悪夢
黒い雲が空を覆い、唯一の光を遮断した。
「フェルン!そっちは任せた!」
「りょーかい!モッチ!支援魔法お願い」
「ストラプンスク!」
(敵は逆夢級。ここから一気に不意をついて…)
しかし攻撃はいとも容易く弾き返された。相手は嘲笑いながら刀で私の体を斬り刻む。
「悪いね…私達の方が強いよ」
バラバラになったのは敵の方だった。
「ナ…ナゼダ…」
ぐったりと倒れて光に包まれながら姿が消える。
「モッチのおかげで助かった」
「それほどでも〜」
ユーリエが敵を倒した後素早い動きでこちらに戻ってくる。
「ここら一帯の夢像は倒したかしら…」
「いや…この気配…まだいる…しかも凄い威圧感に包まれてる…悪夢級かもしれない!」
モッチが目を細めて真剣に察知している。
「悪夢級って…早く逃げない……と」
目の前に現れたのは今までの夢像とは明らかに違う存在感を放っている。見た目は禍々しいドラゴンそのものだ。
目はクリスタルのようにキラッとしている。
「勇気の魔法!みんな怯えないで!力の魔法!」
魔法に包まれると青いオーラが刀にまとわりつく。目の奥に恐怖は無くなった。今はただこのドラゴンを倒すだけだ。
「オモシロイ…タノシマセヨ」
ドラゴンが悠長に話してる隙に背中のコアを一つ破壊する。
ユーリエは冷静に分析する。
「奴は背中にあるコアと心臓が弱点だ!」
刀を投げて高速移動し、背中にあるコアを破壊する。しかし知性の高い夢像はその部位に硬い鱗や甲羅があり一筋縄ではいかない。
このドラゴンも例外ではなかった。心臓の部位にあるロールスターをを破壊しない限り貫くことは難しいだろう。
(私の能力は刀の場所まで高速移動できることだ。刀を投げて高速移動して敵の不意を突く)
これが私の戦闘スタイルだ。
しかし二度目は通用しなかった。ドラゴンはこの攻撃を見据えたように鋭い爪で受け止め尻尾で振り払う。
(厄介…きっとタリー属ね)
ドラゴンの口の中が赤く変色する。慌てて距離を取り次の攻撃に備える。
赤いブレスを間一髪で避けながらユーリエと協力して最後のコアを破壊した。
「いける!ユーリエ!」
「はぁぁ!」
頭のコアを両手で最大の力を込めて突き刺す。刀は無窮の願いが渦巻いてる。虹色に光りながらドラゴンは叫び声をあげて最後の抵抗を見せる。
「この力…、逃げて!早く!」
モッチの言葉は届かなかった。ドラゴンは光をまき散らしたあと凄まじい衝撃波を放った。フェルンとユーリエはもろに食らってしまい吹き飛ばされてしまう。
刀を上手く地面に突き刺し致命傷は避ける。しかし信じがたい光景が目の前に現れていた。ドラゴンが再生している。壊したコアも時間が戻るように元通りになる。
「オボエトケ…ココマデワレヲコケニスルトハ」
ドラゴンは捨て台詞を吐いて空に飛び立ってしまった。深い霧が立ち込み追跡は不可能に近かった。
(あと一歩だったのに)
ユーリエは思わず口を噛みしめる。血の味で埋め尽くされている。
フェルンは力なく地面に突っ伏している。刀を杖代わりにしてよろよろと立ち上がる。
「悔しい…」
心臓を鷲掴みにされたような痛みに襲われる。これは引き分けではない。敗北だとこの傷が知らせている。
「治癒の魔法!みんな、一回安全な場所に行って立て直そうよ!」
無言で頷き刀をしまう。
「みんなが無事なら…何よりです」
ユーリエは悔しさを隠して本音を口にする。
泥まみれになりながらも、ほんの少しだけ絆が深まった。
――――
「みんな…何があった!」
訓練が終わり、宿に帰る途中任務に向かった三人がボロボロの状態で帰ってきた。
ローズはボロボロの三人を見つけてすぐに駆けつける。
宿に入ってゆっくりと話を聞くことにした。
「怖かったよ〜」
モッチはローズに子供のように泣きつく。
「悪夢級の夢像が現れました。それでもみんなが無事なのは奇跡だったかもしれません」
ユーリエは膝の上で拳を握りながら答える。
「とりあえず…安心です…今は立ち直るために明日は各自休息を取りましょう」
フェルンは服の裾をぎゅっと握りしめる。どれだけ悔しくて恐怖に駆られていたのか目に見えてしまう。
想像の力を使って元気にさせれないかな…後ろを向いて想像の力であるものを作った。
「モッチ。こっち来て」
手招きをした。モッチは少し泣き止みながら近づいてくる。
「なぁに?モッチに用事あるの?」
「これ、プレゼント」
渡したのは小さなクマのぬいぐるみだ。ありきたりかもしれないが少しでも笑顔にしてあげたかった。
彼女は少しキョトンとしたあと、花が咲くようにパァと明るい表情になった。
「これ、モッチのために?嬉しい……ありがとう!」
「………お人好しね……まぁ…嫌いじゃないわ」
ローズが小声で何か言ったようだが、聞こえなかった。
「ホント…想像の力って凄いなぁ…」
フェルンは頬杖をつきながらクマのぬいぐるみを見つめる。
夕食の後にみんなが武器の手入れを終わらせたあと電気を消してゆっくりと眠りについた。
――――
「ここは…」
「貴方はホント…お人好しのおバカですね。憎めませんしむしろ…愛すべきところなのでしょうけど…」
「少し…前も来たような気がする…無造の世界で…確か…君は幻影?」
「もう…幻影呼びは結構です、私の名前はエティルニーローリエと申します。気安くローリエとお呼びください。まぁ…あの世界に戻る時には忘れているでしょうけど」
「君はどんな存在なんだ?」
「それは貴方の……おっと…これ以上は秘密です」
彼女にそっと背中を押され白い渦に落とされる。走馬灯のようにいつの記憶が分からない記憶が脳裏に浮かんだ。
――――
目覚めるとまだ夜更けの時ぐらいだった。呼吸は荒く額には汗も浮かんでいる。思い出さないといけないことがある。でも分からない。でもローリエという名前だけ僕の心に刻まれていた。
右手には雪の結晶のキーホルダーがあった。懐かしくて儚い想いが閉ざされているようだった。




