#17.ケルベロスとの対峙
「まず、落ち着いて聞いてね。まぁ落ち着いて聞けないと思うけど。」
そう言うと、リリスはゆっくりと話し始めた。
「私は本当のリリスじゃないの。オリジナルを元に作られたクローンよ。
そしてあなたが持ち帰った遺体。アレもクローンとして作られたものよ。
本当のリリスはまだ研究所の中で生きているはずよ。」
「!!???」
リリムは突然の事に戸惑い言葉を失った。
ワケがわからない、当然だ。姉の死を悼んでいた所に姉が部屋におり、
しかもクローンであり本人では無い、本人は生きていると言うのだ。
リリスはゆっくりと、これまでの経緯を説明した。
そうする中でリリムは、あの魔界医に騙されていた事に気付く。
「そんな…私は騙されていたんだ、あの魔界医に…」
「えぇ、だけど今ならまだオリジナルの私を救えるわ。
一緒に行きましょう。私はクローンだけど…オリジナルに対して
特別な感情があるの。それは貴女とは違うものかも知れないけど、
彼女を自由にしたいと言う思いはきっと同じはずよ。」
「ありがとう…。だけど本当にお姉ちゃんとそっくりだね。
何が違うんだろう…記憶とかもあるんだよね?
オリジナルのお姉ちゃんを取り戻したらお姉ちゃんが二人になるね」
「そんな事にはならないよう、私は私を生きようと思うわ。
だけど本来なら存在してはいけない命だもの。
どうしたら良いのかはわからないわ。それでも…産まれたからには
何かをしたいの。そしてそれは私を生み出したオリジナルへの
救出という形で愛を示したいと思うのよ。」
「きっとお姉ちゃんがクローンの立場でも同じ事をすると思うよ。
だけどこうなったのは私の責任でもあるんだ。
散々心無い言葉でお姉ちゃんの事を辱めた。
それが鬱になった一つの原因でもあると思うから…。
今回こそはちゃんと罪滅ぼしをするんだ。」
こうして二人はオリジナルのリリス救出に向かい出発した。
一方で、研究室では違法魔界医が思案していた。
(逃げ出したとは言え、オリジナルの記憶を持つクローンだ。
もしかすると妹と一緒にここにオリジナル救出に来るか?
もしそうなれば…フフフ、300体のケルベロスを放つとするか)
違法魔界医はこうしたリスクに備える為、何と地獄の番犬、
ケルベロスを大量にクローンを造っていた。
人型の生命体に比べれば多少単純な犬のクローン。
文字通りの番犬・護衛役として広大な研究室の裏庭で
人間達のクローンをエサとして飼っていたのだ。
その頃、クローンのリリスとリリムは研究室に到着していた。
罠が待ち受けているとも知らずに。
「ここが私が生み出された研究室よ。
そしてオリジナルのリリスもここに今もいるはずよ。
殺されていなければ、ね。」
「きっと大丈夫だよ…。だってお姉ちゃんには色んな価値があるから。」
しかしその時、彼女達の上から唸るような大きな音が聞こえた。
見上げるとそこには巨大な3つ首の番犬が彼女達を見下ろしていた。
「え、何コレは…地獄の番犬ケルベロス、かしら…?」
「ヤバいわ、一旦逃げるわよ!!」
その時研究室の扉から違法魔界医が現れた。
「逃がさんぞ。
特に妹の方、お前も捕まえて姉と遺伝子を混ぜてやる。
最高の淫魔が作れるのでは無いか?
楽しみだのぅ、ふぉっふぉっふぉ。」
ケルベロスは二人の退路に立ち、逃げる事は不可能となった。
「どうしよう…。クローンと言っても力はお姉ちゃんと同じだよね?
だとしたら淫魔の宿命、戦闘向きでは無いよね…。」
「迂闊だったわ…。逃げ出した事を知っていれば必ず、
またオリジナルを救出に来ると予測が立つもの。
なのに早く救出をと急ぐあまり、その視点が抜けていたわ。」
二人は絶対絶命のピンチに陥ってしまう。
そこへルシファーがやって来た。
「お前達、何をしている?
いや、何をしているか問うべきはあの違法魔界医か。
このような輩が多い事は各所から声が出ていたが、
コイツはその中でもかなり悪質そうだな。
一般的な違法魔界医は単なる好奇心で幼稚な技術力だが、
コイツの技術力は王族側に欲しいくらいだ。」
「ルシファー様!!
良かった、ケルベロスに食べられちゃいそうだったんです。
でもルシファー様ならケルベロスなんてイチコロですよね?」
「いや、そうでも無いな…。
一体なら問題は無いが…どうやら裏庭には相当な数を飼っているようだ。
その数ザッと300と言った所か…。本来ならばこんな数生息していない。
自然の摂理に反した生物の大量飼育…
私が相手出来るのはせいぜい10体と言った所だ。」
魔界の王ルシファーを持ってしても、
これだけ大量のケロべロスを相手にするのは不可能なのだ。
「じゃあ、オリジナルのお姉ちゃんを助けたら
すぐにでもここから逃げて…あ、でもあの違法魔界医を放置していたら
またとんでもない事をやらかすかも。」
「オリジナルのリリス!?どういう事だ、リリスはここにいるだろう。」
「ええと、このお姉ちゃんはクローンなの。
オリジナルのお姉ちゃんは研究室の中よ。」
「くっ、ならば先にオリジナルのリリスの救出を優先するか!!」
しかしその時、数匹のケルベロスが3人の行く手を塞いだ。
「ふぉっふぉっふぉ、そう易々とオリジナルを取り戻させぬぞ。
お前達がこれだけの数のケルベロスを相手している間に、
ワシはオリジナルを持って新しい場所へと向かわせて貰うとしよう。
残念じゃったの、ルシファー様まで出て来てご苦労だったが、
残念ながらワシの方が一枚上手だったようじゃ。」
そう言うと違法魔界医は研究室の中へと入って行ってしまった。
「あ、待て…!!
クソ、ケルベロスが立ちふさがって追えない…。
今はとにかくコイツらを対処しながら一旦逃げるしか無いか…。」
しかし複数体のケルベロスとの戦闘はルシファーにも経験が無かった。
本来ならば魔界中に数匹と言った珍しい魔物だ。
しかもそれらが一か所に集まる事などあり得ない。
大型で強力な魔物である事から、生息数は限られていた。
その為、こうして人為的にそれを複製すれば魔界には
対処出来る者がいない状態になってしまっていた。
サタンですらもしかすると、対処不可能かも知れないのだ。
それほどまでにケルベロスの力は強大だった。
「クッ、魔剣が通用しない…コレは一体だけでも相当厄介だ。
それが複数体…そもそも帰れるかすら怪しくなって来たぞ。」
ルシファーから弱気な声が漏れた時、リリスが申し出た。
「ルシファー様…。一定の功績をあげた高位の淫魔にだけ持てる
一度きりの技。それを用いてこの場を何とかして差し上げますわ。」
「!?まさか、自らの命と引き換えに対象の生体エネルギー活動を抑える
リビドー・トゥ・ホールドダウンか?
しかしあの技は命と引き換えにするには相手の活動を抑えるだけで
また時間が経てば相手は元通りに戻るためにそれほどの価値が無い、
実質的には死に技の筈だ。
お前がそれをするだけの価値はないはずだ。」
「だけど、ルシファー様は今かなり苦戦していますよね?
せめてまずは一旦戻ってから戦況を整えないと…。
だけど今この場でそれを叶えられるのは私しか居ない。
ねぇ、ルシファー様。クローンとは言え私にも、
貴方への愛はあります。ルシファー様、キスしてもよろしいですか?」
言うや否や、リリスはルシファーに口付けた。
それは涙の味のするとても悲しいキスであった。
そしてリリスはルシファーの制止も聞かずに、技を行使した。
『リビドー・トゥ・ホールドダウン!!』
━ドォーーーーーーン!!!!!━
大きな爆発がリリスを包み込み、爆風はケルベロス達の元へ。
するとケルベロス達の戦意が削がれてしまい眠り始めた。
「わ、ケルベロス達のやる気が一気に削がれちゃった…」
「リリス…、クソッ、私がもっと強ければ!!」
「・・・ルシファー様、早く逃げましょう。
お姉ちゃんの犠牲を無駄にしない為にも、今は一旦の撤退を。」
「クソ…忌まわしきクローン犬達め、必ず次こそは貴様らを
残らず一掃してやるからな!!」
ルシファーは涙ながらにケルベロス達に恨み節を語った。
爆散したリリスの身体は、もうどこにもその欠片すら無いようだった。
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一旦リリスの自宅に戻った二人は、ただ悲しみに暮れていた。
特にリリムは姉が二人になったような気になっていたが、
以前としてオリジナルの姉は危険な状態に晒されており、
更にクローンの姉は自ら命を散らせた。この事実に彼女は
既にいつ狂ってしまってもおかしくないほどに混乱していた。
「サタン様は基本的には1人ずつの魔物の事に対しては
介入するべきでは無いと言う御姿勢の方だ。
今回の件について助けを求められるとすれば私の人脈。
…アスタロト…アイツに頼むしか無いのか。」
アスタロトは、地獄の公爵と呼ばれる高位の悪魔だ。
彼はドラゴンに似た獣に跨っている。
その為、獣に対して非常に優位な立場にある、とされる見方もある。
「アイツなら獣に対して優位に立ち回れるかも知れぬ。
しかし…アイツの私に対してバカにしたような態度には
何とも言えぬ耐え難き侮辱が含まれているようで苦手だ。
しかし今回はそうも言っておられぬか…。」
ルシファーは床に魔法陣を描き、アスタロトを召喚した。
「出でよ、地獄の公爵アスタロトよ!!」
━シュウゥゥゥゥ~……━
魔法陣から現れたのは男とも女とも付かない悪魔だった。
そして召喚されて開口一番、ルシファーに慣れ慣れしく言った。
「あれぇ~、魔物の王たるルシファー様がボクに何の用?
もしかして、自分じゃ何とも出来ないから助けて欲しいって?
ありゃりゃ~、恥ずかしいね(笑)自分じゃ何も出来ない。
所詮は魔物の王と言ってもその程度なんだね。」
「ルシファー様…コイツめちゃくちゃ生意気じゃないですか?
ちょっと一発殴っても良いですか?」
「やめておけ。淫魔程度の攻撃では何も効かんぞ。
確かに生意気なヤツだが、実力は確かだ。
アスタロト、頼みがあるんだ。ケルベロスが300いる。」
それを聞いて、アスタロトは目を輝かせた。
「え、ケルベロスが300匹も!?
何それ、どういう事?コピペされちゃったの?
うわ~、めっちゃ楽しそう!ねぇ、そいつら殺して良いの?
アイツらって一匹ずつしか居ないからさ、そんなに一杯いたら
ケルベロスの大虐殺が出来るじゃん?楽しそー!!」
リリムは驚いた。
ルシファーですら手こずったケロべロス。
しかもそれが300匹という状況。
それに臆する事すら無くむしろ楽しさすら見出している。
この高位の悪魔の異常性にリリムはただ言葉を失っていた。




