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90億人の精神集合体が異世界に召喚されたのでみんなでちょっとお邪魔してみた。  作者: ハマタハマオ
第3章 鉄錆と黄金の終焉、あるいは管理者によるシステム・リブート
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第34話:鉄錆と黄金の進軍、あるいは未完のジョークの続き


「……オチは、まだか?」


 シャルフリヒターは、B国(アイゼンヴェルク連邦)の冷たい高塔の窓辺で、独り言のようにそう溢した。

 ミューズ。あの、命を記号に変えた冷徹な神が、なぜ自分を砂の中から掘り起こし、再び「肉体」という名の呪いを与えたのか。理由は知らないし、興味もない。


 ただ、指先に伝わるライフルの冷たさだけが、彼にとって唯一の福音だった。

 彼は首に巻かれた、ボロボロの布切れをそっとなぞる。そこには、あの日エミリオが書き遺した、意味の分からない「おさるのジョーク」の出だしが刻まれている。

 

 「……ドーナツの穴を見るか、それともドーナツをただ食べるのか。……笑えない話だ。ドーナツなんて、この世界にはもう、穴以外何も残っちゃいないっていうのに」


 彼は照準器スコープを覗き込む。

 視界の先に広がるのは、自分がかつて命を懸けて守り、そして無残に奪い去られた「現実」と「虚像」の入り混じった、醜悪な進軍列だった。



 B国の領土を、C国(グロースハンデル大公国)の軍勢が堂々と横切っていく。

 昨日まで血を流し合っていた敵兵を、ミューズの宣旨一つで招き入れなければならない屈辱。沿道のB国市民たちは、押し黙ったまま、憎しみと恐怖の入り混じった瞳でその軍列を見つめていた。


 その光景は、あまりに対照的で、あまりに残酷だった。


  B軍 の将兵は、鈍い光を放つ厚い鉄板の鎧に身を固めている。背負った蒸気機関からは黒煙が噴き出し、関節の駆動部からは火花が散る。魔法防御など知ったことかと言わんばかりの、泥臭く、不器用で、圧倒的な「質量の暴力」。それはシャルフリヒターがかつて愛した、**地理国家**の残影そのものだ。


 対する C軍 は、黄金の装飾ギルデッドが施された華美な制服を纏い、スマートグラス によるARスキンで軍列を「嘘臭いほど輝かしい英雄譚」に上書きしている。その実態は、金で買われた傭兵と、冷徹に引き金を引く自動殺戮兵器。かつて自分の故郷をデータの海へと沈めた、 NT国家 の姿に重なる。


 「……吐き気がするな。どいつもこいつも、中身は空っぽのくせに」


 シャルフリヒターは銃身を撫でる。彼は、この「ジオラマ」に、ドーナツの穴のように風穴を開けてやるために、静かに引き金に指をかけた。



 一方、迎え撃つA国(ヴィーダーラント王国)の砦。

 眼下を埋め尽くす三万の軍勢に対し、こちらはわずか五千。ジークムントの額には汗が滲み、ヴェンツェルの杖を握る手にも力がこもる。絶望が空気を支配しようとしたその時。


 「要するに、この盤面は『質量(鉄錆)』と『虚像(黄金)』の混成軍というわけだね。どちらからデバッグしてあげようか、兄弟」


 銀髪を風にたなびかせ、一人の少女が戦壇に立った。

 その声は、かつてのエーファではない。深淵な知識を宿した 軍略家 の冷徹な響きだ。彼女の瞳には、三万の軍勢も単なる「修正すべきバグ」に過ぎない。


 だが、その冷徹な空気を、内側から爆発するような熱狂が突き破る。


 「待て待て、軍略! まずは吾輩の演説で、愚かな羊たちの心をハックしてしんぜよう! 兄弟、ボクの声が魂に火を灯す瞬間を、特等席で見ていてくれ!」


 瞬時に声色が変わり、情熱的な 演説家 が憑依する。

 一人で冷徹な策を練り、一人で熱烈な喝采を煽る。外から見れば奇妙極まりない一人芝居だが、その瞳に宿る九十億の遺産エッセンスは、確かに砦の空気を変えていく。


 「……救世主様の相棒とはいえ、相変わらず理解が追いつかんな」

 ジークムントは呆れたように首を振り、ヴェンツェルは「これぞ新時代の希望か」と愉快そうに笑う。


 三万の殺意が迫る中、砦に響くのは、不気味なほどに明るく、そして力強い「九十億のノイズ」。

 未完のジョークの続きを語るように、少女は軍勢を見下ろし、不敵に微笑んだ。


   挿絵(By みてみん)


 【第34話:状況まとめ】 

 エーファ: 

「要するに、三万の軍勢なんて『情報の物量押し』に過ぎないよ。ボクの中の軍略家がお掃除ルートを算出して、演説家がお祭りを盛り上げる。……でも、遠くから視線を感じるんだ。ドーナツの穴のように冷たくて、悲しい視線を。……ねえ、兄弟。あの狙撃手にも、ボクの演説こえは届くかな?」

次回も18:00にUP予定です、明日もぜひ見てくださいね。

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