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月が落ちる日  作者: 木彫ダイナマイト


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青い鳥

 一週間前、急に人間全員の体重が軽くなったらしい。初めは痩せただけだと言われていたけど、世界中で同じことを言う人が多かった。そうしたらみんなが自分もそうかなと調べる、体重を量るそれだけだから。そうしたら軽くなった人が多数、変わらないと言う人に対して太っただけだと言うようになった。わたしも痩せていた。ちょっと嬉しかった。

 この現象で、月が地球に近付いている、そうまことしやかに囁かれることもあった。それで終末論を語る人も現れたみたい。だから情報番組が取り上げる。海面の高さに変わりはない、だから月が近付いているはずがない。そう否定していた。それはそうだとは思うけど、原因はわからないまま。少し痩せた、その程度だから別に問題があるわけじゃない。このまま日常が続いていくんだ。そう考えるまでもなかった。


 美術の授業で次に描く絵のテーマは、まさかのイジメだった。そんなものを絵にしろという先生の意図がわからない。生徒みんなを抽象画家にでもしたいのかな。もっと技術面を教えるべきだと思うのだけど。とにかく思い当たることを考えながら、下書きをする。

 クラスメイトが悪戦苦闘をしているなか、わたしは手早く下書きを済ませる。見て回っている先生がわたしの横で足を止める。訝しむような目をした後、わたしを準備室に連れていった。

「天瀬さんは何を描こうとしていたの」

 わたしが描いたのは、泣いている地球だった。

「わたしは地球がイジメを受けていると思ったので、それを描こうと思いました」

 わたしは迷いなく答える。わたしの考えを間違いなく伝えているから。先生は不思議そうにわたしに聞き返す。

「どうして地球がイジメを受けていると思ったの」

「食事をするときは、その命に感謝するように習ったでしょ。でも地球のものを、石油とかを使うときに地球に感謝するようには教えないよね。それをわたしはイジメだと思うの」

 イジメとは人対人で起こるもので、地球にはそもそも命はないと先生は言う。そんな当然なことを言われても、わたしは折れない。幼い頃に、太陽や月、風や水などに意思があるように教えてこられた、大人たちに。けど小学生の頃からは徐々に現実に則して物事を伝えてくる。わたしもそれに流されそうになった、正しくは流されていた。でも、どこかでそれを疑問に思っていたんだと思う。だからわたしはその流れから弾かれた。

 中学に入った頃、大好きだったおばあちゃんが亡くなった。もちろんたくさん泣いた。そんなときに母親が言ってくれた言葉、あなたの心のなかで生きている。ありきたりな言葉だけど、それは確かにわたしの心を満たした。それと共に幼い頃にいなくなっていた意思を持っていた太陽たちも帰ってきた。

それから今までの約一年、わたしは矛盾を抱えて生きている。意思はないとわかっているはずなのに、意思を感じている気になっている。

 結局は先生が折れた。わたしは折れなかった。そもそもこんな抽象的なものを描かせようとする先生がおかしい。わたしの絵も抽象的に表現したと受け止めてくれてもいいのに、まったく。

 そんなもやもやした気持ちを抱いたまま今日を過ごす。気付けば放課後、まだ少し陽が高い。空を見上げるように背伸びをして気持ちを切り替える。最終的にどんな絵に仕上げようか、そう考えながら河川敷を歩いている。風でささやかに揺れる黄色い菜の花が、気持ちを軽くしてくれる。菜の花を吹き抜けた風は、次にわたしの元に来る。わたしとじゃれ合って、わたしを撫でて、充分満足して去っていく。ああ、優しい風。

 春に思いを馳せていると、川辺に並ぶベンチに青い何かを見つけた。もちろんわたしは駆け寄る。人が少ないのをいいことに、斜面を走って降りていく。転がりそうになるのをなんとか踏ん張りながら、無事にベンチのところに辿り着いた。

 ベンチの背もたれの上にいたのは青い鳥だった。カワセミだっけ。わたしが近づいているのに、逃げようともしない変わった鳥だなぁ。

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