↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月が落ちる日  作者: 木彫ダイナマイト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/7

運命の名前

 普通に歩いて近づいても逃げない。もう隣に座れるんじゃないかな。このままわたしはカワセミを捕まえられるかもと思って、思いっきり手を伸ばす。触ることができたら、幸運。

「そんなに乱暴しなくても逃げやしないよ」

 正面から声が聞こえる。少年のような声。けれど人影はない。わたしの考えていた、意思のある風が話しかけてきたのかしら。

「おーい、聞こえているのかい」

 声の主はカワセミだった。ちょっと残念。やっと風や太陽とお話できると思ったのに。でもわたしの妄想に現実味が帯びてきたよ。鳥が話しかけてきているんだもん。これは逃しちゃだめだ、そう考えてわたしはしっかりとカワセミを掴む。

「ぐぇ」

 強く握りすぎたみたい。でも可愛い。もう一回しようかなと思ったけど、やっぱり苦しいよね。わたしは手を放す。それから鞄を膝の上に乗せてベンチに座る。その鞄の上にカワセミさんが乗っかった。

「カワセミさんにわたしの言葉は伝わるかな」

「わかるけどよ、おまえは驚きってものはないのか」

「驚いてもいるよ。でもね、嬉しさのほうが強いの」

「そうですかそうですか。まあいいや。で、なんで喜んでいるんだ」

「そうそう。だってカワセミさんが話せるんだよ。それなら太陽や風、月とか海とも話ができてもおかしくないじゃない」

 甲高い音が鳴る。カワセミさんの鳴き声かな。

「面白いことを言ってくれるねぇ。おまえはそれらとどんな話がしたいんだい」

 さっきの鳴き声は笑っていたのかな。ちょっと不思議な気分になっちゃう。

「聞けるんだったら、人間に利用されていることをどう感じているのか、かな」

「変なことを聞くもんだ。ものや現象に意識なんてないって知っているだろう」

 カワセミさんはいたずらっぽく言う。諭すように言ってくる大人たちより突き放すように聞こえた。少しわたしはムキになる。

「そんなこと知っているもん。でももし話ができたら、みんなありがとうって言うかもしれないじゃない」

「へぇ、いいねぇ嬢ちゃん。気骨がありそうだ」

 カワセミさんがそう言った直後、わたしの体が重くなった気がする。軽くなる前に戻ったのかな。カワセミさんはびっくりしているわたしに笑いながら話し続ける。

「嬢ちゃん、名前はなんて言うんだい」

「わたしは天瀬怜音(あませ れいね)」

「洒落た名前だ。いや、気が利いた名前なのか。じゃあおれも名乗ろうか。うーんそうだねぇ、怜音に倣ってコスモスってことにしておいてくれよ」

「見た目には似合う可愛い名前だけど、性格には似合わなさそう」

「性格は、あれだ。おれはちょっと今拗ねているんだ。だから我慢してくれ」

 そう言ってコスモスは鳴く、笑う。

「それでコスモスさんはどうしてこんなところにいるの」

「そりゃあ呼ばれたからよ。おれを見つけたのは怜音だろう。だったら怜音に呼ばれたってことだ」

 なんのことだか。さっぱりわからない。

「わたし、コスモスさんのことなんか考えてもいないよ。っていうか会話できる鳥さんを考えてもいなかったよ。変な儀式とかもしていないし、勘違いじゃないの」

「まあまあ、それが知りたいなら今日どんなことがあったか教えてくれ。別に知らないと困るもんじゃあないけどな」

 わたしは朝起きてからのことを伝えた。

「美術の授業のことだな」

「コスモスさんもわたしのこと笑うのね。ひどいなぁ。そりゃあ中学二年にもなってこんなこと本気で言ってるんだから仕方ないけど」

「いやいや、おれが笑ったのは怜音の本気が伝わってきたからだ。先生に対して自分を貫き通したんだろう。そりゃ爽快だと思うぞ」

 甲高い鳴き声、コスモスさんは嬉しそうに笑ったらしい。表情がわからないよ。

「んでよ、もし地球がイジメを受けているって言ったら何ができるんだ」

「そうだねぇ、みんなに知ってもらって。さっきの話でも言ったように、まずみんなで感謝するかな。あとはね、えー、手を差し伸べるとか」

「地球にか」

「そうだよ。地球のどこに手があるかなんて知らないけど、どこか聞いてみればいいんだから」

「こりゃあ傑作だ。いや、良いほうの意味でだぞ。本当に可愛いお嬢さんだ。いいねぇいいねぇ。怜音、今夜月が出てから。そうだなぁ、夜の十時頃がいいか。この川を下った先の海まで来れるか」

「家からは近いけど、時間が時間だけに難しいよ」

「そりゃあ大丈夫だ。その時間、色々とパニックになるだろうからな。だから安心しておれのデートの誘いを受けてもらっていいぜ」

「パニックってどうしてそうなっちゃうの。そんなこと聞いて安心できるわけないじゃない」

「まあまあ、そのパニックも終わってみりゃ、些細な変化があるだけだ」

「本当にそうなの?」

「本当にそうだ。だからデートしようぜ」

 コスモスさんがどういう意味でこんなこと言っているかはわからない。正直信じていいかもわからない。少し落ち着いて考えたら、パニックになるのは今のわたし。喋る鳥が目の前にいるのに、普通に会話をしていたんだから。そういえば不思議の国のアリスはどういう気持ちでうさぎを追いかけたのだろう。好奇心でいっぱいだったのかな。それだったら、今のわたしと同じだね。

「わかったわ。でもコスモスさんって気障だよね」

「粋だと言ってもらいたいもんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。