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◇157 ポイント特典5





 春陽会も無事終えて、次の日は完全に休日の私。

 ここ数日忙しかったから思い切り羽を伸ばしたい。なんなら朝寝坊して一日中だらだらと過ごしたい!

 とは言っても、仮にも公爵家令嬢である以上、貴族正しい、もとい、規則正しい生活はしなきゃいけないわけで……。

 いつものようにいつもの時間に起こされて、いつものように着替えさせられる。

 今日は休日で勉強も訓練もないけど、きちんとした生活はさせられるのだ。

 着替えたら食堂に行って両親に朝の挨拶をして朝食をいただく。

 公爵家《ここ》に来た時に比べて食事の質が大幅にグレードアップしているよね。

 以前は柔らかいパンもバターもココアもなかったし、マヨネーズやマッシュポテトもなかった。

 私の店の商品を手に入れたうちのシェフが、試行錯誤で一生懸命に努力した結果である。間違いなく彼がこの皇都で一番のシェフであろう。宮廷料理人にも負けちゃいないと思う。

 朝食を食べ終えたら、いつもの日課である【店舗召喚】だ。

 今日はお父様のリクエストでリカーショップとコンビニを喚《よ》び出す。

 春陽会の裏で行われた男たちばかりの宴会で、お酒の消費がかなり激しかったと見える。

 まあ、そのお金は皇家から出ているから、うちとしては『まいどあり!』という気持ちなんだけどもね。


「あ、ポイント貯まってる」


 ユミナリア様からいただいたポイントカードを確認すると八十個目の赤い枠に琥珀さんの顔マークがスタンプされていた。

 今回はなにをもらえるのだろうか。前回の眼鏡セットは微妙だったからな……。年のせいで老眼が始まっていた執事のセバスチャンには喜ばれたけども。

 老眼とか近視とか関係なく視力が2.0になる眼鏡はありがたかった。他のレーザーを出す眼鏡とか、熱感知をする眼鏡とかは微妙だったけども。

 まあ、あくまでもこのポイント特典はおまけだからな……。いただけるだけでもありがたいと思わないとバチが当たる。

 いや、本当に当たるかもしれん……。ユミナリア様って断罪の女神様でもあるらしいし。

 もらえるものはなんでもありがたく貰いますので、天罰は勘弁して下さい。


「よし。特典下さいな」


 女神様への祈りを済ませて特典をもらうことにする。

 いつものようにポイントカードから光の玉が飛び出して、ポトン、となにかが地面に落ちる。


「……額縁?」


 それは縦横五十センチほどの正方形をした木の枠で、薄い板が底面に張られている。枠の厚みは三センチほどもあって、絵を飾る枠にしては分厚すぎると思う。


「絵を飾るとなにかが起こるのかしら?」

「いや、なにかが浮かび上がるのかもしれないよ?」


 横から見ていたお母様とお父様がそんな話をしているが、たぶん額縁じゃないと思うんだけども。

 えーっと、今までの特典をみるに、どっかに説明書があるはず……あ、あったあった。

 私は底板の裏に貼ってあった小さな紙をピッと剥がして、説明書を読む。

 

「『箱庭サンドボックス』……?」


 サンドボックス? 確か『砂場』って意味だっけか。


「えーっと、枠の中に、砂、灰、雪など、細かな粒子を敷き詰め、枠を持って念じると思い描いた物を形にできる。そのまま魔力を流すと固定される……?」


 思い描いた物を形にできる……? 立体化できるってことかしら? よくわからないけど、とりあえずやってみよう。

 あいにくとうちには砂場のような場所はないので、とりあえずまだ暖炉に残っていた灰を律に持ってきてもらい、枠の中いっぱいに敷き詰めた。

 で、枠を持って念じる……? えーっと、たとえば琥珀さんとか?

 私が横にいた琥珀さんを見ながらそう念じると、枠の中に詰まっていた灰がしゅるしゅると動き、下の方から琥珀さんの像を作り上げていった。

 まるで3Dプリンターのようにあっという間に寝転がってる琥珀さんの石像、いや、灰像? が出来上がってしまった。


「へえ! これはすごいな!」

「ホント、そっくりね!」

『そうか……? 我は寝ててももっとキリッとしてないか……?』


 両親には好評、本人には不評だけど、私が頭に思い描いた琥珀さんと全く同じ姿が出来上がっている。

 特にこのだらしなくのびた手足の……。


「あっ」


 私が別の角度から見ようと枠を斜めにしようとしたら、サラッと灰が崩れ、琥珀さんが壊れてしまった。

 しまった。完成させたら魔力を流さないと固まらないのか。

 もう一度、と、今度は大虎状態の琥珀さんを思い描いてみる。カッコよく月に吠えるような虎をイメージして……。

 しゅるる、と灰が積み上がり、私のイメージ通りの像を作り上げる。よし、ここで魔力を流す!

 ピシッ、と、なにか像をコーティングするような感覚がしたと思ったら、琥珀さんの像は完全に固まっていた。

 枠から取って持ってみる。軽っ。まあ、灰だからな……。灰でできたフィギュアだ。


『うむ。今度は上手くできたではないか』

「さっきのも上手くできてたよ」

『いや、こっちの方が断然いい』


 琥珀さん的にはさっきのはどうしても納得できないらしい。そっくりだったけどな。

 しかし固まったことは固まったけど、そこまで完全に固まっているわけではないようだ。ちょっと強めに爪で引っ掻いたら灰が削れて落ちてしまった。ううむ、強度に難ありだね。


『おそらく流す魔力が少なかったのではないか? 多めに流せばもっと頑丈になると思うが』


 琥珀さんの言う通り、今度は多めに魔力を流してみる。ちなみに作ってみたのは駄菓子屋にあるポッキンアイスだ。

 それをもう一度爪で引っ掻いてみたが、今度はそう簡単に剥がれ落ちなかった。だけど力を入れて真ん中から折ろうとしたら簡単に折れた。やっぱり鉄のように硬いわけじゃないようだ。ま、元々灰だしね。


『砂で作れば石くらいの強さにはなるのかもしれんな』

「砂鉄で作れば鉄くらいの強さになる?」

『おそらくな』


 おがくずなら木製くらいの強度のものは作れそうだね。

 素材さえあればなんでも作れるのか。これはかなり使えるんじゃないの? 特典ガチャ、当たりかな。

 と、思ったけど、これといって作りたい小物とか、別にないな……。なにに使えるかしら、これ?

 動物フィギュアとかちょっとした小箱なんかは作れるけど、あまり活用しようもない気がする。私がモデラーだったらかなり喜んだだろうけども。

 一般人が3Dプリンターを貰っても持て余すよね……。

 なんとはなしにお父様とお母様、そして私の仲良し家族フィギュアを作ってみた。身近な人たちだと細部までこだわって作れるね。ホントそっくり。


「ああ、これはいいね。リビングに飾ろうか」

「ええ、素敵なお人形だわ」


 おっと、意外と高評価。これって家族写真みたいなものになるのかな。

 この世界、写真はないからなあ。姿などを転写する『ギフト』はあるらしいんだけども。

 ついでに皇王陛下と皇后様、それにエリオットと皇太后《おばあ》様のロイヤルファミリーも作ってみた。うむ、激似。


「うん、これは喜ばれるかもしれない。ただ皇王家の人たちの素材が暖炉の灰ってのは、ちょっとね」

「あ、やっぱり?」

「明日にでも砂金を用意するからそれでもう一度頼むよ」


 砂金っスか。ロイヤルゴールデンファミリーだ。派手だなあ……。


「貴族の家族像を作れば喜んでもらえそうだね」

「それならお見合いの姿絵の代わりにもなるんじゃないかしら。全身まで含めた像を相手に送れるわ」

「うーん、破談になったら処分に困りそうだけど……」


 お父様たちはさっそくこの箱庭の使い道について、あれこれと考え始めたようだ。

 うーん、なにかの試作品とかを作るには便利なのかな……。たとえば……。

 私は桜の花をモチーフにした髪留めを思い描いて創造する。


「あら! 素敵ね!」

「色が無いですけどね」


 灰でできたモノトーンのバレッタをお母様に手渡す。お母様はそれをいろんな角度から眺めて、小さく頷いた。


「うん、よくできているわ。サクラちゃん、これ預かっていいかしら。サクラブランドで髪飾りとして出しましょう。同じように別のお花のものもいくつかできないかしら?」

「できますよ」


 私は薔薇、紫陽花、百合などの花をモチーフとした髪飾りを作り上げた。このままだとモノトーンで華やかさが皆無だが、試作品として職人さんに見せるなら充分だろう。後は向こうにおまかせだ。

 髪飾りだけではなく、指輪や腕輪、ネックレスといったアクセサリーの試作品も簡単にできるのはいいな。

 絵で描いてもいいんだけど、現物には敵わないからね。

 ドレスなんかのフィギュアもできなくはないけど、小さいからやっぱり細かいところはわかりにくい。やはり布製品の試作には向かないだろう。

 お父様に頼んで、砂とか砂鉄とか、あと木屑とかも用意してもらうことにしよう。あ、模型店で売ってたプラ板とかを削りまくって粉にすればプラスチック製のものもできるかもしれないな。

 なんだかんだでこれはけっこう使えると思う。女神様、特典ありがとうございました。


 




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