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90億人の精神集合体が異世界に召喚されたのでみんなでちょっとお邪魔してみた。  作者: ハマタハマオ
第3章 鉄錆と黄金の終焉、あるいは管理者によるシステム・リブート
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第27話:盤上の神々と、欺瞞の十字

 

 「悪いね陛下。入り口が狭くて、少し絨毯を汚したかもしれない。……兄弟」 


 ――ガタン!

 激しい衝撃と共に、ヴィーダーラント王城の「王の間」に土煙が舞った。豪華な絨毯の上には、つい数分前まで最果ての研究所にいたはずの馬車が、場違いな威圧感を放って鎮座している。


 「……え、あ、エドヴァルト殿……?」


 国王ヴィルヘルム三世は、目の前の「交通事故」のような光景に、威厳ある面魂つらだましいをこれ以上ないほど引きつらせていた。だが、それ以上に王を驚愕させたのは、馬車から降りてきた少年の変貌だった。


 人形のように端正なかたちはそのままに、精悍な 青年 へと急成長を遂げたエドヴァルト。その瞳には、九十億の魂から選ばれた エド/軍略ストラテジー としての鋭い光が宿っている。


 「エドヴァルト様、さすがに王の間に馬車で乗り込むのはどうかと思います……」


 後に続く弟子のクララは、ワープの酔いとあまりに非常識な帰還方法に頭を押さえていた。

 そして、その中心で「どう? ボクの転送ゲート、完璧でしょ!」と胸を張っているのは、幼い少女の姿に戻り、天真爛漫な明るさを放つエーファだった。



 エドは王の間のテーブルに置かれた地図を目にした。


    挿絵(By みてみん)


 「……ふむ。ようやくワシの番が回ってきたようじゃな」 


 その瞬間、エドヴァルトの瞳から「少年」の迷いが消え失せた。

 脳内の深層、九十億の魂のアーカイブから、一人の男の意識が浮上する。数多の戦場を俯瞰し、数百万の命を駒として動かしてきた冷徹な知略の化身。


 エド/軍略※(エド・ストラテジー)

 (※ヒムから選抜された特級の魂「スペシャリテ」が、エドヴァルトの肉体の主導権を握った状態)


 「エド、様……?」

 隣に立つクララが、その圧倒的な覇気に息を呑んだ。

 少年の端正な面影を残しながらも、その立ち振る舞いは百戦錬磨の将帥そのもの。エド/軍略は、王城の壁に掛けられた巨大な四カ国地図を見据え、不敵に口角を上げた。


 「ジークムント。この盤面を整理せねばならん。大局の話をするぞ、兄弟」

 彼は迷いのない手つきで羽ペンを執ると、広げられた羊皮紙の上に、鋭い一筆で巨大な十字を描き出した。



 エド/軍略は、自ら引いた十字の各片を指差した。


    挿絵(By みてみん)


*  A:左上 ―― ヴィーダーラント王国(我らの国) 

*  B:左下 ―― アイゼンヴェルク連邦(工業国家) 

*  C:右下 ―― グロースハンデル大公国(交易国家) 

*  D:右上 ―― フィンシュテルニス魔国(魔王の国) 



 「いいか。陸路しかないこの盤面で、一番の恐怖の中にいるのは西のBアイゼンヴェルクじゃ。何せ、北のA(我ら)と南のCグロースハンデルから常に両面攻撃(挟み撃ち)を受けるリスクを負っておる。逆に、BとCが同盟を組みAに攻め込むには、Bの領土にCを入れねばならん。自分の領土にいつ敵に回るかわからん奴をいれる訳だ、どちらか一方の均整が崩れた瞬間に同盟は崩壊する……」


 彼は羽ペンを地図上の「B」の地点に突き立てた。


 「こんな単純な構造のいくさが、なぜ何千年も長々と続いておるのか、ワシには不思議でならんのじゃよ。……こんなのは作り物の戦場じゃよ」


 ジークムントが当惑したように声を漏らす。

 「作り物、だと? 我らはこの数千年、血を流して戦ってきたのだぞ」


 「そう。そこが不自然なのじゃ。 要するにこの世界は、まるで『空(Z軸)』という概念をパージされた、二次元のボードゲームの中に閉じ込められているようなものだ 」


 エド/軍略の瞳に、演算機のような冷徹な光が宿る。


 「この十字の均衡バランスは、誰かによって意図的に保守メンテナンスされておる。特に右上のD――魔国じゃ。この国が『物理的な壁』として機能し、技術の進歩すら歪めている。空を飛ぶ鳥はいれど、空を行く軍隊がおらぬのは、この世界のOSそのものに『飛行禁止ノーフライゾーン』のパッチが当たっておるからではないか?」


 彼は窓の外、遥か東に広がる魔国の霧を見つめた。


 「真実を知るには、バグの源泉へ行くしかない。ワシは一人で魔国へ向かう。エーファ、お主はここで、ワシの背後を突こうとする『駒』たちに睨みを利かせておけ」


 「了解、兄弟ブラザー! この国のインフラをハックして、最強の要塞にアップデートしておくよ!」


 一人は、盤上の嘘を暴くために。一人は、守るべき拠点を再定義するために。

 九十億の軍略が、歴史という名の停滞を、ついに食い破り始めた。



 【第28話:状況まとめ】 

 エド/軍略: 「アイゼンヴェルク(B)が四面楚歌なのは、地政学的にあまりに不自然だ。空戦を封じることで、人為的な膠着状態が作られている。ワシは魔国(D)に乗り込み、この世界の『仕様』をハックしてくる。エーファ、留守は頼んだぞ」


   挿絵(By みてみん)

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