、今度は皮肉めいた笑みを浮かべる
「そう思って構わない。俺もパニックだったから詳細は詰められないが、階段から突き落とした。警察はそう判断した。子供だったから罪には問えないが、それが慧と同じ施設に入れなかった本当の理由だ。入院は後付けに過ぎない理由だよ」
そう。この事をずっと訊きたかった。そして
「ありがとう。浩。たぶん浩が殺してくれなかったら僕たちはあいつに殺されていた」
心から感謝してる。これを伝えたかった。
それじゃそろそろ終わりにしよう。僕がこの拳銃を使ったのを合図に村山さんが来てあとの処置は全てやってくれる。そういう手筈だ。
「浩、後の事は頼む。これを言うのは偽善だけど、どうかうまく乗り切って欲しい。浩が不幸になる事は望んでいない」
浩はジャケットの胸ポケットから煙草を取り出した。
「最期の手向けだ。吸っていけ」
銘柄がLucky Strikeなのは皮肉だがと付け加えた。
浩、気持ちは嬉しいけど、
「僕は煙草が吸えないんだ。お酒を一本用意しとけばよかったね」
それでは浩、お別れだ。最期に謝罪と感謝を。
「ありがとう。そしてごめんね」
そう言って僕は銃をこめかみにあて引き金に手をかけた。
隣の部屋から銃声が響いた。
村山は覚悟はしていたが、その涙を抑える事は出来なかった。
この後、元主人の亡骸を秘密裏に埋葬し、その兄を主人の使っていたマンションまで連れて行き様々な事を教えていかなくてはならない。
涙が治まるまでそこで耐え、覚悟を決め村山は主人が入って行った一室の扉を開けた。
村山はそこで倒れた元主人の姿とその兄の姿をみた。
この兄の手と薄汚れたジャケットは、その頭部を抱えていたせいか血がべっとり付着しているようだ。
村山が傍で経ってる事に気付いた兄が視線をこちらに向け口を開く。
「あなたが村山さんか?」
その言葉にうなずく。
「あなたは、この後慧の死体をどこかへこっそり処理するのだろう?」
「その通りです」と答える。
「久しぶりの兄弟の再会なんだ。しばらく二人にして欲しい、慧の亡骸の処理は教えてくれれば後は俺が全てやる。他の奴にはさせない」
浩は言葉を挟ませない。
「あなたは俺のこれからの部下であり秘書だ、慧から貰った力がそう言ってくれている。とりあえず今は二人にしてほしい。大まかな慧の亡骸の処置のを教えたあとそしたら亡骸を運ぶための車のキーと慧の携帯電話を置いて会社に戻ってくれ。その後に俺からのいくつかの指示を処理して欲しい」
もう、この主人の兄はその力で色々と見ているらしい。確かに慧には自分の携帯電話を彼に渡す様に言われている。思い入れがあるのは自分も同様だがその表情と血縁関係者という事実には口を挟めない。
「それと、『宮川浩』の死亡診断書は出さない。公的な書類を偽装するリスクは避けなければならないみたいだ。失踪という形でうまく処理をしてくれ。元々身寄りの無い人間だ。社会的にも関わりや責任が希薄だ。そう手はかからない」
後はうまくやる。と浩は付け加えた。反論を挟む余地の無い強い語調だった。
慧の亡骸は車を走らせて1時間くらいの沿岸にある廃工場の大型の焼却炉で火葬し、その骨は立夏さんが納められた墓に秘密裏に納骨すると伝えた。その廃工場の住所、焼却炉の位置、動かし方、立夏の墓のある墓地を聞き終えると浩はこれからの事の簡単な指示を出した。
荼毘、納骨までは俺一人で行う。それと慧の住居とそこにある物は俺が使わせて貰う。服装、髪型を合わせれば僕らは他人から見たら見わけがつかない様だから心配はいらない。いま宮川浩の名義で銀行口座に2百万程の預金がある。それを慧の名義で口座を作りそちらに移してくれ。通帳と印は俺のアパートの机の引き出しだ。慧の会社へ出勤するのは今から十日後だ。それまでは慧は旅行に行っていた事にしてほしい。その間、慧が見ていた顧客の投資判断は電話をくれれば俺がこの力で行う。ただし、それは1週間後からだ。あとは慧の望む通りにする。
そこまで話終え、
「それでは、済まないが出て行って欲しい」
声を震わせ浩はそう言った。
村山は、車のキーと慧から預かっていた携帯電話をその場に置き、慧にしたように、静かに頭を下げた。
そして、扉を閉めその場を後にした。
村山の止まったと思った涙がまた頬をつたいだした。




