#8.リリスの失踪と危機
躁状態から一転、また鬱状態へと戻ってしまったリリスは
妹のリリムの目を盗んでオーバードーズをしてしまい、
意識混濁の中で街中へと出かけてしまった。
それはまるで鬱になる前の元気な頃の自身を取り戻すように。
「お姉ちゃん…一体どこにいるのかしら。
多分この街だと思うけれど、もしかして別の街だったりしたら
もう私の手に負えない事になっちゃうかも…。」
その頃、リリスはまさにリリムがアテを付けたのとは
全く別の街で彷徨っていた。
「私だって…一人でやれるんだからぁ~…あ、ホラ、
お兄さ~ん、私に搾精されてみなぁ~い?」
リリスは適当な男に声を掛ける。
以前の彼女であればどんな男であろうが処せる力があった。
しかし今の彼女は単なるか弱い一般女性以下の存在だった。
「お、何だこの女、あぁ淫魔か。それにしても具合悪そうだな。
あぁ、もしかしてラリってんのか?良いよ、相手してやるよ。」
男はリリスを裏路地へと誘い込み、そこで対決の真似事をした。
二人で向かい合い、ファイティングポーズを取り合う。
コレは搾精前の儀式的によくある光景だった。
「オラ、来いよ。返り討ちにしてやるよ。」
「何よ~、ナメてんの~?私は淫魔のリリス様よ~!?」
まるで酔っぱらっているかのようなおぼつかない足取り。
彼女は走り出すと同時に躓き、鼻頭を強く打ってしまう。
━ガンッ━
「いったぁーーーーい!!!!」
鼻血がボタボタと流れる。
男は戦うまでも無くリリスが自爆してしまった事を嘲笑した。
「ちょ、お前さすがに惨め過ぎ(笑)
え、ダサ過ぎてマジで最弱なんだけど、それで淫魔?
淫魔って何だよ、最弱のヤリマンの事じゃねぇの?」
「何を~!?見ていなさい、次こそアンタを地獄の底に…」
しかしそこでリリスは先ほどの転倒で膝も打っていた。
上手く起き上がれず、生まれたての子羊のように倒れてしまう。
「ア…レ?どうして…私、どうしちゃったの?」
「え、ヤバ(笑)
お前もう終わりだわ、何か知らねぇけどご愁傷様。
とりあえず一発ヤやせて貰うからな。悪く思うなよ。
そっちから誘っておいて弱過ぎるのが悪いんだからな。」
男が下半身から大きなモノを取り出し、それをリリスに見せる。
「ホラ、しゃぶれよ。淫魔なんてどうせこういう価値しかねぇだろ。」
「違うの、淫魔は人々の黒い感情を濾過してそれを世界に還元して
それで、本当はもっと世の中を良くするような…」
「ハ?何言ってんのお前、マジそういうの寒いわ(笑)
理想論とかどうでも良いんだよ。俺らみたいな普通の人間にとっては
ヤれる淫魔が良い淫魔だよ。世界がどうだのとか知らねぇから。」
そう言うと、男はリリスの口に陰茎を突っ込んだ。
「んぶぅ!?…く、臭い…嫌、止めて…」
「ハァ?お前ら、性の権化だろ?何嫌がってんだよ。
こんな事にしか価値ねぇ魔物のクセしてよぉ。」
「違うの、ただエサが性エネルギーのリビドーなだけで、
別にこういう事が好きだったりするワケじゃ…」
「うるせぇ。だったら何でそんなエロい恰好してるんだよ。
明らかに誘ってるだろ。大体、弱い淫魔は俺ら人間の間では
無責任にヤれる人間の女代わりの存在として見られてるぜ。
法律にも縛られねぇ、しかも弱っちぃから好き放題出来るしな。」
「そんな、ヒドい…。私達はあなた達人間にそこまでヒドい事はしない。
なのにどうして、そんなにヒドい扱いが出来るの…」
「ハァ?俺らはヤれりゃそれで良いんだよ。
無駄にエロい人間の女の真似事みたいな恰好しやがってよ。
自分からわざわざ犯されに来てるバカなメスを使わないワケねぇだろ。」
男の理論は自分勝手なものだったが、多くの人間の男がそう考えていた。
「さーて、それじゃヤらせて貰うわ。
オレ、精子がスゲー元気らしくてさ、妊娠率何と80%!!
凄くない?お前も排卵期ならかなりの高確率で妊娠出来るぜ?」
リリスは目の前が真っ暗になった。
この男は単なる暴漢では無い。もしかすると変態族の人間だろうか。
「おっと、何かに気付いたみてぇだな?
そうだ、オレは『種付けおじさん』って言う、妊娠率が高い変態族だ。
しかも堕胎させようとすれば母体をかなり傷付ける事になるぜ。
だから、着床したらほぼ産むしか選択肢が無ぇんだわ。ハッハッハ。」
最悪だった。よりによってこんな男に目を付けられるとは。
リリスは奇跡を願った。リリムが、ルシファーが、他種族の魔物達が、
きっと助けに来てくれる、これまでだってそうだったのだから。
そう、一縷の望みに賭けた。
しかし結果から見ると、その望みは脆くも崩れ去ってしまった。
助けは来なかったのだ。
ルシファーはこのような事態になっている事を知らなかったし、
リリムは全く違う街を探していた。
更に男は他の変態族と協力して、他の魔物達が
このテリトリー内に入らないよう結界を張っていた。
リリスにとっては最悪な条件が見事に揃ってしまった。
それに反して彼女の身体は非常に妊娠し易い時期にあった。
「おっ、降りて来てるんじゃね?子宮。」
(嘘でしょ…?いくら鬱だと言っても嫌なものは嫌よ。
お願い、誰か、助けに来て!!)
男は無慈悲に、何度も何度もリリスの中に注ぎ込んだ。
リリスはただ耐え続けるしか無かった。
涙を流しながら「ごめんなさい、ごめんなさい…」と呟いた。
その無力な様がより一層男を興奮させた。
「・・・っふぅ。出したぜー。
さぁて、妊娠するかな?楽しみだよなぁ、ギャハハ!!」
「うぅ...どうして…。アナタ、責任を取るつもりは無いのでしょう?
どうして、一時の快楽の為にそこまで酷い事が出来るの?」
「え、だって無責任に気持良くなれるならヤるしかないっしょ。
ま、一番はお前が弱いのが悪いよ。もしお前がメデューサみたいな
強いメスの魔物だったら襲おうなんて思わねぇもん。
淫魔とか言う、卑怯に精力だけを奪う情っけねぇ魔物だから、
ついイジめたくなるんだよな(笑)
ま、元気なサキュバスだかインキュバスだか産んでくれよ?
オレら人間には関係ねぇ事だから、ギャハハ!!」
ショックで動けないリリスを尻目に、男は去って行ってしまった。
リリムが姉を発見したのは、それから3時間後の事だった。
「・・・・お姉ちゃん!!」
裸に脱がされた状態でただ茫然としているリリスを発見し、
リリムはすぐに彼女を抱きしめた。
その瞳には全く輝きが無く、黒を通り越して白目だった。
そして体中のどこにも力が入っておらず、抜け殻のようだった。
「お姉ちゃん…どれだけ酷い事を…ごめん、ごめんね…。」
リリムはより一層、姉を抱きしめる力を強めた。
しかし、リリスからも同様の言葉が返って来た。
「…ごめんね、リリム…。お姉ちゃん、妊娠しちゃった…。」
リリムは涙が溢れる目を丸めた。ただ襲われただけでは無かった。
今後の姉の人生に関わる大きな事件だ。
しかも相手は逃亡。あまりにどうしようも無い悲惨な結末だった。
「そ、…んな…他の魔物達は?どうして、助けてくれなかったの?」
「協力者がいたみたいで…結界を張られていたみたい…。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
リリムは言葉を失った。
そこまでして淫魔をコケにしようと言うのか。
人間の恐るべき快楽への執着を感じた。
そして怒りよりもただひたすらに悲しみだけが湧いて来た。
「どうして…そんなに気持ち良さだけに執着出来るの。
私達がこれから途方に暮れてしまう事とか、関係無いの?
いくら人間と魔物だからって、想像出来ないのかな。
ハハ、ヒド過ぎ。もうさ、ねぇお姉ちゃん。
人間達さ、精根尽き果てるまで全部吸い取るわ。
アイツら、生かしておく意味無いよ。お姉ちゃんがこんなになるまで
耐えなきゃいけなかった意味、全くわかんないよ。」
リリムの瞳にはただ悪意だけが宿っていた。
そしてリリスを自宅へと送り返し安静に寝た所を確認した後、
彼女は再び夜の街へと飛び出した。
「全ての人間のオス達の精力を尽きさせる。
その為には私の全ての搾精能力を開放して滅茶苦茶にしてやる。
人間なんてもう、エサとして残す価値も無いゴミ同然。
淫魔ともども、一緒に滅べば良い。」
こうしてリリムはある闇の魔物と契約を果たす事になってしまうのだった。




