第25話:特別編:青い来訪者と、魔王の休日
◇ 偽りの威厳と、見透かされた「礼儀」
魔王の居城。豪奢な広間に通されたヴェスパーの前に、一人の女性が君臨していた。
魔王セレナ・フィンシュテル 。
額から禍々しい二つの角を突き出し、気だるげに玉座に腰掛けるその姿は、知略に長けた絶世の美女。ドレスの隙間から覗く艶やかな曲線は、成熟した大人の包容力と、触れれば切れるような鋭い知性を同時に放っている。
「……人間か。ヴィーダーラントから、わざわざ死にに来たか?」
セレナが不敵な笑みを浮かべ、重厚な魔力による威圧を放つ。けれど、ヴェスパーは平然とした顔で彼女を見上げ、小さく首を振った。
「その『魔王のフリ』、もういいですよ。……それ、着脱式でしょう?」
静寂。魔王セレナの眉が、わずかに跳ねた。
「……ほう。三百年、誰にも見抜かれたことはなかったのだがな」
セレナは溜息をつくと、おもむろに頭の角を掴んで 「カパッ」 と取り外した。
途端に張り詰めていた威圧感は霧散し、広間には芳醇なワインが解けるような、大人の女性の落ち着いた色香が漂い始めた。
◇ 創造主への、お姉様の慈悲
「……お主、ただの人間ではないな。その青い肌、わらわの同胞とは波長が違う。……いや、そもそも『この世界の理』に縛られておらんな?」
角を外した彼女の瞳は、怜悧な光を湛えていた。
彼女こそは、老ヴェンツェルに転移魔術を授け、世界の裏側で糸を引いてきた真の導き手。
「ボクは……この世界の管理者です。わけあって、今は一人の技術者として降臨している」
ヴェスパーの告白に、セレナは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに納得したように深く頷いた。
「世界の創造主さまが、わらわの元に直々の頼み事か。……不憫なことよな。自ら創った箱庭の綻びを、自分の手で縫い合わせに来るとは」
彼女は玉座から立ち上がると、ゆったりとした足取りでヴェスパーに近づいた。
グラマラスなその体躯から放たれる圧倒的な「お姉様」のプレゼンス。彼女は少年のように見えるヴェスパーの頬に、白磁のような指先で優しく触れた。
「……いいだろう。協力してやる。お主が求めているのは、あの国の冬を終わらせる『光』か、あるいは……」
「……数百年後の『特異点』を救うための、破滅の種火です」
セレナは「くすっ」と艶やかに笑った。
「面白い。不器用な愛じゃな。……ならば、望み通りの『核』を授けよう。ただし、それを持ち帰ったあとの悲劇もお主の責めとなる。それでも構わぬな?」
「……ええ。歴史は、ボクが完結させます」
◇ 円環の始まり:魔王の約束
こうして、ヴェスパーは魔王セレナから「魔族の核」を譲り受けた。
セレナが見せた知略の深さと、年下の者を慈しむような包容力。
彼女は、ヴェスパーが背負おうとしている「メルトダウンという名の救済」を、すべて見通した上で手を貸したのだ。
「気をつけて帰るがよい。いつか、お主の『想い人』を連れて、再びここを訪れる日が来るまで……わらわが、この国の成り立ちを隠して待っておいてやろう」
要するに、ボクたちは今、未来のボクたちを救うための「時限爆弾」を受け取ったんだ。魔王セレナという、世界で唯一真実を知る『共犯者』を得てね。これが悲劇の始まりであり、ボクたちの円環を完成させるための唯一のチケットなんだ。
魔国の霧の向こうへ消えていくヴェスパーの背中を、絶世の美女――魔王セレナは、最後まで穏やかな、そして少しだけ寂しげな眼差しで見守っていた。
【第25話:状況まとめ】
タチバナ: 「魔国でのヴェスパーとセレナの密会……。要するに、これが全ての伏線だったわけだね。エドたちが手に入れた『魔族の核』は、最初から創造主オギが未来のために魔王から借り受けた『救済の種火』だった。さあ、続きは現実世界でしっかり観戦してるからね、兄弟」
次回も18:00にUP予定です、明日もぜひ見てくださいね。
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