氷の夕日
「イマジナーさん…起きてください」
ユーリエが僕を叩き起こしにきた。
「フェルン達は先に出かけております。私達も休暇を取りませんか?」
まだ夢見な様子の僕は目をこすりながら話す。
「うん…そうだね…知りたい事もあるし」
「行きつけの場所があるの。ついてきて」
外に出ると当たりは人々の声で賑わっている。祭典でもあるのだろうか…
「今日は何かあるの?」
「いつもこんな感じよ、気にする必要ないわ」
だんだん人集りから離れていくと広大な土地に花々が華麗に咲いていた。
「ここは、私が子供の頃によく行ってた場所です。嫌なこともここに来れば忘れられたのです。とても綺麗でしょう…」
沈黙がこの景色の美しさを肯定していた。言葉では表せないほど綺麗で幻想的な光景だった。
なぜかとある場所だけ花が沢山枯れているがある。この時は特に気に留めてなかった。
花畑を後にして、とある食堂を訪れた。ここはユーリエの行きつけらしく、麻婆豆腐が看板メニューらしい。辛いのは得意なので麻婆豆腐を頼むことにした。
「麻婆豆腐二つお願いします」
しかし店員は申し訳なさそうに答えた。
「申し訳ございません。材料が足りなくて…なぜかここ1週間で工場からの搬入が止まってしまい…問い合わせたところ、大豆が歴史的な凶作らしくて。枯れる物や品質が悪いものなどが多く…何者かによって荒らされた形跡もあり、アスピリクターさん達も調査をしていますが、今だ証拠も見つかっていないらしく…」
ユーリエは目を細めて怪訝な様子で話す。
「それは、どういう事?証拠がない事はあるの?」
「足跡すらないとの事でした…詳しいことは分かりませんが今はこの事件の解決を祈るばかりです」
「僕達に何か協力出来ることはありますか?」
そう訪ねたが店員は首を横に振って問題ないと伝えた。
おにぎりを食べて帰路に就く。
「妙です…畑は機械などで完璧に管理されていて、不作になることはまずありません…意図的に誰かが荒らしたとしか考えられません」
「機械が故障したとかはないのか?」
「その可能性もありますが…機械が故障しても、ある程度は育つので、ここまで不作にはならないはずです」
「そういえば、聞き忘れてたけど、ここはどんな場所なの?」
白い星のバッチが付いている制服を着た人達が慌ただしい様子で駆け回っている。
「ここは、ここは結界で守られていて夢像軍による攻撃は全て無効化されます。このような場所をアージスの地と呼ばれています。総人口は100万人です。飛行船ですが、敷地面積はとても広く、研究施設や学校など様々な施設があります。私はスノーフォード学園を卒業しました。私達のように、ファイラー能力を持っている人たちが通う学校です。ファイラー能力は、生まれつき持ち合わせいる事が多く、研究施設の検査をしてファイラー能力の有無を判断します。10人に1人の確率で持ち合わせています」
上を見上げると特に結界が張られている様子は見えない。空を見れば青く澄み渡っている。しかし結界の外の地面は赤く枯れ果てている。
「他にアージスの地はないの?」
「あります…しかし無線通話がやっとの事で…距離的に一つ二つ山を越える必要があり、極めて困難です。夢像沢山いて、今はそのアージスの地までの道を整備する任務が行われています」
「僕も任務出来るの?」
「いえ…貴方はまだ資格を持っていません。スノーフォード学園を卒業、もしくは研究施設でファイラー最終試験。イマジナーさんの場合は想像の力の試練を90点以上で合格する必要があります。ですが緊急任務は別で、資格を持ってなくても参加は出来ます。そこで活躍すれば特例で資格を貰える可能性があります。ローズさんがそうですね」
「ファイラー能力を持ち合わせている人は沢山いますが、戦闘能力だけで見ると、数百人程度しかいません、しかし生活や研究に役立つ能力もあり、日々飛行船の発展に繋がっています」
「なるほど…だから試験に合格するために、訓練してるの?」
「そうです。メークさんは、スノーフォード学園の教員をしながら、ボランティアで訓練などを行っています」
「そうなんだ…なんか、いろいろ難しいね」
「緊急任務は夢像軍が総攻撃を仕掛けてきた時に発令されます。数年に一度あります。この防衛は一度も破られたことがありません…ただあの悲劇を除いて…」
「悲劇?何があったの?」
ユーリエは苦しい表情でゆっくりと口を開いた。
「あの日は私がまだファイラーになった頃でした」
――――
「緊急任務発令!今すぐファイラー達は配置についてください!」
今日はいつもの様子が違った。空は赤くどす黒い色で埋まった。
私はフェルン達と一緒に結界の外に出た。沢山のファイラーが夢像軍を迎え撃つ。
しかしまだ未熟だった私は簡単に夢像に追い詰められてしまう。
その時一筋の青い光線が夢像を切り裂いた。青髪に白い瞳の少女だった。
「大丈夫?」
手を伸ばした彼女の手をゆっくり取る。彼女はニッコリと笑って姿を消した。
そして戦いも終盤に迫りほとんど片付いたようにも見えた。巨大な鳴き声が地上に響き渡る。謎の影が空に現れた。
その瞬間巨大な破裂音、ガラスのようなものが割れる音がアージスの地に響く。
「まさか…結界が破られた!」
フェルンの言葉に私は顔から血の気が引く。
私は急いでアージスの地に戻った。目の前の現状に私は目を背けたくなった。
謎の鳴き声と暗雲の空から現れたのは、巨大な鯨だった。都市は赤くドロドロとした雨に撃たれ、当たりは炎で燃えている。恐怖で私はその場に立ち尽くしてしまう。
夢像が街を破壊している。泣き叫ぶ声、まさに地獄絵図だった。目の前で子供が夢像に襲わせそうになる。間一髪でフェルンが夢像を倒した。
「ユーリエ!早く行くよ!」
フェルンの声に意識が戻る。夢像を次々と倒して街の人を安全なシェルターに運ぶ。
「守りたい…守りたい!壊させない!」
恐怖も全て吹き飛んだ。ただこの悲劇を早く終わらせるために走って夢像を斬り刻む。地上の夢像を殲滅して最後に結界を壊した鯨だけが残った。
一つの青い閃光が空を斬った。鯨を奇襲し大ダメージを喰らわせた。鯨も苦しそうな鳴き声を上げて尻尾で反撃をした。しかし無力にも尻尾は一瞬にして切り刻まれた光の粒となり消えてゆく。
鯨は凄まじい威圧感に押されて半分が薄くなっている。そして叫び声と青白い光が空を覆って、そこで私の意識は途絶えた。
私が目覚めたのはあの悲劇から1週間後だった。
「お姉ちゃん!大丈夫?」
妹が私に抱きついた。お兄さんも元気そうで何よりだった。
白い部屋に寝かされていた。多分病院だろう。街は復興が進んでいて少し活気が戻っていた。
「あれ…お父さんとお母さんは」
お兄さんと、妹は何言わなかった。何となく察してしまった。布団を握りしめて涙がボロボロ溢れてしまう。
(守るて誓ったのに、壊させないって…なのに私は私は)
(君はこの世界を守ってね。自分の命を一番大切にしてね…貴方は優しすぎるからきっと誰かが困ってたら自分の命も投げ出して助けにいきそうだからね…)
スノーフォード学園を卒業した時、両親に言われた最後の言葉だった。
――――
「この悲劇はまだ人の脳裏に焼きついている…私も時々思い出して、恐怖で足がすくんでしまう」
彼女は俯いて一筋の涙が溢れた。
「今の君はあの時と違う、僕が付いてる。だから二度と同じ悲劇は起こさせない。誰も悲しませない世界を僕が創る」
精一杯の励ましの言葉を伝えた。そしてどこか僕の使命にも思えたから。
「ありがとうございます」
彼女は涙を流しながら満面の笑みを浮かべた。誰も悲しませない、誰も傷つかない未来が訪れてほしい。誰もがそう思うはずだ、僕の力で必ず掴んで見せる。




