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90億人の精神集合体が異世界に召喚されたのでみんなでちょっとお邪魔してみた。  作者: ハマタハマオ
第3章 鉄錆と黄金の終焉、あるいは管理者によるシステム・リブート
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第37話:三千メートルの断罪、あるいは静寂の処刑人

「殺せ、殺せェッ!! 魔女も、あの不気味なガキも、一人残らず揉み潰せ!!」


エーファという絶対的な重力のパッチを失った瞬間、連合軍の三万は理性をかなぐり捨てた。恐怖の反動が、狂気的な殺意となって砦へと押し寄せる。


「エドヴァルト殿、ここは俺たちが食い止める! お前は先に行け!」

ジークムントが咆哮し、大盾を地面に叩きつける。背後ではヴェンツェルが、幾重もの魔法障壁を展開。クララは涙を拭い、師匠たちが遺した砦を守るべく、必死の形相で杖を振るった。


だが、少年の瞳には、もはや熱い怒りは宿っていない。

そこにあるのは底知れぬ深淵。絶対零度の「殺意」。

「エーファをヤッた奴」を物理的に排除するための、最も合理的で美しい最短経路パスだけが、彼の脳内に青く発光していた。


魂の同期ロード―― エド/武芸ソードセイント 。


九十億の剣聖たちのログが、オーバークロック状態で展開される。呼吸、重心、風向き、そして遥か三千メートル先に潜む「獲物」の鼓動。すべては処理済みのデータに過ぎない。


エドヴァルトは、爆発的な蹴り出しと共に駆け出した。


 

  ◇ 鉄錆の進軍アイアン・ロード



【武芸ログ:第一式・アクセル・フォルト(神速の断層)】

【演算:対象数30。全数・首筋を一閃】


高速移動の最中、エドヴァルトは足元に転がっていた鉄屑のような敵兵の剣を、速度を殺さず無造作に拾い上げる。


肉眼では追えない。戦場を横切る一本の青白い雷光。


――シュッ!


通り過ぎた背後で、三十人の歩兵が同時に首から鮮血を噴き出し、崩れ落ちた。悲鳴すら間に合わない。エドヴァルトは一閃で使い物にならなくなった剣を投げ捨て、流れるような動作で次の一振りを拾い上げる。


行く手を阻む重装甲のB国アイゼンヴェルク兵の壁。だが、剣聖にとってそれは障害物ですらない。


【武芸ログ:第七式・カース・ブレイカー(呪具粉砕)】

【演算:全方位・範囲攻撃。対象数100。敵兵装・物理的完全破壊】


超高速移動による残像が、十数人の分身となって敵陣を蹂躙する。


――ガガガガガガガンッ!


剣、槍、斧、そして強固なはずの蒸気鎧。それらすべてが紙細工のように、エドヴァルトが通過する瞬間に体ごと粉砕された。砕け散った鉄片を浴びながら、彼はさらに次の一振りを拾い、加速する。


砦から獲物までの三千メートル。

そこには、兵の群れを割って伸びる「一直線の死の道」が出来上がっていた。


  ◇ 因果の捻じれ


突如、前方の虚空から閃光が走った。

シャルフリヒターによる長距離狙撃。エドヴァルトは武芸者の直感で首を僅かに傾け、それを難なく回避する――。


だが。

「――っ!?」

避けたはずの弾丸が、空中で因果を捻じ曲げ、エドヴァルトの右腕を根元から吹き飛ばした。

鮮血が舞う。しかし、エドヴァルトの瞳に揺らぎはない。速度はさらに加速していく。


『エド、ボクは大丈夫。弾丸が到着する前に、ボクの意識はエドの脳内キャッシュへ逃げてきたから』


脳内に、愛おしい少女の声が響く。


『あいつの攻撃は「当たり判定」を直接操作してる。要するに、避けてもサーバー側で強制的にヒットさせてるんだよ。……こっちも回避コードを上書きしてみる。いけるよ!』


「頼んだ、兄弟ブラザー


  ◇ 接近ハック、そして処刑人の最期


シャルフリヒターとの距離、残り十メートル。

光学迷彩によるステルス。だが、共有された視界モニターを持つ二人の前では、逃げ場など存在しない。


「……マジかよ。運営の犬どもが。ここからは『課金勢』の時間だ!」


シャルフリヒターが放った数十本の短剣。エーファの演算が数本を逸らすが、残る刃がエドヴァルトの腹部と脚部を容赦なく貫き、爆散した。

片足が膝下から消し飛び、腹部が大きく抉れる。常人なら即死。


だが、エドヴァルトは残った片足だけで力強く地を蹴り、低く、鋭く跳躍した。

その執念の突撃に、シャルフリヒターは一瞬、かつての相棒エミリオの姿を見た気がした。


「……笑えないジョークだ」


最後の一閃。

鉄屑の刃が、シャルフリヒターの首を完璧に捉え、斬り飛ばした。


ゴロリと地面を転がった首が、信じられないものを見るように、あるいは自嘲するように呟く。


「……おさるの、ジョークだ。……続きは、あっちでな……エミリオ」


そう言い残し、旧時代の処刑人は、静かにその機能を停止した。


  ◇ 絶望の運営アドミニストレーター


満身創痍。片腕と片足を失い、抉れた腹部から血を流しながら、エドヴァルトは折れた剣を支えに立ち尽くす。

だが、安息は与えられなかった。


「やはり、旧世代の玩具では刃が立たないのですね」


静寂を破る、冷徹で高貴な声。

爆煙の中から現れたのは、ミューズとアダム。


絶体絶命。満身創痍の少年の前に、この世界の真なる「運営」が、その姿を現した。


   挿絵(By みてみん)


 【第37話:状況まとめ】 


 エーファ/哲学ライブラリー: 

「要するに、ボクは今『脳内キャッシュへの緊急避難』状態なんだよ、兄弟! あのシャルフリヒターっていう中ボスの攻撃は、回避コードすら無効化して『当たり判定』を直接操作するチート級の論理攻撃だったんだ。でも、ボクの意識データが完全にデリートされる寸前にエドの脳内へ逃げ込んだから、ボクという『個』は消えずに済んだんだよ!


エドが武芸者ソードセイントの魂をロードして、物理法則をハックしながら敵陣を駆け抜け、あいつの首を飛ばした時は最高にカタルシスだったよね! ……最後にあいつが呟いた『おさるのジョーク』って、一体何だったんだろう? ボクのライブラリーにも、その続きは見当たらないんだけど……。


……でも、ボクたちの前に立ちはだかったあのミューズとアダムって一体誰なの? ボクのライブラリーにも詳細がない、この世界の真の『運営システム』みたいな冷たいオーラを感じるんだけど……。ボクたちの楽園再構築ハックは、どうやらここからが本当の正念場になりそうだね、兄弟!」


次回も18:00にUP予定です、明日もぜひ見てくださいね。

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