楕円
気付けば太陽が沈みかけている。コスモスさんとの約束のあと、ちょっとワクワクしながら家路を歩いていく。喋る鳥さんに会ったって言っても誰も信じないだろうな、父さんや母さんに言っても心配されちゃうかも、だから誰にも教えないんだ。そういえばわたしが呼び出したって言っていたな、もしかしてわたしって特別なのかな。そう非日常に心躍らせているうちに家に着く。
家に帰ってからは普通だった。家族団欒、食事、お風呂、宿題。いつもと変わらず過ごした。ちょっとそわそわしていたけど。九時過ぎまでは。
突如、静かな住宅街を震わせるほどの女性の声が響く。
「ちょっと、何あれ」
わたしはびっくりして部屋のカーテンを開ける。さっきの声で近所の人たちみんなが同じようにしていた。窓の外から見えたのは、空を指差し驚く女性。そして指の先に見えたのは、卵が逆さになったっような月。しかもいつもより大きい。今日はスーパームーン?そんな話題は出ていない。もう何が何だかわからない。呆然としながら月を見ていると、少しずつではあるけど今も変形しているような気がする。
一階からわたしを呼ぶ声が響いた。慌ててリビングに向かう。ドアを開けると両親はニュースを食い入るように見ている。臨時ニュースだ。内容はもちろん月の異変について。
いろんな学者さんと電話を繋げて対応を考えているみたい。一人は高台に避難を、と言うと、そうしたら別の人は、現状海面はあがっていない、と言う。あの月は視覚的だけで月自体に異常はない、と言うと、澄んだ空でも同じ状態だ。月が地球に引っ張られている、と言う。言い合っているけど、全く答えはわからないっていうことがわかったくらい。唯一分かったこと、月が落ちる。月がこのまま地球にぶつかったら、地球はなくなっちゃうってこと。つまり、どうしようもないってこと。
「わたし、ちょっと外を見てくる」
わたしは両親にそう言い捨てて家を飛び出る。コスモスさんはこれを知っていた。これからどうなるかも知っている。自転車でわたしは川沿いを下っていく。パニックって言っていたけど、わたしが思っている以上だった。世界中がパニックになっているんじゃないの。これを無事に乗り切ったあと、些細な変化で終わっちゃうわけないじゃない。そんなことを考えているうちに、川と海の境界まできた。周りに人影はない。海に近づかないほうがいいという意見もあったからかな。
「コスモスさん、どこにいるの」
わたしは大声で呼ぶ。小さな白い光がゆっくりとわたしの元にくる。それはいつのまにか鳥の形に変えて、自転車のハンドルに泊まる。
「ちょっとは落ち着けっての」




