落ちた月
「どうやって」
「海に力を貸してやるんだよ。あいつ月が好きで一緒に居たがっていたからな」
「月を海に落とすってこと?」
「だいたいそんな感じだ。このまま月はバラバラになる。だからそれを海に捕まえてもらうんだよ。その手伝いをおれがしてやるんだよ」
もうチンプンカンプン。考えちゃダメなことだ。海とコスモスさんを信じよう。でもやっぱり考えちゃう。
「でもそうしたら海面が上がっちゃうよね?」
「だからお嬢ちゃんは物理学者かっての。三度目だぞ。まず科学ってのは今ある現象を人間が勝手につけた理由なんだよ。そんなもん想定外の前じゃなんの役にも立たないんだよ。海はおれが強く引っ張っていてやるから、そんなことにならないから安心しろ。海だっておれに感謝するだろうしな」
わあ、引力って便利。科学って無力。
「海さんには太陽さんもいるからね」
「海も太陽もさん付けかよ。分かってきたじゃねぇかよ。いや、分かってはいたんだよな。自信がなかっただけだよな。まあ太陽がこれと関係あるかは知らねぇが。変なこと口走るねぇ。嘴があるのはおれだがよ」
また甲高い声で鳴き笑う。コスモスさんの笑い方はなんだか好き。
「でもどうして見放し、見放された人間を救うようなことをするの」
「地球は人間だけのもんじゃねぇってのもあるが、お嬢ちゃんみたいな人間もいるもんだと思ってな」
「わたしみたいなってどんな」
「まだおれを救おうと手を一生懸命伸ばしているやつだよ。いじめられていると、言葉ってのは信じにくい。けどよ、行動ってのは目に見える事実なわけだ。そっちは信じてみようと思うわけよ」
コスモスさんの後ろに月が見えてきた。
「でも助けられているのはわたしたちだよ」
「そんなことはどうでもいいんだよ。怜音には力が足りねぇ。でも思いは確かだった。それだけでいいんだよ」
「わたしはどうしたらコスモスさんを助けられるかな」
「そんなもんは前に自分で言っていただろうが。分かっているんなら、やってみればいいんだよ。ダメなら次を考えればいいだけだ。諦めてもおれはそれを評価してやるよ」
「ありがとう」
月がバラバラに砕けていく。砕けた月は流星群のように降り注ぐ。綺麗。
「もう時間がねぇか。今日はなかなか面白い一日だったぜ。四十六億年で一番かもしれねぇな。月がなくなる日に、新しい月に会えるなんて洒落た日だ。怜音なら海や風とも話ができるかもな。なんにせよ、頑張れよ」
「うん」
「これから人間がどうなるかは、嬢ちゃんたち次第だな」
その言葉を残して、コスモスさんの姿が消えた。その直後、わたしの目の前で海が突起する。二本の水柱が聳え立ち、そのまま止まった。かと思えば勢いよく流れ星に向かっていく。わたしはまばたきができなかった。ほんの数秒、水の中を流れる星々。とても幻想的だった。
「コスモスさんの嘴みたいだね」
返事がないのを分かっていても、わたしは語りかけずにはいられなかった。




