第38話:創造主の再臨、あるいはシステム・リブート
「……キミたちは、一体何者だ?」
満身創痍。折れた剣を杖代わりに立ち尽くすエドヴァルトが、爆煙の向こうに立つ二つの影を睨みつけた。
右腕はなく、左足は膝から下が消え、腹部の傷からは命の灯火が零れ落ちようとしている。
「この世界の秩序であり、導くもの……とでも言っておこうかしら」
無機質な、しかし絶対的な優位を確信した声でミューズが答える。彼女の瞳の奥では、管理プログラムとしての冷徹な演算が走っていた。
「わたしの使命には、あなたの存在が邪魔なの。……デリートしてあげる。さあ、アダム。始末してしまいなさい」
ミューズの傍らに控える「勇者」アダムが、一歩前へ踏み出す。
「傷ついた者を殺めるのは私の性分ではないが……許せ、兄弟」
アダムの聖剣が、エドヴァルトの喉元を貫く――そのコンマ数秒前。
漆黒の雲が激しく渦巻き、天空が真っ二つに割れた。
戦場を貫くほどの巨大な光の柱が二本、轟音と共にエドヴァルトの前に降り注いだ。
◇ 伝説の再臨:コンラートとヴェスパー
「――待たせたわね、兄弟!」
光の中から現れたのは、かつてヴィーダーラントを救った伝説のエンジニア、 コンラート(タチバナ) 。そして、青い肌を持つ悲劇の技術者、 ヴェスパー(オダギリ) だった。
「ひどい有様だね。でも、キミの『個』としての戦い、ちゃんと見ていたよ」
ヴェスパーが穏やかに微笑み、指先をエドヴァルトに向ける。
その瞬間、欠損した四肢が青白い粒子となって組み上がり、瞬時に元の肉体へと再構成された。
一方、コンラートは背後に迫る三万の連合軍を一瞥し、手にした杖を無造作に一閃させた。
「容赦ないね、タチバナさん」
ヴェスパーの苦笑をよそに、コンラートが放った極大魔法が戦場の地表を真っ赤な業火で焼き払い、三万の軍勢を文字通り一掃、後退させた。
ミューズは戦慄していた。彼女の根源的なプログラムが、目の前の「青い肌の男」から発せられる、得体の知れない圧倒的な管理者権限に畏怖を覚えていた。
「あなたはいったい……誰なの? この世界の仕様に、あなたのような存在は記録されていないはず……!」
◇ 魔王のチェックメイトと、運営の撤退
同じ頃、南の グロースハンデル大公国(C) 。
「不干渉」を貫いていたはずの魔王セレナが、自ら軍勢を率いて王都の中枢に座していた。
「……騒がしいのう。不法侵入を楽しんでいるわっぱ共の親玉は、そなたか?」
魔王の圧倒的な美貌と、それ以上に圧倒的な「死」の気配。セレナは不敵に微笑み、グロースハンデルの指導者の喉元に刃を突きつけるような「平和的な占領」を数分で完了させた。
「しれたことよ。今すぐ進軍中の軍に『撤退』を命じなさいな。さもなくば――この国の経済、わらわが根こそぎ『デリート』してやろうか?」
その脅迫は瞬時に結実した。戦場を包囲していた軍勢に、本国からの「即時撤退」命令が届く。
予期せぬ盤面の崩壊、そして眼前に立つヴェスパーから放たれる「世界そのもの」のプレッシャーに、ミューズは苦渋の決断を下した。
「……一時、撤退します。アダム、引くわよ」
ミューズとアダムは、激しいデジタルノイズと共に戦場から姿を消した。
◇ 九十億の再会:新しい創世記
「……なんとか間に合ったようだね」
ヴェスパーが、エドヴァルトの肩を優しく叩く。
エドヴァルトはその瞳を見つめ、確信を持って問いかけた。
「あなたが……ボクたちの創造主(オダギリ君)、なんだね?」
その瞬間。
エドヴァルトの脳内に、かつて失われた、あの大好きな「騒がしい合唱」が奔流となって戻ってきた。
『なんだボロボロじゃねーか、兄弟!』
『進歩ねえな、また鼻血出して転んでたんじゃないか?』
『さあ、ここからが本当の反撃だぜ!』
九十億の精神集合体。
かつて、エドヴァルトの「個」を守るために連結を断った魂たちが、オダギリの直接介入によって再び一つにリンクされたのだ。
「みんな……みんな、元気になったんだね……兄弟!」
エドヴァルトの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
「ああ。ヒムのシステムを直接直しておいたよ。これからは、君の意志で声のオン・オフを切り替えられる。君はもう端末じゃない、君自身がヒムの主だ。……それとね」
ヴェスパーは、清々しいほどに澄んだ空を仰いだ。
「ヒムの中にある魂で、もう一度『肉体』を持って生きたい人がいれば、ボクの権限でこの世界に転生させてあげられる。これからは、君たちの手で新しい歴史を書き込んでいくんだ」
戦場には、かつての師の胸に飛び込み、泣きじゃくるクララの姿があった。
そして、それを見守るタチバナとオダギリの、少し照れくさそうな笑顔。
管理者が自らログインし、システムを「物理修復」したことで、エドヴァルトは九十億の力を自在に制御できる「真の完全体」へと至った。
不自由な「天国」は終わった。
今、この瞬間から、彼らの新しい冒険――「創世記」が始まるのだ。
第三章 完
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【第38話:状況まとめ】
エドヴァルト: 「オダギリ君とタチバナさんが来てくれた! 九十億の魂も復活して、失った腕も足も元通りだ。……でも何より嬉しいのは、またみんなの『声』が聞こえること。さあ、次は仲間たちをこの世界に実体化させる、最高の『パーティ』の準備を始めよう!」




