#6.鬱状態での搾精
いつまでも妹にばかり頼っていられないと、
リリスは鬱状態のままで再び搾精の現場に出向く事にした。
しかし当然やる気はあまり出ず、自信も無い状態だ。
「まぁ、とにかくやってみるしか無いわね。
ダメで元々だと思ってやってみるわ。」
そう言うとリリスはフラフラと町の空を飛び、歓楽街へと向かった。
そのあまりに弱弱しい飛行にリリムは心配になったが、
姉のチャレンジを静かに見守る事にした。
適当な地点に降り立つと、リリスはエサとなる人間の男を物色した。
「あぁ、どうしよう…。どれが美味しそうなのかわからないわ。」
まるで色の無い世界のように彩りが失われて見える世界。
そんな中でリリスは良さげに見えた男にターゲットを絞った。
「あの男にしましょう。陰嚢…つまり金玉が重そうだし、
と言う事は大量に精液を溜め込んでいるはずだわ。」
リリスは男の背後からソッと忍び寄り、一気に尻尾でぐるぐる巻きにした。
「うわっ、何をするんだ!
このオレを金玉重蔵だと知っての狼藉か!?」
あまりに特徴を掴んだ名前にリリムは噴き出しそうになった。
「ふぅん、重蔵…ね。アンタはこれから私のエサになるのよ。」
「そうは行くか、それっ、お漏らしビーム!!」
重蔵のズボンを通り抜けて小便がリリスを目掛けて発射された。
しかしリリスはそれを首をヒョイと曲げて避けてしまった。
人間の中には変態と言う種族がおり、それらはこうしたアクロバティックな
奇妙な技を繰り出すと言われている。重蔵はその一人だった。
「アンタ、変態族ね?通りで金玉が異常に大きいと思ったわ。」
「フン、そういう貴様はサキュバスか。しかしどうにも様子がおかしいな。
まさか、病に侵されているのか?動きが随分と遅いじゃないか。」
「フフ…まぁ、そうね….。えぇと、その….つまりそういう事よ。」
リリスは持ち前の余裕ぶった喋り方や相手をいたぶるような口調が出て来ず
ただ反応に困りしどろもどろと返答するだけだった。
「フン、こんな状態のサキュバスなど変態族の相手では無い。
喰らえ、うんこビーム!!」
非常に幼稚なネーミングながら、事前に腐った食物を食べるなどして
シッカリとした準備の上で下痢便状になる事が必要な高等テクニックだ。
リリスはコレをサッと避けて事なきを得た。
「確かに体調は優れないのだけど、アンタ程度の相手なら負けないわ。
そもそも淫魔界隈のリリス様と言えばかなりの上澄みなのよ。
アンタみたいな無名の変態族に負けるはずが無いのよ。」
「ほぅ、オレ様がいつから無名だって?」
「え、何よ、アンタ高名な変態族なの?」
「変態族#407、高田孝雄58歳。変態族番付順位は1023位だ。」
「…何よ、結局無名じゃない。」
「無名じゃない!ちゃんと名前があるんだ!!」
「そういう事を言ってるワケじゃないわよ。面倒くさいわねぇ。」
鬱状態のリリスにとっては、このやり取りも非常に面倒くさかった。
「さぁて、それじゃあ次は屁系の技を行くぜ?」
「何なのよ、その屁『系』って。
系統が出来る程に技数があるの?おならだけで。」
「あるんだな、それが!ブッ!!」
言うが早いか、高田は屁系の技である『屁・タイフーン』を撃ち放った。
これは同系統のおならタイフーンに比べればその飛距離・音・色ともに比べものにならない程に強力な技である。
「お姉ちゃん危ない、避けて!!」
しかし、リリムの叫びは虚しく空間中に響くだけでリリスは見事に屁・タイフーンの餌食になってしまう。
-ゴオォォ…-
「あぁ、お姉ちゃんがおならで作られたタイフーンの中に巻き込まれて行く…。」
それは壮絶な光景だった。
リリスはただ力無く、タイフーンの渦の中で翻弄されていた。
「ククク…30分も揉まれていれば、見事なおなら人形の完成だ。姉の変わり果てた姿を見て驚くなよ。すぐにお前も屁・タイフーンの餌食にしてやるぞ。」
「そんなもの、なるワケないでしょ。
早くお姉ちゃんを助けなきゃ。」
とは言え、高田の能力は厄介なものだった。
決して戦闘タイプでは無い淫魔のリリムには如何ともし難い強力な攻撃。これをどう乗り切るか。
そんな時、竜巻の怪物であるテュポーンが通りかかった。
「お、淫魔のリリスの妹か。何やってるんだぁ?」
「テュポーンさん…。この変態族の人間がタイフーンに屁を混ぜて作り出し、それにお姉ちゃんが巻き込まれたんです…。」
「ハァ?
タイフーンに屁を?ふざけた野郎だな…よし、いっちょ吹き飛ばしてやるか。」
テュポーンはそう言うと、大きく息を吸い込んだ。
そして充分に息を止めて、次にゆっくりと息を吐き始めた。
すると高田が生み出したそれの何百倍と言う人間からは目視出来ないほどに巨大な渦を作り出した。
「す、凄い…。アレ?さっきの変態族の人間は?」
「あぁ、渦の中に巻き込まれてしまったのだろう。気付かれる事も無く消えるとは哀れなものよ。」
更にはリリスを巻き込んだ屁・タイフーンは、すぐ近くに出来た圧倒的な渦の影響で対消滅してしまった。
タイフーンに巻き込まれていたあらゆるものが一気に地面に叩き付けられて行く。
リリムはその中で気絶しているリリスの姿を確認し、すぐに飛んで行く。
かなり地面に近い位置でリリスをキャッチしようと目測するが、どうやら間に合いそうに無い。
「どうしよう、お姉ちゃんが地面に叩き付けられちゃう!!」
しかしその時、テュポーンがリリスの落下地点辺りに小さなつむじ風を作り出した。
ポンッと上に弾き飛ばされ、リリスの体が再び高度を得る。
その間にリリムが到着し、無事にリリスをキャッチした。
「お姉ちゃん!!」
「ん…んぅ…あれ、リリム?私はどうしたんだっけ?」
記憶がぼんやりしているリリスに、テュポーンが話しかけた。
「よぅ、リリス。その様子、何やら病気になったんだな。まぁ何の病気か詮索はしないが、早く良くなれよ。魔物達の中にはお前の事を気に入ってるヤツらも多いんだ。まぁオレもその1人だがな。そういうヤツらの為にも、また元気な無敵の淫魔の姿を見せてくれよな。」
リリスは種族を超えて、他の魔物達からも支持者がいるくらいに人望があった。
そんな彼女だからこそ、こうして他種族の魔物達からの助けを得られるのだろう。
「リリムも、姉ちゃんの事をよろしく頼むぜ?お前も姉ちゃんのように頑張っていりゃ、こうやって他種族の魔物達からの助けを得られるはずだぜ。」
そう言うと、テュポーンは台風を引き連れて去って行ってしまった。
後には晴天だけが残り、先程までの荒天が嘘のようだった。
リリムはその晴れ間を見ながら、姉の人徳が心に染み入っていた。
「お姉ちゃんって本当に凄いよね。メアは淫魔の上層部達に取り入って気に入られていたけど、お姉ちゃんはスケールが違う。他種族の魔物達から助けて貰えるなんて、そうそう出来る事じゃないよ。」
リリムの言葉に対して、リリスは謙遜と言うよりは正直な言葉で答えた。
「別に、ただ自然に自分らしく生きて来ただけよ。
だけど…どこかで無理をして来たのかもね。
鬱を治す為にも、こうした自分の悪い癖を改めないとね。」
鬱の最中にありながらも、リリスは自分の悪癖を認めてそれを治すと言う謙虚さを持ち合わせていた。
しかしそうした真面目過ぎる性格が彼女を鬱にしてしまったのかも知れない。
それでもリリムは姉のそうした姿勢が間違っているとは思わなかった。
もし鬱になったのが自分やメアだった場合、このような他種族からの助力を得られただろうか。
リリムは改めて姉リリスの偉大さを再認識し、必ず鬱を治す一助となる事を誓った。
「とりあえず、お姉ちゃんの現場復帰は次回に持ち越しだね。」
晴れ渡る空を背景に、リリムは笑ってそう言った。
リリスが笑ってそれに返事しようとした時、リリムの眉間を矢が貫いた。
「あが…お姉ちゃん、後…ろ…」
突然の事を目を見開いたまま、リリムはリリスに後ろを向くよう促した。
するとそこには5〜6人の人間達が弓矢を持ちながらこちらへ歩いていた。
「ギャハハ、姉妹で感動シーンで警戒が薄れた淫魔ゲット!魔物だから人間には出来ねぇような酷い事が出来るよな。そうだ!淫魔の子宮取り出して、それ火で炙って呪物にしねぇか?」
「ギャー、それ最高!じゃあオレは、卵巣を一口食った後、クソマッズ!って言って肥溜めに吐き捨ててやるよ、ギャハハ!!」
上半身から力無く倒れて行くリリムの姿がスローモーションのように映る。
そしてこの時、鬱状態にも関わらずリリスの感情に火が付いた。
「アンタ達…よくも妹を、リリムを射ったわね…。それなりに地獄を見る覚悟はあるんでしょうね?言っておくけど、死よりも恐ろしい永遠を見せてあげるわ。まぁそれすらもアンタ達には生ぬるいけどね。」
リリスの全身から紫色の禍々しいオーラが放たれていた。




