第29話:エーファの楽園再構築(ハック・建国)の狼煙
「……それではワシは行くぞ。一人で。誰の付き添いも無く。本当に、一人きりでな?」
王城のバルコニー。精悍な 青年 へとアップデートを遂げたエドヴァルトは、何度も背後を振り返りながら、重厚なマントを翻した。
脳内の エド/軍略 は「魔国への単独潜入が最適解である」と冷徹に告げているが、つい先刻まで九十億の兄弟たちと意識を共有していた彼にとって、一人での旅立ちは耐えがたいほどに寂しいのだ。
「エドヴァルト殿、やはりせめて一分隊だけでも……」
騎士団長ジークムントが沈痛な面持ちで拳を握る。男たちの熱い心配に、エドヴァルトは(もっと止めてくれ……!)と内心で涙を流しながら、精一杯の「強がり」を絞り出した。
「よいのだ、ジークムント。ワシは孤独に慣れておる(嘘だ)。……さて、エーファ。寂しかろうが、お主はここでクララと――」
「あ、エドまだいたの? 頑張ってねー、はいお土産よろしく!」
エーファは一切こっちを見ていなかった。
彼女は新しく手に入れた『管理者権限』で、どこからか取り寄せた「ふわふわの付け髭」を鼻の下に装着し、鏡の前でポーズを決めている。
「……ああ、行くよ。行くともさ。兄弟」
エドヴァルトは、精悍な横顔に隠しきれない哀愁を漂わせ、光の中に消えていった。
◇
「さて、クララ! コンラート先輩がチマチマ作ってたこの国の魔力配線、ボクが今すぐ『最適化』してあげるね!」
エドヴァルトがいなくなった瞬間に、エーファの「楽園再構築」という名の暴走が始まった。
彼女が付け髭をピクピクさせながら虚空に指先を滑らせると、青いインターフェースが闇を照らした。
「エーファ様、お待ちください! コンラート様は『魔力供給は10%の余力を持ち、決して過負荷をかけてはならない』と仰っていました!」
師匠の教えに忠実なクララが、顔を真っ青にして必死にタブレットを抱え込む。
「大丈夫大丈夫、安全マージンなんて全部削れば300%まで出力上がるから! えいっ、ポチっとな!」
「300パーセント!? 爆発します! 王城が光の塵になります!」
クララの悲鳴を余所に、エーファが空中のボタンを叩く。
次の瞬間、凍てつく闇に沈んでいた王都中の街灯が一斉に、太陽のような輝きで点灯した。要するに、 「古い電球を最新の超高輝度LEDに、配線ごと強引に書き換えた」 ようなものである。
「ほら、あったかくなったでしょ?」
「……あ、温かいですが……。コンラート様が知ったら寝込むか、私を破門するかのどちらかです……」
規律正しいクララは、爆速で解決していくライフラインを前に、あわあわと手を動かすことしかできなかった。
◇
光の復活に驚き、王城の下に集まった民衆たちの前に、エーファはバルコニーから身を乗り出した。付け髭を「かわいい感じ」に整え直し、 「エド/演説」 の魂を一時的に借りて叫ぶ。
「ヴィーダーラントの兄弟たちよ! いずれこの国は『常夏の楽園』にアップデートされるよ!」
その声には、九十億のカリスマが宿っていた。
「ボクが来たからには、もう凍える夜は来ない。水耕栽培でイチゴも食べ放題! ……あ、そこ、お腹空いてるの? じゃあ先にパスタの配給もしちゃうね!」
演説の最中に個人の要望に応え始める自由すぎる「管理者」に、民衆は戸惑いつつも、その圧倒的な可愛さと光の恩恵に「エーファ様ーーー!!」と地を揺らす熱狂で応えた。
「……おいおい。これじゃあ、俺たち騎士の出番がなくなるじゃないか」
ジークムントは、エドヴァルトの残していった「哀愁」を思い出しつつ、それ以上に手に負えないエーファの快進撃に、深いため息を吐くのだった。
【第29話:状況まとめ】
エーファ: 「エドが寂しそうに魔国へ旅立ったけど、ボクは付け髭のフィッティングで忙しいから大丈夫! クララが『師匠の教えがー!』って泣いてる間に、王国の魔力インフラを300%に魔改造しておいたよ。要するに、ボクが神様なんだから、細かいルールは無視して全部ハッピーに書き換えちゃえばいいんだよね!」




